第25話 公爵令嬢は探している
クラリッサは本日も図書館に来ていた。
まずは、『アリスさん探し』で館内を一周する。
残念ながら、アリスさんを見かけることはできなかった。
クラリッサは改めて書架を回る。
今度はきちんと家庭教師としてのお仕事である。
(ソフィア様、本当に熱心ですわ)
ソフィア様は翌日までに記事全文を訳しきり、すぐに課題の話し合いになった。
(……相変わらず、アリスさんの教えた跡がありましたけど)
やっぱり悔しいクラリッサである。
(ソフィア様も隠してくださればいいのに)
と思いつつも、アリスさんの字が見れてどこか嬉しい気もするのだ。
見つけるたびについついその字を指でなぞってしまいそうになる。
(ふふ、懐かしいですわ)
学園の東屋でアリスさんに教わっていた時のことを思い出す。
クラリッサのノートにはアリスさんの字がびっしりだった。
(わたくしも負けてられませんわ)
クラリッサはソフィア様との課題をこなすべく、必要な本を探すことにした。
* * *
「今日、来てたよ」
図書館に併設されている食堂でパンとサラダを買ってきたウィンスロー先輩は、地下の休憩室でそれを食べている。
「どうして食堂で食べないんですか? 席、空いてますよね?」
「うん? あぁ。でもこっちの方が静かだし」
「外の景色が見れて開放的だって聞きますけど?」
「ん~テラス席はね。でも、人気だからすぐに埋まっちゃうんだよ」
「……だからって、ここよりは良いのでは?」
「ペンフォード君、そんなに僕がここでご飯食べるの嫌?」
「……分からないだけです」
「そう? で、今日来てたよ?」
ウィンスロー先輩はアリステアが敢えて無視した話題を、もう一度繰り返した。
「……そうですか」
「みんなも酷いんだよ。彼女がブランデルウッド公爵令嬢だって分かったら、受付するのを怖がって」
「別に……普通に受け付ければいいのでは?」
「でしょ? 元々そうしてたんだし」
「で、ウィンスロー先輩がまた専任に戻ったんですか?」
「まさか! 本人に『嫌です』なんて誰も言えないから、相変わらず順番に。みんな戦々恐々?としながら受け付けてるらしいよ。怖くないのにね?」
「……ウィンスロー先輩って、そういうとこありますよね」
「そう? でも君も全然怖くないでしょ?」
アリステアは考えた。
怖くないと言えば怖くない。だが、敢えて接触しようとは思わない。
(まぁ……今は、ある意味怖いんだが)
相変わらず髪を一つに結った無防備な姿を見かけるたびに、アリステアは少しだけイラついてしまう。同時に、髪に結ばれた淡い青のリボンにどうしようもない優越感を覚えてしまう。
(最悪だ)
考えるのが嫌になって、アリステアはサンドイッチを勢いよく食べ進めた。
「え? ペンフォード君?」
「仕事に戻ります」
「早くない?」
「……気になっていることがありますから」
嘘のはずなのに、まるで本当のことを言っているようで、思わずため息が出そうになった。
「寂しいなぁ」
「静かな場所が好きなんですよね?」
「でも、誰もいないのは嫌だ」
アリステアは悩んだ。
ウィンスロー先輩には、なんのかんのと世話になっているような気がしないでもない。
「……早く食べてください」
「え~、僕が君に合わせるの?」
「……」
それ以上は何も言わせず、アリステアはいつものように本を読む。
そうしてなんとか、彼女のことを頭から追い出した。
* * *
ウィンスロー先輩は少しだけ早く休憩から上がった。
アリステアは嘘をついていた手前、少しだけ罪悪感を覚えつつ、自身も休憩室から資料室へと戻る。
「あれ? 早いね。お帰り」
室長がアリステアに気づき、声を掛けてきた。
「……気になることがありまして」
そう言うと、室長の眉が少しだけ上がった。
「貴重本の紛失のこと?」
「え?……いえ、それではありません」
「そう」
そこで会話が終わるかと思ったのだが、室長は机の上を片付けながらアリステアに訊いてきた。
「最近、なんか変なことなかった?」
「は?」
質問の意図が読めない。
「気になってることとか」
「……特にありませんが、強いて言うなら貴重本の紛失ですけど」
「ん~……そっか」
それだけ言うと、室長はアリステアの横を通り過ぎて、資料室を出ていった。




