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私が騎士団の司令官ってなんですか!? ~聖女じゃなかった私は得意の料理で騎士たちの心を掴んだら食堂の聖女様と呼ばれていたのです~  作者: 堂道廻
第四章【悪夢】後編

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「……は?」


 私は手の中の紙を見つめたまま立ち尽くす。そこに書かれている文字を何度読み返しても意味が分からない。借り物競争なのだから、普通は「先生」とか「眼鏡を掛けている人」とか、そういうのが定番でしょ??

 

 それなのに、あなたの王子様って……。なんでこんな抽象的なの? ていうかなんで質問やねん! ましてや男子がこの紙を取ったらどうするねーん!


 動揺のあまり、思わずエセ関西弁になってしまった。


 周囲から聞こえてくる歓声が遠くに感じる。焦りから手のひらに汗が滲み、その手で紙を握りしめた。


 王子様って、王子様と言われても――。


 脳裏に浮かんだのは三人の男子、私を守護する騎士たち。でも、彼らの誰かでも連れていけば間違いなく騒動になる。「あいつのお題はなんだ?」と噂になって答え合わせが始まる。めんどくさいことになるのは目に見えている。そうなる未来は避けたい。


 けれど、誰かを連れていかなきゃ競技は終わらない。でもでも! ゴールしたら係の人に借り物が合っているか確認されるじゃん!? 「ふーん、あー、そうなんだー。おこがまし過ぎてマジ笑えるんですけど(笑)」って顔されるに違いないじゃん! そして拡散されるまでがワンセット!!


 じゃあ他の人を連れていく?? 


 それは絶対ダメ! 千歩譲って私一人が恥をかくなら耐えられる。でも、適当に男子を捕まえて連れて行ったら、その人まで妙な噂に巻き込んでしまう。私なんかと一緒にゴールしたせいで、「付き合っているらしい」なんて噂を立てられたら、相手だって迷惑に決まっている。


 だったら、どうすればいいのよ!


 卑屈な私が紙を持ったまま動けずにいると、応援席から「早くー!」という声が上がる。


 ああ、もう! 一体誰がこんなお題を考えたのよ! もうなるようになるしかないじゃん!!


 地団駄を踏んで私は考えるのを止めた。本能の心の赴くまま、最初に頭に浮かんだ彼の元へ一直線に走り出す。


「なるようになれ!」


 半ばヤケになった私は全力でグラウンドを横切り、いくつものテントの前を駆け抜けて彼の姿を見つけた。彼は前列に立っていた。私のことを応援していてくれたのかもしれない。だって、ここに来ると決めたときから私たちの視線は重なっていたんだもん。


 肩で息をしながら彼の前で立ち止まると、驚いたように目を見開いた。


「一緒に来て!」


 私は勢いのまま彼の手を掴んだ。途端に周囲がざわめく。自分の顔が一気に熱くなるのが分かる。耳まで真っ赤になっているに違いない。

 彼は私の顔を見つめ、それからこくりと頷いた。次の瞬間、彼が私の手を握り返した。そして、彼が私を引っ張るように走り始める。


 いつの間にか立場が逆転している。私は彼に手を引かれながら、必死で足を動かした。


 コースに戻ると前を走っている選手は誰もいなかった。ほかの参加者たちはまだ借り物を見つけるのに苦戦しているようで、あちこちを探し回っている


 つまり今、私たちがトップ。大きな歓声が背中から聞こえてきた。彼の体温が繋いだ手から伝わってくる。彼の鼓動を感じながら最後のコーナを曲がった。後は直線、白いゴールテープが目に映る。もうすぐ、あと少し。あと数十メートル。


「あはっ」


 息を切らせながら私は笑っていた。自然に声が出ていた。


 だって、だって全然苦しくないんだもの! 彼とだったらどこまでも走っていける気がする! 楽しい! 楽しくて、すごく幸せなの!


 その直後だった――世界から、音が消える。


 さっきまで燦々と降り注いでいた太陽の光が、突然失われたよう。だけど、空を見上げても雲はない。太陽は隠れていない。それなのに、グラウンド全体が急速に暗くなっていく。


 応援席にいる生徒たちの声が、動きが、まるで水の中にいるかのように緩慢になった。声援も、足音も、すべてが遠ざかっていく。

 そして世界が灰色に染まった。背筋を冷たいものが走る。


 そんな……この感覚、この感じは!?


「あれを見ろ!」


 声を上げたのは会長だった。彼の指が示す先、黒い人影が突如として姿を現した。グラウンドの中央にあの怪異が立っている。


 一体。


 そして二体。


 さらに三体――!?


 黒い靄をまとった人型の怪異が、そこかしこに現れていく。


「野郎……。性懲りもなく出てきやがったか!」ハヤテくんが声を上げる。


「先輩、早く逃げてください!」ノエルくんが私の手を取った。


「こっちです!」


 その声に促されるように走り出した直後、応援席のテントから黒い靄が噴き出した。黒い靄が一瞬で生徒たちの全身を包み込み、輪郭を塗り潰していく。新たな怪異が生まれ、怪異が生徒に触れて、さらに怪異になった生徒が次々と生徒に触れていく。どんどん怪異が増えていく。


「そんな……」


「この学校にいる人間を全部怪異にする気か!?」ハヤテくんが叫ぶ。


「まずいぞ! このままでは囲まれる!」


 会長が周囲を見渡した直後、


「会長!」


 ノエルくんの声が鋭く響き、声に振り返った会長の影が地面から伸び上がって立体を成した。


「ッ!」


 会長の影から怪異が姿を現した。そしてその腕を会長に向かって伸ばしていく


「逃げろ!」


 会長の手が私の背中を強く押した。


「でも!」


「逃げろ! 赤桐! 飛鷹! 白城を守るんだ!!」


「会長!」


 伸ばした手は届かなかった。黒い靄が会長の身体へ絡みつく。一瞬で全身が黒く塗り潰される。顔も、足も、手も、すべてが闇に呑み込まれていく。


「そんな……」


 私の目の前で、朱雀会長が怪異へ変わってしまった。


 



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