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南方での作戦

イライナで出回っているヴォジャノーイ調理時の注意喚起


・ヴォジャノーイの体内には寄生虫がいるので食べる際は絶対に加熱してください

・生で食うな死ぬぞ

・60~70℃の熱で少なくとも1分以上は過熱しましょう

・生で食うな死ぬぞ

・体表のぬめりは雑菌だらけなので調理の際は必ず洗い落としてください

・生で食うな死ぬぞ

・寿司の具材にする際は必ず炙ってください

・生で食うな死ぬぞ

・新鮮だからじゃなくて必ず炙ってください

・生で食うな死ぬぞ

・ちょっ、おまっ、生で食うなつってんだろ死ぬぞ!!


 あ っ た 。


 キリウにある冒険者管理局の依頼掲示板。ランクごとに区分けされた掲示板の外れにある『指定依頼』と記載された小さな掲示板には、赤い文字で『いぇーいラウル君見てるー?w』と殴り書きされたメモと一緒に依頼書が貼り付けられていた。


 依頼内容を確認してみるが、内容は『ヴォジャノーイ50体の討伐』というなかなかハードなもの。


 裏面にはヴォイテクからのコメントもあった。


《ようラウル、休暇中すまないがちょっと仕事を頼みたい。なあに、泥沼でカエルさんと戯れてくるだけさ……というわけでヴォジャノーイを50体仕留めてきてほしい。場所はイライナ南方アレーサ近郊。あの辺にはよくヴォジャノーイがコロニーを作ってるからな。もしかしたらルサールカもいるかもしれないから気をつけろ。大物用の武器は持っていけよ!》


 ははーん、分かったぞ。ラウル君分かっちゃったぞコレ。


 アレだろコレ、ヴォジャノーイを大量に仕留めて肉をせしめて遠隔地で高値で売りさばくつもりだな? だから『大金が手に入る案件』って言ってたんだな?


 確かに50体も仕留めれば十分な量の肉が手に入る。ワンチャン親玉のルサールカも仕留められればさらに金額は跳ね上がる、という寸法だ。気をつけろと言っているがあわよくば仕留めて来いって事だろ、ルサールカを。


 聞くところによると、美食家や貴族はヴォジャノーイの肉と聞けば言い値で買ってくれるのだそうだ。なるほどなるほど、そりゃあ懐がポッカポカになるって寸法だな?


 ウチのボス(ギルドマスター)の商才に納得させられながらも依頼書を持ってカウンターへ。


 向こうから顔を出したのは、意外にも竜人の受付嬢だった。どこかキャビンアテンダントを思わせる紺色の制服と略帽を身に着けており、略帽の脇からは竜人特有のブレード状の角が生えている。


『Ласкаво просимо. Ви тут, щоб зробити замовлення?(いらっしゃいませ、依頼の受注ですね?)』


『Так. Я хотів би прийняти цей запит на призначення(ええ。こちらの指定依頼を受けたいのですが)』


 早くも歩くイライナ語翻訳機と化したクロエが対応してくれる。長身の王子様系竜人美少女のイケボに受付嬢も微かに顔を赤くしていた。


『Гм... Пане, чи не могли б ви взяти участь у двох командах?(ええと……お客様、パーティー2組での参加でよろしいでしょうか?)』


『Так, ми хотіли б взяти участь двома групами(はい、2つのパーティーでの参加をお願いしたい)』


 管理局の規則では、原則としてパーティーは4人までだ。4人の冒険者で1パーティーという事になる。


 なので4人以上で依頼を受ける際は、形式上「2パーティーでの依頼受注」という体裁を取る必要がある、というわけである。この辺ちょっと変なルールかもしれないが、今のところ管理局側もこの規則を改正するつもりがなさそうなのでもうしばらく続きそうだ。


『Процедуру завершено. Будь ласка, будьте обережні на своєму шляху(手続き完了しました。それでは気を付けて行ってらっしゃいませ)』


 領収書……というか依頼書の写しを何気なく見てみると、パーティー分けが随分と可哀想な事になっていた。


 パーティー1が俺、クラルテ、ロザリー、クロエ。パーティー2がユリウス1名のみというなんかその……ユリウスに末代まで恨まれそうなチーム分けなんだけど何だこれ。


 キリウ中央駅まで歩き、切符を購入し列車に乗った。改札口で駅員に武器の所持を理由に止められそうになったけれど、冒険者バッジを見せたら通してもらえた。当たり前だが列車内に危険物の持ち込みは禁止である。


「ん、俺らが乗るのはどれだっけクロエ?」


「”キリウ高速鉄道”だから12番線だよ」


 12番線ね……これか。


 天井から吊るされている電光掲示板には『Сапсан №37』という記載がある……待て、電光掲示板? スパーニャにあった駅のやつはアナログな掲示板だったぞ?


 はぇーすっごい、とエスカレーターを上った先で、ラウル君は更に驚くべき光景を目にした。





 ―――目の前のホームに新幹線がいる。





「!?」


 なんか見覚えのある長っげえ鼻だな、と思ってよく見てみると、ホームに我が物顔で停車しているのは忘れもしない東北・北海道新幹線【E5系】。そう、転生前ラウル君の故郷岩手県を経由し東京から新函館北斗(※2026年現在)までを突っ走る日本最速の新幹線である。


 そんな前世の世界の新幹線が、上半分が青、下半分が黄色というイライナ国旗カラーに再塗装されて運用されているのだ。


 しかもよく見ると屋根の上には電気を受電するためのパンタグラフがない。それどころか線路の上に電線もない。じゃあどうやって走ってるんだと思ったが、そういえばイライナはこの世界で唯一対消滅機関を製造できる技術大国である。対消滅機関を動力源にしているのかもしれない。


 お、お前……お前も異世界転生してたのかE5系。


 でもさすがに秋田新幹線は一緒じゃないのね、と思うと少し寂しいもんである。元岩手県民的には東北新幹線は秋田新幹線とセットという認識が強いのだ。


 というわけで早速乗り込んでみる。


 中は前世の世界の新幹線と同じだ。通路を挟んで二人掛けと三人掛けの座席がある。


 三人掛けの方に座ると、当たり前のようにクラルテとロザリーが隣に座ってきた。あれ、包囲されてる?


 武器は現地で召喚するので身に着けているのは護身用のセカンダリとターシャリだけだ。まあそれでも十分目立つか。特にクロエ、常に腰にレイピアとダガーを提げているのでとにかく目立つのである。


 車内放送の後に列車がゆっくりと動き始めたかと思うと、あっという間に加速を開始した。


 ホームの隅に在来線ホームも見え、そっちには6両編成のキハ110が見えた。なんだ、イライナには鉄オタの転生者でもいたのか? どいつもこいつも懐かしい顔すぎるんだが。


 イライナは豪雪地帯と聞くし、冬季の保線管理ってやっぱり大変なのかな、と気動車が採用されている理由に納得しつつ、何気なく車内に視線を向けた。


「ハイご主人様、あーん♪」


「あーん」


「……」


 な ん か い る 。


 通路を挟んだ向こう側、二人掛けの指定席には見覚えのある長身メイドさんとミニマムサイズのハクビシン獣人のコンビが座っていて、メイドさんがご主人様にフルーツサンドを食べさせているところだった。


 甘いものが大好きなご主人様は嬉しそうにケモミミをピコピコ動かしてフルーツサンドを頬張っているがそんなことよりも、だ。


 な ん で ア ン タ ら 居 る の ? 


「あれ、ミカエルさん?」


「にゃぷ?」


「あ、あの、会合は?」


「終わりましたわ」


 はっや。


「アレーサに用事があってね。俺の故郷なんだ」


 さ、里帰りですか……そーっすか。


 それにしたってまさか乗り合わせるとは。


 偶然って怖いっスわ。


















 ミカエルから聞いた話の通りだった。


 優先的に復興が進んだのはあくまでもキリウやザリンツィク、マルキウなどの工業の基盤となる大都市くらいのもので、それ以外の地域には未だに天地戦争の爪痕が生々しく刻まれていた。


 大きく抉れた大地に、麦畑に墜落した天空軍の空中戦艦。地面に大きくめり込んだ形で動かなくなっているそれの解体作業のためなのだろう、軍の工兵隊が周囲に群がって装甲を取り外したりしているが、その様はまるで大きな獲物に群がる蟻のようにも思える。


 8年前まで続いていた天地戦争で、主戦場になったのはイライナとノヴォシアだった。


 特に高い技術力と食料生産能力を持つイライナは最優先で狙われた。竜人側からすれば獣人たちに兵器と食料を提供しており、国内に豊富な化石燃料を抱えたイライナは”大動脈”と判断されたのだろう。


 天地戦争で最も凄惨な戦闘ではメルキア沖空戦が挙げられるが、祖国防衛と撤退戦、そして国土回復のための反転攻勢こそが最大の地獄と評する戦史研究者も根強いとされている。


 その理由の一端が、異世界の地を走る新幹線の車窓から垣間見えた気がした。


 トンネルを抜けたところで車内チャイムが鳴った。イライナの民謡をアレンジしたものなのだろう、どこか哀愁の漂うメロディーの後にイライナ語、ノヴォシア語、ベラシア語、ポルスキー語、竜人語でのアナウンスが立て続けに流れる。


 俺たちはともかく、ロザリーは自分の母語を用いたアナウンスで内容を理解できたのだろう。隣で肩に頭を預けていた彼女は「ん、そろそろ着くよラウル」と教えてくれた。


 森の向こうに、雄大に広がる黒海の威容が見える。


 黒海―――アレーサ南方に広がる内海である。


 対岸には”アスマン・オルコ帝国”が広がり、同国が掌握している”チャナッカレ海峡”から外洋へと出られる。


 綺麗な場所だな、というのが第一印象だった。


 ―――戦艦の残骸さえなければ。


 黒海には墜落した空中艦の残骸が突き刺さっていたり、漂っている状態だった。残骸から漏れ出る重油の拡大を防ぐためなのだろう、周囲にはオレンジ色のオイルフェンスが張り巡らされており、オイルフェンスの内側と外側では驚くほど海の色が違う。


 やがて、新幹線が駅へと滑り込んだ。


 俺たちの乗る『ソーキル37号』はここが終点。それで後ろにくっついてる付属編成の『クールカ67号』はここで切り離しスイッチバック、そのまま東部のリュハンシク州へと向かうのだそうだ。


 スイッチバックで目的地に向かう新幹線、秋田新幹線っぽさがありますね。


 懐かしいな。秋田新幹線って大曲駅でスイッチバックするから進行方向逆になるんだよねアレ。初めて乗った時本当に逆向きに走り出すもんだからワンチャン車両基地まで連行されるんじゃないかって思ってしまったのは良い思い出。


 後ろ向きに進んでいくクールカ67号を見送って、俺たちは改札口を出た。


「そんじゃ、俺らは実家行くからさ。頑張れよ~」


「うい~」


 ゆる~い返事を返し、ミカエルたちと別れた。


 さて、せっかく最南端アレーサまで来たのだからこの町も観光……してみたいのだが、それはまあ仕事の後だ。ヴォジャノーイを仕留めて肉を納品したら時間も出来るだろうし、その時にアレーサの街をゆっくりと観光すればいいだろう。


 町を出たところで仲間たちに武器を配布する。


 ユリウスはいつものAPC-10にグロック40、そしてRPG-29。さすがにRPGはどうかと思うかもしれないが、あれはルサールカ対策だ。大物が出た時こそユリウス兄貴が最も輝く瞬間である。


 ロザリーはいつものDP-12。装填しているのはやはりスラグ弾。狙った相手は確実に殺すという彼女の殺意と攻撃性の高さがよく分かる選択となっている。サイドアームはグロック40、俺と同じくカービン化しており、本人曰くこれは『ショットガンの間合いの外にいる敵にちょっかいを出したりする時用』だそうだ。


 クラルテはM60E6を装備。いつもの弾幕用ではあるがバックアップ用にAPC-10、サイドアームにグロック40を装備している。サイドアームの弾薬統一化のために渋々マシンピストルを諦めたからと言って意地でも連射できる武器をもう1つ持つのは何かのこだわりなのか。


 クロエの装備はFA-MASとグロック40を2丁。なんで2丁、と思ったが本人の申告によれば『二丁拳銃の扱いには慣れている』との事だ。え、どういう事? レイピアだけではなく二丁拳銃も?


 味方の装備の癖が凄い、と思いつつ俺もMARS-Hを装備。サイトはAIMPOINT M2 COMPを選択、中距離戦用にブースターも用意した。あとはハンドガードのハンドストップくらいのものか。セットアップは必要最低限、必要なものだけを選択し無駄は削いでいく。


 サイドアームはいつものグロック40(カービン化)。ブレースとフラッシュマグを装備、マガジンは純正のものではなくクリス・ヴェクター(10㎜オート弾モデル)用の25発入りマガジンを装着している。


 あとはそれと別にバックアップとしてグロック29を装備。10㎜オート弾を使う超小型モデルだ。その気になれば上着の内ポケットに仕込む事も出来る。


 後は近接用のトマホークとカランビットナイフ、投げナイフをいくつかと手榴弾3個。


 あとはヘルメット。いつものFASTヘルメット(獣人用にケモミミを出すための穴をあけている)に追加装甲のSLAAPを装着。これは正面から飛んでくるライフル弾から頭を守ってくれる優れものだ。ヴォジャノーイ相手にはライフル弾を警戒する必要はないが、牙や爪からは頭を守ってくれる筈である。


 同様のヘルメットを希望者(大体いつもユリウスとロザリー)にも支給して、現場へと向かい歩き出した。


 久しぶりの地上での作戦だ。ストレス解消も兼ねて大暴れするとしようか。




イライナ高速鉄道 E5系


 東北新幹線で用いられているE5系をベースに魔改造したイライナ仕様の新幹線。最高速度360㎞/h。先頭車両及び最後尾の座席を潰し対消滅機関を搭載しているため、非電化区間も走行可能という特性を持つ。先頭車両2両の座席が使用できない代わりにダブルデッカー車両2両(貴族用一等車)を連結した12両編成で運用されており、列車によっては6両の付属編成付きの18両で運用される事もある。


 この高速鉄道の構想はミカエルからの提言で実現したものとされており、その際には協商連合側からの技術供与と多額の出資があったとされている。


 なお、この見返りにイライナ側は協商連合への食糧輸出と戦艦スラヴァの供与を行っている。


 列車名は速達タイプが『ソーキル(※イライナ語で”ハヤブサ”)』、各駅停車タイプが『プーハチ(※イライナ語で”ミミズク”)』、6両の短編成が『クールカ(※イライナ語で”雌鶏”)』。またアレーサ~アルミヤ半島、あるいはリュハンシクを結ぶ区間列車も存在し編成は多岐に渡る。

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― 新着の感想 ―
いくら珍味でも所定の衛生、調理手順を経ていない場合に人を殺しかねない食材ってのは、割と普通にありますものね。誰だ生で食おうとしたのは…ロザリーかな?(偏見) そしてヴォジャノーイ50匹討伐による小遣…
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