表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法学校の用務員リアラ  作者: エーカス
第2章
40/41

第40話 鐘の音(5)警備員たちの証言

 翌日、私は日常業務の合間を縫って、証拠集めに動くことにした。

 倉庫群の隅にある警備員詰所を覗き込むと、あの火災現場にいた赤茶けた髪の警備員が私に気づき、鉄のドアを開けた。

「よう。何か用か?」

「こんにちは……あの、すみません。私は用務員のリアラ、です」

「知ってるさ。急にどうした?」

「ええと……名前を……」

 自分でもわかるほど、しどろもどろだった。やっぱりこういうのは苦手だ。

 すると警備員は目を丸くした後、肩を揺らして笑い出した。

「おいおいおいおい! こりゃあ、噂は本当じゃねーか!」

 噂? 聞き捨てならない言葉を聴いた気がする。

 そんな私を余所に、警備員は詰所の中へ向かって声を張り上げた。

「おーい、すぐにこっちに来てくれ!」

 奥から「ちょっと待て!」と返事が聞こえる。目の前の警備員は「いいから早く! 傑作だぞ!」と笑いながら叫んでいる。

 何かとんでもなく恥ずかしいし、良くない噂が広まっている気がして、そわそわする。

「何だよ、ったく……」

 ぶつぶつ文句を言いながら出てきたのは、あの黒髪の警備員だった。

「おお? リアラじゃないか。おつかれ。……で、何かあったのか?」

「か、賭けが、当たってそうだぞ」

 笑いすぎて声が上ずっている。なんて失礼な人だ……と思いながらも、「噂」の次は「賭け」という言葉が出てきて、嫌な予感しかしない。

 黒髪の警備員が、少しだけ怒気を含んだ声で相棒を制した。

「おい、いい加減にしろ。本人が困ってるだろう。……すまないな、リアラ。こいつが言っているのは……まあ、あれだ。君が警備員の名前を一人も覚えてないんじゃないかって、警備員たちの間で賭けの対象になっていたんだ」

 どうせそんなことだろうと思っていた。

「ところで、本当にこいつの名前を知らないのか?」

「……うん」

「もしかして、俺も?」

「……そう」

 正直に答えると、黒髪の警備員は顔を手で覆って、天を仰いだ。

「マジか。それは……まずいだろ。いろいろと」

「ごめんなさい」

「いや、謝られても困るんだが。俺はエルン。この馬鹿みたいに笑っているのがブラムだ。おい、ブラム。いい加減にしろ」

「エルン……ブラム……」

 忘れないように、頭の中で何度も復唱する。

 ブラムと呼ばれた警備員は、ひいひいと笑い転げて、目に涙を溜めている。

「だって、お前。こりゃ……やべーだろ……」

 息も絶え絶えに話しながら、エルンの脇腹を肘で小突いた。

「わかった、わかった。落ち着けっての。……で、リアラはどうして急に名前を知りたがってるんだ? 誰か偉い人にバレて怒られたか?」

「叱られたのはそうだけど……そうじゃなくて。火事があった日のことを、詳しく聞かせてほしかったから」

 その瞬間、エルンの表情から余裕が消えた。ブラムの笑い声も、まるで糸が切れたようにぷつりと止まる。

「……その話は、ここじゃまずい。ひとまず中に入れ」

 さっきまでの軽い空気が一変し、私たちは詰所へ入った。

 詰所の中はそれなりに整頓されていた。壁には槍や警棒がきちんと掛けられ、机の上には帳面が積み重ねられている。窓から差し込む光に、舞い上がった埃がふわりと揺れていた。

「俺たち以外の誰かと、火事の話をしたか?」

「レティシア校長だけかな」

 エルンは顎に手を当ててしばらく考え込んだ後、厳しい口調で言った。

「それなら問題ないが……訊く相手には注意しろ」

「エルンの言う通りだ。下手に首を突っ込むと、頭ごと持っていかれるぞ」

 横からブラムが物騒なことを言い足した。冗談めかして言っているけれど、今は真顔だった。

 エルンは真剣な顔つきのまま、声を落とした。

「答えられることなら答える。何が聞きたい?」

「いくつかあるんだけど……火災の発生時刻はわかる?」

「それは鐘楼に確認すればすぐわかるが……用務員の君が問い合わせるのは不自然だな。わかった。俺が聞いておく。報告書のためだと言えば大丈夫だろう」

「ありがとう。それと、エリオット先生は、どうして監守所に連れて行かれることになったの? 理由が知りたくて」

「ああ。連行したのは俺だ。命令書がある」

 エルンは棚から一通の書面を取り出した。そこには、エリオット先生を監守所に連行する旨が記され、一番下には――レティシア校長の署名があった。

「レティシア校長の、署名……?」

 私が小さくつぶやくと、エルンがはっと目を見開いた。

「校長は、連行理由を知らない? そう言っていたのか?」

「うん。警備員に聞きに行きなさいって」

 その言葉を聞いた瞬間、エルンとブラムが同時に低くつぶやいた。

「そうか……」

「参ったな、こりゃ。いよいよ、やべー話しになってきたぞ」

 ブラムが頭をかき、詰所の空気が一気に重くなる。

 私は手渡された命令書に目を落とした。

「放火の疑い……」

 髪の端は少し折れ曲がり、急いで作成されたような跡がある。

 エルンは腕を組み、低い声で言った。

「ああ。連行理由は、書いてある通りだ。命令書には従ったが……この理由はおかしいって話をしてたんだ」

「理由がおかしい?」

 問い返すと、エルンは一呼吸をおいてから、まっすぐに私の目を見た。

「順に話す。あの先生は、中には古い本があると叫びながら、必死にドアを叩いていた」

「ドアを叩いていた……?」

「そうだ。あの先生は部屋の中に入ってない。建物から外に連れ出したのは、あくまでも安全確保のためだった」

 ブラムが深く頷づいた。

「ああ、それは俺も断言できる。消火隊の連中、ドアが開かねえって言って鍵を取りにいった。それで消火の開始が遅れたんだ」

 エルンが眉間に皺を寄せ、ブラムも険しい顔つきになっている。

 エリオット先生は部屋に入っていないのに、放火の犯人として連行された。部屋に入っていないことは、消火時に施錠されていたことから明白だ。この証言だけでも、エリオット先生の潔白に近づける。

 でも、まだ疑問が残っている。

「どうしてエリオット先生が倉庫にいたかわかる? ごめん、わかったらでいいんだけど」

 私が恐る恐る尋ねると、ブラムが「ああ」と短くつぶやき、背中を壁に預けながら答えた。

「あの先生は、休日の昼過ぎにはいつも倉庫エリアに来るんだよ。目録をつくってるんだと。学校が休みだってのに、毎回だ。先生ってのは、すげーよな」

 ――犯人は、エリオット先生が休日の昼に倉庫に来ることを知っていた?

「リアラ。この件に動きがあれば、俺たちから直接校長に報告する。この命令書は、今すぐに校長のところに届けてくれ」

 私は命令書を手に取り、深く頭を下げた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ