68 任務初日
そして週が明けて迎えた任務初日、今日から私たち戦術騎士隊アルタイルによるシュヴァルニ魔導学園での潜入捜査が始まった。
「はじめまして。私が学園長のモニカ=シュヴァルニです」
ゆったりとした足取りで応接室に入ってきた女性の姿に、私は思わず見惚れる。
肩口から背中にかけて流れる水色の長い髪が、とても綺麗で、繊細に揺れるその一房一房は絹糸のようだ。整った顔立ちが作るたおやかな微笑みは、誰をも無警戒にさせてしまうような不思議な魅力を持っている。
本当にこの女性がクリス団長の言っていた守銭奴なの……? どう見ても強欲でがめつい人物には見えない。むしろ慈愛に満ちた教育者の鏡といった雰囲気ですらある。けれど、人は見かけによらないとも言うし、団長が適当なことを言うはずがないし……。
頭の中でそう呟きながら私と、彼らは反射的にソファから立ち上がる。
立ち上がるタイミングはさることながら、姿勢を正すに至るまでの動作がぴたりと揃っている。アルタイルとして行動するうちに、なんだかんだそうした所作が無意識のうちに身体へ染み付いてしまった。
こんな私の姿を、母が見たらなんと言うだろうか。立派に育ったと感動するよりも、変な物を拾って食べたんじゃないかと心配されそうだな……。
表情を崩さぬまま内心で苦笑する私を見て、モニカ学園長はくすりと可笑しそうに笑った。
「そんなにかしこまっていては、すぐに正体が露見してしまうわよ。どうぞ、楽にして」
芯の通った声に促され、私たちはまたしても同じタイミングと挙動でソファへ腰を下ろすと、彼女は微苦笑を浮かべたまま肩をすくめた。
「子供たちは意外とよく見ているものよ。言葉遣いだけじゃなくて、仕草や間の取り方、そういう細かいところで違和感を覚えるものだから、くれぐれも注意してちょうだいね」
私は意識的に肩の力を抜きつつ、「分かりました」と頷く。
「ナイトメアがこの学園に持ち込まれたなんて、正直信じたくはないのだけれど、もし事実であれば重大な問題よ。学園という人が密集する環境で使用されたら、その影響は計り知れないものになる。なによりこの事は内部にも外部にも知られるわけにはいかない。だからできる限り迅速に、秘密裏に回収してほしいの」
彼女は語気を強める。
「学園長は、ナイトメアがどういうものかご存知なのですか?」エドガーが問いかけた。
魔導学園の長たる彼女なら魔術に精通しているはずだ。しかし彼女は首を横に振り、わずかに視線を落とした。
ちなみに、〝ルーン学科〟を担当するエドガーは教師用のローブを着用している。自然に着こなすその姿は、すでに先生の風格があり、外見上はまったく違和感がない。
ただ、こんな美形の教師がいてたまるかと思ってしまう。
「残念ながら、私も噂でしか知らないの。悪魔の古代兵器と呼ばれるナイトメアは、強力な催眠作用を持つとも、感染者に絶望を与えて精神を破壊するとも言われているけれど、どれも断片的な情報ばかりで確証はないわ。ただ、過去に存在したことは事実よ」
「液体なのか固体なのか、それとも気体なのか、それすら分からないのか?」
続いて質問したクラウディオは、剣術教師を仰せつかっている。
この学園には魔導剣士養成コースというものがあるらしく、剣術を専門に教える教師が在籍しているのだ。
エドガーが着用する、いかにも教授っぽいローブではなく、シャツにズボンに編み上げブーツという動きやすい服装だ。衛士をしていた頃と似たような雰囲気で、違和感はあまりない。ただ、こんなイケメンの体育教師がいてたまるかと思ってしまう。




