表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
傭兵から商売を始めたら、いつの間にか領主になっていた件  作者: 篠ノ目
第四巻 商人から領主へ ――選ばされた支配

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

372/446

第367章冷然たる覇者、戦端を開く

エレナは静かに頷いた。

目の前の若きケンタウロス獣皇よりも、隣に控える年配のケンタウロスの方がはるかに理性的だ――彼女は瞬時にそう見抜いていた。力に溺れる若者より、飢えを知る老兵の方が交渉は早い。

(感情ではなく、損得で動く相手を選ぶ。それだけで成功率は跳ね上がるわ)

彼女は素直に年配のケンタウロスへ向き直り、身振りで交渉を続けた。

提示した条件は明快だ。こちらが一万袋規模の根菜を提供する。

エレナは頭の中で素早く算盤を弾く。布袋一つにおよそ十ポンド入ると仮定すれば、一万袋で十数万ポンド。軍全体の備蓄から見れば痛手ではない。

(この程度で大軍を動かせるなら、安い投資よ)

だが、年配ケンタウロスの目は満たされていなかった。

さらに身振りを交わすうち、その要求は明白になる。

――百萬袋。

つまり一千万ポンド。

常識外れの数字だ。だがエレナは眉一つ動かさなかった。

(痛い?いいえ。これで彼らを矢面に立たせられるなら、むしろ得。戦争は食糧で勝つのよ)

フィルードも同じ判断を下すだろう。そう確信し、彼女は即座に頷いた。

その後も苦労しながら意思疎通を重ね、ようやく合意が成立する。

エレナがテントを出ると、ケンタウロス獣皇もすぐに後を追った。そして軍団の召集を始める。

数度の鋭い口笛。

次の瞬間、四方から無数の蹄音が響き、大量のケンタウロス戦士が駆け寄ってきた。

獣皇がガラガラと何かを叫ぶと、戦士たちは即座に四散する。

(統率は取れている……野蛮だが、軍としては使える)

エレナはすぐには去らず、わざと空へ舞い上がり、旋回しながら様子を観察した。

派遣された兵たちは大小の部族へ走り、やがて各部族から大量の戦士が現れる。皆、大きな荷物を背負い、ゆっくりと集結を始めた。

出征準備に間違いない。

それを確認し、エレナはようやく満足する。

(約束は守らせた。あとは陛下の一手次第)

彼女は迷いなくフィルードの大営へ飛び立った。

その頃、フィルードはメイヴの報告を受けていた。

「陛下、この数日の観察によれば、ドワーフは国内から大量の戦士をこちらへ呼び寄せています。特に犬頭族の数は把握しきれません。

ブルース率いる奇襲軍団はマイク軍団長と合流済み。すでに二つの大規模運糧隊を壊滅させました。それぞれ約三万規模です。

さらに牛頭城の守備軍から二万のドワーフ兵が北へ集結中。我らの劫掠隊を狙っていると見られます」

フィルードは机を指で軽く叩き、目を閉じた。

(来たな。こちらの動きを読んでいる)

ゆっくりと口を開く。

「……どうやら大戦は避けられん」

声は冷静そのものだった。

「今すぐ最速でマイクの元へ行け。全て伝えろ。

その後は食糧を携え、ドワーフ辺境へ偵察に向かえ。ただし敵軍に近づきすぎるな。

奴らは今頃、大鳥を脅かす武器を完成させているはずだ。高度を上げろ。敵陣から一里以上離れろ。

近づけば、確実に落とされる」

命令は簡潔、迷いはない。

メイヴは静かに頷き、即座に去った。

続いてフィルードは伝令兵を呼ぶ。

「定獣城へ向かえ。狼青たちに伝えろ。

軍を編成し、こちらへ集結。速度最優先。三日以内だ」

伝令兵は深く一礼し、駆け去る。

その背を見送りながら、フィルードはわずかに目を細めた。

(今なら牛頭城を落とせる)

城壁はまだ低く、守備は三万。

ここを奪えば天然の要害を得る。以後の戦局は大きく傾く。

(攻めるか、待つか)

だが次の瞬間、彼の中で答えは固まる。

(両方だ。攻めながら、引き込む)

命令が飛ぶと同時に、北域全体が騒然となった。

各地から兵が呼び集められ、北部大営へ殺到する。

情報を得たブルースとマイクも慎重になり、平原での挟撃を避けるため山脈地帯へ移動。峡谷に拠点を築き、奇襲の機会を待つ。

三日後。

牛頭城から派遣された二万のドワーフ軍が運糧隊と合流。

戦士四万、犬頭族農夫四万超。

一方ブルース側は直属四万強、騎兵を加えて五、六万。

装備は敵が優位。

(正面からでは分が悪い。だが地形が味方する)

それでもドワーフ王は即時決戦を避け、本土からの増援を待つ決断を下した。

数で圧倒してから叩き潰すつもりなのだ。

(慎重だな。だが、その慎重さが命取りになる)

同日。

フィルードは南側大営で十二万の守備軍を集結させ、北へ進軍。

半日で牛頭城近郊へ到達した。

すでに城壁はかなり築かれている。高さは低いが、面積は広い。

「木材を集めろ。投石車を造れ」

即断。

狙いは明確。砲撃で城壁を崩し、突入して決戦。

(劫掠隊は危険だが、ここを放置すれば背後を刺される)

双方、状況は似ている。

あちらは地形の利。こちらは城壁の利。

そして数。

定獣城から集めた木工職人のおかげで、投石機は驚異的な速度で完成していく。一日で数十基。

さらに軍を分け、周囲から巨石を運ばせる。

やがて重型投石機が並び、数十ポンド級の巨石が唸りを上げて飛ぶ。

轟音。

城壁に亀裂。

守備側ドワーフ将軍は愕然とする。

(この威力……想定以上だ)

時間が経つほど投石機は増え、城壁の損傷は深刻化。

このままでは持たない。

一方、ブルースとガロ。

急峻な峡谷に布陣。

谷口は百から二百メートルほど。木柵で封鎖。

奥には小川。辛うじて飲料水を確保。

要首城から食糧が継続的に送られ、大型弩や小型投石機も運び込まれている。

(ここなら十万来ようと止められる)

ブルースは冷静に地形を見渡していた。

その時。

両側尾根の斥候が駆け下りてくる。

「ブルース軍団長殿!大量のドワーフ軍が進軍中!推定七、八万以上!視界に収まりきりません!決戦の構えと思われます!」

報告を聞き、ブルースは静かに目を閉じた。

(来たか)

そして、薄く笑う。

(数で勝てると思うなよ。ここは俺が選んだ戦場だ)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ