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傭兵から商売を始めたら、いつの間にか領主になっていた件  作者: 篠ノ目
第四巻 商人から領主へ ――選ばされた支配

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第390章境界突破――フィルード上位中級へ

潜るにつれ、周囲の魔力濃度は目に見えて濃くなっていった。

(やはり……間違っていない)

フィルードは確信していた。

魔力の流れは、明らかにさらに下へと続いている。

だからこそ、彼は潜行を止めなかった。

やがて湖底に到達した時――

「……洞窟だ」

岩壁の奥に、ぽっかりと口を開けた穴が見えた。

フィルードとエレナはほとんど迷わなかった。

二人は目配せを交わすと、そのまま洞窟へと滑り込む。

だが――

中へ入っても、まだ水は続いていた。

洞窟の内部は、依然として広い水潭になっている。

(……長いな)

この時点で、二人はすでに七〜八分ほど水中にいる。

さすがに無理はできない。

フィルードは手で合図を送り、いったん撤退した。

二人は上へ浮上し、洞窟外で呼吸を整える。

数分後――

体力を回復した二人は、再び潜った。

今度は最短ルートを選ぶ。

猛烈な速度で洞口へ泳ぎ、一分ほどで接続口を突破した。

そして――

一気に浮上する。

水面から顔を出した瞬間、二人は思わず周囲を見渡した。

そこには別の空間が広がっていた。

先ほどの湖よりは小さいが、それでもかなり広い。

ただし――

完全な闇。

光は一切ない。

フィルードは腰の防水獣皮袋を開き、火打石を取り出した。

カチッ。

火花が散る。

やがて油灯に火が灯った。

揺れる灯りが、洞窟内部を照らす。

「……これは」

フィルードは目を細めた。

溶洞の壁は、無数の鍾乳石で覆われている。

だが――

これまで見てきた鍾乳石とはどこか違う。

岩というより、滑らかな玉石のような質感だ。

(羊脂玉……に近いな)

前世の記憶がよぎる。

フィルードは近づいて触れてみたが、特別な魔力反応はない。

ただの鉱物のようだ。

「普通の鍾乳石ですね」

エレナも軽く観察してそう言った。

二人はさらに奥へ進んだ。

すると――

すぐに異変を見つけた。

岩壁の一角に、血のように赤い鍾乳石が垂れている。

表面は湿っていた。

その瞬間――

フィルードの瞳が鋭く光った。

(……来た)

その鍾乳石から、膨大な魔力が放出されている。

明らかに異常だ。

フィルードはすぐ目を閉じ、魔力の流れを慎重に探る。

数秒後。

彼は源を特定した。

「下だ」

鍾乳石の真下。

そこには小さな窪みがあり、液体が溜まっていた。

量は多くない。

せいぜい一桶分ほど。

液体は美しい琥珀色をしていた。

そして――

ほのかな清香が漂っている。

フィルードはゆっくりと息を吸った。

(……とんでもない)

この液体。

魔力含有量は――

上位級。

しかも、上位中級に近い濃度だ。

二人は顔を見合わせた。

そして、同時に笑った。

狂喜だった。

こんなものは、フィルードも聞いたことがない。

魔法宝庫の文献にも記録はない。

つまり――

未知の資源。

エレナが声を潜めて言う。

「魔力含有量……異常です」

「ですが……毒がないか確認する必要があります」

彼女の目が輝いていた。

「もし無毒なら……」

「私たち、大当たりですよ」

フィルードは首を横に振った。

「毒はない」

断言だった。

彼は指で洞窟の外を示す。

「下の水潭を見ただろう」

「この鍾乳石が、この液体の源だ」

「窪みが満杯になると、余った分は岩の隙間から湖へ流れる」

つまり――

あの湖の魔魚は、この液体の恩恵で進化した。

「毒なら、魚はとっくに死んでいる」

エレナは納得して頷いた。

フィルードはしゃがみ込み、慎重に液体をすくう。

そして――

迷わず飲み込んだ。

次の瞬間。

腹の奥で――

魔力が爆発した。

(……っ!)

フィルードは即座に座禅を組んだ。

体内で荒れ狂う魔力を制御し、吸収していく。

数分後。

彼は目を開いた。

(……まだ足りない)

フィルードは再び液体を掬った。

今度は少し多めだ。

ゴクリ。

再び体内に流し込む。

結果――

液体の約一割を飲み干した。

そして再び瞑想。

次の瞬間。

体内の魔力が、爆発的に膨張した。

長年停滞していた境界。

それが――

まるで鎖が外れたように砕けた。

(……来た)

フィルードの体から、圧倒的な魔力が溢れ出す。

そして――

彼は上位中級へ到達した。

ゆっくりと目を開く。

口元に、静かな笑みが浮かんだ。

(これが……機縁というものか)

この水潭。

間違いなく、彼の人生最大のチャンスだった。

その様子を見ていたエレナは――

完全に羨望の目になっていた。

「……ずるい」

彼女はしゃがみ込み、大きな尻を突き出しながら液体に手を伸ばす。

「私も飲む」

フィルードは即座に手を振り上げた。

バシン!

乾いた音が洞窟に響いた。

「きゃっ!」

エレナは危うく水溜まりに落ちそうになる。

振り返って睨んだ。

「何するの?」

フィルードは冷静に言った。

「今飲むのは無駄だ」

「お前はまだ上位初期の蓄積が足りない」

「こんな貴重なものを使うなら、突破の直前に使え」

「今飲めば……後で後悔する」

エレナはしばらく黙った。

そして――

ため息をついた。

「……確かに」

冷静になれば、正論だ。

今使うのは贅沢すぎる。

フィルードは笑った。

「この場所は絶対に秘匿する」

「外では誰にも言うな」

彼は琥珀の液体を見下ろす。

「これは無限に生成される資源だ」

「王国にとって、とてつもない利益になる」

エレナは力強く頷いた。

その後――

二人は洞窟を出た。

まず部隊をゴブリン営地へ戻す。

そしてこっそり水袋を持って再び戻り、液体をすべて回収した。

ゴブリン営地に戻った後。

フィルードは、ある問題に悩んでいた。

それは――

大ゴブリンたちの処遇。

この個体たちは非常に知能が高い。

研究価値も大きい。

一体でも外へ出れば、普通にゴブリン王として君臨できる。

だが――

解放すれば忠誠は保証できない。

殺すのも惜しい。

その時。

レーガンが小声で言った。

「陛下……お悩みですか?」

フィルードは頷いた。

「何か案はあるか」

レーガンの目が光った。

「あります」

「この大ゴブリンたちを……」

「各地のゴブリン部族へ派遣するのです」

フィルードは眉を上げた。

レーガンは続ける。

「北域には無数のゴブリン部族があります」

「彼らを王国の代理統治者にすれば」

「暴乱を抑え、人口を管理できます」

「掃討戦を繰り返すより、はるかに効率的です」

フィルードは少し考えた。

(……悪くない)

むしろ、かなり良い。

「条件を追加しよう」

彼は言った。

「賢い幼体だけを残せ」

「獣性が強い個体は捨てろ」

「繁殖は制限しない」

「そうすれば……」

「知能の高いゴブリンが増える」

レーガンは感嘆した。

フィルードはさらに続ける。

「今、王国の北方は土地が余っている」

「放牧地は根薯栽培の普及で大幅に減った」

「空いた土地を放置すれば、必ず敵が現れる」

彼は笑った。

「ならば――」

「ゴブリンに使わせればいい」

「戦争になれば、先鋒として使える」

レーガンは深く頭を下げた。

「陛下の深謀遠慮……感服いたしました」

こうして決定が下された。

その後――

一行は谷を離れた。

そしてフィルードは、五体の大ゴブリンをそれぞれ異なる方向へ派遣した。

北域のゴブリン世界を――

新たな秩序の下に置くために。

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