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私が騎士団の司令官ってなんですか!? ~聖女じゃなかった私は得意の料理で騎士たちの心を掴んだら食堂の聖女様と呼ばれていたのです~  作者: 堂道廻
第四章【悪夢】後編

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103 ピコピコ

「そんな……」


 存在そのものが消える。最初から存在せず誰の記憶にも記録にも残らない。それは〝生まれてこなかった〟のと同じだ。


 想像しただけで恐ろしくなり、私は思わず体を震わせた。


『さっきも言ったッスけど、この夢の世界が司令の記憶をベースにしていることは間違いないッス。だとすれば――』


「……だとすれば?」


『司令はシュヴァルニ学園でナイトメアを見つけているはずッス。そして、何かをきっかけに発動してしまった』


「私が……見つけた……? ナイトメアを?」


『思い出してほしいッス。ナイトメアがなんだったのかを。それが、ここから脱出する糸口になるッスよ』


「そ、そう言われても……」


 記憶を辿ろうとしてみる。けれど、頭の中に浮かぶのは断片ばかりだった。


 シュヴァルニ学園に潜入捜査して、生徒たちに料理を教えて、それから……誰かと……、誰かと放課後を一緒に過ごして……。


 確かに何かがあったのに、手を伸ばすほど霧が濃くなっていくような気がした。


『何か、この世界に強い違和感を覚えたものがあるはずッス』


「でも最近は、違和感ばかりだし……」


 急に男子にモテたり化け物が現れたり、はっきり言って違和感しかない。


『とりあえず今日、自分も学校に連れて行ってほしいッス。手掛かりを一緒に探すッスよ』


「今日?」


 その言葉に反応して窓へ目を向ける。いつの間にか窓の外が白み始めている。夜が終わろうとしていた。


「ねえ、キミの力であの怪異をやっつけたりできないの?」


 期待を込めて尋ねてみる。けれど、くま太は首を横に振った。


 そして、ぴょんとテーブルの上へ飛び乗り、『見てのとおり、今の自分には戦闘能力は皆無ッスね』とぬいぐるみの腕をパタパタと上下に振る。


「そう……」


『そこで、司令でも魔獣と戦える武器を用意してきたッス』


「武器?」


 くま太が背中へ手を回す。

 テッテレーという効果音こそ鳴らなかったけれど、まるで何かの秘密道具を披露するように取り出したものを見て、私は固まった。


 ピンク色のピコピコハンマーだった。


「こ、これが武器なの?」


 思わずまじまじと見つめる。どこから見ても玩具のまんまピコピコハンマーだ。私の視線を受けて、くま太はこくりと頷いた。


『もちろん、見た目どおりの玩具じゃないッスよ。強化魔術を施してあるから、破壊力はなかなかのもんッス』


「…………」


 差し出されたピコピコハンマーを受け取る。


 軽い。ものすごく軽い。やっぱり手にした感触も完全に玩具だ。こんなもので、あの黒い怪異と戦えるとは到底思えない。


「冗談はやめてよ。こんなんであの怪異を倒せるわけないじゃない」


 半ば呆れながら、私はくま太の頭上へピコピコハンマーを振り下ろした。


『ぎゃーっ!?』


 くま太が悲鳴を上げてテーブルから飛び降りる。


 次の瞬間――。


 ピコッとは鳴らなかった代わりに『ドゴンッ』という衝撃音が響き渡った。


「っ!?」


 手に伝わった衝撃に私は目を見開いた。目の前のテーブルが真っ二つに割れている。


「…………」

『…………』


 私とくま太は、しばらく無言で壊れたテーブルを見つめた。


『殺す気ッスか!』


「ご、ごめんね……」




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