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第5話:気になる、という理由

 次の日。


 耕太の前には、すでにいくつかの品が置かれていた。


 椅子。棚。小さな箱。


 どれも壊れているわけではない。


 「なんか使いにくくてな」

 「ちょっと気になるんだよ」

 「別に困ってるわけじゃないんだけど」


 そんな理由で持ち込まれたものばかりだった。


 「……増えたな」


 ぽつりと呟きながら、耕太は椅子を手に取る。


 軽く揺らす。


 わずかな違和感。


 削る。合わせる。確かめる。


 その一連の動きは、昨日と同じだった。


 だが――


 周囲の空気は、少しだけ違っていた。


 「昨日の人だよな?」

 「なんか良くなるらしいぞ」

 「ほんとかよ」


 興味と半信半疑が入り混じった視線。


 耕太は気にしない。


 手を動かすだけだ。


 「はい、終わり」


 椅子を返す。


 受け取った男が座る。


 「……お」


 小さく声を漏らす。


 「なんだこれ、楽だな」


 それを聞いて、周囲がざわつく。


 「ほんとに違うのか?」

 「ちょっと見せてくれ」


 人が集まり始める。


 耕太は次の品に手を伸ばす。


 そのとき――


 「なあ」


 後ろから声がかかった。


 振り向くと、ひとりの少年が立っていた。


 年は十代半ばくらい。

 どこかやる気のなさそうな目をしている。


 「きみ、名前は?」


 少し間を置いてから、耕太は答える。


 「宮野耕太」


 「……長いな」


 少年はそう言って、少し考える。


 「じゃあ、コータでいい?」


 「好きにしろ」


 興味がないように返すと、少年は小さく頷いた。


 「でさ、コータ」


 すぐに本題に入る。


 「なんでそこまでやるんだ?」


 「どこまで?」


 「それ」


 顎で、作業中の椅子を指す。


 「別に、そこまでやらなくても使えるだろ」


 「使えるな」


 「じゃあなんで?」


 耕太は手を止めずに、少しだけ考える。


 そして、短く答えた。


 「気になるから」


 「……それだけ?」


 「それだけだな」


 あまりにもあっさりした答えに、少年は眉をひそめる。


 「めんどくさくない?」


 「めんどうだけど」


 そこで一度、手を止める。


 椅子を軽く揺らし、違和感を確かめる。


 「中途半端のほうが気持ち悪い」


 そう言って、また削り始める。


 少年は黙る。


 納得していない顔だった。


 だが――


 その場を離れようとはしなかった。


---


 次の日も、その次の日も。


 少年は同じ場所にいた。


 何をするでもなく、ただ見ている。


 最初は気にもしていなかったが、さすがに目につく。


 「……なあ」


 耕太が声をかける。


 「なんでいる」


 「別に」


 「暇か」


 「まあ」


 あっさりと肯定された。


 少しだけ間が空く。


 「名前は」


 耕太が聞くと、少年は答える。


 「カク」


 短い名前だった。


 「カクか」


 「うん」


 それだけで会話は終わる。


 ……はずだった。


 だが。


 「コータ」


 「ん?」


 作業中の手元を指しながら、カクが言う。


 「そこ、なんで削ったの?」


 自然な流れで出た質問だった。


 耕太は一瞬だけ手を止める。


 そして、少しだけ口元を緩めた。


 「いい質問だ」


 そう言って、椅子を持ち上げる。


 「どこがダメだと思う」


 「えーと……ズレてる?」


 「浅い」


 即答だった。


 「どうしたら“もっと良くなるか”で見ろ」


 「もっと良く……」


 カクは椅子を覗き込む。


 さっきまでとは違う目で。


 「今のままだと何が起きる?」


 「……グラつく」


 「そうだな。じゃあどうする」


 「削る?」


 「やってみろ」


 カクが顔を上げる。


 「いいのか?」


 「やらないと分からない」


 工具を差し出す。


 少しの戸惑いのあと、カクはそれを受け取った。


 ぎこちない手つきで、削り始める。


 その様子を見ながら、耕太は何も言わない。


 教えすぎても意味がない。


 分かるのは、自分でやったときだけだ。


 削る音が、小さく響く。


 まだ粗い。


 まだ甘い。


 それでも――


 確かに、“考えながら”動いていた。


 (入ったな)


 耕太は小さく息を吐く。


 ただ直すだけではない。


 “もっと良くする”という考え方。


 その入口に、カクは立っていた。


---


 少し離れた場所で、神がそれを見ている。


 「ほう」


 小さく、楽しそうに笑う。


 ひとりだったはずの“こだわり”が、

 もう一人に伝わり始めている。


 「いいねぇ」


 ぽつりと呟く。


 ほんの小さな変化。


 だが――


 世界は、確実に動き始めていた。

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