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魔法学校の用務員リアラ  作者: エーカス
第2章
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第41話 鐘の音(6)約束

 私は校長室の執務机の前に立ち、エルンとブラムから聞き出した証言を、レティシア校長に伝えた。

 校長は命令書を受け取ると、時間をかけてゆっくりと目を通した。紙を持つ指先がわずかに震えている。

「……確かに私の署名です。このような偽造まで。決して許されることではありません」

 穏やかな口調だけれど、凍てつくような鋭い憤りがにじみ出ている。

 その瞳には強い光が宿っていて、私は思わず息を呑んだ。

「リアラさん、よくやりました。エリオット先生は無事、釈放できます」

「何か他に、証拠を集めなくても大丈夫ですか?」

「これで十分です」

 拍子抜けするくらいに簡単に証拠が揃ってしまった。

「校長のおかげです。私は最初、何をしたらいいのか、わからなかったです」

「いいえ。私はあなたの考えを整理して、目標を立てるためのヒントを出したに過ぎません。答えを掴み取ったのは、あなた自身です。自信を持ちなさい」

 そう言われても、むずがゆさを感じる。私は犯人を見つけることしか頭になかった。その考えに固執したままでは、エリオット先生の潔白を示す根拠になんて、到底行き着かなかった。

 ――犯人?

 そうだった。これは放火事件だ。

 私が証拠を集めなくても、いずれ警備報告からエリオット先生の無実は証明されていたようにも思える。一方で、校長の命令書まで偽造するような相手だから、早めに動かなければ手遅れになっていた可能性もある。

 エリオット先生が釈放されても、事件そのものはまだ解決していない。

 私がそこまで考えを巡らせたとき、レティシア校長はゆっくりと首を振った。

「あなたが何を考えているか、わかります。ですが、調査はここまでにしてください」

「どうしてですか!」

 思わず声が大きくなった。

 こんな中途半端な形で終わらせるなんて嫌だ。校長の名を騙り、無実の先生を陥れようとした卑劣な犯人を、私は許せない。

 それに、もうひとつ、大きな疑問が残っている。

 ――なぜ、事務局を()()()()()()()()()()()()()のか。

 エリオット先生を陥れるためにしては、火事をおこすという手段はあまりにも大掛かりだ。しかも、これほど手の込んだ策を弄しているのに、先生が無実である証拠はあっさりと見つかった。

 つまり、この火災の本当の目的は、先生を拘束すること以外の何かだったのではないか。

 レティシア校長は静かに目を伏せ、深く息をついた。

「私との約束を覚えていますか?」

「……はい」

 ――私が中断を命じたら、素直に、手を引いてください。

 あのとき交わした約束。

 こうなることを見越していたのだろうか。

 私を案じる強い想いを感じるから、それをはねつけることなんて、私にはできない。

 レティシア校長は席を立つと、私の隣に歩み寄った。

「これだけは忘れないでください。私には、あなたを守る義務があります。……このことは、いつか必ず話します」

 レティシア校長の瞳は、まっすぐと私を見つめていた。

 その言葉にどのような意味を含むのか、今の私にはわからない。

 けれど、「いつか話す」と言うのだから、きっと話してくれる。

 レティシア校長とは、そういう人だから。

 翌日の早朝、エリオット先生は釈放された。昼過ぎ、私は彼に呼ばれて執務室を訪ねた。

 エリオット先生は髪をきちんと整え、いつもの地味なローブを纏っていた。ただ、頬の髭にわずかな剃り残しがあって、急いで身支度をした様子が伺える。

「足を運んでもらってすまない。釈放に動いてくれたのは君だったと聞いた。心から礼を言う」

「とんでもないです」

 正面を切って感謝を述べられると、どうしても居心地が悪くなってしまう。

 エリオット先生の表情は、相変わらず無愛想で堅苦しい。けれど、その目元がほんのりと和らいでいるのを見て、言葉以上に感謝していることが伝わってきた。

 気恥ずかしさを誤魔化そうとして、私は話題を変えた。

「先生は、いつも休日に倉庫に行っているのですか?」

 エリオット先生は、ふう、と短く息を吐き、ぽつりぽつりと語りはじめた。

「あの倉庫群には、図書室で管理しきれない古い文献や史料が山積みにされている。紙というものは、温度、湿度、それに虫害に弱いものだ。だが、あそこの倉庫はあまりに古い。貴重な資産を保管する環境としては、お世辞にも及第点とは言えない」

 そこからは、堰を切ったように不満が溢れ出した。

「目録さえも禄に作っていない有り様でな。何度も会議で議題に挙げたのだが、誰も真剣に耳を貸そうとしない。だから、私は休日に足を運んで、管理状態を確認しながら、目録を作成していたのだ」

 眉間に皺を寄せて活き活きと文句を並べ立てる先生を見て、私はほっとした。冤罪の衝撃から立ち直り、いつもの「偏屈な学者」に戻っている。

「何を笑っているのか。まったく、君は変わっている」

「いえ、安心しました。先生らしいなと思って」

 私がそう言うと、エリオット先生はわずかに視線を泳がせた。無愛想な人ほど、こういう反応がわかりやすい。

「いつも通りに倉庫に向かっている最中、煙が見えた。私はすぐさま通報したが……。私が極端に人付き合いを嫌い、人気の少ない場所を好むことは広く知られている。それを狙われたのだ」

「狙われた……?」

 問い返すと、エリオット先生は口を閉ざし、視線を落とした。

「君は、知らないほうがいい」

 その声は低く、いつもの無愛想さとは違う重さがあった。私の目を見ようとはせず、静かに言葉を切った。

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