武力行使の余波
ソーキル級強襲型空中重巡洋艦(第9次改装)
全長
・200m
全幅
・60m(安定翼含む)
全高
・60m
重量
・16700t
乗員数
・10名(30番艦までの有人仕様のみ。基本は無人艦)
主機
・フリスチェンコ式高出力型対消滅機関×4(直列接続)
武装
・60口径20.3㎝三連装砲×4(前部甲板に背負い式に装備、艦底部に2基。艦底部のものは水上航行時は艦内へ収納可能)
・艦首対艦ロケット発射管×6
・艦尾対艦ロケット発射管×4
・隠顕式76㎜速射砲×4
・対艦ミサイルVLS×8
・自爆ドローン攻撃システム『スイッチブレード弐式』
・隠顕式35㎜チェーンガン(船体各所)
・隠顕式対空機関砲 多数
・小型ズメイ砲×1(艦首格納型)
・艦首突撃破砕プラズマ衝角『ズメイファング』
・その他ペイロードが許す限り爆装可能
浮遊大陸ブリタニアの戦いで大破したソーキル級に、数えて9回目となるアップデートを施したもの。主砲並びにその他補助武装の増設、船体の延長、就役していたコサートカ級殲滅型空中巡洋戦艦からのフィードバックを受け安定翼を追加するなどの改修を受け、更なる力を得た姿である。
1番艦ソーキルを始めとした有人仕様の初期ロットから順次改修を施していくとの事。500隻の同型艦を抱える大所帯であるため、こういった改修作業は骨が折れそうだ……。
異質な空間、というのが個人的な感想だった。
部屋の中心部には被告人が座る席があり、向かって右手側に弁護人、左側に検察の席がある。そして被告人の正面には裁判官がずらりと並び、一番奥には裁判長が鎮座するという、おそらくは万国共通であろう裁判所のレイアウト。
俺たち傍聴人は、被告人の背中を見る形でずらっと座っているわけだが……。
冒頭で述べた「異質な空間」という感想は、この場にいる人間が俺たち傍聴人と被告人だけであるが故であった。
そう、人間はたったこれだけだ。
被告人を睥睨する裁判官たち。本来であれば黒衣に身を包んだ法の番人の姿が見えるところなのだろうが、しかしこの薄暗い部屋の中、代わって鎮座するのはさながらモノリスを彷彿とさせる黒い機械の箱だった。
人間の背丈より少し小さいくらいだろうか。表面には刀傷を思わせるスリットがあって、そこから赤い光が漏れている。
被告人席の左右に座る弁護人や検察の席にも、同様のモデルが置いてあった。
そして裁判長の席があるべき場所に鎮座しているのは、推定で高さ3mには達するであろう”機械の柱”。こちらも箱みたいな機械の裁判官たちと同じ意匠をしており、表面には禍々しい紅い光が漏れるスリットがあった。
見覚えがある―――あれはAI『ルシフェル』のメインフレームとサブフレームだ。
協商連合という組織は、ミカエルという指導者の他に、無制限戦略指揮AI『ルシフェル』の2つを中心に周っている。
計算、分析、検証をルシフェルが担当し、ミカエルが超巨大レギオンの意思決定機関の頂点に立ち組織を動かす―――つまり何が言いたいかというと、アルカディアを含めた協商連合の勢力圏内ではインフラから司法など、ありとあらゆるものが圧倒的な権限を持つ戦略級AIによって運営されているという事だ。
そういうわけで、裁判所もAIによって運営されていた。
今AIに裁かれているのは、こないだ俺たちが生け捕りにしてきたインフェルノの構成員だった。なんか見覚えのある顔だなと思いつつ右手を見てみると手首から先がない。あーアイツあれだ、俺がスラグ弾でナイフごと手をふっ飛ばした奴だ。
抵抗しなきゃあんな事にはならなかったのにねぇ、と思っているうちに、裁判長を務めるルシフェルのメインフレーム(複数機存在するのだそうだ。あれの表面には”№29”の記載がある)のスリットが発光。それに連鎖するように他のサブフレームも発光を繰り返す。
《判決:死刑》
AIの発光が終わったと思いきや、いきなり突きつけられる死刑判決。
さすがに被告人も意味が理解できていないらしく、ぽかんと口を開けたまま硬直してしまっている。
それもそうだろう、俺があの場に居ても同じリアクションをすると思う。
普通、裁判って言ったら弁護人が弁護したり検察が罪状を追及したり、証人を呼んで証言してもらったりと、そういう光景が想像できると思う。しかしこの”AI裁判”とも言うべきそれは、始まってからAIが何度かピカピカ光って思考していただけである。
証人質問も弁護も異議も何もあったもんじゃない。機械が何度か光り、いきなり死刑を宣告してきた―――これが今、ここで起こった事の全てである。
やがて左右の扉から、グロック40で武装した戦闘人形の憲兵たちがやってきた。有無を言わさず被告人の身柄を拘束するなり、そのままドアの向こうへと強制連行してしまう。
「……えっ、これで終わり?」
思わず口をついてそんな言葉が出てしまった。
あまりにもサクッと終わり過ぎではないだろうか。スマホを取り出してスリープモードを解除、皆で撮影した集合写真を背景に設定しているホーム画面を開くと、そこには11:13の表示が。嘘だろ開廷から閉廷までの所要時間3分ってやる気あんのかコレ。
「合理的だろう?」
いつの間にか右隣にいたミカエルが、椅子代わりになってくれているクラリスのおっぱいに後頭部を押し付けながら得意気に言った。コイツいつの間に隣に居たんだとびっくりしている間に、喉元を撫でられゴロゴロ鳴らしながらミカエルは言葉を続ける。
「あの間にAIたちは何度も被告人の罪状から適用するべき刑罰のシミュレーションを繰り返した。少なくとも300回……いや、もっとか」
「300回? 3分の間に?」
「そうとも」
人間の裁判官たちだったらそうはいかない。弁護人と検察の泥沼の討論と、ずるずると何ヵ月、何年も続く日本の裁判制度を思い起こしながら、ちょっとこっちの方が良いかもと思ってしまう。
「裁判長を務めるメインフレームと、他の裁判官を務めるサブフレーム。彼らには同じ思考を同時に走らせてもらっている。例えばどれか1つがエラーなり思考のミスで変な判決を下してしまっても、他の大多数のAIが同じ結論に至ればそれが正しい判決という形で処理される……そういう仕組みになってるのさ」
「多数決の原理を利用したフェイルセーフってか」
「そういうこと。更に公平さを期すために検察には罪状の追及、弁護側には被告人の弁護を優先的に設定した思考モデルを搭載している」
「……」
ミカエルは、人間を徹底的に社会の管理者のポジションから追い落とすつもりなのだろうか。
こいつは最終的には『人間をあらゆる戦争行為から排除、機械に”外注”する』という政策を推進している。戦場で戦う兵器はどれもこれも無人兵器、ゆえに人間は傷つかず戦火の及ばぬ安全圏で統制された情報の下に安寧を謳歌する……それがミカエルの理想なのだそうだ。
父親を天地戦争で亡くし、国土を戦場にされたイライナで生まれ育ってきたからこそ、戦争とか”命の価値”というものにシビアな考え方をするのは分かるが……。
なんだか極端じゃねえか、と思わなくもない。
どうなるんだろうな、極端な合理化の行き着く先って。
あまり考えたくないというのは、きっと俺だけじゃないだろう。
《―――今回の協商連合による浮遊大陸ムララへの軍事侵攻は、世界の安全保障に大きな影響を与えました。協商連合と友好関係にある国家、レギオン、ギルドは今回の軍事侵攻を『必要な措置だった』と評価する一方、これが今後の悪しき前例にならないかを危惧する声も挙がっており―――》
《―――ミカエル氏はそれも狙っているのでしょう。国内にインフェルノを抱え込んでいる限り、ムララの二の舞になる。だからインフェルノの関係者を差し出してしまおうという自浄作用の励起を世界に促し―――》
《―――今回の軍事侵攻はかなり気を使ったものであったと思います。何せ”獣人の率いるレギオンが竜人の領土へ軍事侵攻をした”わけですから、一歩加減を間違えば天地戦争再戦の可能性もあったでしょう―――》
カーラジオのどのチャンネルもこれだ。協商連合の軍事侵攻を報じるラジオ局、コメンテーターの的外れな言説ばかりが取沙汰されていて、こういう時にノれる音楽を流している局は見当たらない。
マルチカム迷彩のコンバットシャツにコンバットパンツ、目出し帽で顔を隠した特殊部隊っぽい服装のまま、思わず「はぁ……」と溜息をついた。隣では相変わらずいつものシスター服に、顔を隠すためなのだろう、黒いペストマスク(怖っ!?)を着用したクラルテがハンドルを握りながら「どこもおんなじですねぇ~」と呆れたような声を漏らす。
「まあ、それだけの大事件だったからねぇ」
あの規模の軍隊が動いたのは、おそらく天地戦争終戦後初めての事だろう。
結論から述べると、ムララに対する軍事侵攻は5日間ほどで終わった。
しかも実際に戦闘行為があったのは最初の2日間だけ。特に初日が熾烈で、2日目は抵抗してくる敵の掃討だとかそういう小競り合いがあったくらいだったと聞いている。2日目について他人事なのは、俺たちは初日を戦い初日で引き上げたからだ。ムララへの軍事侵攻が5日間で終了、後片付け込みでキッチリやって艦隊が撤退したと聞いたのは、ソーキル艦内の詰め所でユリウス相手にイカサマを活用したポーカーでおやつのチョコレートを巻き上げていた時の事だった。
じゃあ戦闘行為の無かった3日間は何があったのかというと、それはそれは手厚い後片付けを実施していた。
戦死者の遺体の回収と火葬、遺品の整理。
戦闘行為で破壊された建物やインフラの再整備。
作戦展開地域に残された不発弾、残骸の撤去作業。
そこまでキッチリやって、制圧した市庁舎で得た住民の戸籍表から疎開した住民たちの安否確認、帰宅支援までを行い、それから撤退したのである。
最後にムララを離れた空中強襲揚陸艦『ソーニャシュニク』などは、甲板上に戦闘人形の乗員をずらりと並べ、『Omnibus in continente fluitante Murarae, sincere veniam peto propter molestiam quam causavi(浮遊大陸ムララの皆さん、大変ご迷惑をおかけしました)』という人文字(※ドローン込み)を作って住民への謝意を表明したというのだから驚きである。
それも、立ち去る際にはムララ政府からの食糧の配給が始まるまで十分食いつないでいける量の食料を残してきたというのだから、天地戦争再戦の可能性に対して相当配慮した事が伺える。
あくまでも目的はインフェルノ構成員ですよ、侵略が目的ではありませんよ、というメッセージなのだ。既にコレは海外のメディアも取り上げており『クリーンな戦争』という見出しで報じている。
しばらく助手席でカーラジオから流れてくる海外メディアの報道と、コメンテーターの的外れな発言(こんな適当に喋るだけでギャラ貰えるんだから楽な商売だよな)を聞き流しているうちに、やがてエンジェルパレスの検問が見えてくる。
M16A5を装備した戦闘人形の兵士にトラックの停止を命じられ、窓を開けて身分証を提示。兵士の蒼い眼にブロックノイズ状の光が走ったかと思うと、あっという間にスキャン及び認証が終了して通過を許可してくれた。
エンジェルパレスの車両用ゲートを通過、ここでも認証を求められたので規則通りに。そのまま奥へと向かい車両用エレベーターにトラックを乗せ、一緒に地下へと降下していく。
ごうん、と重々しい音を立てて車両搬入用のエレベーターが停止。ここでクラルテがエンジンを切ったので、俺もM26 MASSを準備しながら助手席を降り、トラックの荷台を解放した。
中には手錠をかけられ、頭から袋をかぶせられて目隠しされた捕虜たち……インフェルノの構成員たちが乗っている。
『¡Oigan, malditos bastardos! No se han orinado en los pantalones, ¿verdad? Lo siento, pero mamá ya no está, ¡así que mejor recen a Dios ahora!(ようクソ野郎共! まさか小便漏らしてねえだろうな? 残念だがここにはもうママは居ない、神様に祈るなら今の内だぞ!)』
とっとと降りろ間抜け、とスパーニャ語(※プロフィールを見たが全員南米出身だった)で罵倒しつつ銃を突きつける。さすがに世界のどこにいるのかも分からないまま撃たれて死にたくはなかったらしく、インフェルノの構成員たちは大人しく従った。
コイツらもだけどさ、散々イキってる奴に限って自分がやられる側に回った途端に被害者ぶるの何なんだろうな? んな覚悟もねえならイキんなっつーの。
というわけで本日のお仕事、やっていきましょう。捕虜の移送でございます。
銃を突き付け、目的地まで歩かせる。
M26 MASSに装填されているのは散弾でも突入用のスラグ弾でもない。被弾した対象に電撃を浴びせ無力化する”テーザーXREP”と呼ばれる特殊弾である。高価だったので各国の警察などで大々的に運用される事は無かったそうだが……。
クラルテが先導、俺が最後尾で銃を突きつけ歩かせているうちに、どうせ処刑台へ送られるであろう囚人たちの隊列の前に黒い軍服に身を包んだ兵士たちが現れる。
左肩には『燃える剣と4枚の翼を持つ天使』が描かれたエンブレムがある。
協商連合特殊作戦軍【ケルビム】の兵士のようだった。
俺たちのように協商連合に加盟しているギルドではなく、協商連合という組織そのものに仕える直属の特殊部隊。リカルド兄ちゃんもここの所属だったな、と思いつつ敬礼すると、相手も答礼を返してくれた。
「お疲れ様です。捕虜3名を移送してきました」
「ご苦労様。あとはこっちで”処理”する」
これ報酬ね、と封筒をポンと手渡された。ずっしりとした重みがある。これから散々情報を抜かれた挙句死刑判決が下り、資源として消費される事が確定しているテロリスト共の命の値段にしては随分と気前がいいもんだ。
この後彼らは、機械に繋がれ記憶を全部閲覧される。生まれた時からインフェルノに加わった瞬間、罪を犯した瞬間まで含めて全部、だ。
本人の記憶を抽出しそれを判断材料として裁判を行うので、弁護人や検察が証拠を出し合って長い討論を行う必要もない。本人が見聞きした記憶全てが証拠となるのだから。
捕虜を彼女らに任せ、踵を返す。
封筒をクラルテに預け、ちらりと後ろを振り向いた。
紅い光の漏れる、禍々しく薄暗い通路の向こう側―――天使の宮殿なんて御大層な、透き通った名前とは裏腹に悪魔の住まう宮殿みたいな場所へと連れ去られていく彼らの背中を見送って、俺は再び歩き出した。
ズメイ砲艦
協商連合が建造した全長90mの小型艦。「もっと安価かつ軽率にフルサイズのズメイ砲を撃てる艦を」という要望があったかはさておき、【ズメイ砲を撃つだけ】の艦として建造された。いわゆる砲艦。
フルサイズのズメイ砲の砲身に推進部や冷却装置、センサーを外付けしたようなシンプルな見た目をしており、武装はフルサイズのズメイ砲のみ。それ以外は機銃すら搭載していない。さらにはレーダーも搭載しておらず、自動航法システムも未搭載。挙げ句の果てにはAIもズメイ砲の発射のみにしか対応しておらず、無人運用を前提としている事から運用には先導・指揮を担当する艦が必須となる。
しかしながら、飛行とズメイ砲くらいにしか動力を割く必要がないことに加え、チェルノボーグ級6番艦(フライト2)以降に搭載予定の新型冷却システムを備えており、素早いチャージと速射が可能。さらにはズメイ砲を【拡散モードと収束モードに切り替え可能】となっている。
ズメイ砲艦は5000隻の建造が計画されており、3分の2が浮遊大陸アルカディア本土防衛艦隊に編入予定とされている。




