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私が騎士団の司令官ってなんですか!? ~聖女じゃなかった私は得意の料理で騎士たちの心を掴んだら食堂の聖女様と呼ばれていたのです~  作者: 堂道廻
第四章【悪夢】

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80 万事順調

 で、翌日。


「今日はペット用のおやつを作りまーす!」


 そう宣言すると調理実習室のあちこちから「えーっ!?」と不満げな声が上がった。


 昨日の授業で打ち解けたせいか、生徒たちの反応は良くも悪くも遠慮がない。


「もちろん人間も食べられます。ただし甘さは控えめだから、食べるときは蜂蜜をかけるのがおすすめね。ワンちゃんとかネコちゃんとか、ペットを飼っている子はぜひ家であげてみて」


 不満の声が上がるのを予想していた私がそう付け加えると、


「やったぁ!」

「私、猫飼ってる!」

「うちのアニーにあげたい!」


 途端に教室の空気が明るくなる。


 そんなわけで、今日作るのはクッキーだ。あくまでペット用のおやつだから、砂糖の代わりにリンゴを擦りおろして混ぜるレシピになっている。手順を増やしたのは生徒たちを飽きさせないため。それが功を奏したのか、授業は昨日よりもスムーズに進んでいる。


 班ごとに分かれた生徒たちは、生地を伸ばしたり、型抜きをしたりしながら料理を楽しんでいる。星形や花形だけでは飽き足らず、自分で勝手に謎の生き物を作り始めた子もいたけど、カリキュラムから脱線することはなかった。


 ディアナは今日も誰とも会話せずに黙々と作業を続けていたが、昨日より表情が柔らかい。型を抜いて出来上がった生地を眺め、ほんの少しだけ目元を緩ませていた。


「じゃあ、クッキーはみんなが勉強している間に焼いておくから放課後に取りに来てね」


「えー、こっそり焼いて食べようと思っていたのに!」

「それに先生って魔術使えないから焼けないじゃん! オレが手伝ってやるよ!」


「レベッカ先生に手伝ってもらうからいいもんねーだ! 手伝うついでに自分だけ食べようったってそうはいかないのよ、へーんだ!」


 私が口を尖らせて言い返すと、どっと笑いが起こる。


 一時はどうなってしまうかと思ったけれど、不思議なくらい自然に授業を回せている。私って意外と先生が合っているのかな?


 あっという間に放課後になり、焼きたてのクッキーの匂いに誘われるように、生徒たちが自分で作ったクッキーを受け取りに次々とやって来た。

 そしてみんなが帰った後、最後にディアナがクッキーを取りに来た。


「はい、どうぞディアナ」


「あ、ありがとうございます……」


 クッキーの入った紙袋を両手で受け取った彼女は、どこかソワソワして落ち着かない様子。私の読みが正しければ、早く東屋に行って小鳥にあげたいと思っているはず。


 私は咳払いをひとつして、


「あー、先生の分余っちゃったなぁー。うちにはペットいないからなぁー。困ったなー、どこか小動物に餌をあげられるところないかしらねー」


 我ながらわざとらしかったかもしれない。

 

 ディアナの肩がぴくりと動き、「あの、先生……」と視線を泳がせながら呟いた。


「なに? もしかして心当たりある?」


 彼女がこくりとうなずき、「……ついてきて、ください」と言った瞬間、私は内心で拳を握りしめた。



◇◇◇



 陽が傾き始めたばかりの庭園は、昼間と同じように咲き誇る花々の色や彫刻の輪郭を見て取れる。

 何度も辺りを見回して誰もいないことを確認したディアナは、ほっと息をつき、庭園の奥にある東屋へ向かって歩き出した。


 彼女が東屋にある石造りの椅子に腰を掛けると、どこからともなく二羽の小鳥が舞い降りてきて、小鳥たちは鮮やかな青い羽根を折りたたみ、慣れた様子でディアナの方に跳ねるように近づいてきた。


 紙袋からクッキーを取り出したディアナが、テーブルの上で半分に割る。細かく崩れた欠片が落ちると小鳥たちがついばみ始めた。


 彼女はその様子を嬉しそうに見つめている。 


「ずいぶん人に慣れているみたいだけど、よくここに来るの?」


「……はい。いつもはもっと暗くなってからですけど」


「動物が好きなんだ」


「好き……です」


「じゃあ飼ってみたら?」


 ディアナは小さく首を振る。


「どうして?」


「……自由でいてほしいから」


「そっか……。うん、そうだよね。自由が一番だよね」


 私も彼女を真似てクッキーをテーブルの上で割ってみる。すると今度は鶯色の小鳥が羽音を立てながら舞い降りてきて、我が物顔で欠片をついばみはじめた。


 その様子がなんだかおかしくて、自然と笑みが零れる。


 穏やかで静かな時間が流れていく。私たちの間に会話はないけれど、だからといって気まずさなんて一切ない。私は微笑むディアナの横顔を見るたびに、胸の奥がじんわり温かくなるのを感じた。


 そして、その翌日も、その次の日も、放課後になると私たちは東屋で小鳥へ餌をあげて一緒に時間を過ごした。


 彼女はまだ自分のことを話してくれないけれど、時おり私に向けて笑顔を見せてくれるようになった。少しずつ距離が縮まっている気がする。でも、彼女はすぐに自らの感情を打ち消すように笑うのを止めてしまう。


 私は幸せになってはいけない――、そう言い聞かせているように思えてならない。


 なにが彼女をそうさせているのか。なにか事情を抱えているのは間違いない。

 私は彼女の方から話してくれるまで待ってみようと思う。


 ひとりの教師として、そして友人として――。

 


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