↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
厨二病は異世界でも本物を目指す  作者: ベルナルド


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
8/9

第六.五話 俺はお兄ちゃんだぞ

主人公であってくれよ(羨望)

 俺は十歳になった。


 あの夜から二年。

 頭の中へ響く謎の声とは、幾度も言葉を交わしてきた。


 剣の構えが甘ければ叱られ、魔術式を間違えれば怒鳴られた。

 何度、腹を立てて言い返したか分からない。


 それでも、森から正体不明の力が押し寄せるたび、声は俺へ力を貸してくれた。


 最初は一人で立っていることさえできなかった。

 だが、声の指示に従って結界を張り続けるうち、少しずつ自分の力だけで防げるようになった。


 同時に、俺は声を信用し始めていた。


 もっとも、その正体は今も分からない。

 尋ねても、声は『名乗る資格がない』と答えるだけだった。


 森の調査も続けた。

 力を感じた場所へ何度も足を運び、魔力の痕跡を探した。


 しかし、何も見つからない。


 人が潜んでいた跡も、魔物の巣もない。

 正体不明の力が、誰によって、何のために放たれているのか。二年経っても分からなかった。


     ◇


 ある日、屋敷の書庫で一冊の本を見つけた。


 題名は『新七栄伝』。


 三百年前、世界を襲った虚と七人の英雄の戦いを描いた物語だ。

 ただし、俺が幼い頃から読んでいた『七栄伝』とは、内容が少し違っていた。


 物語の途中、勇者が虚に見定まれ、裏切るのだ。


 当初は七人の英雄と共に戦っていたが、やがて虚の力に魅入られ、世界を裏切った男。

 八代目勇者は、虚を崇める邪神教団を率い、かつての仲間たちへ刃を向けたという。


 その挿絵を見た瞬間、背筋が冷たくなった。


 燃え上がる町。逃げ惑う人々。

 黒く染まった剣を手に、その中心で笑う一人の男。


 俺が何度も見てきた悪夢と、よく似ていた。


「なあ」


 本を開いたまま、頭の中の声へ呼びかける。


「この話を知っているのか?」


 いつもならすぐ返ってくる声が、そのときだけは沈黙した。


『……知っている』


 ようやく返ってきた声は、ひどく重かった。


『お前が見ている悪夢の正体もな』


「教えてくれ」


 本を握る手に力が入る。


「あんたは、何者なんだ」


 長い沈黙のあと、声は答えた。


『かつて、俺は八代目勇者と呼ばれていた』


「八代目……勇者?」


『だが、虚に呑み込まれ、仲間も、守るべき人々も裏切った。今では、裏切りの英雄と呼ばれているらしいな』


「そんな……」


 手元の本へ目を落とす。


 邪神教団を率い、世界を滅ぼそうとした大罪人。

 その男の声を、俺は二年前から聞き続けていた。


「そんな奴が、どうして俺の中にいるんだ」


『正確には、お前の中にいるわけではない。俺の意識は、世界の狭間に取り残されている』


「だったら、どうして俺にだけ声が聞こえる」


『お前が、俺の血を引いているからだろう』


 意味を理解するまで、時間がかかった。


「馬鹿な。父さんは平民の出だと聞いている」


『俺には妻がいた。すべてが終わったときには死んだものと思っていたが……逃げ延びていたのだろう。その血が、お前まで続いている』


「俺が……裏切りの勇者の子孫?」


 冗談じゃない。


 俺が憧れたのは、人々を守った英雄たちだ。

 世界を裏切り、罪のない人々を殺した大罪人じゃない。


「今まで、ずっと俺を騙していたのか」


『騙すつもりはなかった』


「なら、どうして黙っていた!」


『名乗る資格がないと言ったはずだ』


 本を閉じ、棚へ押し込む。


 それから俺は、声が何を話しかけてきても無視した。


     ◇


 それから数日後の夜。


 眠れずに窓の外を眺めていると、屋敷の壁を小さな影が伝っていた。


 エヒトだった。


 弟は音を立てずに地面へ降りると、周囲を見回し、そのまま森へ向かっていく。


「エヒト……?」


 俺は剣をつかみ、急いであとを追った。


 だが、森へ入ったところで姿を見失った。


 気配も、足音も、魔力の痕跡さえ残っていない。

 七歳の弟が、俺の追跡を完全に振り切ったのだ。


「どこへ行った……」


 周囲を探ろうとした、そのときだった。


 森の奥から、あの不快な力が広がった。


 これまで屋敷を狙っていた、世界の理から外れたような力。


「嘘だろ……」


 力が流れてくる方向は、エヒトが消えた方角と一致していた。


「どうして、エヒトが……」


『やはり、あの子だったか』


 何日も無視していた声が、頭の中へ響いた。


「どういう意味だ」


『エヒトが生まれた夜、世界の境界が揺らいだ。それ以来、俺はこの近くに異質な力を感じていた』


「最初から、エヒトだと知っていたのか?」


『いや。普段のあの子からは、ほとんど何も感じない。何かが内側へ力を隠しているとしか思えないほどにな』


「なら、今の力は何なんだ」


『断定はできん』


「ふざけるな!」


 森の奥へ叫ぶ。


「お前は、何か知っているんだろう!」


『落ち着け。最初に考えていた可能性は三つある』


 声は、俺の怒鳴り声を受け止めたうえで続けた。


『一つ。森に潜む何者かが、お前を狙っている』


「俺を?」


『俺と繋がったお前を、邪神教団の残党が感知した可能性だ。エヒトは偶然、その何者かと接触しているのかもしれない』


 しかし、俺たちは何度も森を調査した。

 誰かが潜んでいる痕跡は見つからなかった。


『二つ。エヒトの中にある力が、本人の意思とは関係なく漏れ出している』


 それなら、原因を取り除けばいい。

 エヒトを苦しめている何かがいるなら、俺が倒せばいい。


『そして三つ――』


「エヒト自身が、あの力を使っている」


 自分の口で言った。


 声は否定しなかった。


「お前は、あの力をどう思う」


『断定はできない。だが、かつて俺を狂わせたものと似ている』


「じゃあ、エヒトが悪魔だとでも言いたいのか!」


『それも断定できん』


 声は、冷静だった。


『仮にエヒトが最初から邪悪な存在なら、なぜ七年間も家族の中で暮らしている。世界を滅ぼしたいだけなら、成長を待つ必要などない』


 胸の奥に絡みついていたものが、少しだけ緩んだ。


「なら、まだ全部、可能性でしかないんだな」


『ああ。今の段階ではな』


 森の奥を睨む。


 エヒトが何かを隠しているのは間違いない。

 それでも、家族へ見せてきた笑顔まで偽物だったとは思えなかった。


「もし、エヒトの中に悪魔がいるなら――」


 腰の剣を強く握る。


「俺がエヒトごと斬る」


『リヒト』


「違う。エヒトの中にいる悪魔だけをだ。そんな剣が今の俺にないなら、手に入れる」


 声が息を呑んだ。


「あいつは俺の弟だ。何が潜んでいようと、俺が助ける」


『……もし、あの子が虚の英雄だったとしてもか』


「そのときは、俺が止める」


『情を捨てられるのか?』


「捨てない」


 迷わず答えた。


「弟だから止める。弟だから、殺さずに連れ戻す」


『甘いな』


「あんたは、その甘さを捨てて後悔したんじゃないのか?」


 声が黙った。


 悪夢の中で、八代目勇者はすべてを壊していた。

 けれど、今の声から感じるのは、怒りよりも深い後悔だった。


「八代目勇者。俺を鍛えてくれ」


『俺を無視するのは、もう終わりか?』


「あんたを許したわけじゃない」


 剣を抜き、暗い森へ刃を向ける。


「あんたの過去も、エヒトの力も、俺が自分で確かめる。そのために強くなる」


 しばらくして、声が小さく笑った。


『いいだろう。だが、今までより厳しくなるぞ』


「望むところだ」


 この夜、俺と八代目勇者は、初めて同じ目的を持った。


     ◇


 それから五年が過ぎた。


 馬車の窓から、遠ざかっていく家族を見つめる。


 父さんと母さん、母さんに抱き上げられたジェニー。そして、その隣で大きく手を振っているエヒト。


 やがて馬車が角を曲がり、四人の姿が見えなくなった。


『随分と嬉しそうだったな』


 八代目勇者の声が響く。


「実際、楽しみではある。学園には、屋敷にない魔術書もあるからな」


『それだけか?』


「まさか」


 荷物の中には、森の異変を記録した手帳を入れてある。


 邪神教団。八代目勇者の本当の歴史。

 エヒトが隠している力。


 そのすべてを調べるには、屋敷の書庫だけでは足りない。


 ゴルゴン学園には、王国最大級の書庫がある。

 三百年前の記録や、根源と虚に関する研究も保管されているはずだ。


 そして、王国中から才能ある生徒と教師が集まる。

 より多くの魔術を学び、より強い人間と戦える。


「学園で一番になる」


 エヒトへ告げた言葉は、見栄でも冗談でもない。


 三年後、エヒトが学園へ来るまでに、弟より前へ立てる強さを手に入れる。


『本当に、あの子を守り切れると思っているのか?』


「守るさ」


 森の力がエヒトを狙っているなら、俺が防ぐ。

 エヒトの中に潜んでいるなら、俺が斬り離す。


 そして、もしエヒト自身が世界の敵になろうとしているのなら――。


「そのときも、俺が止める」


 殺すためではない。

 連れ戻すために。


「何があっても、あいつより前に立てる兄でいる。そのために、俺は強くなるんだ」


 馬車は、王都へ向かって走り続ける。

主人公にしか見えない兄上。

だが、しかしこの物語は中二病が主人公(絶望)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。