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私が騎士団の司令官ってなんですか!? ~聖女じゃなかった私は得意の料理で騎士たちの心を掴んだら食堂の聖女様と呼ばれていたのです~  作者: 堂道廻
第四章【悪夢】後編

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97 崩壊

「行くぞ!」


 ハヤテくんが私の腕を掴んだ。


「でも、会長が!」

「全員やられたら終わりだ! 今は逃げて立て直す!」


 引きずられるように走り出す。校門を目指してグラウンドを横切る。その間にも黒い影は次々と増えていく。クラスメイトが、先生たちが化け物へと姿を変えていく。


 怪異たちを搔い潜り走る。ピロティーを駆け抜けようとしたそのとき、ハヤテくんが急停止した。


「ッ!」


 目の前に黒い影が現れた。まるで私たちを逃がすまいと、行く手を塞ぐように何体もの怪異が蠢いている。


「僕が引きつけます!」


 ノエルくんが前へ出る。そしてピロティーを迂回するように走り出した。引き付けられるように怪異たちが一斉に彼を追い始める。


「ノエルくん!?」

「その隙に逃げてください!」

「無茶よ!」


 彼は振り返らなかった。止める間もなく、私たちから離れていく。その隙にハヤテくんが私の腕を引いて再び走り出す。息が苦しい。足がもつれそうになる。それでも必死に走った。


「もうすぐだ!」


 桜並木を駆け抜け、校門が見えてきた。外の景色が見える。長くて緩い坂道、その先に見えるのは私が生まれ育った街。向こう側の世界は色付いて見える。理由は分からない。だけど、安全なのだと直感した。


 あと少し! 


 そのとき、足がもつれて転びそうになった。姿勢を崩した拍子に、思わずハヤテくんの手を引いてしまう。咄嗟に振り返った彼は、身体を使って私を受け止めてくれた。

 私の肩を掴んだ彼は、安堵したように表情を緩める。けれど、その視線が私の背後へと向けられた瞬間、彼の顔から血の気が引いた。


「危ない!」

「え?」


 背後に黒い影が迫っていた。私が振り返るより早く、ハヤテくんが身体を翻す。


「ハヤテくん!?」


 私と怪異の間に、彼の身体が割り込む。


「走れ!」


 黒い靄が彼の身体へ絡みついた。


「ハヤテくん!」

「外まで行け! 振り返るな!」

「でも!」

「走れ! お前なら出来る! みんなを救ってくれ!!」


 その声に背中を押されるように私は駆け出した。校門を抜けると同時に世界が弾け、灰色だった景色が、一気に色を取り戻していく。


 青い空と白い雲、そして、グラウンドから聞こえてくる歓声。


「……戻った?」


 私は肩で息をしながら振り返った。黒い怪異の姿は消えている。学校はいつも通りだった。まるで、さっきまでの出来事など最初から存在しなかったかのように、小鳥のさえずりが聞こえてくる。


 呆然と立ち尽くしていると、不意に肩へ手が触れた。


「ひっ!」


 身体が跳ねる。反射的に振り返ると、そこにいたのは――。


「なっちん!?」

「ど、どうしたの? そんなに驚いて……」

「無事でよかった……!」


 息を付いた私は彼女の手を強く握りしめた。


「え? 無事って??」


 なっちんは不思議そうに首を傾げる。


「分からないならいいの! でも、なんでこんなところにいるの?」


「あー……えっと、実はそのね……。ちょっと寝坊しちゃって今登校したんだ、あはは。お母さんに車で送ってもらったところでさ」


「え?」


「あっ! でも別にスポーツ祭をサボろうとしたわけじゃないんだよ、ホントだよ!」


 彼女は慌てたように両手を振って弁解する。


「そう……、だったんだ……」


 ほっとした私だったが、すぐに彼女がここにいることに違和感を覚えた。


「……あれ? なっちん……今朝、私と一緒に登校しなかったっけ?」


「ん?」


 なっちんがきょとんとする。


「昨日と思い違いじゃない? それよりそんな血相変えてどうしたの? まさかクラス対抗リレーが嫌で逃げてきたとか? ちゃんと走らないと体育の成績に響くよ、って遅刻してきた私が言えた義理じゃないけどね。さ、一緒に行こうよ」


「待って!」


 校門をくぐろうとするなっちんの腕を私は掴んだ。


「入っちゃダメ!」

「え?」

「この学校には怪物がいるの!」

「怪物……って? あはっ、なんかさっきから変だよ、ちーちゃん」


 なっちんは困ったように私を見る。


「本当なの! みんな怪物に襲われて! 朱雀会長もノエルくんもハヤテくんも……!」


「ちょ、ちょっと。ちーちゃん、少し落ち着いて……ね? それに朱雀会長って?」


「生徒会長だよ!」

「……うーん、ごめん。誰、その人?」


 背筋に冷たいものが走り、胸の奥が凍りついた気がした。


「え……?」

「それにハヤテくんとノエルくんって人も、この学校の人?」


 そう告げた彼女が、冗談を言っているようにはとても見えなかった。


「そんな……知らないはずないよ! 会長も、ハヤテくんも、ノエルくんも、この学校では有名なんだから……!」


 なっちんが心配そうに私の顔を覗き込む。


「うん、分かったよ。朱雀会長にハヤテくんにノエルくんね、私が忘れているだけかも。とりあえず一緒にグラウンドに行こ?」


 そして、彼女は私の手を引いた。

 呆然としたまま足を動かし、思考が停止しかけようとしていた私は悟る。


 ――彼らの存在が消えてしまったことを。


 抵抗する力を失った私は、再び校門をくぐって桜並木を歩き出す。

 



 

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