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デ ス ラ ウ ル 君 

デスミカエル君「 こ ろ す 」


デスラウル君「 こ ろ す 」←New!


 タレットから放たれる12.7㎜弾をもろに受けた敵機が、主翼をごっそりと捥ぎ取られてそのまま錐揉み回転。アキヤール要塞の空に紅蓮の炎の弧を描きながら地平線の彼方へと墜落していった。


 要塞はもうほぼ制圧状態だった。航空優勢……それどころか制空権は協商連合側が確保しており、航空隊とソーキル、トキの2隻は心ゆくまで砲撃し放題。ごく稀に敵が野砲を持ち出して小癪にも応戦しようと試みるが、空を舞うコルセアたちが安易な反撃を許さない。次の瞬間にはロケット弾を撃ち込まれるか12.7㎜弾をしこたま叩き込まれ、砲手たちは物言わぬトマトペーストへと成り下がる。


 地上も制圧は時間の問題だった。


 陸戦隊として降下したクラルテたちは最初こそ防戦一方であったものの、今はむしろ逆だ。ワリャーグの兵士たちを探し出し、狩り殺すフェーズへと突入している。


 後はラウルが転生者を仕留めさえすれば、この戦いは終わるであろう。


 艦長席で周囲からの報告と状況確認に神経を尖らせる片手間で、ヴォイテクは思考の一部を動員して少しばかり考える。


 ―――今頃、ミカエルはきっと”マザー”のところにいる。


 すべての転生者の統括管理者、マザー。正体もその所在も不明な彼女の下へ、その気になれば()()()()()()()()()()のは後にも先にもミカエルだけだ。


 彼女は序列1位、真の猛者であるというだけではない―――総勢およそ1600名の転生者、その中で唯一人許された例外中の例外だ。


 目的は九分九厘、敵の転生者の巫女の事。


 ラウルが今回の作戦において、敵の転生者の撃破を躊躇しているであろう事はヴォイテクも、そしてミカエルも薄々勘付いている。アレーサで知り合った”フルール”とかいう巫女はあまりにも不憫で、だからこそ陽の光が当たる場所へと連れ出したいラウル。


 しかし転生者と巫女という一方的な一蓮托生の関係が、それを許さない。


 仮に転生者”カシウス”を撃破したと相成れば、マザーはフルールの存在を削除(デリート)にかかるであろう。それはそうだ、役目を果たさなくなったデータをいつまでもメモリの片隅に残しておく必要はどこにもない。リソースを個人の感情などで無駄に消費するメリットは何もないのだ。


 特に彼女は、感情よりも合理を優先する。


 そんなマザーが、「フルールを消すな」という感情的な要求に応じるであろうか。にべもなく断られる結末が見えているが、しかしミカエルも無策でそんな対話に臨むほど愚かではない。彼女にも何か、マザーの決断を揺るがすようなカードがあるのかもしれない。


 あるいは付き合いの長いヴォイテクですら与り知らぬ”秘密協定”でもあるのか。


 その時だった。


 ヴォイテクの身体を構成する細胞が、馴染みのある殺気にびくりと震えたのは。


「……」


「艦長?」


「……いや、何でもない」


 ―――覚えがある。


 今の殺気―――目を合わせただけで身体中の全細胞が震え上がるようなどす黒い殺気。古今東西あらゆる「天敵」という概念を煮詰めて1つにしてしまったようなおぞましいソレは、確かに昔感じた事のあるものだった。


 忘れたくても忘れられない。身体が、細胞の1つ1つが芯まで覚えている。


 天地戦争最大の地獄、「メルキア沖空戦」。


 家族を失い、復讐に燃えるヴォイテクも身を置いていたメルキアの戦場で感じたその殺気は、紛れもない()()()のものだ。


 ここで疑念が、殆ど確信へと変わる。


 やはりラウルは―――。


 ()()()()()は―――。


















 瞬間、カシウスは確かに自分の死ぬ瞬間を認識した。


 力では自分が勝っている―――第一、この女は一度倒した相手ではないか。そう理性が全力で否定してくる。夜のアレーサの公園、偶発的であったとはいえただの一撃で決着がついた。自分とラウルの間にはそれだけの力の差があるのだ、と過去の実績を盾にする。


 しかし、どれだけ理性が声高に叫んでも恐怖は消えなかった。


 カシウスの本能が怯えている―――眼前まで迫った己の死の気配に。


(なんだ、コイツ)


 このままここにいたら拙い、と判断してからは一瞬だった。後方へと飛び退くや腰を落として構えつつ、頭の中でどう攻めるかシミュレーションする。


 相手の武装は銃と鉄パイプ、それから複数のナイフにトマホークのみ。持っているユニークスキルは『原初の火薬庫(アーセナル・ゼロ)』―――銃を始めとした現代兵器を召喚する”だけ”の能力だ。身体能力の底上げなどの要素はない。


 それに対しカシウスのユニークスキルは『徒手の戦士(ノーアームズ)』。簡単に言うならば身体能力や魔力にバフをかける事で常軌を逸した攻撃力、機動力、防御力を発揮するというものである。その凶悪なスキルに加えて竜人の高い身体能力が噛み合い、今となっては転生者序列30位にまで上り詰めているのだ。


 序列圏外の野良犬風情に、負ける道理が見当たらない。


 しかし―――。


(何だ、何なんだ)


 どうシミュレーションしても、勝てる未来が見えない。


 真っ向から力任せに突っ込んでも。


 側面から回り込んでも。


 背後から、頭上から奇襲しても。


 フルールを人質に取ってみても。


 どう動いても、カシウスに突き付けられる答えはただ一つだけ。



 ―――死。



 有り得ない、これは何かの間違いだ―――異世界転生以降、これまで圧勝が当たり前だったカシウス。戦えば相手はその圧倒的な力の前に成す術なく粉砕され、慈悲を請い、軍門に下ってきた。カシウスにとって戦いとは新たな勝利を得るための通過儀礼、一種の儀式という認識でしかなかったのである。


 だからこそ、彼女のような―――ラウルのような未知の脅威は、これ以上ないほど不気味に映った。


 それはまるで、天敵のいない環境で生を謳歌してきた食物連鎖の頂点が、生まれて初めて()()()()()()()()()()と遭遇したかのような……。


 ごり、と鉄パイプの擦れる音。


 いつまで経っても攻め込んでくる気配のないカシウスに痺れを切らしたのか―――いや、違う。煮え滾る怒りの感情に、そしてそれを煮詰めた殺意という衝動に耐えかねた結果、ラウルが先に動いただけの事だった。


「!?」


 狼の獣人特有の瞬発力―――それだけではない。


 幼少の頃からひたむきに、これでは足りぬ、これでは勝てぬと努力を積み重ね、貪欲に鍛錬を続けてきた結果得た身体能力だった。臨戦態勢のカシウスですら目で追えなかったほどの速度で踏み込んだラウルが目の前まで迫るや、彼の殴打を受け止めてひん曲がった鉄パイプを無造作に振り上げていたのだ。


 頭を瞬時に外殻で覆い、身を護る。


 竜人の持つ能力だ。表皮をドラゴンの堅牢な外殻に変化させ、銃弾や小口径の砲弾すらも弾く防御力を得る。天地戦争中は特に猛威を振るい、勇猛果敢な獣人兵をして『人間サイズの戦車』と言わしめたものである。


 所詮は鉄パイプ、金属の切れ端に過ぎない。そんなものでの殴打などたかが知れている―――そんな慢心が続いたのも、ぐらり、と脳が揺れるまでの事だった。


(―――え?)


 鉄パイプ自体は弾いた。


 痛みはない―――しかし唐突に生じた顎への強烈な衝撃とめまいに、カシウスの平衡感覚は大いに狂う。


 それはそうだ。如何に堅牢な外殻を生成したところで、打撃による痛みそのものは打ち消せても”衝撃”までは消せない。衝撃とは実に厄介なもので、強いスプリングや油圧式のショックアブソーバー、最低でも何らかのクッションになるようなものを幾重にも張り巡らせてやっと相殺、ないし軽減できるものである。


 それを頭部における脳の対角線上にある顎へ全力で叩き込んだだけなのだ。


 おかげで脳は揺れに揺れ、一瞬ばかり正常な判断ができなくなった。


 ただ一つ、今のでカシウスも察した。


(コイツ―――知ってやがる!)


 ―――人体の壊し方を。


 それだけで攻撃を止めるラウルではない。


 爛々と輝く眼光―――血のような紅い光を曳きながらさらに肉薄、鉄パイプの断面をカシウスの腹へと向けて全力で突き立てる。無論、ギザギザの断面が肉を突き刺す前に外殻を展開して防ぎ、切先は左へと滑った。


 目論見を砕いてやった。


 今度はこっちの番だと反撃に転じるカシウス。しかしそれよりも先にラウルの手が鉄パイプから離れ―――上着の襟と左手の袖口をガッチリ捕まれたと思った事には、左足を内側から刈り取られそのまま後方へと押し倒されていた。


 ”小内刈”―――柔道の技の1つだ。


 転生前、柔道の授業で嫌いなクラスメイトをばったんばったんと投げ飛ばし、最終的に体育の教師が出てきてやっと止まったという経歴を持つラウル。前世の世界の母をして「強くなってほしいと思い空手を習わせたら強くなり過ぎた」と言わしめたそれは、川端明という社会人の肉体が滅び、ラウル・エルマータという獣人に転生してもなお確かに息衝いていた。


 背中から激しく床に叩きつけられるカシウス。息が詰まる思いをしながら目を見開いた彼が見たのは、LR-300の銃口を無表情でこちらに向けるラウルの姿だった。


「―――ッ!!」


 慌てて横にゴロゴロと転がり弾丸を回避。直後、バチバチンッ、と数発の5.56㎜弾が一瞬前までカシウスの頭があった場所を正確に射抜いていた。


 外殻の生成も、ユニークスキルの発動も間に合わない速度―――反応が遅れていたら頭を撃ち抜かれ、その瞬間に殺されていた。


「この女ァ!!」


 全身を外殻で覆い、加えて両手の拳に魔力を集中させる。


 これならば弾丸だろうと打撃だろうと関係ない。魔力を纏い威力を底上げした両手の拳は鉄板すらも撃ち抜く威力だ。人体なんぞ、直撃すれば足だけを残して消し飛ぶに違いない。


 相手を確実に殺せる構えでカシウスは突っ込んだ。


 あってはならない事だった。序列30位の自分が、総勢1600名の中でも上位100名、その中の30位に名を連ねる上澄み中の上澄みである自分が、こんな序列圏外の野良犬風情を相手に苦戦するなど。


 圧勝して当たり前、苦戦すら論外なのだ。


 なのに―――格上の相手が本気を出したというのに。


 ―――何故コイツは畏れない?


 むしろ逆に、殺意が増したようにすら思えた。


 次は殺してやるという無言の圧に、仕掛ける側のカシウスが怯む。


 ガガガガ、と弾切れになるまでLR-300を撃ち切るラウル。5.56㎜弾は全て外殻に弾かれ、着弾の衝撃がカシウスを苛むが大したダメージではない。このまま突っ切って拳を一撃叩き込めば勝てるのだ。


「舐めんじゃねえッ!!」


 一歩大きく踏み込んで、右のストレートを振りかぶる。


 ―――がくん、と身体が揺れる。


「!?」


 足が滑るように、重心がブレた。


 カシウスの右ストレート。それと入れ違いになるように、ラウルが無造作に蹴り払った超低空飛行のローキックが、柔道の有段者が放つ足払いの如くカシウスの右足を内側から刈り取ったのである。


 おかげで適切な体重移動ができず、重心もブレにブレ、それでいてパンチの狙いも定まらない。人体を一撃で砕く威力を乗せた拳も、ラウルの頭の左を掠めて虚しく左へと抜けていく。


 がしっ、とラウルの腕が空振りした右腕を掴んだ。


 拙い、と身構えた頃にはもうすでに遅く、一瞬だけジャンプし全体重を乗せたラウルの左の膝蹴りが脇腹へとめり込んでいた。


 蹴りの威力そのものは殺せる。しかし衝撃は殺せないし、蹴りに押された肋骨が内臓を圧迫して内面的にダメージを与えてくる。腹の中を潰されるような痛みに呻く間もなく、そのまま部屋の外へと投げ飛ばされるカシウス。


 ゲホゲホと咳き込みながら起き上がった直後、眼前まで迫っていたラウルが振り下ろしたトマホークが肩口に深々とめり込んでいた。


「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 返り血を浴びながらも、しかしラウルは顔色一つ変えない。


 叫びながらもラウルを突き飛ばし、肩口にめり込んだ黒い戦闘用の斧を引き抜くカシウス。


 激しい出血も、しかしすぐに消えていった。


 ユニークスキルの効果だ。細胞分裂の活性化を促す事で人智を超えた再生能力を発揮する―――防御力は二重の備えがあり、万一傷を負う事があっても簡易的な再生能力があるためそう簡単には倒れない。


 お前みたいな奴に、と吐き捨てるカシウス。


 一方のラウルは足元にあった鉄パイプを拾い上げ、左手にグロック40を持ちながら、口元に小さな笑みを作った。


 そう来なくっちゃ―――そう言われているような気がした。


「お前……なんで、なんで笑って……?」


「―――良かった、本当に良かった」


 くるり、とバトンのように鉄パイプを回すラウル。


「一度殺すだけじゃ足りなかった。手加減してやるから何度でも再生して立ち上がれ。その度に殺してやる」


 さあ、来いよ―――両手を広げ、子供を迎え入れる母親のような笑みを浮かべるラウルに、カシウスははっきりとした恐怖を抱いた。


 もしかして自分は―――とんでもない化け物に喧嘩を売ってしまったのではないか、と。






 

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― 新着の感想 ―
ラウル君へヴォイテクや機関長が既視感を抱いたのは、あのメルキアの戦場で多分恐るべき存在であった誰かが父親である…ということでしたか。前世を含め確かに暴力の権化と言えなくもないですが、それだけじゃあの破…
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