合理の兵士たち
どうでもいい話
【速報】ミカエル・パヴリチェンコ氏、コマール級空中駆逐艦を800隻→1000隻に建造計画を上方修正、法案が上院及び下院を通過。これで500隻体制のソーキル級1隻につきコマール級2隻の編成が500編成用意できる計算に。
しゃこん、と60㎜迫撃砲弾が、M224迫撃砲の砲口から砲身内部へと滑り落ちていく。
砲身後端部にある引き金を引くと同時に撃発。本来は地面に設置し大きな仰角をつけて放つ、という迫撃砲の常識の一切合切を無視する形で発射された60㎜迫撃砲弾が、クロムウェル内部に突入した協商連合の戦力を押し留めようと立ちはだかるインフェルノの戦闘員たちを豪快に吹き飛ばす。
M224迫撃砲、常識破りの水平射撃(※このクソデカシスターは特別な訓練を受けています。大変危険ですので良い子のみんなや自衛官の皆様は絶対に真似しないでください)。
砲撃を終え、突破口を形成するなりクラルテは武器をMG5に持ち替えた。7.62×51㎜弾を景気よくばら撒いて弾幕を張り、インフェルノ戦闘員たちに逃走も反撃も許さない。頭上を凄まじい勢いで弾丸が擦過し、隠れている遮蔽物をひたすら至近弾が殴りつけていくというのは、相手の精神を極限まですり減らすものだ。たとえそれがベテランの兵士であったとしても、士気はごっそりと削ぎ落されてしまう。
果敢に反撃するつもりだったのだろう、数名の兵士が無理に顔を上げて反撃に転じようとするが、しかしそれが運の尽きだった。
後方でスコープを覗き込んでいたフルールの無慈悲極まる狙撃が、反撃を試みようとした兵士の脳天を撃ち抜いた。どん、と頭を大きく突き飛ばされるような感覚と衝撃が、彼らの最期に感じたこの世の感触であった事であろう。
UPR-10のハンドガード下部に装着したパームレストを左手で支えながらボルトハンドルを引くフルール。パームレストとは主にライフル競技などで用いられるパーツであり、立ったまま射撃する際に照準を安定させつつ、ハンドガードを支える腕や肘に余計な負荷をかけないためのものだ。
しかしあくまでも競技用のパーツであり、本来なら戦闘用の小銃に装着するものではない。だからなのだろう、彼女の銃は何とも珍妙で、しかし時間が限られ依託射撃をする余裕もないが故にガンガン前に出る運用が必須となる今回の作戦には合致していると言えた。
どの道、前線はクラルテやクロエ、ロザリーを始めとしたくまさんハウスきってのエースたちが固めているのだ。フルールのいる一歩引いた位置まで突破してくる敵は居ないだろうし、対抗狙撃が出来るほど射撃に精通した射手も敵にはいない。所詮はゴロツキに毛が生えた犯罪者なのである。
ドムドムドムッ、と豪快な銃声と共に、インフェルノの兵士たちの首から上が次々に吹き飛んだ。
12ゲージのスラグ弾―――ヒグマなどの大型の猛獣を仕留めるための大口径弾。空気抵抗が大きく弾速も遅く、更には精度の観点から狙撃には向かない難儀な弾薬ではあるものの、至近距離における破壊力では右に出る者はない。
無論人間に向けて撃つものではなかった。そんな代物を、半ばフルオートも同然の発射速度で、それも強烈極まる反動を竜人特有の強靭な筋力で強引に抑え込み運用できるのはロザリーくらいのものであろう。
クラルテの制圧射撃で身動きを封じられた敵兵の一団に、横から回り込んでOrigin-12の連続射撃を容赦なく浴びせるロザリー。ホロサイトの向こう側に見える敵兵が、発砲の度にヒトとしての形をどんどん崩壊させていく。
ショットシェルを剥き出しの状態で装填していた、大型の30発入りドラムマガジンが回転をやめて沈黙。骨組みだけのような簡素な見た目のそれを一瞥し弾切れを察知するロザリーと入れ替わるように、一気呵成に敵兵の一団に踏み込んだのはクロエだった。
閉所での取り回しと命中精度の両立を果たしたブルパップ式アサルトライフル『VHS-2』。クロアチア製のそれを構えながらスライディング、敵兵の眉間を正確に撃ち抜き黙らせていく。
白兵戦の距離になったと判断するなり、得物をライフルから大型レイピアへ。
マルチカム迷彩のコンバットシャツにコンバットパンツ、チェストリグ姿の現代的な兵士が中世のレイピアを持つという何とも珍妙な姿ではあったが、しかしそんな事はどうでもいい。
クラルテの弾幕から、フルールの狙撃から、ロザリーの突撃から……三重の死神の鎌から逃れた幸運な敵兵を、しかし決して逃れられない矛が刈り取る。
恐ろしいまでの瞬発力と急加速、そして加速の勢いと体重移動が全て乗った大型レイピアの刺突。反応できる猶予がある筈もなく、ライフルで応戦しようと持ち上げた瞬間にはその矛先がインフェルノの戦闘員たちを串刺しにしていた。
たまらず背を向けて逃げていく戦闘員たち。そんな彼らと入れ替わりになるように、広間の奥にある整備用部品搬入ハッチが開き、鳥の脚みたいな脚部の上に重機関銃付きの銃塔を乗せたような、簡素極まる機甲鎧が5機ほど姿を現す。
散々やってくれたお返しと言わんばかりに銃弾をばら撒く機甲鎧たち。8㎜弾が土砂降りのようにばら撒かれ、こちら側の兵士―――協商連合軍の戦闘人形の兵士が数名、その毒牙を受ける事になる。
しかし、間近でそれを見ていたロザリーは言葉を失った。
戦闘人形とは、早い話がロボットの兵士だ。個別に搭載されたAIで判断し、全軍への指示は中枢AIたるルシフェルが並列処理で行う方式で動く機械の兵士たち。将来的には人間を戦争から完全排除、無人兵器に「委託」するための嚆矢として生み出されたのが彼らである。
8㎜弾の弾幕を受け、左腕を吹き飛ばされてしまった兵士。金属製の人工骨格や強化プラスチック製のフレーム、オイル滴る血管じみたケーブルが露出し、千切れかけのシリコン製人工皮膚で左腕の肘から先がだらんと垂れ下がっている状態。
それでもなお、残った右腕だけでM16A5を保持するなり、ストックを肩に押し付け、ライフルをやや左に傾けながら無表情で射撃を継続。逃げていく敵の戦闘員に5.56㎜弾を射かける。
敵の機甲鎧がどれだけ弾幕を張っても怯える様子は全くない。
当たり前である―――兵士である以前に、そもそもが機械なのだから。
人間と違って、圧倒的火力を前にしても怯える事はない。死の恐怖に苛まれる事も、突撃を躊躇する事も無い。訓練し使えるようにするのにコストもほとんどかからず、そもそも人権がないが故に高騰する人件費も無視できる。
そして何より、戦闘で喪失しても”スペア”をいくらでも用意できる。戦死してしまったとしても遺族や世論から批判される事も無い。
嗚呼素晴らしき哉、とミカエルが声高に謳う姿が垣間見え、ロザリーはアルカディアという楽園の裏側に隠された狂気の一部を垣間見たような気分になった。
もう助からないと判断したのだろう、数名の戦闘人形の兵士がライフルを棄てて走り出した。8㎜弾を受けて人工皮膚が剥がれ、機械部品が弾け飛んでも構わずに肉薄していくなり、その蒼い瞳を紅色に発光させ始める。
《警告。自爆装置が作動しました。危険ですので離れてください》
ご親切に竜人語でのアナウンスだった。竜人語を公用語の1つとしているアルカディアの人員には理解でき、しかしインフェルノ側には理解できない。言語すらも武器にしているような、そんな気がした。
複数体の戦闘人形に群がられるインフェルノの機甲鎧。半年前、艦内で見たゾンビ映画の一幕を彷彿とさせるような、背筋がゾッとする光景だった。あれは確か生存者の乗っている車がスタックしてしまい、大量のゾンビがスタックした車に群がるシーンだったような気がする……具体的に何の映画だったか、と記憶を巡らせた直後、カッ、と紅い光が漏れ、敵機諸共3名の戦闘人形の兵士が星になった。
同胞が目の前で爆散したというのに、機械の兵士たちはその死を悼む様子も、仇討ちを誓う様子もない。
ただただ淡々と、表情を変えずに進撃し物量と火力で押し潰していく。
頭の中にある「戦争」という概念の在り方が、根本から変わっていくような―――そんな気がした。
自分の知っている戦争と、目の前で繰り広げられている現実が恐ろしいほど一致しない―――その乖離が気持ち悪くて、おぞましくて、ロザリーは少しだけ身を震わせた。
「人間らしさ」をかなぐり捨て、効率と数字を優先し「合理性」だけで戦争をするとこうなるのだと、身をもって思い知った瞬間だった。
あと1秒、避けるのが遅かったら喉元をバッサリやられていたに違いない。
目の前を掠めていく黒いナイフの切っ先を見ながらそう思った。あの振り払う速度と切れ味である、直撃すれば皮膚なんて簡単に切り裂けるだろうし、何なら骨まで断たれてしまうに違いない。ラウル君の15年という人生の中で今のが一番死神の鎌が近付いた瞬間かもしれなかった。
MARS-Hの銃口を向け、引き金を引いた。
身体を傾け弾丸を回避するジャック。弾丸が見えている、というわけではないのだろう。おそらくだがこっちの筋肉の動きと銃口の向き、後は第六感で「ああ来るな」というのを感じ取り回避しているに違いない。
んなもんあるのか、と言われると「ある」としか言いようがない。格闘技、特に実戦空手(※ガチで相手を殴る方の空手)とかボクシングとか、そういう格闘技を経験したことがある人なら分かるかもしれない。相手と構えてにらみ合っている際、あるいは至近距離で殴り合っている最中に「何か次やべえ一撃来るかも」と悟るような経験をした事がある筈だ。
きっとそれだ、ジャックの場合もそんな感覚があるのだ。少なくとも銃を持った相手とは戦い慣れている、と見るべきか。
ガンガンガン、と7.62×51㎜弾をひとしきり撃ちまくったところで、エレベーターに乗ったまま放置されている予備パーツの入ったコンテナの影に隠れてマガジンを交換。呼吸を整え、心理戦を展開してみる。
「よぉ、お前もヘンリックの息子なんだろ!?」
返答はなかった。それどころか足音も聴こえない。
「その割には大した事ねえな、ガッカリだぜ! ……まあそうか、まともな抵抗も出来ない娼婦を切り刻んでイキってる殺人鬼なんかこんなもんだもんな!」
「……」
相変わらず返答はない。
だが、何となく分かった。相手が苛立っているのが。SNSやら掲示板でレスバしてる相手がちょっとキレてるな、と悟る程度の精度でしかないが、明らかに空気が変わったような気がした。
「どうせアレだろ、取り調べとかで『誰でもいいから殺したかった』とか供述するんだろ!? でもそのくせ女しか殺してねえよな? なんでか教えてやろうか!?」
ガッ、と隠れていたコンテナにナイフが飛んできた。
ナイフが命中した場所と音からおおよその方角を推定、そこへMARS-Hの銃口を向けて何度か反撃する。
「違うんだ、誰でもいいんじゃないんだ。お前の場合”勝てる相手”だけを選んで殺してきただけなんだ。抵抗できない相手が怯えるのを見て、メディアがお前を切り裂きジャックだのと囃し立てるのを見て面白がってただけなんだ。砂場で遊んでる幼児をイジメてイキる中学生と何も変わりはしねえんだよ、お前は!!!」
膨れ上がる怒気。
さーて、地雷に地雷を踏みまくってみたが、どうやら相手は挑発に乗ってくれたらしい。
転生前はデジタル世代だったラウル君、スマホもSNSも当たり前の時代で思春期を過ごしたからこそ「相手の怒らせ方」は弁えている。
まずジャックは無差別殺人犯じゃない、相手を選んでいる。現に娼婦ばかりを狙って殺人を重ねているので俺の言っていた事は半分くらい出鱈目だが、これでいいのだ。こんなテキトーなレッテルを貼られ見当違いな解釈をされれば、8割くらいの人間は「俺冷静ですよ」的なアピールをしながらも内心キレる。
後の2割? そりゃあ1.9割は日本語も読めない馬鹿で0.1割はマジで冷静な奴だ。SNSは今日も動物園である。
そろそろか―――コンテナの影からスライディングで飛び出し、隣のコンテナへ。
ちょうど俺の頭の高さの位置に、ジャックの投擲したナイフが「置いてあるかのように」投擲されて飛んできた。
難なく回避する。反撃が来るのは分かり切っていた。
足音。移動する血の臭い。
来た来た、顔真っ赤にして突っ込んでくるバカ1名。
遮蔽物から飛び出して、銃口を向けた。ドットサイトの向こう側に見えるのは黒いロングコートと歪んだシルクハット、そして大型のナイフを右手に持った殺人鬼。
引き金を引いた。
さすがにジャックも肝を冷やした事だろう。まさか苦し紛れの挑発をしていた相手が、こんなにもスンッ……って感じで冷静に反撃してきたのだから。
身体を捻って回避するジャック。7.62×51㎜弾が右肩を掠め、致命傷には至らない。
マジか、今の避けるのか。
逆手持ちにしたナイフをMARS-Hで受け止め、至近距離で鍔迫り合いになる。
「ふざけるな……ふざけるなッ! お前に俺の何が分かる!? あんな父親のせいで生まれてしまった俺の何が!?!?」
「分かるよ、その気持ち」
ニトログリセリンの海に、火のついたマッチを投げ落としたようなものだった。
何も分かっていない奴の同情ほど、この手の人間を怒らせるものはないだろう。冷静な思考も憤怒の炎で完全に焼き払われ、激高したジャックが鬼の形相で叫ぶ。
「ふざけ―――」
めり、と顔面にめり込む右の拳。
「口臭せえんだよバカが」
腰を入れ、肩を捻り、前へと体重を移動させて放った右の正拳突き。予期せぬ殴打にジャックは錐揉み回転しながらふっ飛ばされ、予備の歯車がどっさり入った金属の箱に背中を打ち付けて床に転がった。
「お前の事なんか1㎜も知らねえ、可哀想だとも思わねえ。俺はお前じゃねえからな」
パキ、パキ、と拳を鳴らしながら一歩、前に出る。
「立てよ、もっかい這いつくばらせてやるから」
どうでもいい話
【速報】コマール級増強法案が可決したその日のうちに801番艦が就役。SNS上では「法案成立を見越して既に造っていた」というまともな説から「ミカエル様はマジで艦隊の出る魔法の壺を持っている」、「ミカエル様が畑で艦隊を栽培なさっている」、「もう錬金術で生やしているのでは?」という説まで出回っておりカオス。




