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傭兵から商売を始めたら、いつの間にか領主になっていた件  作者: 篠ノ目
第四巻 商人から領主へ ――選ばされた支配

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第397章 包囲の影と静かな決断

おそらく――。

山頂でのあの戦いを見て、守備軍が領地を守り抜く覚悟を感じ取ったのだろう。

略奪軍団は、それ以上の攻撃を仕掛けてこなかった。

山の下でしばらく陣を構えたあと、やがて軍をまとめ、そのまま撤退していった。

クルミの花は、それが理解できなかった。

(……なぜ退く?)

戦況だけを見れば、敵がまだ攻め続ける理由はいくらでもあった。

こちらは損害が大きい。

老幼も多い。

守り切れる保証など、どこにもない。

それでも敵は退いた。

だが――。

クルミの花は深く追及しなかった。

今は考えるべきことが他にある。

彼は戦馬に飛び乗り、すぐに守備陣営へ向かった。

寨に到着すると、すぐにレーガンの元へ向かう。

そして先ほどの戦闘の様子を、細部まで報告した。

話を聞き終えたレーガンは、しばらく黙り込んだ。

彼はかつて直属軍団に所属していた男だ。

戦場は嫌というほど見てきた。

それでも――。

今回の話には、驚きを隠せなかった。

「腹いっぱい飯を食えるようになったばかりの獣人たちが……」

レーガンは思わず呟く。

「そんなに戦えるものなのか?」

実は、彼自身も以前の防衛戦である程度は感じていた。

守備軍団の兵士たちは、確かに命を惜しまない。

だが――

それでも、あそこまで極端ではない。

しばらく考えたあと、レーガンはゆっくりと頷いた。

おそらく原因は、地形だ。

クルミの花たちは、山で戦ったとはいえ、完全に有利な地形を使えたわけではない。

むしろ、逃げ場がなかった。

あの状況では――

命を懸けて敵とぶつかるしかない。

レーガンはクルミの花の肩を軽く叩いた。

「よくやった」

短い言葉だったが、重みがあった。

だがそのとき。

クルミの花は、どこか困ったような表情を浮かべていた。

何度も口を開きかける。

だが、言葉を飲み込む。

その様子を見て、レーガンは小声で言った。

「クルミの花領主」

「何か難しいことがあるなら、遠慮なく言ってくれ」

彼は静かに続ける。

「この町で決断できるのは、俺とお前だけだ」

「もし俺たちが心を一つにできなければ、この危機は乗り越えられない」

そして少し苦い顔をした。

「あの忌々しい豚頭族が、いつまで攻めてくるのかも分からないんだからな」

その言葉を聞き、クルミの花はようやく口を開いた。

少し恥ずかしそうな表情だった。

「レーガン兄弟……」

彼はゆっくりと言う。

「さっきの戦いを見て、俺もはっきり分かった」

少し目を伏せる。

「地形を使っても、あれだけの損害が出る」

「もし平原で遭遇していたら……」

そこで言葉を切った。

答えは明白だった。

壊滅。

「この辺の若いやつらはいい」

「負けても逃げられる」

だが。

クルミの花の声は、少し重くなる。

「俺が心配しているのは……」

「老人と子供たちだ」

拳を握る。

「もし奴らに捕まったら……」

「絶対に、ひどい目に遭う」

ボアマン。

彼らの恨みは深い。

この地域は元々、ボアマンの土地だった。

王国に奪われた土地だ。

だからこそ――

捕まれば、ただでは済まない。

クルミの花は一瞬黙り、そして勇気を振り絞った。

「もし可能なら……」

「老人と子供たちを、城塞の中に避難させられないだろうか」

言い終えると、すぐに付け加えた。

「分かってる」

「かなり無理なお願いだ」

だが。

「このまま外に置いておいたら……」

「俺も、戦士たちも」

「本気で戦えない」

レーガンは眉をひそめた。

クルミの花は、緊張しながらその表情を見つめる。

本当は――

最初、彼は戦士たちも一緒に入れるつもりだった。

だが木寨の広さを考えた。

だから妥協した。

老人と子供だけ。

それでも難しいことは分かっている。

しばらく沈黙が続いた。

そして――

レーガンが口を開く。

「……戦士たちも全員入れよう」

クルミの花は一瞬、言葉を失った。

レーガンは続ける。

「木寨は確かに狭い」

「人を詰め込むのにも限界がある」

だが。

「今は非常時だ」

「重なってでも、全員入れる」

そして、指を一本立てた。

「ただし」

「活動できるのは外院だけだ」

さらに厳しい声で言う。

「お前は絶対に部下を統制しろ」

「もし問題が起きたら……」

レーガンは苦い顔をした。

「俺たち二人とも、上に説明がつかない」

部族戦士たちは、王国が選んだ者たちだ。

つまり。

野性が強い。

「もし略奪や乱暴が起きて、大混乱になったら」

「免職で済む話じゃない」

クルミの花はしばらく呆然としていた。

やがて慌てて何度も頷く。

「レーガン兄弟、安心してくれ!」

彼は胸を叩いた。

「俺の手下は、今の生活に満足してる!」

「絶対に変な真似はしない!」

そして少し興奮したように続ける。

「俺たちの兵を合わせれば、千人以上になる」

「敵はせいぜい六百だろう」

もし援軍がいないなら――

「野戦を仕掛けてもいいくらいだ!」

レーガンはそれを聞き、少し笑った。

だがすぐに首を振る。

「考えは悪くない」

「だが軽率に正面衝突するのは危険だ」

彼は地図の方向を見た。

「周囲に援軍がいないと、誰が保証できる?」

今回この方面には、三千の敵軍が進んできている。

前方の二つの町が、まだ持ちこたえているかも分からない。

もし――

敵が合流したら。

その時は、本当に危ない。

レーガンは手を振った。

「今すぐ戻れ」

「皆を連れてくる準備をしろ」

そして少し笑った。

「この寨はな」

「最初から、こういう時のために少し大きめに作ってある」

クルミの花は深く頷いた。

すぐに山頂へ戻る。

夜明け頃。

大量の獣人たちが、次々と寨へ移動してきた。

部族の民が全員入り終えたとき――

寨は、完全に満員になっていた。

肩と肩がぶつかる。

家畜の幼獣さえ、抱えていないと歩けない。

それほどの混雑だった。

それでもレーガンは、重要施設の警備を強化した。

食糧庫。

武器庫。

すべてに厳重な衛兵を配置する。

一方クルミの花は、移動の途中で戦士たちに厳命していた。

「命令に従わなければ、その場で処刑」

「家族も連座だ」

さらに言う。

「小さなミスでも追放する」

「部族からも、王国からもだ」

つまり――

再び飢えの生活へ戻る。

その言葉は、戦士たちに強く響いた。

結果。

彼らは非常に大人しくなった。

食事の時間になると、きちんと列を作って並ぶほどだった。

――その頃。

山攻めに失敗した六百の敵軍は。

夜通し行軍して、別の町に到着していた。

そこでは今、激しい戦闘が行われている。

だが――

この町の状況は、レーガンの町とはまったく違った。

ここの獣人領主。

彼は、クルミの花のような人物ではない。

典型的な旧時代の部族首長だった。

部族民への扱いは苛烈。

生活は、以前とほとんど変わらない。

しかも保守的だった。

去年の根菜栽培にも従わなかった。

結果――

食糧不足。

部族は飢えていた。

さらに守備軍団との関係も最悪。

傲慢と偏見。

敵軍が町に侵入した瞬間。

彼は正面から戦おうとした。

結果は――

一戦で壊滅。

ボアマン軍に叩き潰された。

実はこの領主。

途中で降伏しようと考えた。

さらに――

道案内まで申し出た。

だが。

ボアマンたちは彼を嫌悪していた。

命令は一つ。

「全員、絞殺」

本当の意味での殲滅だった。

数千の獣人が殺された。

残虐さを誇示するために。

領主の首は切り落とされ。

旗竿に吊るされた。

今。

その敵軍は守備陣営を包囲している。

だが――

ここは違った。

守備軍団の獣人戦士たちは待遇が良い。

妻子も寨の中にいる。

外では。

部族民が老若男女問わず皆殺しにされた。

その話を聞き。

むしろ戦意は燃え上がった。

少年たちでさえ。

自発的に寨壁へ登り、防衛に参加した。

数日間の攻防。

双方に損害が出た。

だが規模は、レーガン側とほぼ同程度だった。

今。

敵軍の首領は、少し後悔していた。

(あの臆病な部族戦士ども……)

(砲灰に使っておけばよかった)

だが。

もう遅い。

今となっては――

自分たちの命で、穴を埋めるしかないのだ。

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