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私が騎士団の司令官ってなんですか!? ~聖女じゃなかった私は得意の料理で騎士たちの心を掴んだら食堂の聖女様と呼ばれていたのです~  作者: 堂道廻
第四章【悪夢】後編

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100 チョーカー

「フェルナンド……。それがあなたの名前?」


 そう尋ねると、クマのぬいぐるみがこくりと頷いた。


 フェルナンド、その名前なら知っている。あの夢に出てきた登場人物の一人。女の子と見間違うというか、女の子にしか見えない顔立ちの少年だった気がする。けれど、目の前にいるのはどう見てもクマのぬいぐるみ。夢の中のフェルナンドと、くま太が繋がっているのかは分からない。たまたま名前が一致しただけとも考えられる。

 それでも間違いなく言えるのは、目の前のぬいぐるみがただのぬいぐるみではないということだ。


 そんなことを考えている間にも、くま太――もとい、フェルナンドは再びスマートフォンを手に取った。先ほどよりも手慣れた様子で画面を操作し、短い指でフリック入力を繰り返していく。やがて表示された文字を見て、私は首を傾げた。


 画面に表示されていたのは、「ちょーかー」という文字だった。するとフェルナンドは、自分の首を指差す。


「首?」


 私もつられて自分の首に触れる。けれど、それだけでは何を伝えたいのか分からない。フェルナンドは何度も自分の首を指差している。

 何かを伝えようとしているのは分かる。おそらく「ちょーかー」と「首」というキーワードから導き出されるのは、アクセサリーのチョーカーのことだと思う。


 はっきり言って私はアクセサリーの類はほとんど持っていない。あるとすれば、付けもしないのに衝動買いしたイヤリングくらいだ。だからこの部屋にチョーカーなんてあるはずないと思ったのだけど、何もしないわけにもいかず周囲を見回した。


 くま太がいたソファーには読みかけの本、床には脱ぎっぱなしの制服、そして机の上には文房具やノートが散らばっている。その中には見慣れない物もあった。


「あれ……?」


 机の隅に置かれていたのは、金属で出来たチョーカーだった。中央にはエメラルドに輝く小さな石が埋め込まれている。

 手に取ってみると、思っていたよりもしっかりとした重みがあった。やけに冷たい感触が指先から伝わってきて、わずかな警戒心が生まれる。素敵なチョーカーだけど私の物ではない。


「……チョーカーって、これのこと?」


 フェルナンドに見せると彼はすぐに頷いた。それからもう一度、自分の短い首を指差す。


「付けろってこと?」


 今度は、こくこくと何度も頷いた。


「……」


 う、うーん……。そこはかとなく嫌な予感がする。


 もしこれが呪物の類だったらどうしよう。魂を吸い取られるとか魔法少女に変身するとか、そういう恐ろしいアイテムだったら……。


 躊躇する私がチョーカーとフェルナンドを交互に見ていると、彼はつぶらな瞳でじっとこちらを見つめてきた。その目には焦りも脅しもなく、ただ「お願いだから信じて」と訴えているようだ。


「うう……」


 そんな目で見られたら、抵抗できないじゃない……。


 私は観念してチョーカーを首に回し、留め具を留めた。首筋に冷たい感触が触れ、一瞬だけエメラルド色の石が怪しく輝いたような気がした。


「……」


 何も起こらない。角が生えるわけでもない。身体が痺れるわけでも意識を失うわけでもない。しばらく待ってみても変化はなかった。


「……なんだ。何も起こらないじゃん」


 呪物じゃなかったことに、ほっと胸を撫で下ろしたそのときだった。


『……し……き……て、る……』


「え?」


 今、何か聞こえた?

 

 耳を澄ます。


『ち……しれい……て、る?』


 声は聞き取りづらく、ところどころ途切れている。まるで電波の悪い無線のようだ。私は思わずチョーカーに手を添えた。さっき一瞬光ったエメラルド色の石が、かすかな光を帯びている。


「まさかこれって……通信機?」


 そんな言葉が口からこぼれた途端、私は思い出す。


 そうだ。私は知っている。夢の中で同じようなものを使ったことがある気がする。誰かと連絡を取るために、このチョーカーへ声を吹き込んだ。そんな場面が霧の向こうから浮かび上がってきた。


「も、もしもし……?」


 恐る恐る声をかける。


『ちどりしれい、きこえるッスか?』


「この声……」


 聞いたことがある。夢の中で何度も聞いたフェルナンドの声だ。


「き、聞こえます!」


 声が震えた。夢の登場人物だったはずの人物と会話するなんて。その事実に心臓が早鐘を打ち始める。


『やあ、良かった。どうやら上手くいったみたいッスね』


「あ、あなたは誰なの?」


 分かっている。おそらく間違いない。それでも自分の耳で確かめなければならなかった。


『ふむふむ、やっぱりナイトメアの影響で忘れているッスね』


 その声に合わせるように、クマのぬいぐるみが肩をすくめた。


「ナイトメアの影響? 忘れてる? なんのこと?」


『うーん、どこから説明したらいいッスかねー。自分はフェルナンド、司令の部下で戦術騎士隊アルタイルのメンバーッス』


 胸が大きく跳ねた。

 

 やっぱり今、私が話しているフェルナンドは夢の中のフェルナンドなんだ!






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