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戦狼の血は交わらない

アルカディア・タイムズの新聞記事

『ミカエル代表、ソーキル級500隻増産を発表』


 協商連合代表のミカエル・パヴリチェンコ代表は昨日、エンジェルパレスで開催された中央議会におけるソーキル級空中巡洋艦増産法案の審議において、現在の世界情勢を『非常に不安定』と評した。パヴリチェンコ氏は特に、天地戦争の再開を企図する国際テロ組織【インフェルノ】の存在を挙げ、『平和を望むからこそ、戦争に備えなければならない』と発言。


 同法案では、ソーキル級の保有上限を従来の300隻から500隻に引き上げる事が提案されており、法案は下院における全会一致での可決を経て上院で審議され、本日賛成多数で可決される見込み。


 パヴリチェンコ氏は『他国が我々に合わせて軍縮をしてくれる保証など存在しない。そのような楽観論はナンセンスだ』と述べ、軍縮には慎重な姿勢を示した。


 


 渾身の力を込めて、正面玄関のドアを蹴破った。


 大きく頑丈そうなドアは、あっさりと俺たち盗人に道を譲った。満足に修繕も出来ていなかったのだろう、こういうちょっとしたところでもエイカー家の衰退具合が垣間見えてしまう。


 やはり資金繰りが上手くいってない貴族とか組織って、こういう細かいところにサインが見えてくるものなのだ。清掃が行き届いていないとか、ドアや窓の修繕がされていないとか。そういうのは結局のところ、財政が悲惨な事になっていて細かい部分まで回す金がないという事なのだ。


 ドアの向こう、庭では警備兵たちが待ち構えていた。レバーアクションライフルやボルトアクションライフルを装備した兵士に、軍用グレードのゴーレムに乗った兵士たち。


 理想は静かに盗んで静かに帰る事だったんだがな……。


 やっちゃうか、とクロエにアイコンタクト。彼女が頷くのを見届けるなり、石畳を蹴って左へと飛んだ。


 警備兵の連中はもうなりふり構わないつもりらしい。武装解除の要求や警告も無く、いきなり撃ってきやがった。まあ、既にかなりの額の損害が出ているわけだしエイカー家としても死に物狂いで止めに来るだろうな、とは思っていたが。


「うわうわうわ」


 花壇の影に滑り込み、ライフル弾の一斉射撃をやり過ごす。ちらりと視線を巡らせクロエの位置を確認、彼女を巻き込む心配がないという事を確認するなりポーチから破片手榴弾(フラググレネード)を掴み取った。安全ピンを引き抜いて3つ数え、花壇の向こう側へとあらん限りの力で投擲。


 数秒後、ドムンッ、と腹の底を揺るがす炸裂音。敵の警備兵の悲鳴と共に銃撃がピタリと止まったので、その隙に花壇の影を飛び出して反撃に転じた。


 ホロサイトの向こう側に人影が映る。それはふらつきながら立っていたり、倒れたまま動かなかったり、千切れた足を必死に抑えて呻き声を上げていたりと多種多様だった。


 とりあえず、まだ息のある敵兵の頭にMk10 Bansheeのセミオート射撃を丁寧に叩き込んでいった。爆発の衝撃で頭をやられた兵士が貧血でぶっ倒れるように倒れ伏し、動かなくなる。続けてホロサイトのレティクルを、爆発の破片で足を持っていかれた兵士の眉間に合わせて引き金を引く。


 淡々と、余計な事は考えずに引き金を引いた。


 拳銃弾としては強力な、けれども装薬量を調節した亜音速(サブソニック)弾。それを眉間に、こめかみに、あるいは心臓に撃ち込まれて倒れていく警備兵たち。


 擱座したゴーレムから降りてきたパイロットの視線が、照準越しに突き刺さる。


 命乞いをするように怯えた顔のソイツにも、10㎜弾をプレゼントしておいた。


 ピストルを構えて最後の抵抗を試みる兵士。けれども狙いが杜撰すぎて当たるものも当たらない。早いところ苦しみから解放してやる意味でもヘッドショットをかましてやり、哀れな魂を天へと送る。


 淡々と、自分でも驚くほど淡々と、ホロサイトを覗き込む右眼と右の人差し指で人を殺しながら、そういや最初の頃は散々だったな、と思い出す。


 ロザリーたちと出会ったばかりの頃の事だ。ゴブリンの群れとトロールを相手に、訓練を始めたばかりの俺はライフルで立ち向かった。


 とはいえ当時はまだ10歳……ほんの10年前まで、人殺しとは無縁な日本で生活していたわけだから、それがたった10年程度で銃を持って命の奪い合いを強制されれば、全てが終わった後に吐きもする。みっともなく声を上げて泣いたりもする。


 逆に、あれがあったからこそ今こうやって淡々と殺せるんだろうな、と他人事のように思った。あれは一種の通過儀礼だったのだ、と今になって思う。あの程度で折れるならば冒険者なんかできない、と。


 第一、平和な生活に慣れ切った元日本人なのだから、いくら10年間こっちで生活していたとはいえ根っこの部分のメンタリティーが違うのは当たり前だ。異世界転生して早々に、何の葛藤も無くサクッと殺しが出来る奴がいるとしたらそれは覚悟がガンギマった奴かただのサイコパスである。そして俺の体感での話だが、9.5割が後者だ。


 だからまあ、俺はまだ正(・)規(・)の(・)ル(・)ー(・)ト(・)で殺しの世界に入ったという事になる。クソッタレな界隈だが、まあ幸せ者の部類ではなかろうか。


 今夜の夕飯なんだろうな、と思いを馳せながら、姿勢を低くして撃破したゴーレムの影に隠れる。直後、ドガガガン、と数発のライフル弾がゴーレムの装甲を無造作に殴りつけ、恐ろしい金属音を響かせた。


 マガジンの中身を全部ぶちまけて相手を牽制。回り込んでこっちの側面を突こうとした3名の兵士がいたが、紅く輝く大型レイピアを手にしたクロエの姿が一瞬見えたかと思うと、次の瞬間にはその3人の肉体は破裂するように弾け飛んでいた。


 あの断熱圧縮レイピア怖すぎる。


 今のうちに武装を変更。弾薬を消費したMk10 Bansheeに代わって、MARS-Lを召喚。バレルは取り回しも考慮して14.5インチのものを選択。


 マグポーチには30発入りのSTANAGマガジンを11個セット、最初に銃に装着している分はシュアファイア製の60発入りマガジンにしておく。


 やはり弾数が多いというのは正義である。撃ちまくれる、たくさん撃てる、強い。


 ゴーレムの残骸の影を飛び出し、クロエに向かい銃撃していた警備兵たちを側面から叩く。こめかみに5.56㎜弾をプレゼントして相手を物言わぬ肉人形と化せしめ、血で染まりつつある噴水の近くでクロエと合流する。


「怪我は?」


「ないよ」


「そりゃあ良かっ」


 ドカン、と正門が弾け飛ぶ。


 門の開け方も、屋敷を訪れた時の礼儀作法も知らない不躾な侵入者。エイカー家の庭に突入してきたのはミストルテインのロゴが描かれたバン……ではない。オンボロの、ジョンファ製のピックアップトラックだった。


 中から出てきたのは警備兵とは明らかに違う、私服姿の男たち。手には狩猟用の水平二連型散弾銃やら旧式のボルトアクション小銃やら、雑多な銃器がある。


 民兵というか、ゴロツキに毛が生えたようなその連中の正体はすぐに分かった。


 ―――インフェルノ。


 なるほど、もう動いたか。さすがにスポンサーを失ってしまえば懐的に手痛い打撃、お財布可愛さに動いたと見える。


 クロエと一緒に噴水の影に隠れたその時だった。


 ドカドカドカン、と銃声……というよりは爆発のような轟音が後方から立て続けに連鎖。何だ屋敷の中で可燃物でも爆発したか、と思ったが、今顔を上げたら射撃に巻き込まれて死にそうな気配がしたので必死に我慢。クロエと一緒に嵐が過ぎ去るのを待つ。


 やがて銃声が止まり、顔を上げた。


「―――ハーイ、ラウル♪」


「ロザリー!」


 いぇい、と良い笑顔で(とはいえ目出し帽で顔を隠しているので目元しか分からない)Vサインするロザリー。その手にあるのは一見すると軽機関銃のようにも見えるほどの威圧感を醸し出す物騒な得物、Origin-12。


 ショットシェルが剥き出しになった状態で装填されている30発入りドラムマガジンは既に空になっていた。待ってこの子どんだけ撃ったの?


「随分派手にやったんだな」


「おっ義兄さん」


「 誰 が 義 兄 さ ん だ 」


「 義 兄 さ ん で し ょ ? 」


「 ア ッ ハ イ 義 兄 さ ん デ ス 」


 圧。


 なんだろう、いつもは冷静沈着で頼れる兄貴って感じのユリウス氏(17)、ロザリーの前では飼い主とはぐれたチワワみたいになってるんだけど……やはりヤンデレは最強なのか。


 とりあえずMk10 Bansheeで武装しているユリウス兄貴に俺の10㎜オート弾入りマガジンの余りを全部渡し、盗品の重みを背中に感じながら屋敷の裏手へと向かう。


 あんだけ派手にやり合ってもなお、裏手に駐車したままのバンは無事だった。ユリウス兄貴はそれを見るなり運転席へ、俺は助手席へと乗り込んでシートベルトを締める。


 ロザリーとクロエが後ろに乗り込み、バンバン、と壁を叩く音。出してOKというサインと受け取るなり、ユリウス兄貴は無駄のない動きでサイドブレーキを解除。束の間の半クラからギアを入れてバンを急発進させた。


 俺たちの逃走に気付いた警備兵が「おいバカ止まれ!」と前に立ちはだかるが、ユリウス兄貴は容赦なくそのまま警備兵を跳ね飛ばす。


 いい音でしょう。余裕の音だ、馬力が違いますよ。


 裏手にある門を吹き飛ばし、ついでに慌てて駆け付けたと思われる非番の警備兵を跳ね飛ばしながら、ミストルテインのロゴが描かれたバンは勢いよく車道へと飛び出した。勢いを増した雨に打たれながら、事前に指示された合流地点へと向かう。


 スマホを取り出し通話アプリをタップ、デフォルメされた金髪シスターのイラストがアイコンになっているクラルテに電話をかける。


《はい、ラウルさん》


「こっちは離脱した。大漁だぞ」


《それはそれは。警官隊の動きは相変わらず鈍いですが、現場からは早く離れた方が良さそうです。一部の派出所の警官が待機命令を無視して現場に急行しているそうで》


「だろうな」


 ウー、とサイレンを鳴らしながら現場へと急行するパトカーと今しがたすれ違った。いきなり止められて職質、なんて事にはならなかったが、警察の目にこの車が触れたのはむしろ幸運と言えるだろう。これで警察は真っ先に俺たちではなくミストルテインを疑う筈だ。動かぬ証拠である。


 相手のスポンサーを潰し、ついでに当局の疑いの目を邪魔者へと向けさせる。なかなか腹黒い作戦じゃあないか。


《……ご注意を、後方から不審車両》


「了解」


《こちらはドローンで援護します。艦長、合流予定地点へ急いでください》


《了解した》


 さて、もう一仕事だ。


 ロザリー用にOrigin-12の30発入りドラムマガジンをいくつか召喚、彼女に渡す。装填されているのは12ゲージのスラグ弾……あんなものをしこたま撃ち込まれれば車のエンジンブロックは木っ端微塵、人体もタダでは済むまい。


 クロエにはタボール7と予備マガジンをいくつか渡し、戦闘準備を整えてもらう。さすがにグロック40カービンでは非力が過ぎる。


 銃撃戦を想定し、人気のないエリアへとハンドルを切るユリウス兄貴。そんな俺たちを追ってくる車両が1、2、3……うへぇ4台も。


 屋敷の内部で撃破したゴーレムから漏れ出た燃料が引火し火災へと転じたのだろう、エイカー邸のあった方角からは派手に火の手が上がっているのが見える。真っ赤なランプを点灯させ、特徴的なサイレンを打ち鳴らしながら大通りを爆走していく消防車の姿が、路地越しにちらりと見えた。


 ちらりとサイドミラーをチェック。路地に転がるゴミ箱やら何やらをお構いなしに跳ね飛ばしながら、アクセルをべったり踏み込んでぐんぐん迫ってくる追跡車両。


「しばいていい?」


「お好きに」


「だってよ、射撃開始!」


 窓を開け、身を乗り出しながらMARS-Lを構えた。セレクターを素早く弾いて引き金を引き、追ってくる車両を狙う。


 運転席目掛けてガンガン撃ちまくり始めたのを合図に、バンの後方のドアが開いてクロエとロザリーもバカスカ射撃を始めた。


 12ゲージのスラグ弾が車のグリルを派手にぶち抜き、タボール7の吐き出す7.62×51㎜NATO弾が助手席から身を乗り出そうとしていたインフェルノ戦闘員の頭を4分の1ほど捥ぎ取っていく。


 やがて運転席側の窓を5.56㎜弾でつるべ撃ちにされたのが堪えたのか、それともロザリーのスラグ弾でエンジンブロックを粉砕されたのかは定かではないが、追跡していた車両が右へ左へと揺れ始めた。バンパーやフェンダーが建物と接触して派手に火花を散らしながら減速、追い抜く事も出来ないほど狭い路地の中、後続車両を巻き込んで盛大に玉突き事故を引き起こす。


 ホイホイ路地まで追ってきた馬鹿共に向かって中指を立て、助手席へと引っ込んだ。


「これで終」

























 ぞくり、と身体中に冷たい感触が走る。

























 緩みかけていた緊張が再び張りつめた。MARS-Lを掴み、いつでも発砲できるよう備えつつセレクターをフルオートに入れる。目を細め、狼のケモミミをピンと立てて、自分でもはっきりと分かるほど喉の奥から唸り声を漏らす。


「なんだ、どうした?」


「……何か、来る」


 何かって何だ、とユリウス兄貴がハンドルを握ったまま問いかけてくるが、上手く説明できない。こればかりは完全に、理屈がどうこうというよりは本能的、直感的な部分なのだ。頭では理解できているが上手く言語化できない部分なのだ。


 一瞬、ヘンリックに似た気配を感じた。


 けれども違う―――ヘンリックはどこまでもどす黒い感じがするが、今俺が感じているこの気配はアイツのとは明確に異なる。


 ―――”鋭い”のだ。


 まるで冷え切ったナイフの切っ先を突きつけられているような、少しでも動けば喉笛にそのナイフを突き立てられてしまうのではないかと思ってしまうような……。


 そんな威圧感の中で、認めたくない気配も確かに感じた。


 本能的に分かるのだ―――自分と何か、「繋がり」のようなものを感じる。


 次の瞬間だった。


 バンのライトの向こう側―――黒ずくめの、ナイフを持った獣人男性の姿が浮かび上がったのは。




































 ―――切り裂きジャック《ジャック・ザ・リッパー》。











 

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ヘンリック本人ではなく腹違いの兄弟、ジャック・ザ・リッパーを追撃に寄越してきましたか…それだけで十分面倒なんですが、ヘンリックからすれば最高のショー位にしか思ってないのがたちが悪そうだなあと。自分の子…
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