第14話: 名前をつける
獣を看取って数日後、また小さな生き物に出会った。
草地の隅で、丸くなっていた。前に看取った獣とは違う種類で、体はもっと小さく、白っぽい毛をしていた。怪我はしていなかったが、震えていた。母親か群れから離れてしまったのだろう、と思った。
近づくと、震えながらも逃げなかった。
しばらく見ていたが、どこかへ帰る様子もなかった。日が暮れても、その場所にいた。
迷ったのは、関わるべきかどうかだった。前の獣を看取ったばかりだった。また同じことになるかもしれない。それでも、震えている小さな体を、見過ごすことができなかった。
小屋に連れて帰った。
布で包んで、暖を取らせた。水を少しずつ飲ませると、ようやく落ち着いたようだった。一晩経つと、震えは止まっていた。
シアが、興味深そうに様子を見に来た。
「前のと違う子」
「うん」
「名前、つける?」
その問いに、すぐには答えられなかった。前の獣を看取った痛みが、まだ体に残っていた。名前をつければ、また同じ重さを抱えることになる。それがわかっていても、目の前の小さな体を見ていると、答えはもう決まっていた気がした。
「つける」
「なんで?」
「名前をつけたら、最後まで責任を持つって決めてる。だから」
名前を考えた。
前のシアと同じように、その生き物の質感に近い音を探した。白い毛、小さな丸まり方、何かに似た音。
「コユキ」
つぶやいてみた。小さな獣は、何の反応も見せなかった。シアのような言葉を持っていないからだろう。それでも、名前をつけたことで、何かが変わった気がした。
「コユキ。これから、ここにいてもいいよ」
その日から、コユキは庭の住人になった。野生の獣だから、言葉は交わせない。でも、毎日餌をやり、様子を見て、暖かい場所を用意した。コユキも、少しずつ慣れていった。
看取りの痛みは、消えなかった。でも、その痛みを抱えながらも、また誰かに名前をつけることができた。それが、自分にとって大事な一歩だった気がした。
数週間後、コユキは庭の中を自由に動き回るようになった。
シアやカルの気配がする場所には近づかないが、わたしの小屋の周りでは、よく見かけるようになった。完全に懐いたわけではないが、警戒されることもなくなった。
「コユキ、リナのこと、好きみたい」
シアが、そう言って嬉しそうに揺れた。
「そうかな」
「うん。見てればわかる」
わたしには、よくわからなかった。でも、コユキが庭の中で生きていることが、何かを少しだけ満たしてくれている気がした。失ったものの隣に、また新しいものが生まれる。それを、初めて実感した出来事だった。
信念というものは、一度決めたら終わりではなく、何度も自分で確かめ直すものなのだと、コユキとの出会いで気づいた。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
第14話をお届けしました。
前の話で獣を看取った直後に、また新しい命に名前をつける。この順番には意味があります。痛みを経験したからこそ、それでも関わろうとする選択に重みが出ると思っていました。
コユキという名前は、白い毛並みと、小さく丸まった姿から考えました。リナが「信念は何度も確かめ直すもの」と気づく場面は、この話のために用意した着地点でした。
次の話では、冬の孤独と都の夢を描きます。
ここまで読んでくださって、ありがとうございました。
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