第13話: 看取り
嵐の翌朝、倒れた枝の下で、小さな獣を見つけた。
灰色の毛をした、狐に似た獣だった。後ろ足が枝に押し潰されていて、動けなくなっていた。目を開けて、わたしを見ていた。怖がっているのか、もう怖がる力もないのか、判断がつかなかった。
近づいても、逃げようとしなかった。
膝をついて、傷を確かめた。後ろ足の骨が折れている。それだけでなく、内側に何か別の損傷がある気がした。獣の呼吸が、浅くて速かった。
小屋まで運んだ。布で体を包んで、できる手当てをした。七年で覚えた薬草の知識を、全部使った。それでも、獣の呼吸は変わらなかった。
三日間、獣の傍にいた。
水を口元に近づけても、ほとんど飲めなかった。食べ物も同じだった。日が経つにつれて、呼吸がさらに浅くなっていった。
シアが、何度も様子を見に来た。
「治らないの」
「わからない。でも、たぶん」
言葉にできなかった。獣はもう長くないと、はっきりわかっていた。それでも、できることをやめられなかった。
「リナ、悲しい?」
シアの問いに、すぐには答えられなかった。
「……わからない」
三日目の夜、獣の呼吸が一段と弱くなった。手のひらを獣の体に添えて、温もりを保とうとした。それしか、できることがなかった。
夜が深くなった頃、獣の呼吸が止まった。
最後の一息は、ほとんど音にならなかった。手のひらの下で、温もりが少しずつ失われていくのを感じた。
何も言わずに、しばらくそのままでいた。
涙が出たのは、その後だった。
なぜ涙が出るのか、最初はわからなかった。七年間、自分の死を覚悟したことはあっても、誰かの死をこんなに近くで見たことはなかった。看取る、という行為の重さを、その夜初めて知った。
声を出さずに、ただ涙が落ちた。獣のために泣いているのか、それとも別の何かのために泣いているのか、わからなかった。たぶん両方だった。
シアが、傍で静かに揺れていた。何も言わず、ただそこにいた。
朝になって、獣を庭の隅に埋めた。
土を被せながら、初めて、この庭に「失われたもの」が増えたことを実感した。それまで、庭は増えていく一方の場所だった。精霊との関係、覚えた知識、できることの数。今日初めて、減るものがあることを知った。
「リナ」
シアが呼んだ。
「悲しいって、わかった?」
「うん。わかった」
答えると、自分の声が少し掠れているのに気づいた。三日間泣いていなかった涙が、声にまだ残っていた。
悲しいという感情を、言葉で正確に持てたのは、たぶん七年間で初めてだった。痛い、寒い、辛い、という体の感覚はずっとあった。でも、心が動いて泣くという経験は、長い間どこかに置いてきていた。
その感情を、ようやく取り戻した気がした。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
第13話をお届けしました。
「悲しいって、わかった?」というシアの問いは、この話のために最初に考えた台詞でした。リナが七年間、悲しみという感情を正面から感じることを避けてきたのではないか、という発想から生まれた話です。
獣の看取りという、何の解決もない、ただ寄り添うだけの行為を通して、リナが少しずつ感情を取り戻していく。そういう話にしたかったです。
次の話では、別の獣に名前をつける場面を描きます。
ここまで読んでくださって、ありがとうございました。
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