残党狩り
幼少の頃、きっと誰もが『暴力はよくない事』と教わる筈だ。
俺もそうだった。喧嘩はダメ、他人には優しくしよう……そんなキレイゴトをいったい、何度聞かされて育ってきた事か。
けれども、相手に話が通じなかったら結局は暴力に訴えざるを得ないのだろう。
そういう意味では、暴力は確かに気軽に振るっていいものではない。
そういうわけで、俺も喧嘩して孤児院に帰ったらマチルダ先生に怒られた。村の年上の連中が弟妹達をイジメていたからやり返した、と言えば先生は何も言って来なくなったし、嘘偽りはなかった。
年上との喧嘩には絶対に勝って帰った。
弟妹たちからは慕われたけれど、マチルダ先生だけはいつも心配そうな顔で出迎えていた事を、今でも鮮明に覚えている。
第十三章 故郷を焦がす戦火
《陸戦隊、降下3分前》
艦底部にあるハッチが、音を立てて開いていった。警報灯の赤いランプがひっきりなしに点滅して、観音開きに解放されていくハッチの向こう側に、黒い煙が花のように咲き乱れる雲海が見えてくる。
高射砲陣地生きてんじゃん、と酸素マスクの下で悪態をついた。普通、こういう時は相手の対空火器を無力化するのが鉄則であろうに。先行した航空隊は何をやっているのやら。
《悪いな、航空隊の連中手間取ってるらしい》
今の悪態聴こえてたんだ、と協商連合の咽頭マイクの精度に驚きながらも、「これなら俺が出た方良かったんじゃね?」と軽口を返す。
《ははっ、そうかもな……次からはラウルを出せって上申しておくよ……降下2分前》
《航空隊、高射砲陣地を攻撃》
AIによる報告よりも一瞬早く、雲海の向こうでひときわ大きな閃光が見えた。ありゃあ砲弾の集積所でもやったのだろうか。終戦記念日の花火さながらにド派手な閃光の連鎖が見え、何十秒も遅れて、ドカン、と腹の奥底に響くような轟音が微かに聴こえた……気がした。
あれだけ咲き乱れていた高射砲の黒煙が、その閃光を合図にスッと消え果てる。
《降下1分前》
《第三、第四砲塔、撃ち方始め》
《装備品コンテナ、投下します》
ソーキルが受けた改修、数えて9回目になるそれで艦底部に追加された2基の20.3㎝”三連装砲”が仰角を目一杯とり、砲口を地上へと向けて砲撃を始めた。重巡の、力強い砲撃音が格納庫の中にまで響いてくる。
先月、ブリタニアでの作戦で大破したソーキルはそのまま帰ってくるなりドッグ入り。比較的長期の入渠を経て帰ってきたソーキルはというと、主砲の増設や安定翼の追加、船体の10m延長という魔改造を経て、よりどっしりとしたマッシブな重巡と化した。君本当は戦艦じゃないかい、と思わず問いかけてしまったのは一度や二度ではない。
左舷を航行する新型のアルマース級汎用空中軽巡洋艦一番艦【アルマース】、二番艦【ルビーン】、三番艦【サプフィール】、四番艦【スマラーフド】が艦底部に搭載された15㎝三連装砲を速射砲のようにバカスカ撃ちながら、艦底部のウェポン・ベイを解放。レーザー誘導爆弾を次々に投下し始める。
アルマース級はソーキル級の縮小版みたいな軽巡洋艦だ。サイズもかつての原型、670型空中駆逐砲艦とほぼ同等の150mである。んでもって協商連合最速だったソーキル級を差し置いて、最高速度700㎞/hを叩き出した我がレギオン最速の艦だ。
地上がまるで間欠泉のような火柱に包まれ、ただでさえさしたる抵抗にすらなっていない疎らな対空砲火が完全に沈黙。降下の準備が整う。
装備品を乗せたコンテナは既に投下済み―――あとは俺たちだ。
《降下時期近付く―――用意》
息を呑んだ。
《―――降下開始!》
ユリウス兄貴が真っ先に降下した。
ロザリーが、クロエが、フルールが続き、クラルテも何の躊躇も無く降下。仲間たちが全員降下したのを確認するなり、戦闘人形のジャンプマスターに「お世話になりました!」と声を張り上げてから、俺も身を躍らせた。
観測歴38000年
11月5日
・ミカエル、国際社会に対しインフェルノ残党殲滅を宣言
・世界各国及び各レギオン、ギルドに対しインフェルノ残党の所在地や資金源に関する情報提供を要求
・協商連合加盟全ギルドに対し、インフェルノ関連施設及び構成員の捜索、拘束、排除に向けた準備を指示
11月6日
・マーヴカ級電子戦支援艦一番艦【マーヴカ】、二番艦【チュハイステル】就役
・アルバレット級制圧型空中軽巡洋艦一番艦【アルバレット】、二番艦【ルク】、三番艦【ストリーラ】就役
・アルマース級汎用空中軽巡洋艦一番艦【アルマース】、二番艦【ルビーン】、三番艦【サプフィール】、四番艦【スマラーフド】就役
・ソーキル級の全艦に対し改装を実施(第9次改装)
・チェルノボーグ級撃滅型空中重戦艦六番艦【スヴェントヴィト】、七番艦【トリグラフ】、八番艦【ヤロヴィト】、九番艦【ラデガスト】就役
・同日、チェルノボーグ級の更なる増産関連法案が議会通過、竣工へ
11月7日
・協商連合諜報機関、浮遊大陸ムララにインフェルノ残党の潜伏を確認
・ムララ政府は関係を否定
・協商連合、ムララ政府に対し事実関係の説明を要求するも回答なし
11月9日
・ミカエル、ムララ政府に対しインフェルノ関係者の身柄引き渡しを要求。併せてムララ国内におけるインフェルノ関連活動の調査協力を求める
・ムララ政府、海外勢力による国内捜査への介入を「内政干渉である」として拒否
・両者の関係が急激に悪化
11月13日
・協商連合、ムララとインフェルノの癒着を示す資料を世界に公開
・ムララ国内に複数の施設や関係者の存在が指摘されるも信憑性を疑問視、政治的な捏造であるとして非難
11月16日
・ミカエル、ムララ政府に対しインフェルノ関係者の身柄引き渡しを重ねて要求
・ムララ政府、協商連合による一方的な身柄引き渡し要求を改めて拒否
11月18日
・協商連合諜報機関、ムララによるインフェルノ構成員の庇護を事実と判断。残党の潜伏先、協力者、資金提供などについて複数の情報を照合
・無制限戦略指揮AIルシフェル、ムララ政府による監督不行き届きではなく組織的な保護であると断定
・ルシフェル、外交努力による問題解決を困難と判断。武力行使によるシミュレーションを開始
・ミカエル、対ムララ侵攻を想定した机上演習を開始
11月20日
・ムララ政府、協商連合による内偵調査結果を認めず身柄引き渡しを拒否
・アメリア合衆国、イライナ公国連名でムララ政府の対応を非難
・ムララ政府、軍に対し警戒レベルの引き上げを指示
・協商連合、主力となるすべての艦を黒く塗装。【黒色艦隊】として畏れられる
11月23日
・ムララとの軍事、経済交流を停止
・協商連合、同盟国に対しムララへの経済制裁を呼びかけ
・ムララ政府、協商連合の行動を「侵略的」、「レギオン主導の帝国主義」と激しく非難。経済的・軍事的威圧を受け入れない姿勢を鮮明化
・ムララ軍、防衛体制を強化
・ミストルテイン残党、ムララ軍へ迎合
11月29日
・黒色艦隊の一部がムララ領空付近に展開
・協商連合、これをインフェルノ残党の逃亡阻止と周辺空域の安全確保のためと説明
・ムララ政府、軍事的威圧として非難
12月1日
・ムララ政府、国連に協商連合の軍事的行動を訴えるも両者の主張は食い違い平行線に
・周辺国、ムララ国内の自国民や外交官へ退避を通達
12月3日
・ミカエル、ムララ政府に対しインフェルノ構成員の引き渡し及び関連施設の調査受け入れを要求
・応じない場合、協商連合は安全保障上必要な措置を取ると警告
・ソーキル艦隊、ムララ沖へ出撃
12月9日
・ムララ政府、領内の軍事施設に警戒態勢を発令
・協商連合、ムララ政府が武力抵抗を選択したと判断
12月13日
・協商連合より多数の病院船の出撃を確認
・世界各国、両者の開戦を確信
12月15日
・ミカエル、レギオン代表令第13138号に署名。ムララ領内の離島に限定し軍事侵攻を承認
12月17日
・ズメイ砲艦初期ロット500艦隻就役
・協商連合艦隊、ムララ沖を包囲。協商連合はこれを『有事に備えた演習である』と説明
12月20日
・ムララ政府、協商連合との協議を一方的に打ち切り
・協商連合、外交的解決の可能性が完全に失われたと判断
12月24日
・協商連合、【クリスマスプレゼント作戦】発令。ムララ離島へ軍事侵攻開始
一発の7.62×51㎜弾が、なおも抵抗を続けようとしていた竜人の兵士……おそらくは元ミストルテインの兵士と思われる男のこめかみをぶち抜いた。
それだけでは飽き足らず、ひしゃげながらも敵兵の頭蓋をぶち抜いた弾丸はその向こうにいたもう1人の兵士を直撃。一発の弾丸で2人を仕留めるというミラクルショットに、思わず歓声を上げたくなる。
ナイス、と向こうの狙撃ポイントにいるであろうフルールにハンドサインを送りつつ、スタビー・フォアグリップとホロサイト、ライトを乗せたM933を構えながら奥へと進んだ。物陰からナイフを持って飛び出してきた兵士に5.56㎜弾を2発ほどぶち込み、倒れ込んだ男の顎をブーツで踏み砕いて確定キル。先へと進んでいく。
曲がり角を曲がる―――前にチラリと最低限だけ身を晒し通路の向こうを確認。視界の中に敵兵の姿が映るなりすぐさま首を引っ込めた。吐き出された8㎜弾の弾雨が曲がり角のコンクリートの壁を削り取る。
あと1秒遅かったら首から上吹っ飛んでたな、と思いつつハンドサインで敵が機関銃を据え付けている事を仲間に教えた。すぐさまロザリーが手榴弾を片手に前に出て、弾幕が途切れるのを待ってすぐさま投擲。曲がり角の向こうで悲鳴が上がる。
クラルテがMG5をひとしきり射撃、制圧射撃で敵に追い打ちをかける。
その間にロザリーと一緒に打って出た。姿勢を低くしながら突進、南米風の邸宅内に据え付けられた機関銃陣地の土嚢袋を飛び越え、その向こうで拳銃を持っていた敵兵に5.56㎜弾をダブルタップ。風穴をプレゼントして周囲を警戒していると、ごきり、と骨の折れる音が聴こえてきた。
どさくさに紛れて接近していたユリウス兄貴が、敵兵の首の骨を捩じ切ったところだったらしい。
「弾薬の無駄だ」とだけ短く言って死体から手を放す兄貴。P90を構えながら先に行った兄貴の後を追い、事前のブリーフィングで聞いていた部屋の前に到達する。
M933からM26 MASSに武器を持ち替え、スラグ弾で蝶番を破壊。その間にP90を装備した兄貴とクロエが室内に突入、サプレッサー付きのP90の銃声に急かされながらも俺も室内へと踏み込んだ。
護衛の兵士は皆、眉間をぶち抜かれて倒れていた。俺たち以外に室内で息があるのは、私服姿の獣人男性3名のみ。
竜人の兵士に獣人が守られている、というのもなんともおかしな話だ。獣人と竜人が犬猿の仲であるというのは周知の事実だが、どうやら彼らにとってはそんな事よりも利権の方が大事だったらしい。
「くそっ、このハイエナ共がぁ!」
インフェルノの構成員―――ブリーフィングで確認した画像と一致する顔の持ち主が罵声を浴びせながらナイフを振り上げてきたので、咄嗟にM26 MASSを腰だめで放った。突入用のスラグ弾がそのまま装填されていたわけだが、本来ドアノブだとか蝶番を吹っ飛ばすためのマスターキー運用に最適化されたそれは獣人男性の持つナイフを手首から上もろとも粉砕。バラバラになった肉の残骸が飛び散って、男が悲鳴を上げる。
痛てえっ、と濁った悲鳴を上げながら倒れ込むソイツの顔面にブーツを叩き込み素早く制圧。他の2人は抵抗を諦めたらしく、ボディチェックにあっさりと応じた。
「残念だが、お前らの人生もここまでだ。きっちり裁きを受けてもらう」
「暴動及び内戦の扇動、外観誘致、その他諸々の罪状がある。まあ、詳しくはアルカディアで話を聞こうか」
「”群狼”よりソーキル、目標の身柄を拘束」
《了解した。既にそちらに向かっている》
《こちら”ヴォロン”、ウチのバカ兄妹を回収。目標の身柄も確保》
《ソーキル了解》
《旗艦ストリボーグより離脱命令が出ました。作戦展開地域より直ちに離脱を》
別動隊の方も上手く行ったらしい。
ほら歩けよ、と銃を突きつけて歩かせる。一応ミカエルの奴からは生け捕りが原則だが、抵抗するようならば射殺もやむなしという指示を受けている。
まあ、やるなら100点満点が欲しいよねというわけで殺さない方向で行きたい。
邸宅の外まで連中を連れ出したのと、庭で機関銃を据え付けた軍用車でこっちを狙っていた礼儀知らずの馬鹿共が、ソーキルの艦底部に増設された隠顕式の30㎜チェーンガンをモロに受けて挽き肉になったのは同時だった。
塀や鉄格子を容赦なく押し潰しながら、邸宅の庭に超低空でホバリングするソーキル。艦底部の格納庫が開き、伸びてきたタラップを連中に歩かせながら周囲を警戒。クラルテがぽん、と肩を叩いて全員が乗り込んだ事を確認したので、俺も念のため別行動をしていたフルールも回収されている事を確認してから艦内へと転がり込んだ。
タラップの引き込みとハッチの閉鎖が行われ、ソーキルが全長200m(※改修で190mから200mに延長された)とは思えない軽やかな機動で上昇。そのままムララの離島を離れていく。
目標の身柄は全員拘束、死者ゼロ―――今回のムララに対する軍事侵攻は、大成功を収めた。
アルマース級汎用型空中軽巡洋艦
全長
・150m
全幅
・48m
全高
・57m
重量
・11700t
乗員数
・10名(有人仕様のみ。基本は無人艦)
主機
・フリスチェンコ式高出力型対消滅機関×3(直列接続)
武装
・60口径15㎝三連装砲×3(前部甲板に背負い式に装備、艦底部に1基。艦底部のものは水上航行時は艦内へ収納可能)
・艦首対艦ロケット発射管×4
・艦尾対艦ロケット発射管×2
・隠顕式76㎜速射砲×4
・自爆ドローン攻撃システム『スイッチブレード弐式』
・隠顕式20㎜機関砲(船体各所)
・マイクロズメイ砲×1(艦首格納型)
・艦首突撃破砕プラズマ衝角『ズメイファング』
・その他ペイロードが許す限り爆装可能
同型艦
・アルマース(一番艦)
・ルビーン(二番艦。イライナ語で”ルビー”の意)
・サプフィール(三番艦。イライナ語で”サファイア”の意)
・スマラーフド(四番艦。イライナ語で”エメラルド”の意)
・これ以降も続々増産中。計画では700隻建造予定
協商連合が建造した新型の空中軽巡洋艦。【アルマース】とはイライナ語で『ダイヤモンド』を意味する。
船体は同じく新鋭艦の【マーヴカ級電子戦支援艦】をベースとしている。これはコストの高いマーヴカ級を少しでも増産し数を揃えるため、船体や艦橋といった共通部分を大量生産する事による量産効果で単価を少しでも下げる事を企図したもの。
そのため上層部は艦としての性能にはあまり期待はしておらず、最悪の場合は友好国に叩き売りするモンキーモデルとするつもりだったようだが、マーヴカ級譲りの軽い船体に15㎝三連装砲×3基、マイクロズメイ砲といったコンパクトで使い勝手のいい武装を満載した結果、軽便で扱いやすい艦に仕上がったため協商連合での本格運用が決定した。
最大の特徴は”700㎞/h”という、これまで協商連合最速だったソーキル級(※650㎞/h)すら凌ぐ足の速さ。これにより戦場への迅速な急行、離脱、位置取りが可能となった。加えてペイロードに余裕があるため様々な後付け装備に対応しており、爆弾を搭載した爆撃仕様や大陸間弾道自爆ドローン【ザミエル】の空中発射プラットフォームとしても運用が可能である。
出自に見合わぬ優等生と言えるだろう。
なお、艦の外見がソーキル級と非常に似通っており、レーダーでの判別やAIでの照会が可能な協商連合ならばともかく、他の勢力では目視確認の際に誤認が相次いでいる。これは協商連合側が『艦の外見を似せる事で欺瞞する』事を企図し意図的に外見を似せたためである。




