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家庭教師になった公爵令嬢は、我儘をつき通す  作者: 星見蒼


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第34話 公爵令嬢は月の夜に

 今日は月の夜。

 王宮で今年開かれる夜会は、これが最後。

 クラリッサだけではなく、令嬢たちはみんな気合が入っている。

 『月』の意匠を、ドレスに鮮やかに浮かばせたり、それとなく忍ばせたり。あるいは、髪や耳、首元で輝かせたり。

 夜会に出るようになってから、夜会を彩るドレスを見るのも楽しいなとクラリッサは思うようになった。


(よし! わたくしも負けませんわ)


 クラリッサは今日もたくさんの人と踊ろうと決めていた。

 なにせこの夜会が終わったら、来年まで踊る機会はない。

 ソフィア様との授業の材料集めとして、頑張らないといけないのだ。

 この間はなんだか最後の方で自暴自棄になってしまい、結局よく覚えていないのだ。


 本日のエスコートは三番目のヒューイお兄様ではなく、お父様。

 ヒューイお兄様は外交儀礼官のお仕事があり、夜会には参加されないのだが、唯一この月の夜には参加されるため、婚約者のアデレインお義姉様のエスコートを優先されたのだ。

 そしてお父様は、蕾の夜の時のアーサー殿下のように、お母様とクラリッサの二人をエスコートしている状況だ。


「ふふ、とっても可愛いわね。クラリッサ」

「ありがとうございます」

「ああ。可愛い。クラリッサ、お父様の腕を離さなくていい。ずっとこのままでいい」

「いいえ、お父様。今日もたくさん踊りますわ」

「……クラリッサ、お父様の話を聞いていたかい?」

「無理をしてはダメよ」

「はい。あ、お父様。ファーストダンスはヒューイお兄様にお願いしていますので」

「は? あいつは婚約者の……」

「ええ。その後に」

「それはファーストダンスと言わない!! お父様と踊ろう」

「あら? 貴方はわたくしと踊ってくださらないの?」

「……う。も、もちろん、ビクトリア、君と踊るに決まっている」

「クラリッサ、ヒューイが来たら一緒にダンスホールに行きましょうね」

「はい!」


 クラリッサはお母様とお父様に向けてほほ笑んだ。

 そして、ヒューイお兄様たちのファーストダンスを見届ける。


(……素敵ですわ。お兄様……あ! アリスさん)


 いつもと同じ場所にアリスさんがいた。

 宣言通りの黒い燕尾服のアリスさんを見つけて、クラリッサは嬉しくなる。できれば傍に行きたい。


(……星の夜の時は、本当に偶然のようなものでしたし)


 少しだけ苦かった夜。それでも今となっては良い思い出である。


(アリスさんとサマーホワイトの光も見れましたわ)


 綺麗でやさしくて。


(また、見たいですわ)


 クラリッサは遠くのアリスさんに向けてふわりと微笑んだ。



 * * *



 公爵令嬢と同じピンクブロンドの髪をもつ公爵と、華やかな公爵夫人。そのふたりと並ぶ公爵令嬢は、あまりにも近寄りがたい。

 公爵の鋭い視線は周りを牽制していて、いつもより彼女を誘う人が少ない。それでも強者は彼女と踊る権利を得る。


 最後の夜。いや、今年が最後というだけ。

 それでも、ほんの一瞬。アリステアの脳裏に余計な考えが浮かぶ。

 その手をとって、踊りたい。

 いつも以上に美しい彼女をすぐ近くで感じたいという、どうしようもない想い。


「アリステア・ペンフォード様」


 そんなアリステアの思考を断ち切ったのは、ひとりの女性の声だった。



 * * *



 踊り終えて、クラリッサはまたお父様たちのところに戻る。

 少し休もうかと考えたその視界の隅で、アリスさんの姿を捉えた。


(え? 誰?)


 アリスさんが見知らぬ、女の人と話をしている。


 話し込んでいる。


 遠目からでも女性がアリスさんに微笑みかけているのが、分かった。

 でも、アリスさんがどんな対応をしているのか分からない。


 ドクリと心臓が嫌な音を立てる。

 息が苦しい。呼吸ができない。


(なんで? どうして?)


 アリスさんはどうして、自分以外の人と話しているのか。

 綺麗に着飾った、大人の女性という感じの、まだクラリッサが到達できない域にいる人と一緒にいるのか。


「クラリッサ?」


 お母様の声が聞こえた気がする。

 でも、クラリッサには響かない。

 ただ、ただ、アリスさんの、二人のところへと足が進む。

 誰のエスコートも受けず、声を掛けられても無視して、アリスさんの方へと。

 クラリッサがそこに辿り着くよりも早く、その女性はアリスさんから離れて、そして、クラリッサとすれ違う。


 ふわりと、華やかな香りがした。


 それだけで、クラリッサは泣きたくなった。

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