第398章 揺らぐ侵攻計画――三隊合流の決断
メンキは眉をひそめていた。
寨を落とせない。
それ自体は、戦場では珍しいことではない。
だが――。
(おかしい……)
これまでの戦いと、あまりにも違う。
彼は何度も周囲を見渡した。
守備寨の壁。
土煙。
そして遠くの丘。
そのときだった。
遠方から、突然煙塵が立ち上った。
騎兵だ。
それも、かなりの数。
メンキの目が細くなる。
(……敵か?)
彼はすぐに警戒を強めた。
だがしばらくすると、その顔に驚きの表情が浮かぶ。
やがて――
笑みが広がった。
「……あいつか」
煙塵の中から現れたのは、一隊の軍。
そして先頭には、見覚えのある姿。
古い戦友。
ヤマネコが率いる部隊だった。
メンキはすぐに馬を進める。
(こんなに早いのか?)
普通なら、もう一つの町を落とすのに、もっと時間がかかるはずだ。
それなのに、もう戻ってきた。
彼は馬を寄せながら声をかけた。
「ヤマネコ!」
「もう一つの町をそんなに早く平らげたのか?」
少し苦笑しながら続ける。
「俺の方はかなり手こずってる」
彼は守備寨の方向を指した。
「あの守備陣営の抵抗が、とんでもなく激しい」
「兵は数百しかいないのに……」
少し呆れたように言う。
「全員、死を恐れない狂った連中だ」
何度も攻めた。
だが。
すべて追い返された。
この数日で――
すでに二百人以上を失っている。
だがメンキは、今は少し安心していた。
「だが助かった」
「お前が来てくれた」
指で兵の列を示す。
「これで兵力は合わせて千五百近い」
少し考える。
「あと数日粘れば、必ず落とせる」
そして続けた。
「その後は三人で合流して、第三の隊を支援しよう」
だが。
その言葉を聞いたヤマネコは、慌てて手を振った。
「違う、違う」
「メンキ、お前勘違いしてる」
メンキは眉を上げた。
ヤマネコは苦い顔をする。
「俺は……撤退してきたんだ」
その言葉に、メンキの顔が固まった。
「……何?」
ヤマネコは肩をすくめた。
「俺が行った寨も、同じくらい手強かった」
最初は普通に攻めた。
だが。
やはり激しい抵抗。
壁を越えられない。
兵も消耗する。
そこで彼は考えた。
(だったら……)
(周囲の部族を潰す)
補給も断てる。
士気も崩れる。
普通なら、そうなる。
だが。
ヤマネコは苦笑する。
「ところがな」
「そっちの方が、もっと狂ってた」
メンキは思わず聞き返す。
「狂ってた?」
ヤマネコは頷いた。
「部族の連中が、命を捨てて突っ込んできた」
まるで自殺だ。
だが本気だった。
槍を持って突撃。
崖に飛び込む。
抱きついて道連れ。
結果――
ヤマネコはそこで大損害を出した。
「三百人の戦士を失った」
その言葉に、メンキの目が見開かれた。
三百。
それは軽い数字ではない。
ヤマネコは続ける。
「今じゃ向こうの総兵力の方が多い」
「しかも戦う気満々だ」
つまり――
これ以上戦えば、こちらが危ない。
「だから一度退いた」
「お前と合流するためにな」
メンキはしばらく黙った。
やがて、ゆっくりと聞く。
「……部族の戦士?」
「寨の外にいた雑魚の武装集団のことか?」
ヤマネコは頷いた。
その瞬間。
今度はメンキが混乱した。
「……待て」
「俺が遭遇した部族は、そんな強くなかったぞ」
彼は手を振った。
「あんな連中、簡単に蹴散らした」
そして冷たく言う。
「部族ごと皆殺しにした」
獣皇の威を示すためだ。
抵抗?
そんなものは、ほとんどなかった。
むしろ――
その部族の首領は降伏しようとした。
だがメンキは受け入れなかった。
今思えば。
少し後悔している。
「あいつらを残しておけば」
「いい砲灰にできた」
攻城の前に突っ込ませればいい。
そうすれば。
こちらの損失は減ったはずだ。
ヤマネコは完全に混乱した。
(……どういうことだ?)
本当に。
自分たちは別の軍と戦ったのか?
二人はしばらく議論した。
地形。
部族。
戦闘。
だが結局――
はっきりした答えは出なかった。
やがてメンキは首を振った。
「もういい」
「原因はどうでもいい」
彼は遠くの守備寨を見る。
「この地の寨は」
「最初は簡単に掃討できると思っていた」
新しい町。
防御も未熟。
そう考えていた。
だが――
違った。
守備軍は頑強だった。
しかも戦闘力は。
ほぼ正規兵レベル。
メンキは低く呟く。
「この新興王国……」
「どこからこんな資源を引っ張ってきた?」
兵を養う。
装備を揃える。
それは簡単なことではない。
もし。
どの町も同じなら――
「失地回復なんて夢だ」
ヤマネコも重く頷いた。
「その通りだ」
そして冷静に言う。
「今の俺たち二隊の戦力じゃ」
「一つの寨を落とすのに十日でも足りない」
さらに問題がある。
この上流。
もっと大きな町。
城。
そこから援軍が来たら。
「俺たちは逃げることもできなくなる」
メンキも同意した。
「だから今は」
「エダギリのところへ行く」
三つの劫掠隊。
合流すれば――
三千近い兵力。
さすがに一つは落とせる。
そして。
すぐ撤退。
それで報告できる。
今回は三千の正規軍を投入している。
もし何の成果もなく帰れば。
「俺たち三人の地位は終わりだ」
ヤマネコも完全に同意した。
二人はすぐに決断する。
出発だ。
残る一つの劫掠隊へ。
こうして二隊は合流し、行軍を開始した。
――。
残された最後の町。
それは辺境に最も近い場所にあった。
そして。
ここは最も被害を受けてきた地域でもある。
今回で――
三度目の劫掠だった。
前の二回は。
部族戦士が相手だった。
だから簡単に鎮圧できた。
だが今回は違う。
正規軍団。
守備官にかかる圧力は、まったく別物だった。
この町の領主部族。
無能ではない。
だが。
クルミの花のような存在でもない。
レーガンのような人物もいない。
つまり――
普通の領主だ。
部族民の生活は、可もなく不可もない。
毎日、薄い粥。
たまに腹いっぱい食べられる。
根薯の栽培もしていた。
だが本気ではなかった。
だから収穫も少ない。
ただ。
今年になって、ようやく理解した。
(根薯は使える)
だから急に作付面積を増やしている。
こういう領主は――
導けば育つ。
正しい道へ戻せる。
ただし。
クルミの花たちより、成長は遅い。
この町は辺境だった。
だから以前の施工隊が。
簡易な寨を作っていた。
だが。
かなり粗末だ。
骨組みだけ手伝った程度。
細部は獣人たちが自分で作った。
木材も。
組み方も。
正直、めちゃくちゃ。
それでも。
一応、防御はできる。
劫掠隊が来たとき。
彼らは比較した。
守備寨。
部族寨。
そして最初に狙ったのは――
防御の弱い部族寨だった。
何度か攻めた。
だが。
意外なことに。
中の獣人たちは強く抵抗した。
人数も多い。
結局。
劫掠隊は諦めた。
主目標を守備軍の寨に戻す。
数度の戦闘。
双方に損害。
この劫掠隊も、そろそろ限界だった。
だがその時――
遠くから軍が現れた。
二隊。
援軍。
それを見て、劫掠隊の兵たちは歓声を上げた。
三隊が合流。
三人の頭領が集まる。
そして決定した。
明日。
大規模総攻撃。
何としても守備寨を落とす。
そして。
戦果を持って帰還する。
――。
この寨の守備官。
名はチャール。
フィルードに長年仕えた古参兵だ。
今。
彼は苛立っていた。
ここ数日。
敵に二百ほどの損害を与えた。
だが。
こちらも五十人失った。
部族戦士。
守備軍兵。
どちらもだ。
今、動員できる兵力。
少年まで含めて――
三百から四百。
それが限界だった。
チャールは心の底から願っていた。
(援軍……)
来てくれ。
来なければ。
本当に終わる。
午後。
敵に援軍が到着した。
二千。
いや三千かもしれない。
チャールは歯を食いしばった。
(これは……)
自分たちだけでは無理だ。
だが。
まだ希望はある。
こちらにも援軍が向かっている。
最も近い小城。
そこから百里以上離れている。
だが。
小城の兵は少ない。
しかも今回の侵攻は規模が大きい。
罠の可能性もある。
だからフィルードは厳命していた。
「援軍を送るのは大城のみ」
「小城は自衛に専念せよ」
つまり――
本当の援軍は。
まだ来ていないのだ。




