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クロエの闇

幼少期のラウル君を見た女共の反応


フルール「わ~ふわもこだ~♪」

クロエ「はーっはっはっは! この頃から目つきが鋭いんだねぇ仔犬ちゃん! いやいや元気でよろしい!」

ロザリー「懐かしいなぁ。この頃私ってラウルの言葉わかんなくて……うふふ、でも今は同じ言葉で話せるし、もう私たちの間に言語の壁なんて存在しないわ。そうよねラウル、言語の違いも文化の違いも何人たりとも私たちの愛を邪魔できないのよ。さあラウル、婚姻届けにサインしてラウル。そして早く市役所に提出して入籍しましょ? ねえラウル? なんで目を逸らすのラウル?」


クラルテ「あ、私この子産みたい」



 音もたてずに摘まみ上げられる純白の卵。


 コンコン、と中華鍋の淵で優しく衝撃を与えて割り、そのままアツアツの油が引かれた中華鍋の中へ。


 湖面を漂う水鳥のような優美さから一転、激しく火を噴く火山の如く動きが激しくなったのはそれからだった。じゅううう、と焼けていく卵。焦げてしまう前に大量の野菜や角切りにしたチャーシューが投入、鍋が荒々しく振られる。


 火を通されながらも宙を舞う具材たち。それらに焦げ目がついたタイミングでお米も投入、鍋を振る勢いは更に苛烈になっていく。


 調味料を投入してひたすら鍋を振る、振る、振る。食材と空気を混ぜ合わせるように、調味料の混ざり具合にムラが生じないように。それでいて水分を一片たりとも残さずに吹き飛ばす勢いで鍋を振ること数分。


 機甲鎧(パワードメイル)用の大きな中華鍋から盛りつけられた特盛のチャーハンが人数分用意され、俺らは思わず拍手してしまう。


「フー、やっぱり自分で炒飯作る方いいネ、感覚分かる簡単ヨ」


「で、でもすげえ……」


 初期設定と整備の済んだ機甲鎧(パワードメイル)、PzT-03 スパルタクスのコクピットを解放して飛び降りてくるチャンさん。なんで機甲鎧(パワードメイル)サイズの中華鍋がセットでついてたんだというツッコミはさておき、とんでもねえコントロール精度だと感心させられる。


 機甲鎧(パワードメイル)の操縦方法は独特だ。


 脚の動きはMT車っぽい感じになっている。半クラからのアクセルで前進やギアチェン、後進にギアを入れれば後退。方向転換はハンドルで行う。


 なので高い目線になれてしまえば、MT車を運転した経験のある人ならばすんなりと適応できるはずだ。俺もそうだった。転生前に乗ってたのがMTのジムニーだったんだが、あれと運転している感覚はそのままだった。クラッチ踏みながらアクセルをじわじわ踏んでいって半クラ、そしてギアチェン。15年前の記憶はしっかりと身体が覚えているようだ。


 まあここまではいい……難しくなるのがここからだ。


 チャンさんの乗っていた2番機のコクピットに上がり、中を覗き込む。チャンさんやヴォイテクには狭そうなコクピットの中には自動車みたいなハンドルとサイドブレーキ、シフトレバーなどの装置がある。速度計や燃料計、エンジンの回転計はデジタル表示になっているのだが、この前身となる『PzT-02 ハンニバル』ではタコメータとなっていて、コクピット内は随分とアナログな感じだったらしい。


 それはさておき、だ。


 コクピットの座席の後方から、フレキシブルアームを介して手袋のようなコントローラーが伸びているのが最初に目につく。


 これが機甲鎧(パワードメイル)の最大の特徴であり、慣れるのにコツがいる要素の9割くらいを締めている。これに手を通して操作する事で、機甲鎧(パワードメイル)の上半身が操縦者の動きをトレースして動くようになっているのだ。だからアレを装着してパンチすると機体もその動きをトレースしてパンチするのである(※マニピュレータがイカれるので良い子は絶対真似しないでね!)。


 だがまあ、力加減がなかなか難しくてね。


 奥の方にひしゃげたウェポンラックがあるんだけど、あれ壊したの俺なのよ……力加減ミスってウェポンラックに裏拳かましちゃって。コツン、って軽く当たった筈がバキャアッ! ってさ。


 とりあえず、くまさんハウスに配備された機甲鎧(パワードメイル)は4機だ。加えて2機分の予備パーツもあるが、肝心な運用する人員が足りてないので全機出撃というのはまずないだろう。一度に出撃させても2機か3機、残る1機は予備機として置いておく事になるはずだ。


「ラウルー! せっかくのチャーハン冷めちゃうぞー!」


「あーい」


 とりあえず飯にしよう。


 機体から降りてみんなのところへ。


 チャンさんってば、機体のコントロールの精度を見せつけるためにまさか機甲鎧(パワードメイル)でチャーハンを作るとは恐れ入った。


 これみんなで取り分けて食べるやつじゃね、と困惑してしまうほどクッソデカい皿の上にはほっかほかのチャーハンがででんと乗っている。隣にある小皿にはご丁寧に搾菜も添えてあった。うれしい。


「いただきまーす!」


 手を合わせ、レンゲでチャーハンを掬って口へ。水分が見事に吹き飛んでお米も野菜もパラッパラ、それでいて味にもムラがなくしっかりと火が通っている。


 いやもう、美味しい。こんなのが大皿一杯食べられるんだから本当に幸せである。最初は「なにこれ大食いチャレンジか何か?」って思ってたけど、あまりにも美味すぎるものだからチャーハンは凄まじい勢いで俺の胃袋の中へと消えていった……げぷ。


















 魔術師の名門一族、通称『御三家』の話を聞く度に、天地戦争ってどんだけやべえ戦争だったんだろうなと思わされる。


 戦前まではまだ、優秀な魔術師たちがいたのだそうだ。しかし100年間にも及んだ世界大戦で魔術師たちの多くが戦場に立ち、そして帰らぬ人となっていった。


 素質や血筋がモノを言う界隈。将来を約束された人材が、祖国の為だの愛国心だのそんな耳障りの良い言葉の為に散っていった。そうやって1世紀もの間、貴重な人材を磨り潰して磨り潰して磨り潰して、大半の魔術師の家計が御家断絶と相成り歴史に残らず消えていく中、クソのような戦乱を生き延びた名門一族が3つだけ―――この惨状を何と表現すればいいのだろうか。


 国土が戦場となったイライナの名門一族『リガロフ家』の当主【ステファン・スピリドノヴィッチ・リガロフ】は自ら艦隊を率いて最前線で戦ったのに対し、倭国の『速河家』は”神童”とまで謳われた【速河信也】ではなく、代わりに魔術の素質の無い兄の【速河力也】を出兵させるに留まり弟は温存、兄は右腕を失い帰還……なかなか闇を感じる話である。


 そしてこれから向かう浮遊大陸ブリタニアはそもそも参戦しておらず戦火も及ばなかった事から、御三家の一角『ペンドルトン家』には何の影響も無かった。


 戦前はこの御三家に匹敵、あるいはそれ以上の魔術の使い手たちがいたと思うと、戦争って本当に失うばかりで何も得する事はないのだと思わされる。


「しかし意外だな」


「何がだい、仔犬ちゃん?」


「いや……ペンドルトン家と速河家が接近してるなんてさ」


 浮遊大陸の事情、特に国際情勢に関してはクロエが詳しい。


 そんな彼女から聞いた話が、あまりにも意外過ぎた。


 極東、倭国の速河家が長男の速河力也をペンドルトン家に対し婿入りさせたというのである。


 速河家の長男、速河力也には魔術の才能が全くと言っていいほど無かったのだという。それこそ、一族の使用人たちから「才能を全て弟に吸われた」と陰口をたたかれる程には。


 神童とまで言われた弟ではなく、魔術の才能など微塵もない兄の方が義勇兵として天地戦争に参戦、メルキアの戦いで右腕を失い帰還する羽目になったというのもこの辺が関係しているのだろう。結局のところ、魔(・)術(・)の(・)才(・)能(・)に(・)溢(・)れ(・)た(・)弟(・)を(・)失(・)う(・)よ(・)り(・)は(・)才(・)能(・)の(・)無(・)い(・)兄(・)を(・)死(・)な(・)せ(・)た(・)方(・)が(・)一(・)族(・)に(・)対(・)す(・)る(・)ダ(・)メ(・)ー(・)ジ(・)も(・)少(・)な(・)い(・)し、獣人軍側に貢献をアピールできるという政治的利点も生じる。


 そんな酷使に酷使を重ねた兄を婿入りさせるとは、速河家の親御さんも酷い事をするものだ。倭国では長男は一族の跡取りとして嫁を迎え入れる、という昭和の日本のような習わしが色濃く残っているというが、それに魔術という要素が加わるとこうなってしまうのだろう。長男とか次男という序列ではなく、魔術の才能があるか否かで全てが決まってしまう界隈……外野としてしか物が言えないが、長男の速河力也氏も哀れなものである。


 お国のために右腕を失って帰還し、酷使されたかと思えば今度は異国の地へ婿入りさせられる―――救いがあるとすれば、彼は魔術師としてではなく倭国を代表する剣士として大成を見たという事か。


 倭国の歴史の中で初めて、その斬撃が熱の壁を超え断熱圧縮熱を纏うに至った最強の剣士。


 御三家の一角で竜人の一族たるペンドルトン家が婿として彼を迎え入れる決断を下したのも、剣士としての名声を受けての事だろうし、本人に素質がないとしても身体を流れているのは極東の魔術師の血。生まれてくる子であればあるいは……という思惑もあるのかもしれない。


「何か狙いでもあるのか?」


「九分九厘、リガロフ家に対抗するためだろうね」


 ことん、と盤上にチェスの駒を置きながらクロエは真面目な声で言う。


「リガロフ家は今が黄金時代と言っても良い。長女アナスタシア、長男ジノヴィ、次女エカテリーナ、次男マカール……全員才能に溢れた優秀な魔術師だよ。そのうえ、彼女らの父たる当主ステファンは天地戦争で常に激戦の最中を駆け抜けた英雄だからね」


「そんなにか」


「そうだよ。あそこは伝説の邪竜【ズメイ】とガチでやり合った大英雄の血統だからねぇ……おまけにミカエル様と個人的な付き合いまである」


「……盤石すぎやしないか」


「立ち回りの上手い貴族っていうのはそういうものだよ、仔犬ちゃん。貴族社会って基本的に足の引っ張り合いだから……あ、チェックメイト」


「あ゛」


 うわぁそこで攻めてくるかぁ、と頭を抱える俺と楽しそうに笑うクロエ。


 仲間が楽しそうにしているのを見ると俺も楽しいし落ち着くんだが、それはさておき。


 ……クロエは、過去に貴族とひと悶着あったのだろうか?


 やたらと貴族の事情に詳しいし、以前ロザリーに「貴族みたい」と言われた際には一瞬だけ顔を強張らせた事があった。まるで何気ない彼女の言葉が、触れてはならないトラウマに触れてしまったような、そんな感じだ。


 何となくそんな空気を察していたからこそ、なおのことクロエの過去は探らないように一線を引いていたつもりだ。いくら気の許せる仲間でも、踏み込んでいい領域とそうじゃない領域がある。親しき仲にも礼儀あり、踏み込んでいい範囲の見極めが人間関係で上手く立ち回る秘訣だと俺は考える。


「……ブリタニア、ボクの故郷なんだ」


 駒を並べる手が、止まった。


 こちらの考えている事を見透かしたのか、それともブリタニアに到着する前に吐露しておこうと決心したのか。


「気になってたでしょ、ボクの過去。前から」


「……俺、そんなに考えてる事分かりやすい?」


「んー……女の勘、ってやつかな?」


 何でもかんでも女の勘で見透かされたら勝てねえじゃん俺。


「まあ正直、あそこには帰りたくない。嫌な思い出しかないから」


「……」


 故郷って、心が安らぐ場所だと無意識のうちに思っていた。


 子供の頃に家族や友達と楽しい時間を過ごした場所。そりゃあ、全部が全部楽しい思い出ばかりじゃないだろう。嫌な事だって、悲しい事だってあるはずだ。でもそんな苦い思い出もひっくるめて故郷(ふるさと)と呼べるものだ……と。


 でも全員が全員、そうではないらしい。


 悲しい過去が大きなウェイトを占めるケースではその限りじゃあないのだ。虐待されて育ったとか、一種のトラウマの掃き溜めみたいになっているのであればそうなのだろう。決別したい自分の過去、闇の凝り固まった二度と近付きたくない場所。


 クロエの表情に、いつの間にか影が出来ていた。


 そっと、彼女の手の上に自分の手を重ねた。突然に生じた温もりに、クロエがハッとしたようにこちらに視線を向ける。


「どうしても辛かったら、頼ってくれ。仲間だろ俺たち」


「仔犬ちゃん……」


 完全無欠でナルシスト、やたらと声のデカい王子様でも弱みを見せる事ってあるんだな……彼女の珍しい、弱々しい姿を見て不謹慎だがそう思ってしまう。


 けれども、人間誰しも嫌な事の1つくらいはあるのだ。欠点も嫌な事もない人間がいたとしたら、そいつはきっと人間じゃあないのだろう。


「優しいんだね、キミは」


「ん」


 重ねた手と手を絡めて、そっと顔を寄せる。


 お互いの息遣いが、心臓の鼓動がはっきりと感じられる距離。


 


『―――ん゛ぁ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁ! 最悪ッ! 葉巻の補充忘れたクソがぁぁぁぁぁぁぁぁ! ニコチンが足りねえ゛ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!』


『そりゃああんだけ爆速で吸ってシケモク食ってればそうなりますよ艦長ぉ』


『ソコロフお前なんかこう、持ってないかニコチン的なやつ!?』


『えー? ん、出航前にコンビニで買ってきた安いやつならありますよ。どぞどぞ』


『すぱぁぁぁぁぁぁぁぁ……うわまっずなにこれ!?!?!?!?!?』




 たぶん、艦橋から響いてきた声。


 ちょっと待て艦橋と居住ブロックってかなり離れてる筈なんだけど。隔壁もあるはずなんだけどどんな声で叫んでるんですかヴォイテク艦長。


 というかヴォイテク、あの人(熊?)葉巻を吸い終わったら灰皿で火を消すんじゃなくてそのままモグモグしてニコチンをダイレクトに摂取する癖があるので普通の喫煙者より体内のニコチン濃度がエグい事になってそうなんだけど大丈夫なんだろうか?


「ふっ……ふふふっ」


「はははっ」


 まあ、でも人生で今が一番楽しいかな。


 それはクロエも同じなのだろう。艦橋から聴こえてくる熊×2のコント見たいなやり取りを盗み聞きしながら、2人でしばらくケタケタ笑っていた。



 

PzT-03 スパルタクス(機甲鎧)


全高

・4m

重量

・2.3t

最高速度

・120㎞/h(高速走行時)


固定武装

・頭部5.56㎜対人機銃×1

・腕部7.62㎜対人機銃×2


携行武装

・ブローニングM2重機関銃

・TOWミサイルランチャー

・Mk44 ブッシュマスターⅡ(30㎜チェーンガン)

・M134ミニガン

・火炎放射器

・その他ペイロードが許す限り既存武装を流用可


動力

・フリスチェンコ式ディーゼルエンジン(専用パワーパック)



 協商連合で正式採用されている戦闘人形(パワードメイル)。量産型。ドルツ系の兵器開発者『クラウディア・ルーデンシュタイン博士』によって設計されており、型番のPzTは「装甲歩兵」の略称とされている。


 歩兵と戦車の中間に位置する兵器であり、歩兵では携行の難しい重火器を用いて高速移動しながら火力支援を行う事が主な運用方法となる。その一方で防御力は十分とは言えず、7.62×51㎜弾の徹甲弾を至近距離から受けるとコクピットブロック以外は貫通の恐れがあり、12.7㎜弾クラスともなると装甲を撃ち抜かれる可能性がある。そのため戦車や装甲車を代替する兵器とはなり得ず、依然として戦車は戦場における大きな脅威となる。

 「機動力と火力を両立したチート兵器」ではなく、あくまでも「でかい歩兵」の範疇でしかない事に留意するべきであろう。


 製造コストは非常に安く、既存の兵器を流用可能で、加えて操縦方法はMT車に似通った部分があり、そうでない部分も直感的な操縦が可能である事から操縦のハードルは低く、パイロットの育成にも手間がかからない。

 そのため先進国だけに留まらず、発展途上国でも同類の兵器が運用されており機械化歩兵部隊を編成しているケースは多い。


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ロザリーは平常運転として最早驚かなくなったんですがクラルテ…メダリオンは本当に仕事をしているんでしょうか。あるいは欲求に関しては機能がオミットされてるんでしょうか() 生身の方がやりやすいとは言えデ…
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