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傭兵から商売を始めたら、いつの間にか領主になっていた件  作者: 篠ノ目
第四巻 商人から領主へ ――選ばされた支配

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第395章 守る理由――底辺獣人たちの覚悟

レーガンは、戦いが避けられないことをすでに悟っていた。

目の前の敵――その装備を見れば、嫌でも理解できる。

鉄甲。

整った隊列。

統一された武器。

どう考えても、ただの略奪部隊ではない。

(……裏にいるな)

尻で考えても分かる話だ。

ドワーフ王国。

あの連中が裏で糸を引いているに違いない。

一つ問題を押さえ込めば、すぐ別の問題が浮かび上がる。

まさに――

葫蘆を押さえれば、瓢箪が浮かぶ。

そんな状況だった。

レーガンが考え込んでいる間にも、戦場はすでに動いていた。

ボアマンたちは城壁へ突進し、次々と梯子を立てかける。

木製の梯子が城壁にぶつかる音が響く。

「登れッ!」

怒号と共に、兵士たちがよじ登り始めた。

城壁の上では、守備軍団の兵士たちが慌てて対応する。

転木。

礫石。

次々と投げ落とされる。

「ぎゃああっ!」

城壁の下では、あちこちで悲鳴が上がった。

その時だった。

木壁の上に、一人の老兵が立つ。

大黒石。

彼は静かに杖を掲げた。

先ほど――

彼はたった一投で、敵の小頭領を貫いた。

その感触は、昔と変わらない。

(まだ衰えてはいないな)

老人はわずかに口元を歪めた。

その姿を見て、新兵たちが一斉に歓声を上げる。

第一波の攻撃は猛烈だった。

守備軍団の兵の多くは、まだ経験の浅い新兵だ。

どうしても守りは慌ただしくなる。

だが――

ここは城壁の上。

守る側には、圧倒的な地形の優位がある。

それだけで、多くの欠点は補える。

たまに登ってきた敵兵がいても――

すぐに数名の老兵が取り囲む。

そして。

「歓迎してやるよ」

鈍い音。

叫び声。

それで終わりだ。

戦いは正午まで続いた。

そして――

敵はついに後退した。

城壁の下には、百体以上の死体が転がっている。

レーガンは城壁の上から、その光景を見下ろした。

(……)

静かに考える。

もし敵がこの千名だけなら。

この営寨は守り切れる。

だが――

もし増援が来たら?

さすがに持ちこたえられないかもしれない。

現在、営寨の兵力は三百。

守備軍団兵 二百名。

獣人青壮年 百名。

先ほどレーガンは、その青壮年たちにも装備を配った。

そして城壁防衛に参加させた。

彼らは普段から訓練を受けている。

戦技は正規兵には及ばない。

だが、クルミの花配下の部落戦士よりは遥かに上だ。

それでも。

今回の戦闘で、敵に百名以上の死傷を与えたが――

こちらも三十名以上を失った。

その多くが、経験の浅い青壮年だった。

三百の守備兵にとって、これは決して小さな損失ではない。

レーガンは視線を遠くへ移した。

クルミの花。

あの部落領主は、今も部下たちを率いて町の周辺を移動している。

彼には城壁がない。

隠れる場所もない。

攻撃されたら――

逃げるか。

正面からぶつかるか。

そのどちらかしかない。

正直、レーガンたちの状況が羨ましかった。

だが彼も逃げるわけにはいかない。

町の範囲外へ逃げれば――

領主資格は剥奪される。

しかし正面から戦えば、千名の正規軍団など相手にならない。

そんなことを考えている時だった。

一人の獣人戦士が、慌てて駆け寄ってきた。

息を切らしながら叫ぶ。

「首領様ッ!」

「俺たち……あのクソ豚頭族に見つかりました!」

その言葉を聞いた瞬間、空気が凍った。

――。

その後。

クルミの花が部下たちを率いて逃げ回っている最中。

レーガンは完全に呆然としていた。

クルミの花は、少し気まずそうに笑う。

「レーガン兄弟……」

彼は肩をすくめた。

「この連中はまあいいさ」

「俺が連れて逃げ回れば済む」

「最悪、この辺りでゲリラ戦をやればいい」

山頭一つ守るくらいなら、何とかなる。

そう言って笑う。

だが、すぐに真顔になった。

「でもな……問題はこれだ」

彼は後ろの荷車を指した。

食糧。

大量の根薯袋が積まれている。

「もし俺たちが全滅したら、この食糧はあのクソ野郎どもの物になる」

それはあまりにも簡単なことだ。

しかも。

「こんな量を抱えて逃げ回るのは不便すぎる」

だから――

「まずこの食糧を守備軍団の営地に預けたい」

「危機が去ったら取りに来る」

「どう思う?」

レーガンは、一瞬も迷わなかった。

「いいだろう」

すぐに命令が出る。

クルミの花部落の食糧は、すべて営寨へ運ばれた。

袋が倉庫に次々と積み上げられていく。

そして――

最後の荷を運び終えた直後だった。

敵が現れた。

略奪隊。

先頭には百名のボアマン。

全員が鉄甲を着ている。

その後ろには、九百名の豚頭族。

多層の皮甲。

整った隊列。

一目で分かる。

(……正規軍団だ)

これは略奪部落の戦士ではない。

完全に訓練された軍隊だ。

その光景を見て、クルミの花は衝撃を受けていた。

部下たちが――

必死に抵抗している。

普段は怠け者で、だらしない連中だと思っていた。

それが今、命を懸けて戦っている。

(……俺は)

自分の部下を、まったく理解していなかった。

本当に侮っていた。

だが。

すぐに気づく。

その理由に。

彼らは生まれてから、まともな生活など経験していない。

多くはミノタウロスの支配下で生きてきた。

あの連中は、彼らを人間扱いすらしなかった。

一日一食の満腹など夢のまた夢。

数日まともな食事がないことも珍しくない。

搾取。

暴力。

鞭。

しかもそれは外敵だけではない。

同族の貴族たちの方が、むしろ残酷だった。

彼らが今まで生きていられたのは――

異常な耐飢能力のおかげだ。

耐えられない者は、とっくに死んでいる。

そんな彼らの世界が変わった。

突然現れた人間。

フィルード。

彼によって、すべてが再編成された。

最初は抵抗した。

憎しみさえ抱いた。

いつか復讐してやる。

そう思っていた。

だが――

去年の秋。

状況は劇的に変わった。

毎日、満腹の食事。

朝。

午後。

濃い根薯粥。

しかも。

以前の根薯とは違う。

食べすぎても下痢にならない。

榆の樹皮が加えられ、味も良い。

そして――

塩。

それがある。

こんな生活は、昔の首領貴族ですら味わえなかった。

それを今、全員が享受している。

もしこの生活が続くなら――

夢の中でも笑える。

彼らは今年、さらに多くの根薯を植える予定だった。

秋にはもっと満腹になれる。

一日一食の満腹。

それを二食に増やせるはずだった。

だが。

突然、すべてが壊れた。

部落の町が襲われた。

しかも。

かつて「強力な戦闘種族」と呼ばれたクソどもに。

彼らは高尚な思想など持っていない。

国家など理解しない。

フィルードのために命を捧げるつもりもない。

だが――

一つだけ分かっている。

この土地を守れば。

クルミの花が負けなければ。

レーガン様がここにいれば。

この生活は壊されない。

だから。

侵略者には代償を払わせる。

たとえ自分が死んでも。

子供と女房だけは、この生活を続けさせたい。

その思いは――

誰に命じられたものでもない。

完全に自発的なものだった。

口で叫ぶ勇気など、大したものではない。

本当に恐ろしいのは。

命を賭けて戦う覚悟だ。

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