あなたのハートに☆ライトニング
どうでもいい話
ラウル君は生まれてこの方、賭けが成立しないレベルでコイントスで裏しか出した事がない。
韓国の銃ってあまり触れた事がないと今になって思う。
トキに乗り込んでいる歩兵部隊の兵士(”パク”さんというらしい)に操作方法を色々教えてもらいながら、手に取ったK2小銃にSTANAGマガジンを挿入。ボルトリリースレバーを親指で押し込み、何発か撃ってみた。
日本のお隣、韓国のアサルトライフル。M16を参考にしながらも様々な小銃の機構を取り入れ良いとこ取りを目指して生まれたK2小銃を撃ってみた感想ではあるが、『可もなく不可もなく』という印象を受けた。
特徴となる独特な機構だとか、「この銃を語るならコレは欠かせない」みたいな特徴はあまり見受けられない。しかし逆に言うとそれは『技術的冒険を避け、戦闘に必要な性能を堅実に纏めた』という事である。
実際に命のやり取りをしてきた身として言わせてもらうと、【こういう銃が命を預ける上で一番信頼できる】という事だ。
洗練されていない独自の機構をぶち込んだせいで信頼性に難があるだとか、そういう銃は星の数ほどある。そういった奇抜な代物が軒並み淘汰されて今の最適解が存在するのだ。
第一、兵士の多くが小銃に期待する性能は「どんな状況でも確実に動作する」という至極当たり前の事である。雨の日だろうが風の日だろうが雪の日だろうが、灼熱の砂漠だろうがどこまでも続く泥濘だろうが、戦場を選ばず確実に動作する小銃こそが命を預けるに足る存在といえよう。
どれだけ命中精度が良くても、どれだけ威力の高い弾を撃てても、ちょっと泥が入っただけで動かなくなる銃などただの花火も同然。戦場で戦う兵士たちは”銃”を必要とするのであって弾の出る鈍器を欲しがるわけではないのだ。
そういう意味においては、K2は堅実な銃と評価できる。信頼性も高く堅牢、必要な要素はしっかりと押さえたアサルトライフルの1つである。
「おー、よく当たるなぁ」
「どうも」
トキ艦内の射撃訓練場。レーンの前に立ち先ほどからバカスカヘッドショットをキメている俺を後ろから見ながら、操作方法を教えてくれたパクさんが褒めてくれる。
「さすがは”戦狼”、異名付きだな」
「いえいえ、パクさんが教えてくれたからですよ」
「はっはっは、そう謙遜するな。きっと君に戦技を教えてくれた教官が優秀で、教え子たる君も優秀だったという事さ」
教官、と言われてヴォイテクの顔が思い浮かんだ。
それもそうだろう―――転生者の序列2位、加えて天地戦争の中でも特に激しい戦闘が行われたという末期の生き残りなのだ。メルキア沖の戦いに参加して生還しているのだから、優秀じゃない筈がない(むしろ優秀じゃない兵士は真っ先に死んでいる)。
「さ、そろそろ飯の時間だ。訓練はこの辺にして食堂に行かないか」
「ええ、ぜひ」
マガジンを抜き、コッキングハンドルを引いて薬室内の弾薬を排出。念のため空撃ちして弾が出ない事を確認、安全装置をかけて銃器管理担当の兵士にK2小銃を返却する。
隣でK1A小銃(※韓国製カービン)を撃っていたクラルテも同様に弾を抜いて安全確認をしてから返却、一緒に食堂へと向かう。
「ソーキルのご飯は中華でしたけど、トキのご飯はどんなのが出るんでしょうか。楽しみですね」
「そりゃあコーリア料理でしょ」
「はっはっは。今日はタッカルビ定食だぞ~」
パクさんが笑顔で教えてくれた。タッカルビかぁ、アレ美味かったんだよなぁ……とはいってももちろん最後に食べたのは転生前の事。会社の同僚と一緒に東京の韓国料理店に行った際に注文したのだ。甘辛く煮込まれた鶏肉と野菜の味わい深さと言ったらもう思い出しただけでよだれが出てくる。
案の定、食堂が近付いてくるにつれて美味しそうな香りが漂ってくる。足を踏み入れるとトキの非番の乗員たちで食堂がごった返していた。ワイワイ楽しそうに談笑しながら食事を楽しむ乗員たちの姿は微笑ましいが、それはさておきロザリーたちはどの辺に座ってるんだろうか。
「あ、来た来た。ラウルー! こっちこっちー!」
大きく手を振るロザリーとフルール。隣ではクロエが「はーっはっはっは! 待ちくたびれて首がキリンさんになるところだったよ仔犬ちゃん!」とかクソデカボイスで言ってるんだけどアレか、”首を長くして待つ”っていう表現のレベル100みたいなもんか首がキリンさんって。どういう表現?
着席してしばらく待っていると、エプロンをかけた猫の獣人の乗員がお盆に乗ったタッカルビ定食を持ってきてくれた。ご飯とスープ、そしてフライパンの上に乗ったアツアツのタッカルビに目を奪われる。バチクソに辛そうな色合いのコチュジャンの中に鶏肉と野菜、それからトッポギが入っていて、しっかり火が通っていて柔らかくなっているのが見るだけでも分かる。
あとは付け合わせなのだろう、キムチ3種類の乗った小皿とチヂミの小皿もあった。韓国料理ってこんな感じで品数多いんだよね。
いただきまーす、と手を合わせて箸を手に取った。
日本だと木製の箸が主流……というかこっちを見かける事が殆どだが、韓国では金属製の平べったい箸を使うのだそうだ。食器も金属製のお椀になっていて、こういう食器ひとつとっても文化の違いが垣間見えて実に面白い。
というわけで烈火の如くグツグツに火の通ったタッカルビに手を付ける事に。コチュジャンの染み込んだ鶏肉を冷ましながら口に運ぶともうね、口の中が幸せ過ぎて(あと熱さで)悶えそうになる。甘辛い味付けが染み込んでいて、コチュジャンに鶏肉の旨味が混ざり込みもう最高である。
赤くていかにも激辛でっせと言わんばかりの色合いをしているが、思いのほか辛くはない。
付け合わせのキムチにも手を付けてみる。さすが本場、熟成しきって少し酸味のある深い味わいだった(絡みも強烈だ)。
ぶっちゃけ俺、キムチは浅漬けみたいな感じよりもこういう酸味の出てる奴の方が好きなんだよね。それだけでご飯3杯はいける。
あー美味いわぁ、と幸せになっていると、隣に座っていたフルールが「あちゅっ!」と可愛い鳴き声を発した。
あーあ火傷したのか、と心配になって視線を向ける。どうやらアツアツのタッカルビに戦いを挑んだはいいものの、予想以上の熱量に苦戦を強いられているらしい。
「大丈夫?」
「あちゅい……」
ぴー、と言わんばかりに涙目になりながらお冷のコップを手に取ってちびちびやるフルール。しょうがないなぁ、と俺のタッカルビから鶏肉を箸で摘まみ上げ、十分冷ましてから彼女の方へ。
「え」
「ほれ、あーん」
「ふぁ……っ!? ぇ、ぁ、あーん……」
なんだこの子、イヌ科の獣人(※キンイロジャッカルの獣人)なのに猫舌だったのだろうか。それはさておき顔を赤くしながら鶏肉をもぐもぐ咀嚼するフルールの姿はきっと小動物か何かだろう。きっとそうだ。
「ねえラウル?」
「なんですロザリーさん」
「……今の間接キスでは?」
目からハイライトが消えた状態で口元に笑みを浮かべるロザリーさん(16)。彼女に指摘されてやっと、フルールが何やら戸惑ったりちょっと嬉しそうにしていた理由を悟った。そういや俺が持ってるのコレ自分の箸じゃねーか。
あーそういう……すっげー自然な流れでやっちまったから全然意識してなかった。
彼女の方に視線を向けると、「もう一回やって」と言わんばかりにジャッカルのケモミミがぴょこぴょこ動いていた。尻尾も飼い主と遊んでもらい大喜びな飼い犬よろしくぶんぶん左右に振られている。
『그 아이 귀엽다…(あの子可愛い……)』
『존중이 옷을 입고 걷고있다(尊みが服を着て歩いてるよ)』
『어라, 이 배의 터커비는 이런 달콤했나?(あれ、この船のタッカルビってこんな甘かったっけ?)』
言語の壁をぶち抜いて数名の乗員のハートもぶち抜くフルール氏(15)。そりゃそうだ、こんな小動物みたいな仕草見せつけられたら守りたくなってしまう。
「うふ、うふふふふ……ラウル? 私という未来の妻がありながら」
「ろ、ロザリーさん?」
「私、ラウルさんの”特別な存在”なんですよね?」
「クラルテさん? あの、何? なんで俺を羽交い絞めにしてるんです?」
「さあロザリーさん、今 で す 」
「 合 点 承 知 」
「うわぁバカバカバカそのタッカルビで何をするつもりなんだお前は」
「 は い 、 あ ー ん 」
「熱゛っ゛づ゛ う゛ぅ゛!゛!゛」
口の中火傷するわ! おまっ、なんて事を!
せめてフツーに冷まして食べさせて、と心の中で厳重に抗議を申し入れたところで、食堂の中のテレビのチャンネルが切り替わった。
先ほどまではコーリアののどかな農村の様子が映っていたりしたのだが、いきなり派手にライトアップされたステージの映像になったかと思うと、フリルがたくさんついた可愛らしい衣装に身を包んだ美少女が姿を現す。
俺たちくまさんハウス勢は凍り付いた。
テレビに映っていたのはフリッフリのアイドル衣装に身を包んだ協商連合代表、ミカエル・パヴリチェンコ氏(30歳既婚者子持ち)だったのだから。
《みんなぁー! こんミカー☆彡》
『『『『『こんミカぁ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!』』』』』
「!?」
食堂に居た乗員たちが一斉に唱和。え、ナニコレ。
《それじゃあ今日も一発目☆ みんなに笑顔と元気を届けちゃうゾ♪ それでは聴いてください―――”あなたのハートに☆ライトニング”》
『 국 가 제 창 ( 国 歌 斉 唱 )』
『 총 원 기 립 ( 総 員 起 立 )』
一斉に立ち上がるトキの乗員の皆様。いや飯食えよ、はやいとこ飯食べて配置つこうよ。
厨房の中にいるスタッフも手を止めて(ちょっとお鍋焦げてるよ!)テレビの方を見つめている。なんだこれ、いったい何が始まるんです?
それからだった―――無駄にハイテンポで明るいイントロが流れたかと思いきや、あんなに冷静沈着で政治家みたいな立ち回りをしていたミカエル氏(30)がロリボで電波ソングを歌い始めたのは。
キラキラ☆夜空のスキマから のぞいたキミの涙
しょんぼり寂しく ポツンと雨宿りしてるの?
だいじょうぶ! ミカがいますぐ飛んでいくよ
落雷注意の☆愛を受け取れ☆彡
溜息なんて ショートしちゃえ!
ブレーカーごと ショートしちゃえ!
暗い回路に キラッと光る
一緒にスパークしてみない?
あなたのハートに☆ライトニング!
どっかんずっきゅん 電圧MAX!
泣いてる夜も悲しい心も 一瞬でフル充電!
バチッと世界を照らしちゃうんだ☆彡
ほらね? 心が明るくなったでしょ?
俯いてるキミの心 立ち直れない時は
ミカがそっと隣にいて ”大丈夫!”って充電するよ☆
眩しいくらいのスマイルで 電子回路さえトリップさせちゃう!
落雷一発☆フルチャージ!
不安の雲を ぶち抜いて
稲妻みたいに 駆け抜けるよ
キミの笑顔が 咲くならもう
空模様なんて 関係ない!
あなたのハートに☆ライトニング!
ピンチの影も 一瞬でデリート!
泣き虫モードも 強☆制☆終☆了
スパークの光で ぜんぶ照らすよ!
ほらね? 心が明るくなったでしょ?
あなたのハートへ☆ライトニング!
未来のゲートを照らしちゃうの!
ゼッタイ離さない キミの電源!
ミカが守るよ ずっとずっとね☆
さあ行こう 光の向こうへ!
ほらね? 心が明るくなったでしょ?
……俺たちはいったい何を見せられているのだろう?
熱狂するトキの乗員たち。
サイリウムを振り始める調理スタッフ。
回 転 す る ミ ラ ー ボ ー ル 。
白目を剥きながら、俺はタッカルビ定食を黙々と食べ続けた。
というかなんで食堂にミラーボールがあるんだ。
「ティアナの件だが、アルカディアに定住し魔法の研究をしながら孤児院の経営をするんだそうだ」
「↑あんなもん見せられた次のパートでいきなりシリアスな話題切り出すのやめてもらっていいです?」
カチ、カチ、カチ、とMARS-Hのマガジンに7.62×51㎜NATO弾を装填しながら、急にシリアスパートに戻そうとしてくるユリウス兄貴にツッコミを入れる。
あんなさ、トキはまともな艦かと思ったらソーキル以上にフルスロットルでボケながら楽しく生きてるような光景見せられてさ、なんでそこからシリアスな話ができるんだお前は。せめてこの話が終わるまではあのノリで行きたいだろと言いたいところだが俺ら6人あのノリに見事に置き去りにされたんだよね……。
そりゃまあ、頑張って走って追い付こうとしたらみんな新幹線でカッ飛んでいったような感じだもんアレ。
それはさておき、だ。
ヴォイテクが今回の仕事に俺たちをアサインしたのは練度向上のため。レギオンからは相当な期待の眼差しが向けられているらしい。
ならばその期待を裏切るわけにはいくまい。
キッチリ仕事をやりきって、存在価値を示すのだ。
鉄パイプの代わりに持ってきた”タクティカルメイス”をホルダーに収め、腹を括った。
これからまた、あの地獄に戻るのだ。
あなたのハートに☆ライトニング
作詞・作曲:ヴォイテク
歌:ミカエル・パヴリチェンコ




