新幹線と長旅と
漫画連載中にヴォイテクが担当編集から言われた事一覧
・魔法少女モノなのに初手からロケットランチャーを出すのは何故なのか
・銃撃戦の描写がリアル過ぎて夢も希望もねえ
・ウチ少年誌だからな?
・なんでこの魔法少女には葉巻とウォッカが似合うのか
・もう10話目だけど魔法が1㎜も出て来ない
・トーチカに立てこもる怪人を火炎放射器で焼き払う魔法少女とか見た事ねえよ
・ウチ少年誌だからな?(二回目)
・焼死体の描写がリアル
・これもうどっちが悪役かわかんねえ
・ウチ少年誌だからな?(三回目)
・ついに魔法の出番無く最終回へ
・ウチ少年誌だからな?(四回目)
・アシスタント付けずに連載終了までやりきりおったぞこの熊
・ウチ少年誌だからな?(五回目)
《間もなく2番乗り場にさくら14号、新鹿児島行きが10両編成で参ります。危険ですので黄色い線の内側までお下がりください》
《3番乗り場、ドアが閉まります。ご注意ください》
《駆け込み乗車はおやめください、駆け込み乗車はおやめください!》
翌日、博多中央駅。
なんというかこう、都会のでっかい駅特有の喧騒が非常に懐かしい。さすがに転生前の日本で博多まで来た経験はついになかったけれど、東京から岩手に帰省する際の新幹線のホームってこんな感じだった。駅員さんの放送とか新幹線の加速していく音とか、あとは隣のホームから聴こえてくる発車メロディー。どれもこれもが転生者の記憶にぶっ刺さる。
実は異世界転生してたなんて夢だったんじゃないか……そんな錯覚すら覚えるほどだ。でも何気なく頭の上に手をやると、やっぱりそこにはふわっふわでもっふもふな狼のケモミミがあるし、ケツには尻尾もある。
乗客だってそうだ。9割がたが獣人で、残りの1割は竜人のようだった。とはいえ8年前まで文明を終わらせる勢いでバチボコに獣人と戦争していた関係上、大っぴらに竜人特有の角を晒しながら外を出歩き観光やらビジネスをする勇気はないのだろう。誰もかもが帽子で頭を隠していた。
なんで竜人かと分かったかというと、瞳の形状だ。竜人は瞳の形状がヘビとかワニとかトカゲみたいな、爬虫類っぽい形状をしているのである(ロザリーとクロエとユリウスがまさにそうだ)。
列に並びながら、背中に背負っているバックパックの感触を確かめる。衝撃吸収用のおが屑を敷き詰めたバックパックの中には、京都の高級木材で作られた小箱が入っており、その中には範三さんが奥さんに購入し配達を依頼してきた簪が入っている。
さあて、ここから長旅だ。
まずは8:30発のひかり15号で大阪中央駅まで。到着は11:00が見込まれている。
大阪で本場のたこ焼きを……といきたいが乗り換え時間が割とタイトだ。今度は11:05発のひかり61号で江戸まで向かう事になる。たこ焼きは駅のホームでも売ってるらしくフルールが尻尾をパタパタさせる勢いで楽しみにしてるからぜひ買ってあげたいが……いける? コレ。
天下の台所、商人の街。熱気と活気と美味いものに溢れた大都市大阪、そりゃあ新幹線の利用客も多いだろう。ホームやら階段やらエスカレーターでの押し合い圧し合いは容易に想像がつく。たこ焼きと乗り換えもそうだが、仲間がはぐれないか心配だ。特にフルール。
大丈夫かなぁ大阪中央が最初の難関だなぁ、と役に立つかも分からんイメトレをしながら時間を潰すこと3分。1番乗り場に立つ俺たちの頭上から、スピーカーによる接近放送が響き渡った。
《間もなく1番乗り場を、島津家専用の参勤交代新幹線が通過致します》
「……ん?」
今何つった? 参勤交代新幹線?
え、とよそ者丸出しで周囲をきょろきょろしていると、倭国出身者と思われる新幹線の利用客たちは一歩後ろに下がるなり、頭にかぶっていた帽子を脱帽。ホームの床に膝をついて土下座するかのように頭を深々と下げ始めた。
困惑する海外からの観光客たち。しかし複数言語で電光掲示板になにやら注意書きが表示されたうえ、多言語で注意を促す放送が流れるなり、彼らも地元民に倣うように帽子を手に取って頭を下げた。
これ俺らもやるのか……と困惑しつつ、とりあえず同じようにする。郷に入っては郷に倣え、だ。それがマナーである。
いつの間にかホームには黒い制服に身を包み、拳銃のホルスターと軍刀を腰に下げ、左肩に『お目付け役』やら『憲兵』と記載された腕章を巻いた幕府軍の兵士たちがやってきては鋭い目つきでホームを監視し始めた。
キィィィ……と新幹線が迫ってくる音。好奇心に負けちょっとだけ、ほんのちょっとだけ顔を上げた直後、目の前のホームドアの向こう側をメタリックなブラックとゴールデンな縁取りで彩られた、島津家の家紋入り800系新幹線が凄まじい速度で通過していった。
そうかそうか、現代的なレベルまで発展した倭国では大名もついに新幹線で参勤交代する時代なのか……などと謎の感動をしている間に、スピーカーから《皆様、ご協力ありがとうございました。お直り下さい》と放送があったので、やっと立ち上がり息を吐く。
いつの間にかお目付け役の怖いお兄さんたちも姿を消していた。
《間もなく1番乗り場に、8:30発、ひかり15号大阪中央行きが参ります。危ないですから黄色い線の内側までお下がりください》
《1番乗り場、間もなく列車が参ります。自由席は1号車と2号車、指定席は3号車から7号車―――》
放送が終わらぬうちに、N700系の新幹線が博多中央駅のホームへと滑り込んできた。N700A、東海道新幹線とか山陽新幹線、九州新幹線でも走ってる車両である。高校の時に京都と大阪へ修学旅行に行った時も乗った奴だ、懐かしい。まさか異世界でも顔を合わせる事になるとは。
でも塗装が違った。白を基調としているのは変わらないが、車体には蒼いラインではなく紅い帯が入っている。倭国の山陽新幹線ではそうなのだろうか?
ホームドアが開き、乗車を促される。この中で一番フルールがはぐれそうだったのでとりあえずフルールと手を繋ぎ一緒に乗車。切符を片手に自分らの予約した席を探す。
「ええと、”16-い”……どこだ?」
日本だと座席はABCみたいに分けられてたけど、倭国だと「あいうえお」で分けてあるんだな、なんて感心しながら席を探してとりあえず着席。窓際にはフルール、真ん中に俺、通路側にクラルテが座る。
「ねぇぇぇぇぇぇ何で私がラウルの隣じゃないのよぉぉぉぉぉぉ……」
「仕方ないだろ、くじ引きでこうなったんだから」
「もう終わりよぉぉぉぉぉぉぉぉわ゛だ゛じ゛だ゛ぢ゛前世から恋人だったって言ってたじゃないの゛ぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」
後ろからなんかすっごい怨嗟の声が。落ち着けロザリー、そんなどす黒いオーラを出すなロザリー。あとサラッと俺の前世を捏造するんじゃない。お前みたいなヤンデレ美少女の彼女なんて居なかったぞ俺。ありがとなロザリーいつも一緒に居てくれて。
ちなみに後ろの3人掛けの座席には窓際にクロエ、真ん中にロザリー、通路側にユリウスという布陣である。6人での団体旅行になるので3人掛けの座席を2つ丸々予約してて正解だった。
この後乗る東海道新幹線、上越新幹線、そして日本には存在しなかった羽越新幹線の切符は既に購入済み。領収書はヴォイテクに渡して経費で落としてもらったので俺たちの懐にダメージはナッシング。嗚呼素晴らしきかな福利厚生。
などと思っている間にも新幹線は博多中央駅を滑るように走り出した。窓の向こうには広大な博多湾が見える。
「あ、ソーキル!」
「お、本当だねぇ。ちょっとソーキルにバイバイしようねぇ」
人生初の新幹線という事もあってはしゃいでるフルール。ジャッカルのケモミミをピコピコさせながら、博多湾に停泊しているソーキルに手を振る彼女の頭を撫でつつ、通路の方からやってきた車内販売のお姉さんを呼び止めた。
「あっ、すいません。アイスクリーム6人分ください」
長旅はまだ始まったばかりである。
「久しいな、範三」
「うむ」
ラウルたちが出発した後のソーキル艦内は随分と寂しい雰囲気に包まれていた。活気がごっそり抜け落ちた、ともいうべきだろうか。いつも騒ぎを起こすのは彼女だったなと痛感しつつ、艦内の自動販売機で購入した缶コーヒーを範三に渡しながら、ヴォイテクは艦長席にどっかりと腰を下ろす。
範三にも通信士席への着席を促し座ってもらったところで、話を切り出した。
「カフリアの話、お前の耳にも入ってるだろ」
「例の”いんふぇるの”の話題か」
「そうだ。連中の頭目が厄介な奴でな……」
「八艘飛びのヘンリック……戦時中、某も目にしたわ」
煙草いいかい、と仕草で問いかけるヴォイテク。範三が頷くなり葉巻を取り出してトレンチライターで火を点ける。よりたっぷりオイルライターが入るよう14.5㎜弾の空薬莢で新調したクソデカオイルライターのサイズに、さすがの範三も引いた。
お前はどんだけ吸うつもりなのか、と。
「んで、ミカの奴は倭国も連中に警戒すべきと言っている」
「カフリアから倭国へ? いくら何でも脈絡が無さすぎるとは思うのだが」
「俺もそうだと思いたい……が、アイツの”能力”はお前だって知ってるはずだ」
「……すべてはこれから起こる事、か」
範三も、ミカエルのユニークスキルは理解している。
全知全能―――並行世界を観測し、果てには未来まで見透かす絶対的な力。協商連合の大躍進も今日の栄達も、そして仲間たちに降り注ぐはずだった悲劇の回避も全てはこの能力あってこそのもの。
そんなミカエルが言っているのである。単なる冗談で済むはずがない。
考えてみれば倭国にだって火種はあるのだ。今ではすっかり下火になってしまったが、天地戦争よりも遥か昔―――アメリアから黒船が来航し開国を迫ったその時から、今の幕府を打ち倒し新たな秩序を築くべしと息巻いていた攘夷浪士たち。散発的ではあるものの、倒幕を目指す彼らのテロは未だに続いている。
この前など蟲島に侵入し、落ち蟲を意図的に発生させるテロを画策していたところである。幸い首謀者が巨大スズメバチの餌食となった事で事なきを得たが、もしテロが成功していたら今の安定した情勢を築いた幕府の統治にも小波が立っていた事であろう。
「蟲島に気を付けろ、だそうだ」
「……承知した。土方殿にすぐ文を出そう」
「そうしてくれ。必要ならこっちからも戦力を出す」
「かたじけのうござる。それとヴォイテク殿」
「何だ」
「そなたのところの若手……ラウル殿だったか」
話題が変わるばかりかラウルの名前が出たところで、ヴォイテクは目を細めた。
「あの少女の目つき、もしやヘンリックの―――」
「……」
沈黙こそが答えだった。
ミカエルからの追加情報には、誰の事か明言されていなかったがはっきりとこう記されていた。
『対決の時は近い』、と。
やはり”血”は引かれ合うものなのであろう。
「はふっ、はふっ、はふっ」
一心不乱にたこ焼き弁当を頬張るフルールに癒されながらも萎れるラウル君。
大阪の洗礼は凄まじいものだった。
そりゃあもう危惧した想定の1.5倍の圧でございました。人混みなんて言葉が生易しく感じられるレベルで、もはや人の濁流という表現がしっくりくる。とにかくホームドアを出た時点でもうぞろぞろ流れる大河の如き人の濁流に流され流され、むしろ俺が仲間とはぐれるんじゃないかと思ったレベル。
それでも階段を降りてホームの下を潜り、向こう側のホームに気合で渡って、目を輝かせるフルールの為に根性でたこ焼き弁当をとりあえず人数分買ってきた事は褒めてほしい。
そういや大阪中央で新幹線乗り換えたけど、こっちの世界にはまだ「のぞみ」に相当する列車は存在していないらしい。前世の世界では暇な時に新幹線の時刻表とか調べて「へーコイツ東京から博多まで行くんだー」くらいには思ってたものだが。
N700系が1~2分間隔でじゃんじゃか走ってるんだし、いけそうな感じするんだけどねのぞみ。何かできない理由でもあるんだろうか。
名古屋を出発してからどのくらい経っただろうか。
今回は2人掛けの席を3つ占有させていただいた。進行方向側からクラルテとクロエ、その後ろに俺とフルール、後ろにロザリーとユリウスとなっている(ホントごめんロザリー)。
そろそろかなぁ、と思いながら何気なく窓の外に目を向けた。
「お」
「?」
たこ焼き弁当を食べていたフルールが、ぴょこ、とケモミミを立ててこっちを見上げる。
「どうかしたのか?」
「ほらアレ、富士山」
「え? あっ」
晴れ渡った空の彼方―――そこに鎮座するのは倭国で最も高い山、富士山。
うっすらと雪を被った山頂部の周囲には微かに雲が張り、大昔からそこに鎮座している大自然の威厳を示し続けている。
そう、このためだ。3人掛けではなく2人掛けの座席を予約していたのは。こっち側だと富士山がよく見えるのである。
よもや高校の修学旅行の時の記憶がここで役に立つとは思わなかった……あ、そういや俺京都・大阪から先行った事ないって言ってたけどアレ嘘だわ。社会人になってから行ってたわ広島。あの時2人掛けの座席が予約できず3人掛けの席に座ったら酔っぱらったおっさんが隣に座ってきて絡んできたから思い切りしばいたんだよな懐かしい。
結局おっさんは昏倒したまま目を覚まさなかったし、車内販売のお姉さんにも「連れを起こさないでやってくれ。死ぬほど疲れてる」と言っておいたので無事に博多まで連行されたと思うが。どうなったかは知らん。
さて、江戸までもう少しだ。
そこからは上越新幹線、そして日本では開業の叶わなかった羽越新幹線に乗り換える事になる。
長旅もようやく折り返し地点だ。




