第2話:見知らぬ工房
「……は?」
目を開けた瞬間、宮野耕太の口から出たのはそれだった。
見知らぬ天井。
見覚えのない木の梁。
しばらく瞬きを繰り返してから、ゆっくりと体を起こす。
「いや、この展開はさすがに……」
思わず呟いて、途中でやめた。
(ラノベの読みすぎだろ)
心の中で自分にツッコミを入れる。
だが――
改めて周囲を見回しても、やはり知らない場所だった。
木造の部屋。
古いが、丁寧に使われている家具。
一人暮らし用と思われる最低限の生活用品。
自分の工房ではない。
それだけは、はっきり分かる。
「……どこだ、ここ」
立ち上がりながら、自分の服に目を落とす。
見覚えがない。
動きやすいが、普段着ている作業着とは明らかに違う。
――だが。
「……あるな」
視線の先に、自分の工具があった。
使い慣れた道具一式。
手に馴染んだ重さ。
それだけが、やけに現実感を持ってそこにある。
「夢、じゃないな」
試しに頬をつねる。
普通に痛い。
「……いや、現実であってたまるか」
思わずため息が出る。
記憶を辿る。
昨日は工房で作業していた。
細かい仕上げに集中していて――
「……そこから、ないな」
ぶつ切りのように、記憶が途切れている。
「せめて説明くらい入れろよ……」
ぼやくが、返事はない。
神も女神も現れないし、状況説明もない。
やけに静かだ。
「……まあいい」
考えても分からないものは分からない。
そういう時は、手を動かすか――状況を確認するかだ。
今回は後者。
耕太は扉に手をかける。
一瞬だけ迷う。
だがすぐに開けた。
---
外の光が、目に入る。
思わず足が止まった。
「……おお」
石畳の道。
レンガ造りの建物。
行き交う人々は、どこかのんびりしている。
見知らぬ景色。
だが、不思議と現実感がある。
夢特有の曖昧さがない。
「……なんだこれ」
思わず呟く。
近くを通った人がこちらを見るが、特に驚いた様子はない。
すぐに視線を戻して歩いていく。
(普通なのか?)
自分の方が“おかしい側”のような扱いですらない。
違和感が、じわじわと広がる。
それでも――
耳に入る会話は、理解できた。
「……普通に分かるな」
言葉が、そのまま意味として入ってくる。
試しに近くの看板を見る。
「読める……?」
見たことのない文字のはずなのに、問題なく読めた。
少しだけ考えてから、肩をすくめる。
「まあ、そういうもんか」
納得はしていない。
だが、受け入れることにした。
目の前の現実を否定しても、何も進まない。
「……とりあえず」
周囲を見渡す。
人の流れ。
店の並び。
生活の匂い。
「街、だな」
そして――
「ファンタジー、ってやつか」
ぽつりと呟く。
確証はない。
だが、それが一番しっくりきた。
耕太は小さく息を吐く。
「ならまあ、やることは同じか」
どこであろうと関係ない。
手を動かすだけだ。
そう思いながら、ゆっくりと歩き出した。
まだ、この世界の“違和感”に気づかないまま。




