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傭兵から商売を始めたら、いつの間にか領主になっていた件  作者: 篠ノ目
第四巻 商人から領主へ ――選ばされた支配

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第368章断崖を駆ける鋼角

ブルースの胸は、静かに、だが確かに高鳴っていた。

激戦になることは分かっていた。七、八万の大軍。しかも装備に優れたドワーフ軍。

だが――恐怖はない。

(これが、大軍を率いるということか)

これほどの規模の兵団戦を指揮するのは初めてだ。正直に言えば、まだ手探りの部分もある。だが、不思議と圧迫感は感じなかった。

数年間、フィルードの側で戦場を見続けてきた。

包囲戦、奇襲、撤退戦、焦土戦。

(大局を見る目は、もう養われている。俺は――もう新人じゃない)

ブルースは深く頷き、声を張った。

「偵察を継続しろ!全投石機と大型弩を両側の崖上へ配置せよ!」

兵が動く。

「今日は北上以来、最も強力な敵と対峙する日だ。だが任務は殲滅ではない。

時間を稼げ。可能な限りな。

陛下が南のドワーフの城を奪えば、この段階は我らの勝ちだ」

(俺たちは刃じゃない。楔だ。打ち込まれれば、敵は動けなくなる)

言い終えると、隣の人間将軍に低く囁いた。

「武器を持ち、督戦の準備をしろ。

今回は激しい。獣人の中に逃げる者が出ても不思議はない。

怯えて後退する者は、その場で斬れ。報告は不要だ」

将軍は迷いなく頷く。

(甘さは軍を殺す。ここは戦場だ)

ドワーフ軍は一日休んだだけで、再び攻撃を開始した。

最前列に立たされたのは――犬頭族。

数万の犬頭族戦士が、長槍を握り、鉄片を嵌めた鎧を身に纏っている。

ドワーフの製作技術は世界一。鉄器を惜しげもなく配る。

(装備だけは一流だな。だが戦意は?)

ブルースは冷静に見下ろした。

「まだだ……もう少し引きつけろ」

犬頭族が二十メートル以内に迫る。

「撃て!」

次の瞬間、木寨の上から投槍が嵐のように降り注いだ。

四肢を貫かれ、犬頭族が次々と転倒する。悲鳴が峡谷に響く。

数百の死傷。

それだけで隊列は崩壊した。

犬頭族は一斉に逃走する。

後方のドワーフ将軍が怒号を上げるのが見えた。

(想定通り。戦意が低い兵に、上からの投槍は悪夢だ)

密集して頭上から降る死。

理屈ではなく、本能が逃げろと叫ぶ。

次の手は早かった。

ドワーフは大型弓弩を担ぎ、犬頭族の後ろに続いて前進。

七、八十メートルで停止。

再び犬頭族を突撃させる。

ブルースはすぐ察した。

(抑え撃ちで投槍を封じる気か)

彼は手を挙げた。

「伝令!山頂へ!弓弩部隊に伝えろ!

ドワーフ弩兵を直射せよ!

どちらの弓弩が強いか、見せてやれ!」

伝令が駆ける。

犬頭族が十数メートルに迫った瞬間――

両側の尾根から、重い破空音。

標的は犬頭族ではない。

ドワーフの弩陣地。

ガロが持ち込んだ大型弩は数百基。さらにシャルトンによる改良。

牛角を利用した複合素材により、射程も威力も大幅に向上。

軽量化され、ほぼ一人で担げる。

(上から撃てば、全てが有利に働く)

弩矢が雨のように降る。

上から下への慣性。

貫甲矢頭。

ドワーフ弩兵が次々と倒れた。

彼らは射程を誤算していた。

一瞬で主導権が奪われる。

慌てて反撃するが、下から上では威力が出ない。射程も足りない。

こちらの損害は軽微。

一斉射撃が終わると、兵たちは冷静に絞盤を回し、再装填。

その間に犬頭族が再び木寨目前へ。

「投槍!」

再び雨。

先頭が刈り取られる。

混乱、悲鳴、崩壊。

遠方のドワーフ将軍も全てを見ていた。

(弩で抑え、犬頭族を突っ込ませるはずが……逆に弩を潰されたか)

山上からの射撃は止まらない。

五輪射撃。

ついにドワーフ軍は耐えきれず撤退を開始。

犬頭族は主人の後退を見て完全に崩壊。

四散する。

ブルースは苦笑した。

「……投石車を使う前に逃げたか」

本気で叩けば、近づくことすらできなかっただろう。

(正面からでは来ないな。次は策を変える)

ドワーフ幕舎。

将軍は険しい表情で戦場を見下ろす。

「早急に決着をつけねばならぬ。その後、南へ戻り王庭を支援する。

長く手薄にすれば、フィルードに食い破られる」

重苦しい空気。

その時、屈強なドワーフが進み出た。

「大将軍。

大角羊騎兵を投入すべきです。

この山岳では無類の機動力。山脊を駆け上がり、敵の弩陣地を破壊できます」

周囲が賛同する。

将軍は目を閉じる。

(損害は出る。だが時間がない)

両側の山脊は急峻。登れるとはいえ、石を落とされれば被害は甚大。

だが――他に手はない。

「……投入する」

正午。

ブルースとガロが次策を話している最中、第三波が始まった。

また犬頭族。

同じ布陣。

だが、違うものが一つ。

一万を超える大角羊騎兵。

鋼の角を持つ巨羊が陣から飛び出す。

ブルースの視線が鋭くなる。

(本命はあれか)

騎兵は二手に分かれた。

五、六千ずつ。

遠方の低山から迂回し、両側の山脊を目指す。

(弩陣地を潰す気だな。悪くない判断だ)

だが。

ブルースは叫ぶ。

「伝令!

一万六千の直属軍団を両側山脊へ!

遠距離陣地を死守しろ!

絶対に突破させるな!」

(ここを抜かれれば均衡が崩れる。だが――)

彼は静かに笑った。

(俺が選んだ戦場だ。簡単に渡すと思うなよ)

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