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内戦終結

ヘンリック「ラウル。父ちゃんな、明日から戦争系の動画配信者として食っていこうと思うんだ」

ラウル「 ガ チ で や め ろ 馬 鹿 」


(仕留めたつもりだったんだけどなぁ)


 S&Dのヴィクトリア湖基地にある格納庫の屋根の上―――バイポッドを展開した『Voere X3』のボルトハンドルを引きながら、アニーは釈然としない手応えに満足していなかった。


 375 Swiss P弾でのヘッドショットである。狙撃用ライフル弾の代名詞、.338ラプア・マグナム弾を凌ぐ貫通力と威力を誇るライフル弾を600mの距離から頭に受け、それで眼(・)球(・)1(・)つ(・)で(・)済(・)む(・)というのがそもそもおかしいのだ。


 とはいえ相手は第一世代型の獣人である。アニーやミカエル、ラウルといった第二世代型獣人とは根本的に身体の造りが違うのだから存外こんなものなのかもしれない。


 第一世代型の獣人は『二足歩行で歩き人語を理解する獣』といった存在である。骨格や筋肉の構造は人間よりも、原型となった獣の方に近い。だから大型の猛獣の獣人は非常に打たれ強く、天地戦争では竜人兵たちに恐れられたのだそうだ。


 重機関銃の弾幕で薙ぎ払っても血を吐きながら突っ込んでくる獣人兵たち。そんな無数の兵士たちと対峙した竜人兵たちの心境は想像もしたくない。


 しかし肉体的に恵まれた半面、全体的な知能と魔術適性は低い傾向にある。


 アニーやミカエルたちが分類(カテゴライズ)される第二世代型獣人はおそらく、その第一世代型獣人の欠点を補うべく進化、あるいは創(・)造(・)主(・)に(・)遺(・)伝(・)子(・)改(・)造(・)さ(・)れ(・)て(・)誕(・)生(・)し(・)た(・)種(・)であるのではないか、とされているが、獣人や竜人の起源を含めては未だに謎が多い。


 いずれにせよ、そういった面でもヘンリックは厄介な相手と言えた。


 射撃を終えたライフルからマガジンを外し、薬室内の弾丸も抜いてケースに収めたアニーは、タラップを滑るように降りていった。たんっ、とコンクリートの地面に降り立つなり、彼女は振り向きもせずに功労者たちを労う。


「お疲れ様、2人とも」


 ヘンリックと真っ向からやり合った2人―――シスター・メリーと和服姿の女性の2人がすぐそこにいた。


「申し訳ありません、マム。逃げられてしまいました」


「いいわ。今はとりあえず追い払っただけで良しとしましょう」


 それより、と言葉を続けたアニーは視線を少しだけ伏せた。腹の底から盛り上がってきた言葉が、しかし喉元でつっかえている。これを言葉として吐き出してしまったら、辛い現実と向き合わなければならない―――ほんの数秒躊躇いつつも気持ちの整理をつけ、言葉を紡いだ。


「……何人死んだの?」


「9名です。重傷者3名、軽傷5名。いずれも現地採用のスタッフでした」


「そう……」


 元より、あのヘンリックと一戦交えて損害無しなどという都合のいい結果になるとは思っていない。むしろ死者9名と多少の負傷者、装甲車大破くらいの損害で済んだ事を喜ぶべきであろう。


 だが……それでも。


 スマホを取り出し、送られてきた戦死者リストを確認する。


 皆、見知った顔だった。故郷の村のため、あるいは家族のためにとS&Dの戦闘員という修羅の道を選んでくれた勇敢な兵士たち。彼らの家族にいったい何て手紙を書けばいいのか。


 彼らの犠牲を対価に、ヘンリックの片目という戦果は果たして見合うだろうか。天国に行った彼らは満足してくれるだろうか。


 いずれにせよ、この落とし前は更なる流血で贖ってもらわなければならない。


 戻りましょうか、と2人に語り掛け、アニーは笑顔を作った。


















 一方、首都ロロマでの戦闘は戦況が一変しつつあった。


 戦闘開始当初こそ、数で勝る反政府軍に対し精強な政府軍が拮抗する戦いぶりを見せ、しかしじりじりと押されつつあった。このままのペースで戦闘が推移すれば首都ロロマ陥落も時間の問題であろう―――そんな見立てが音を立てて崩壊したのは、横合いから飛来した榴弾でテクニカルの一団が吹き飛んだその時だった。


 ぐしゃぐしゃに破壊されたピックアップトラックの残骸や、バラバラになった人体だったものが降り注ぐ。


 いったい何が、と荷台で水冷式重機関銃を操作していた射手の上顎から上が唐突に消失する。まるで姿の見えない怪物がそこだけを齧り取っていったようにも思えるほどの”消失”。


 続けて風穴が運転席のドアを穿ち、運転席に座っていた反政府軍の兵士が有無を言わさずトマトジュースになり果てる。続けてエンジンルームにも大穴が立て続けに穿たれて、そのテクニカルも先立った仲間たちに倣うように爆散、燃え盛る鉄屑と化した。


『Nini?! Kuna nini kinaendelea?!(何だ!? いったい何が起こっている!?)』


 空から響く甲高い音。


 彼ら反政府軍の兵士やインフェルノの構成員たちには知り得ぬ事だが―――獣の金切声を思わせるそれは、RPG-7用の榴弾を結束バンドで腹に抱えた自爆ドローンたちの飛翔音であった。


 ロロマ市街地へと侵入を試みる反政府軍の車列を発見するなり、一斉に急降下する自爆ドローンたち。その機体には『眠っているクジラと、その身体の上で手を繋ぐ人々』のエンブレム―――S&Dのロゴマークが。


 自爆ドローンが突入し、歩兵が、テクニカルが、分け隔てなく吹き飛んでいく。中には荷台の重機関銃で果敢に反撃を試みる兵士もいたが、如何せんドローンの機体が小さい上に夜間である事もあって視界は最悪だった。


 どれだけ必死に弾幕を張っても、8㎜弾はドローンにかすりもしない。そうやって無駄な弾を浪費している間にもドローンの突入を許し、テクニカルが木っ端微塵になっていく。


 やがて―――戦場に、”鋼鉄の悪魔”が姿を現す。


 分厚い装甲で覆われた車体と悪路であろうとも走破できる履帯。車体の上には105㎜ライフル砲を搭載した大型の砲塔が搭載されており、この世界の戦車と比較して明らかに重量級のそれが、エンジンを唸らせながら凄まじい速度で突っ込んできたのである。


 『K1E2』―――韓国軍で運用されている主力戦車、K1戦車の近代化改修型である。「コンパクトサイズになったM1エイブラムス」ともいうべき存在であり、十分な火力を持ちながら主力戦車(MBT)の中では軽量で小回りも利きやすく、それでいてベースとなった車両も近代化改修された車両も比較的新しい部類であるため決して見劣りはしない。


 総じて使い勝手のいい優秀な戦車と言えた。


 どことなくアメリカの戦車を思わせる形状の砲塔には、やはりS&Dのロゴがある。


 ドムンッ、と105㎜ライフル砲が火を噴いた。発射された粘着榴弾が自爆ドローンの先制攻撃で混乱する車列と随伴歩兵の一団を粉砕。ロロマのメインストリートの一角を地獄へ変える。


 果敢なのか、それとも単なる怖いもの知らずか。ボルトアクション小銃を構えてK1E2へライフル弾を見舞う兵士も見受けられたが、しかし8㎜弾で止められるほどK1E2はヤワではない。仮想敵国と陸続きで隣り合わせで、いつ戦闘が起こるかもしれぬ祖国の守りを担う戦車が弱いわけがないのだ。


 砲塔上に据え付けられたブローニングM2が火を噴いて、戦車の装甲をライフル弾でノックする弁え知らずの兵士を瞬く間にトマトペーストへと変えてしまう。


 反政府軍側の気勢を削いだとみるや、K1E2の車列後方に控えていたS&Dの歩兵たちが一斉に展開。FB MSBS Grotのセミオート射撃で、情け容赦のない槍衾を相手に叩きつけていく。


 ヘンリックと入れ違いになる形で首都ロロマ救援へと向かわせていた、S&D機甲部隊及び機械化歩兵部隊。


 彼らがついに到着したのだ。


















 車長席の内壁に貼り付けた家族の写真を優しく指でなぞり、戦車兵は潜望鏡で前方の地獄を確認した。


 正直言って、弱い者虐めにしか思えない戦闘だった。相手は旧式の雑多な小銃に伝統的な民族の刀剣や棍棒、戦闘車両と言っても倭国製やアメリア製の中古車両に機関銃を据え付けた程度である。


 それに対しこちらは最新の装備を与えられた精強な兵士たちだ。技術水準も戦力差も、そして何より士気が違う。


 無論、ヘンリック率いるインフェルノによる認知戦の影響は受けていない。S&DのORCA機関からもたらされた精度の高い情報もあり、インフェルノがこのカフリアで何をしたのか……この内戦が全て仕組まれたものである事も知っている。


 これ以上、故郷を蹂躙させるわけにはいかない―――確たる意思を胸に、現地採用されたスタッフで構成されたS&Dの兵士たちは前に出た。


 インフェルノの旗を掲げたピックアップトラックに対し、Grotの情け容赦のないフルオート射撃。インフェルノの戦闘員が7.62×39㎜弾で蹂躙されているのを横目に、K1E2を指揮するカフリア出身の戦車兵は前進を命じた。


 攻撃は効かず、逆に一撃必殺の砲撃を繰り出してくる鋼鉄の怪物―――そんなものが戦場に敵として出現した反政府軍側の動揺はとにかく大きかった。中には銃を捨てて逃げ出す兵士もいたが、逃亡を選んだ兵士に対して彼らは決して矛を向けない。


 狙うべきはインフェルノだ。


 ドローン部隊もそれを把握しているようで、反政府軍側の士気が崩れたタイミングで標的をインフェルノに絞り始めた。腹にRPGの弾頭を括りつけられた自爆ドローンたちが一斉にテクニカルへと突っ込み、インフェルノの戦闘員たちが吹き飛ばされていく。


《Hii ni S&D. Vikosi vya waasi, tafadhali jisalimishe mara moja(こちらはS&Dです。反政府軍の皆さん、直ちに降伏してください!)》


 現地採用の女性スタッフが喋っているのだろう、流暢なヒワザリ語(※バンザビアの第一言語)で投降を促す言葉がロロマのメインストリートに響き渡る。


《Vita hivi vyote vilipangwa na Inferno. Serikali haitaki mauaji ya halaiki ya makabila madogo. Rais ameahidi kutoa msamaha ikiwa mtajisalimisha sasa. Tafadhali, simamisha vita mara moja. Tushirikiane kumrudisha Kafria mrembo!(この戦争は全てインフェルノが仕組んだものです。政府は少数民族の虐殺など望んでいません。今すぐ降伏するのであれば恩赦を与えると大統領は確約してくださっています。お願いします、直ちに戦争をやめてください。共に美しいカフリアを取り戻しましょう!)》


 スピーカーをぶら下げたドローンたちがロロマ上空を飛び回り、ヘリ部隊からは写真付きのビラがばら撒かれる。ヘンリック率いるインフェルノがこの紛争を仕組んだ事、少数民族の子供を殺害したのはインフェルノである事が、写真付きで全て記載されていた。


 そのビラを拾って真相に気付いた反政府軍の兵士もいたのだろう。中にはテクニカルから引きずり出されたインフェルノの兵士が反政府軍の兵士たちにリンチされている現場もあった。


 次に太陽が昇る頃には、バンザビアの戦争も終わっているだろうな―――そう思いながら、戦車兵は段々と夜が明けていく空を見上げていた。



















「ダメだなぁ、ボス」


 眼帯を付けて腕を組みながら、ロロマの廃ビルの上から戦場を見下ろすヘンリック。戦争が始まった頃のような楽しそうな笑顔はすっかりと鳴りを潜めていて、今の彼の表情は冷めきっていた。


 まるで今まで丹精込めて仕上げた作品を汚されたかのような、もはややり直す気力も湧いてこないとでも言いたげな、そんな表情だった。


 ああ、こりゃ完全に冷めてるな……とイーライは思う。


 それもそうだろう。何年もかけて丹念にした準備をし、いつ紛争が起こってもおかしくない下地を用意するのにかかった手間は思い返すだけでも胃が痛くなる。


 そしてS&Dによる情報開示によって反政府軍もインフェルノの正体に勘付き始めた今、もう二度とこのヴィクトリア湖周辺で民族対立を煽った紛争が起こる事はないだろう。どの民族も、外部から入り込んで取り入ろうとする外国人に対し警戒心を顕わにするだろうから。


 これでもう、完全にヘンリックの目論見は潰えた事になる。


「……右眼を潰した甲斐がねえなァ、えぇ?」


「仕方がねえよ。またどこか別の場所でやり直そうぜ、ボス」


「―――やってくれんじゃァねえか、オイ」


 ぎり、と歯を食いしばるヘンリック。


 先ほどまでの冷めた表情から打って変わって、今の彼の顔には憤怒だけがあった。


 最高の楽しみを邪魔された怒り。


 人間の「あるべき姿」としての戦争を否定された怒り。


 自分の存在意義を否定された怒り。


 心の中では戦争が大好きなくせに、上辺だけで人権だの平等だのを謳うお高く留まった連中への怒り。


 それらの支流が1つに集まり、怒りの感情だけを煮詰めたマグマとなって、彼の内面を焼き尽くしていた。





「俺ァ諦めねえからな、絶対に」






 


 


 

どうでもいい話


ラウル君はレントゲンでチェレンコフ光を見た事がある(※本気にしないでください)。

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― 新着の感想 ―
R-18Gを超えた残虐動画で配信サービスからBANされて即日終了じゃないかなあ、父ちゃん… 対物ライフルに迫る大威力狙撃銃で片目しか持っていけないって、考えてみたら凄い話ですね。まあ猛獣狩りみたいな…
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