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魔法学校の用務員リアラ  作者: エーカス
第2章
35/41

第35話 訓練(7)光砂灯に照らされて

 職員寮の自室に戻ると、いつも気分が落ち込む。

 どうせ眠るためだけの場所だと割り切っていたはずなのに、最近はその無機質さが、ひどく肌寒く感じられるようになってきた。

 《《安心できる場所》》をつくりたい。

 これまでの人生で、本当の意味で「《《安全な場所》》」だったのは養父母の家だけだった。善良な二人は、孤児の私に惜しみなく愛情を注いで育ててくれた。それでもいつか見放されるのではないかと、心のどこかで怯えていた。

 一人で生きていける年齢になると同時に家を飛び出した。逃げ出したかったのかもしれない。それきり一度も帰っていない私を、養父母は今でも手紙で案じてくれている。

 養父母を安心させるためにも、私は自分自身で、帰るべき場所をつくらなければならない。そして、養父母に、会いたい。

 そんな感情を振り払うように、革のカバーがかけられた本を鞄から取り出した。表紙を捲ると、閉じ込められていた埃っぽいにおいがした。

 綴られていたのは、亡くなった魔法使いが、記憶を保持したまま誰かの子どもとして生まれ、成長していくという奇妙な物語だった。そんなことはありえないと思いながらも、どんどん物語に引き込まれていく。

 読み進めているうちに、この本が禁止図書に指定された理由が理解できた。

 この物語は、人間の再誕を前提としている。教会では、死後の魂が再び生を受けるのは神だけに許された奇跡だと教え込まれてきた。人が生まれ変わるなど、許されない考え方だと思う。

 でも、信心深くない私にとって、それは些末なことだった。

 次々に展開していく物語に心躍った。魔法理論を再解釈することによって、主人公の数奇な運命と困難を打開していく。頁を操る指が止まらない。

 窓の外が藍色に沈み、文字が見えなくなってきた。私は六角形の光砂灯に手を伸ばした。灯を立てると、器の中で青白く燦砂がさらさらと流れ落ち、静謐な明かりが部屋を照らし出す。

 備え付けの机に肘をついて読んでいたけれど、姿勢を変えたくなってベットへ移動した。寝転がって本を持ち上げてみたものの、あまりの重さに腕が痺れてすぐに諦めた。壁に背を預けて、ふとももの上に本を広げることにした。

 一つ目の灯が尽きて、予備の光砂灯を点けた。砂の落ちる音だけが、部屋を満たしている。

 時間を忘れて読み耽っていた。ふと顔を上げたときには、窓からは白々とした朝の光が差し込んでいた。

 休日で良かった。もし仕事の日だったら、倒れていたかもしれない。

 朝日が眩しくて目に痛い。頭がふわふわとする。何か食べてから、少しだけ眠ろう。日が登っている間に眠るくらいなら、夜に寝ておけばよかった。

 ふらふらとした足取りで食堂へと向かった。葉野菜と潰した芋、スライスされたゆで卵が挟まれたパンと牛乳瓶をトレイに乗せて、窓際の席に腰をおろした。お腹はすいているのに、どうにも食べる気になれない。ちびちびと牛乳を飲んだ。

「おはよう、リアラ。こんな朝早くに珍しいね」

 向かい側に、凛とした佇まいのシオリが座った。

「おはよう。本を読んでいたら、朝になってた」

「ふふ。そういうことあるよね」

 シオリが小さく笑う。

 意外な言葉だった。シオリは図書館が閉まる時間になる前に食堂に行くし、朝早くに食堂に来て食事を摂っている。いつもきっちりとしている印象がある。私は気まぐれに食事の時間が変わるから、シオリのことを見習いたいと思っている。

「シオリも? 規則正しい生活をしてそうだけど」

「そんなことないよ。実家にいたころは、よく夜ふかしをして叱られてたから。今日はどんな本を読んでいたの?」

 何気ない会話なのに、返事に困ってしまった。

 シオリに嘘はつきたくない。でも、禁止図書に夢中になっていたなんて、口が裂けても言えない。

「おもしろい物語なんだけど、まだ読んでいる途中で、読み終わったら話すね」

「そっか、楽しみにしてる」

 シオリは気に留める様子もなく、パンを小さくちぎって口に運んでいる。その仕草が妙に丁寧で、眠気にぼんやりとした頭でもついつい目を奪われてしまう。頬を膨らませて噛む様子が子どもみたいでかわいい。朝日に透ける彼女の髪が、いつもより明るく輝いて見える。

 眩しさに目を細めながら、牛乳に口を付けてみても、やはり食欲は戻ってこなかった。

 ふと気がつくと、シオリが心配そうにこちらを見ていた。

「ねえ、リアラ。食べないの?」

「うん。お腹はすいているんだけど、なんだか食べる気分にならなくて。持ち帰って、休んだ後にしようかな」

「そうしたほうがいいと思うよ。寝不足で調子を崩しているのかも」

 パンを紙で包もうとしたのに、指がもつれて、パンがはみ出してしまった。その様子をシオリが心配そうに見ている。平静を装って、すっと立ち上がった。

「ごめん、ちょっと寝てくる。またね」

「うん、おやすみなさい。……リアラ、パンを忘れてる」

 私は苦笑いしながら、慌ててテーブルの上に置きっぱなしになっているパンの包みを掴んだ。

 部屋に戻って、ベッドに倒れ込むと、魔法使いの物語が頭の中を駆け巡り、そのまま眠りに落ちた。


光砂灯こうさとう

 砂時計型の照明魔道具。この国では日常的に使用され、一般家庭にも普及している。

 燦砂さんさと呼ばれる特殊な砂が詰められている。燦砂が順方向に流れている間は青白く光り、砂時計を倒して流れを止めると消灯する。燦砂を日光に当てることで魔力が充填される。逆方向に流すと効率よく充填できる。日光の弱い日に充填すると発光が弱くなる。

 砂時計の形状が六角形のものは一刻半(約三時間)、八角形のものは二刻(約四時間)であり、リアラは六角形と八角形のものをそれぞれ一つずつ持っている。

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