74 残ったプリン
それから私は学園内を歩き回った。
石畳の隙間や噴水の池の中、校舎裏の植え込みや花壇まで目を凝らして探していく。
風に揺れる木々の葉がさらさらと音を立て、生徒たちの笑い声が遠くから聞こえてくる。そんな穏やかな学園の風景の中で、私は一人だけ地面を見つめながら不審者みたいな動きをしていた。
しゃがみ込んでベンチの下を覗き込み、低木の茂みをかき分ける。
いや、分かってますよ。迷子の猫を探しているんじゃないんだから、こんな場所に都合よく古代兵器が落ちているわけがない。
けれど、少しでも早く見つけないと、ずっと学園長にタダで働いてくれる教師として使われ続けることになる。
エドガーも固定観念に囚われるなみたいなこと言っていたし、だったら一応、こういう場所だって調べておくべきでしょ?
そもそもナイトメアが学園に持ち込まれたからといって、どこかの倉庫に保管されているとは限らない。誰かが常に所持している可能性だって十分あるのだ。
だとしたら――。
「この学園に、ベガの関係者が潜んでるってこと……?」
ぽつりと呟き、自分の言葉に身震いした。
立てこもり犯のノイックが本当にベガと通じているなら、他にもスパイがいても不思議じゃない。もしそうなら、事態は思っていた以上に深刻で、危険な状況ということになる。
フェルさんはきっとその辺りも含めて尋問しているはずだから、後で連絡を取ってみよう。
あ、そうだ。確かこの学園には、大陸でも有数の蔵書量を誇る図書館があったはず。魔導の学び舎であるシュヴァルニ学園の図書館なら、ナイトメアのヒントになりそうな文献や関連する古代魔術の資料があるかもしれない。
放課後になったら行ってみようかな――、なんて考えているうちに昼休憩が終わり、午後も授業に追われて、あっという間に放課後を迎える。
西に近づき始めた陽光が窓から斜めに差し込んでいた。
「ん~~っ……」
私は大きく背伸びをして背筋を伸ばす。
さて、あとは片付けと掃除を終えれば業務終了だ。
うーん、疲れたぁ。王宮食堂で働いていた頃とは、まったく種類の違う疲労だな。料理なら手順通りに動けばいい。でも教師は違う。
相手は人間で、それも思春期真っ盛りの子どもたち。場を盛り上げたり、退屈させないようにしたり、声の調子を変えたり、常に周囲を見て気を配らなきゃいけない。
「やっぱり先生って大変だなぁ」
私は冷蔵庫の掃除をするため扉を開けた。生徒たちが魔術で作ってくれた冷気が頬を撫でる。
中に残っているプリンは二つ、一つは私が見本で作った物。
結局、ディアナは食べに来なかった。
「もったいないけど、捨てるしかないか……。いや、さすがにもったいなから家に持って帰ってカティアちゃんにあげようかな」
小さく息をつきながらプリンを取り出そうとした、そのときだった。
「あ、あの……」
か細い声が、空気を微かに震わせる。
振り返ると、ドアの隙間から少女が顔を覗かせていた。小動物みたいにおどおどしてドアに体を隠すように立っている生徒が、ディアナであると一目で分かった。
寒くなったり暑くなったり忙しい今日この頃、調子はいかがでしょうか。
いつも読んでいただきたいありがとうございます堂々廻と申します。
さて、第四章【悪夢】ですが、当初の予定よりボリュームが増えてしまいそうなのと、私の調子が悪かったり仕事が忙しかったり様々な要因により、前編と後編に分けることになりました。
なので四章完結までしばしお時間をくださいm(_ _)m
これからも応援していただけますと嬉しいです!




