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私が騎士団の司令官ってなんですか!? ~聖女じゃなかった私は得意の料理で騎士たちの心を掴んだら食堂の聖女様と呼ばれていたのです~  作者: 堂道廻
第四章【悪夢】

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66 でもお高いのでしょ?

「タ、タイチョー?」


 ノエルくんが呆気にとられたような声を漏らす。差し出されたままの彼の手が、視界の端で止まっているのが分かった。


 エドガーは私を真っすぐ見つめたまま、こちらへ足を踏み出した。


「至急、騎士団本部に来るよう団長からの命令です」


「うそ……」と、うわずった声が出る。


 まさか本当に休日出勤になってしまうなんて、冗談だと言ってほしい。


「嘘ではありません。さあ、参りましょう」


 エドガーは私の手を握り、そのまま踵を返した。


「ちょ、ちょっと待ってください! なんでタイチョーがここに? どうしてチドリさんの居場所が分かったんですか? ま、まさかタイチョー……、僕らの後を――」


「変に勘ぐるな」


 立ち止まったエドガーがノエルの言葉を遮る。


「この国で東方人の成人女性を探すなど造作もない、それだけだ」


 淡々とした口調だがその奥に、わずかな棘が混じっている気がした。


「ぼ、僕も行きます!」


「好きにしろ、我々は馬で向かう」


 再び歩き出したエドガーに手を引かれた私は、店先で待機していた馬の背に軽々と持ち上げられて乗せられた。


 後ろに跨がったエドガーが手綱を握ると、すぐさま馬が地面を蹴って走り出す。店先で立ち尽くすノエルの姿が遠ざかっていく。

 

「司令、お休みのところ申し訳ありません」


 耳元でエドガーの声がした。


「それはお互い様でしょ……。仕事なんだから仕方ないです」と言いつつも私は小さくため息をついた。


 それにしても、まさかドレス姿で馬に乗る日がくるなんて異世界様々ね、しかもタンデムだし。


「確かに。しかしこうしてあなたに会える口実ができたのですから、私にとっては良き休日となりました。……もっとも、ノエルには悪い事をしましたが」


「……へ?」


 今なんて??


「なんでもありません。スピードを上げますのでこれ以上の会話は控えてください」


 エドガーは手綱をしならせた。馬がさらに加速し、風を切る音が強くなる。


 さっきのセリフって……、どういう意味? まさか私に会えるのが嬉しいってこと?? 


 私は心の中で大きく首を振った。


 いやいやいや、騙されちゃダメよ千鳥! その手には乗らない! エドガーは私を籠絡しようとしているだけなんだから、本心じゃないの!! 私を弄んでいつかのビンタの仕返しを企んでいるのよ、きっと!



◇◇◇



 そんなわけで――騎士団本部に到着した私は現在、団長室のソファにちょこんと腰を下ろしている。エドガーは部屋の外で待機していて、向かいのソファに座るクリス団長は、なんとも言えない含みのある微笑を浮かべていた。


「パーティーの最中だったのか?」 


「いえ、その、このドレスは……、歌劇を観に行くときに着る予定でして。今日じゃないのでダイジョブです……」


 声と姿勢をしぼませた私に、団長は目を細めてくすりと笑った。


「そうか、それにしても見事なドレスだ。マイヤロゼッタの新作だな」


「え? そうなんですね。私、全然そういうの詳しくなくて……。ち、ちなみにですけど……、このブランドってお高いんですか?」


 クリス団長はきょとんと目を丸くした。


「自分で買ったんじゃないのか?」


「ええ……まあ。プレゼントしていただいたんです、ある殿方から」


 ほう、と団長は意味ありげに息をついた。彼女の口角が微妙に上がっている。


「値段を言うなど無粋なことはしない。だが、そうだな……。この部屋にあるすべてを合わせてもそのドレス一着のほうが高いとだけ言っておこう」


「ぎょえっ!?」


 背中を踏まれたカラスみたいな変な声が口から出た。私は慌てて団長室を見回す。


 壁に飾られたピカピカの剣と盾、精巧な装飾の施された甲冑、美術館でしか見たことがない壺や調度品の数々、それから床に敷かれたペルシャ絨毯みたいなすごい絨毯!!

 

 どれもこれもめちゃ高そうなんですけど!?


「さて、時間が惜しい。本題を始めよう」


 驚愕する私に彼女はさらりと告げた。スイッチが切り替わったように、その眼差しが真剣なものへと変わり、私は思わず姿勢を正した。


「まずは先の事件についてだが、正直に言って、あれほど短時間で事件を解決できるとは思っていなかった。私はアルタイルを少々見くびっていたようだ。キミが立案した作戦も見事だったとしか言いようがない」


「いえ、あれはたまたまです。私は本当にただの栄養士ですから」


 慌てて首を振る。謙遜でもなんでもない、それが本当に自分の評価なのだから。


「謙遜する必要はないさ。この世界に限らずどこの世界でも結果がすべてだ」


 団長は紅茶のカップに手を伸ばす。


「犯人を生きたまま捕らえ、侯爵令嬢を無傷で救出したという事実が、キミたちが優秀であると証明している。方々から称賛の声が上がっているぞ」


「買いかぶりすぎですよ~、えへへ」


 素直に褒められて悪い気分になるはずがない。さすがに頬がゆるむのを抑えきれない。


「しかし最後の詰めが甘かったな」


「うぐっ……。も、申し訳ございません……」


 持ち上げられてから真っ逆さまに落とされてしまった。


「メディアは都合よく解釈してくれたが、内情を知る学園長が騎士団に対して損害賠償を求めてきた」


「損害賠償ですか!? そ、そんな……!」


 私は思わずソファから身を乗り出していた。





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