77 アイズアンドアイズ
「そんなに警戒されると、さすがに傷つきますね」
その表情がどこか寂しそうで、切なくて、少なからず胸がチクリと痛まないわけではないけれど、
「私はあなたがどういう人間か知っています。資料で読みましたから」
毅然と告げる私に、彼は肩をすくめた。
「貴族令嬢をたぶらかすのが趣味とでも書いてありましたか?」
「ええ、何人もの令嬢を誑かして銀翼騎士団を追放されたって」
「実際は向こうから言い寄ってきたことの方が多いのですが」
一切嫌味を感じさせず、さらりとナチュラルに言いやがった。
「若くして副隊長に抜擢されたことを逆恨みされ、侍女をそそのかして私を陥れようとしてきた者もいました」
「では私に対して行った思わせぶりな態度はどう釈明するのですか? あなたは私を篭絡してアルタイルを自分の思い通りにするつもりだったのではないですか?」
ふっと息をつき、「確かに、そのつもりでした」と彼は言った。
「司令官を辞めさせても次が来るだけですからね。だから新たに赴任する司令官が女性だと知ったとき、追い出すのではなく懐柔した方が合理的と考えました」
「どうしてそんなことを? あなたたちには何か目的があるのですか?」
「私が他のメンバーを先導したり仕向けた覚えはありません。これまでの司令官には各自各々思うところがあったようで、そういう結果に至っただけです」
「では質問を変えます。なぜあなたはそんなことをするのですか?」
「貴族が嫌いだからです」
「それだけ? でもあなた自身も男爵家のはず、矛盾しています」
「確かに。ですが私の目的を達成するためには、まだ必要なのです、爵位が」
心なしかエドガーの声が落ちて沈む。
「目的……?」
「今は言えません。ですが、亡き母のために成すと誓ったのです」
僅かに彼の瞳に熱が宿った気がした。今までと違った真剣な眼、ある種の覚悟を秘めた瞳で私を射貫くように見つめる。とても嘘を言っているとは思えない。
「さて、話を戻しましょう」
すっと切り替えるようにエドガーは微笑む。
「あなたに拒絶されたあの日から考え方を改めました。だからもうそういった小細工は致しませんので、ご安心ください」
「……本当に?」
「ただ、今は純粋に、あなたに興味があります」
そう言いながら、半歩こちらへ足を踏み出した。私は半歩後退する。背中に本棚が当たる。
「興味?」
「こう見えても私は女性に振られたのも叩かれたのも初めてだったのです。だからでしょうか、もっとあなたのことを知りたいと思うようになりました」
あー……、おもしれー女枠ってことでしょうかね……。
「もしかしたら、これは好意なのかもしれません」
「こ、好意?」
「自分の手に入らない物ほど手に入れたくなるのは人の性なのでしょう。しかしこの気持ちはそんな執着とは違う。私は異性を好きになったことがないので、どういう気持ちか分からない。だから正確にこの気持ちが単なる興味なのか、それとも好意なのか知りたい」
さらにエドガーが半歩足を踏み出して顔を近づけてきた。私の目を真剣な眼差しで見つめてくる。
だから顔が近いって! 言ったそばからこれじゃん! やっぱり信用できない!!
そのときだった。
――バサッ。
本が床に落ちる音が私たちの間に割って入った。
私たちは同時に音がした方に顔をむける。少し離れた書架の角で、一人の女子生徒が目を丸くして固まっていた。床には本が散らばっている。
彼女は私とエドガーを交互に見つめた後、顔を真っ赤にして口元を押さえた。




