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私が騎士団の司令官ってなんですか!? ~聖女じゃなかった私は得意の料理で騎士たちの心を掴んだら食堂の聖女様と呼ばれていたのです~  作者: 堂道廻
第四章【悪夢】

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64 沈黙もくもく

「今のメンバー選定は、国務室からのトップダウンだったみたいです」


「ふむー……」


 カップの中の紅茶を見つめながら考える。


 国務室が決めたとなると、余計に妙だ……。もっと扱いやすい騎士なんて、他にいくらでもいるはず。それなのに、どうしてわざわざ問題児ばかり集めるような編成にしたのか。自分たちの首を絞めてない? 


 違和感が波紋のように胸の奥から広がる。


「なにか理由があるのかな? 共通点とか」


「共通点……。みんな全然違う気がしますけど、なぜ今のメンバーが選ばれたのか僕にも分かりません」


 ノエルくんは一度言葉を切り、少しだけ肩の力を抜いた。


「ただ、新設部隊に抜擢されたのは素直に嬉しいです。あいつと一緒だということを除けば」


「あー……」


 苦笑する彼を見ながら私も一緒に苦笑する。


「前から思ってたんだけど、クラウディオとなにかあったの?」


 話題に上がった流れで軽く聞いたつもりだったけれど、


「それは……」


 彼は言葉を詰まらせた。視線を逸らすように揺れる。


「あ、別に言いたくないなら無理しなくていいからね。なしなし、今の質問はなし!」


 余計な一言だったと、すぐに私は手をひらひらと振って大げさに取り消した。すると、彼はほっとしたように息を吐いた。


「ところであいつに、意地悪されていませんか?」


 真剣な顔でそう問われた私はきょとんとした後、くすりと笑ってしまった。


「あー……、どうだろ。まあ、割と助けてもらってる……かな?」


 曖昧な答えだけど、なぜか一番しっくりくる気がする。


 意外だと言いたげな、そんな微妙な笑みをノエルくんは浮かべた。


「それを聞いて安心しました。だけど、なんだか複雑な気分ですね」


 えっと……、どういう意味なのかな? 実はイジメられていて欲しかったってこと? いやいや、ノエルくんに限ってそんなことを考えるはずがない。


「それにしても一代限りの伯爵とは、かなり強引な手を使いましたね。国務室がそこまでする理由が分かりません」


「ほんとそれ」私は思わず即答する。


「でも在任中は、お給料だけじゃなくて貴族特権も使えるらしいの」


 そこまで言って、ふと思い出す。


「あっ!」


「どうしたんですか?」


「忘れてた! 給料、振り込まれてるか確認しなきゃ!」


 完全に頭から抜けていた。というか、そんな余裕なかった。配属されてから仕事に振り回されっぱなしで、それどころじゃなかったし。


「では銀行に行ってみましょう。ここから歩いて向かえば、ちょうど窓口が開く時間です」


「うん、そうする!」



◇◇◇



 カフェを出た後、さっそく銀行にやってきた私は自分の口座を確認して固まった。結論から言うと、約束通り国務室から給料が振り込まれていたのだけど、


「ど、どどど……どうしよう……」


 帳簿に記された金額は、目を疑うほどの数字だった。


 王宮で働いていたときの五倍はあるじゃん!?


「本当にもらっていいのかなぁ……」


 狼狽する私にノエルくんは優しく微笑む。


「チドリさんが働いて得た対価です。堂々と使えばいいんですよ」


「そ、そうだよね……とりあえずチーフに家賃と食費を払わなきゃ」


 想定を超える大金を得たことに動揺しながら、私は真っ先に思い付いた使い道を口にする。


「他になにか買いたい物とか、やりたいことはないんですか?」


「どうしよう、いっぱいありすぎて逆に思い付かない……」


「あはは。ありすぎると決められなくて困りますよね。じゃあ、歌劇とかどうですか? 今やっている演目が話題になっているみたいですよ」


「歌劇?」


 そう、この国の最大の娯楽といえば歌劇だ。人気がある故にチケットは高額であり、高倍率の抽選でゲットするか、伝手がなければ庶民はまず予約が取れない。


 元の世界で何度も推しのライブに足を運んでいた私は、こっちの世界の歌劇にも行ってみたかった。噂によると凄く面白いらしい。華やかな舞台、豪華な衣装と音楽、きらびやかな光景が頭の中に浮かぶ。もう一度あの体験を味わいたい!


「それいい! 行ってみたい! けど……、人気すぎて全然チケット取れないってリリアから聞いたけど……」


「それこそ貴族の特権を使うべきです」


 さらりと返ってきた言葉に、私は思わず瞬きをする。


「貴族なら優先してチケットを取ることができますから」


「へぇ、そうなんだ」


 感心しつつも、なんかずるしてるみたいで胸の奥がむずがゆくなるのは、私が生粋の庶民だからだろう。


「僕が予約しておきますよ」


「ホント? ありがとう!」


 思わず声が弾み、そのままの勢いでノエルくんの手をぎゅっと握りしめたそのとき――、


 彼は私の顔をじっと見つめながら「……可愛い」と呟いた。


「え?」


 今、可愛いって? 私のこと? 聞き間違いかな?


「い、いえ、その……」


 咄嗟に視線を逸らした彼の頬がみるみる赤く染まっていく。耳の先まで真っ赤になって、見ているこっちが恥ずかしくなってくる。


 どうやら聞き違いではないようだ。彼はこんな私のことを可愛いと言ってくれた、だとしても……。


 いやいやいや! あなたの方がカワイイですから!!


 心の中でツッコミを入れると同時に握ったままの手に意識が戻り、慌てて離す。


「……」

「……」


 私たちの間になんとも言えない微妙な空気が流れる。互いに視線を微かに逸らす。どこかこそばゆい甘い沈黙。まるで淡い青春の一ページのように――。





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