第15話: 都の夢
その夜、久しぶりに都の夢を見た。
夢の中で、わたしはまだパーティにいた。荷物を運び、野営の準備をして、誰にも顔を見られないまま、ただ役割をこなしていた。団長の声が聞こえた。「お前はもう、この団とは関係ない」。あの日の言葉が、夢の中でもう一度繰り返された。
夢の中のわたしは、何も言わなかった。現実のときと同じだった。
目が覚めたとき、小屋の中は暗かった。炉の残り火が、わずかに赤く灯っていた。心臓が少し速かった。夢だとわかっていても、しばらく動けなかった。
起き上がって、外の様子を確かめた。
冬の夜空に、霜が薄く積もり始めていた。風はなく、静かだった。庭はいつも通りの夜だった。
夢の中の都を思い出した。狭い宿舎、団員たちの足音、任務の指示。あの場所に戻りたいという気持ちが、自分のどこにあるか探した。
見つからなかった。
戻りたいという気持ちが、本当にどこにもなかった。それが少し意外だった。七年前、追放された直後は、まだ何かを引きずっていたはずだった。今は、夢を見ても、ただ「過去にあったこと」として処理できた。
「リナ、起きてる?」
シアの声がした。冬の夜にしては珍しく、気配がはっきりしていた。
「うん。夢を見た」
「どんな夢」
「都の夢」
シアは、しばらく黙っていた。
「嫌な夢?」
「うん。でも、もう平気」
その答えに、自分でも少し驚いた。嫌な夢を見て、それでも平気だと言える自分がいた。七年前なら、こんな返事はできなかった。
「都に、帰りたい?」
シアの問いに、考える前に答えが出た。
「ううん。帰りたくない」
「どうして」
「ここに、いたいから」
言葉にしてみると、それが本当のことだとわかった。理由は説明できない。ただ、確かにそう思っていた。都にあった七年間より、この庭で過ごした七年間の方が、自分にとって意味があった。
夜が明けて、霜の音で完全に目が覚めた。
外に出て、いつもの仕事を始めた。薪を確認し、水を汲みに行った。何も変わらない朝だった。
ただ、夢を見たことで、何かが確かめられた気がした。
戻りたい場所が、もうどこにもない。都にも、孤児院にも、戻りたいとは思わない。今、自分が立っているこの場所が、唯一の場所だった。
桶に水を汲んで、顔を上げると、霧の向こうに薄い光が揺れていた。シアだった。
「おはよう」
「おはよう、シア」
「夢、もう見ない?」
「見るかもしれない。でも、起きたらここにいる」
その言葉に、シアが満足したように揺れた。
夢を見ることを、もう怖いとは思わなかった。目覚めた先に、確かにこの庭があることを、知っているからだった。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
第15話をお届けしました。これで第2アークの中盤が一区切りです。
都の夢を見て、目覚めたら庭でよかったと思う。この感覚を書くために、リナの七年間をここまで積み重ねてきました。「戻りたい場所が、もうどこにもない」という一文は、リナの心の変化を最も直接的に表した言葉だと思います。
次の話からは、「神々の加護」の伏線がより明確に動き始めます。庭全体が光る感覚など、不思議な出来事が増えていきます。
ここまで読んでくださって、ありがとうございました。
☆評価・ブクマ・感想をいただけると次話の励みになります!




