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イカれた奴らのワルツ

どうでもいい話

ロザリーの部屋には、ラウル君の抜けた髪の毛で作った「ミニラウル君ぬいぐるみ」がある。


 昔、スパーニャのとある思想家はこう言ったそうだ。


 『極限状況ではまともな感性の持ち主から狂っていく。だから自分らしさを守るには、狂人になるしかないのだ』。


 それが真理なのかどうなのかはさておき、俺はまともなのだろうか。狂っているのだろうか。


 個人でマチルダ先生から受けた授業の中、教科書の中にあった思想家の言葉、その一説を何となく思い出しながら、引き金を引いてドットサイトのレティクルに重なった敵兵の頭を7.62×51㎜NATO弾で吹き飛ばして差し上げた。


 上顎から上を木っ端微塵に吹き飛ばされ、身体を痙攣させながら氷の床の上に倒れる敵兵。私服の上に厚手のコートを羽織り、雑多な銃器で武装したインフェルノの戦闘員だった。


 インフェルノの戦闘員の8割は、単なる犯罪者に過ぎない。


 路地裏のゴロツキだとか、戦争犯罪から逃れようと身を堕とした元軍人だとか、冒険者崩れだとか、まあそんなものだ。俺に言わせてもらうと、エアガンとかナイフを手にして自分が強くなったと勘違いしイキった中学生が、そのまま大人になったような連中と言っていい。


 そういうわけで、殺しに関しては良心の呵責だとか葛藤だとか、そんなものは一切生じなかった。ゴミが消えた、死んでいい命が死んだ、とすら思わない。そんな事よりも今日の夕飯の方が大事だ。明日の朝飯の献立の方が遥かに大事だ。とりあえず俺はそう思う。


 遮蔽物の影に隠れる、という銃撃戦の鉄則すら理解せず、堂々と身を乗り出し、機関短銃(SMG)を1970年代のアクション映画よろしく腰だめで連射してくる戦闘員。照準器すら覗き込まない当てずっぽうの射撃が当たる筈もなく、次の瞬間には眉間を7.62×51㎜弾で吹き飛ばされ息絶える。


 氷柱の影に隠れながら、手首から先と拳銃だけを突き出して滅茶苦茶に撃ってくる敵兵。相手を制圧する意図でそうしているのならばまあ分かるが、せめてフルオート射撃ができる銃でやるべきだ。そういうのは。少なくとも弾数が6発のソリッドフレーム式リボルバーでやる撃ち方ではない。


 というわけで氷柱の影から回り込み、パニクりながら慌ててローディングゲートを開け、薬莢の排出を始めた敵兵のこめかみに7.62×51㎜弾の情熱的な口づけがプレゼントされたのは、それからすぐだった。


 空になった20発入りマガジン(※SR-25のマガジンと同じもの)を取り外してダンプポーチに収め、マグポーチから引っ張り出したマグプル付きのマガジンを装着。ボルトリリースレバーを左の掌でぶっ叩いてボルトを前進、初弾を装填する。


 13.5インチのショートバレル、室内での取り回しと破壊力の両立を企図したそれを構えながら、部屋の奥にある螺旋階段を警戒しながら上がり始めた。


 超巨大時計塔『クロムウェル』内部のメカニズムは、はっきり言って人間が造ったものとは思えなかった。大小さまざまな歯車の群れや重り(ウェイト)が複雑怪奇に組み合わさり、まるで生物の体内の如く精密に動いてはクロムウェルの時計を動かし続けている。


 凍てついてもなお、そのメカニズムは息衝いているのだ。


 ガンガンと金属製の足場を叩くような足音が聴こえ、戦闘に備えた。案の定、上の階からインフェルノの戦闘員たちが大慌てで駆け下りてきたものだから、銃を構えて警戒していたこっちが先制攻撃する権利を有していたし、それを行使する主導権(イニチアチブ)はこっちにあった。


 ドン、とMARS-Hが吼える。撃針が雷管を殴打、薬莢の中に殺意と一緒に詰め込まれた46グレインの装薬が一気に点火して燃焼を開始。飛び出した弾丸が13.5インチのバレル内部でライフリングに沿って回転、人間1人を殺すには十分すぎる運動エネルギーのドレスを纏って、マズルブレーキの装着された銃口から飛び出していく。


 慌てて駆け下りてきた戦闘員の眉間にライフル弾が飛び込んだ。頭の右上を4分の1くらいふっ飛ばされ、ピンク色の脳みそやら神経で繋がった眼球やらをスプラッター映画よろしく晒しながら、急な螺旋階段を転げ落ちていく敵兵。


 上の階に飛び込む前に、グレネードを投げ入れた。

 

 ドカン、と派手な爆発がクロムウェルのメンテナンス用スペースで轟いた。天井から垂れ下がるツララが落下して、割れる音を爆音のアクセントに加える。


 そのまま室内へと飛び込んで、とにかく動いている奴は何でも撃った。ゾンビ化対策の手間が省けるよう頭だけを砕いていく。破片を身体中に受けて苦しんでいた奴や、衝撃波で腹を裂かれ飛び出た腸を腹に収めようと無駄な努力を続けていた奴に引導を渡す。


 が、しかし多勢に無勢とはよく言ったもの。いかに練度の高い兵士が1人いても、多数の雑兵が束になってかかってくれば1人くらいは相手の隙を突けるのが道理というものである。


 どこの国の言葉かは分からないが、まあ俺を罵るようなニュアンスの言葉を発しながら、後ろからサイの獣人が組みついてくる。大型の草食動物の獣人というだけあってパワーがあり、振りほどこうにも剛腕は岩石の如くガッチリとしていて、力比べではどうしようもないのが明白だった。


 そのまま蒸気配管みたいに太い腕が首筋へと達し、首を思い切り締め付けてくる。脳へ、そして肺への酸素の供給を断たれ、胸が焼けるような重々しい苦痛を発し始める。とにかく足をバタバタと動かして滅茶苦茶に蹴ってみてもどうしようもなく、このままでは……というところで、ライフルから手を離した。


 スリングで保持しているから、ライフルは首からぶらんと垂れ下がったままだ。そのままフリーになった両手を必死に後ろへと伸ばした。べた、と掌が相手の顔に触れ、そのまま手に伝わる感触で眼球を何とか探し当てる。


 後は簡単だった。思い切り尖らせた親指を、勢いのままに相手の眼球へ突き入れるだけなのだから。


 ぐちゅ、とゼラチン質の温かい塊に指先がめり込んだ。力を込めるような相手の声が一転して苦痛の叫びへと転じ、両腕の力が急激に緩む。


 その隙に相手の腕をガッチリと掴みながら姿勢を低くして、我ながら100点満点の一本背負い。2m近い筋骨隆々の巨体が宙を舞い、びたーん、と氷の床に背中を打ち付けられる。


 ナイフを引き抜き、倒れた相手の眉間に突き立てた。が、切先越しに返ってきた感触は今までの獲物とは全く違う。ガギ、とまるで岩の塊にナイフを押し当てたような硬質な手応えで、コイツ中身がロボットなんじゃないかと疑ってしまうほどだった。


 ならば、とナイフの柄尻に思い切り拳を打ち付ける。藁人形に釘を打ち付ける要領で一度、二度、三度、と繰り返してようやく、ナイフの刃はぶち折れながらもサイの獣人の脳にまで達し、その命を終わらせた。


 無駄な体力を使わせやがって、と悪態をつきながら起き上がる。


 チンッ、と目の前にあるエレベーターが到着を告げた。


 大型の整備用エレベーター……平時であれば作業員やメンテナンス用の機材を運び込むためなのだろう、貨物用のエレベーターみたく大型のそれのドアが開き中から飛び出してきたのはインフェルノの兵士たちだった。


 それだけで済めば、どれだけ良かっただろうか。


 ずん、ずん、と重々しい足音を響かせながら、兵士たちと一緒に降りてきたのは2機の機甲鎧(パワードメイル)だった。


 天地戦争でも運用されていたモデルだ。鳥の脚みたいな逆関節型の脚部に角張ったポッドを取りつけ、両サイドに水冷式重機関銃を取りつけた戦時中の急増品である。


 それでも、小銃弾や砲弾の破片からの完全防御を持ち重機関銃を2門もひっきりなしに撃ちまくってくるコイツは、戦車の投入できない戦場において猛威を振るったのだそうだ。


「ハッ……俺の歓迎パーティーってか?」


「ぶっ殺せ!!!」


 愛国者なので右へとジャンプすると、次の瞬間には2機の機甲鎧(パワードメイル)に搭載された合計4門の重機関銃が吼えた。乱雑に置かれたままの工具やメンテナンス用の機械、フォークリフトに命中した8㎜弾が火花を散らす。


 そのままスライディングして予備の歯車やら何やらが置かれている倉庫っぽい小部屋の中に滑り込んだ。ジャンプして天井のパイプみたいなところに足を引っかけて宙づりになりつつ、懐から投げナイフをスタンバイ。


 しばらく撃ちまくった後、銃声がピタリと止んだ。


「撃ち方やめ!」


「見てこいカルロ!」


 慎重に近付いてくる敵の足音。


 倉庫諸共蜂の巣にしてやったと思い込んでいるようだが、そうは問屋が卸さない。


 まともな訓練も受けていないのだろう、見た映画の見よう見まねでクリアリングになっていないクリアリングをしながら入ってきた哀れなカルロの脳天に、手首のスナップを利かせてナイフを投擲。すこんっ、と面白いくらい脳天に綺麗にぶっ刺さり、カルロと呼ばれた敵兵は動かなくなった。


 足を放して着地、俺の生存に気付いた敵兵たちが発砲を始めるが、もう何もかもが遅い。


 スモークグレネードを取り出して安全ピンを引き抜き、連中の足元に転がした。スプレー缶みたいな形状のそれから空気の漏れる音と共に純白の煙幕が溢れ出た。


 手榴弾片手にスライディング。ライフルを手にした敵兵が俺の接近に気付いたが、察知出来たところで何ができるというのか。


 スライディング中、先ほどの手榴弾の爆発で床に落ちていたツララを拾い上げ、敵兵の足に思い切り突き立てた。エリスさんの魔力で形成されたそれは鋭利な刃物も同然で、肉をよく研ぎ澄まされたナイフみたく貫通。敵兵の足の甲を床に縫い付けてしまう。


 絶叫しながら倒れ込む敵兵の傍らを通過、そのまま機甲鎧(パワードメイル)の機体をよじ登ってコクピットのハッチをこじ開ける。中では窮屈そうなコクピットの中に身体を収めたパイロットが、操縦桿をガチャガチャしながら俺を探しているところだった。


 安全ピンを抜いた手榴弾を投げ込み、思い切りハッチを占める。


 直後、バムンッ、と内側にこもるような爆音と共に機甲鎧(パワードメイル)の片割れが崩れ落ちた。如何に強力な火力を持っていようと、操縦者を爆殺されればひとたまりもない。ぎぎぎ、と軋む音を立てながら崩れ落ちていく機甲鎧(パワードメイル)を尻目に、スリングで保持していたMARS-Hを構えもう1機の機甲鎧(パワードメイル)を狙う。


 指先でセレクターを弾き、セミオートからフルオートへ。


 ハンドガードを左側面からしっかり握り込み、ストックを肩に押し付ける。Cクランプ・グリップの要領でライフルをしっかりと構えるなり、背面にあるガソリンエンジンを狙い、マガジンの中に装填されレイル弾丸を全弾ぶち込んだ。


 燃料配管が爆ぜ、タンクからガソリンが溢れ出る。床にぶちまけられたそれが凄まじい勢いで広がっていき、白煙が濛々と立ち込めるメンテナンス用スペースの床に広がっていった。


「な、なんだコレ……ガソリン……!?」


『くそ、エンジンをやられた!』


「アイツはどこだ!? くそ、舐めやがっ……て……」


 5.56㎜弾の空薬莢で作った、お手製のトレンチライター。


 火を点けた状態のそれを、無造作に放り投げた。


 機甲鎧(パワードメイル)のエンジンから漏れたガソリンに、あっという間に火が点いた。敵兵たちの悲鳴を背に、マガジンを交換しつつメンテナンス用エレベーターに乗り込む。


 分厚い扉が閉じると、生きたまま焼かれる痛々しい叫びはあっという間に小さくなっていった。


 まあ、これで火葬の手間が省けたというものだ。地獄の業火(インフェルノ)を名乗るのならばこれくらい凄惨な末路の方がふさわしいだろう。


 しかしナイフ折ったのクソだなぁ、と思いながらボタンを押し、最上階へと向か―――えないっぽい。このエレベーター直通じゃないみたいだ。


 上層メンテナンスホールまでで、そこからは階段らしい。ボタンのところに竜人語でそう記載があった。最上階への直通ではない、と。


 なんて不便な、と悪態をついたのと、ダンッ、とエレベーターの天井に……ちょうど男(・)性(・)一(・)人(・)分(・)の(・)重(・)さ(・)の(・)落(・)下(・)音(・)がしたのは、同時だった。


 MARS-Hを半ば反射的に構え、天井目掛けて撃ちまくる。薄い天井を7.62㎜弾が容易に貫通、パンチプレートみたく穴だらけにする。が、相手を仕留めたという手応えは感じない。


 メンテナンス機材を運搬するため、それなりに広いエレベーター。


 天井の非常用ハッチがぶち破られる。来るか、と反射的に銃口を向けたが、しかし襲撃者の姿が現れたのはハッチではなく、さっき蜂の巣にして脆くなっていた天井の方だった。


 ドカン、と金属の破断する音。派手にぶち破りながら現れたその影は、エレベーター内の床に着地するなり姿勢を低くして、床を這うように襲い掛かってくる。


 後ろへ飛びながら身を引き、ライフルを盾にして喉元を狙った一撃をガード。今までに何人もの娼婦を切り刻んできたのであろう凶刃が、頭から数十センチの距離にまで迫る。


 やはり、あの男だった。


 気配はしていた―――匂うのだ、ヘンリックと同じく。


「こうして会うのは初めてだなぁ。えぇ、ラウル・エルマータ!」


「ハッ……知らねえよボケが」


 切り裂きジャック《ジャック・ザ・リッパー》。


 おそらくは俺の腹違いの兄、あるいは弟。


 限りなく最悪な兄弟の再会の瞬間だった。





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― 新着の感想 ―
最近クロエがどんどん距離を縮めてるんですが、ロザリーはロザリーで相変わらずのヤンデレでしたか…大丈夫?そのうち呪いの人形にならない? 流石というか正規軍に近い訓練をクラルテの睡眠学習を含め繰り返し、…
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