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傭兵から商売を始めたら、いつの間にか領主になっていた件  作者: 篠ノ目
第四巻 商人から領主へ ――選ばされた支配

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第279章 火薬という切り札

これらの奴隷は、かつてフィルードが魔石鉱脈を掘らせていた一団だった。

外界との接触はほとんど断たれ、長年にわたって密命専門の労働に従事している。

フィルードは彼らに対して、表向きにはかなりの厚遇を与えていた。

それぞれに妻となる女をあてがい、生活水準も一般の奴隷より高い。

だが――その分、管理と監視は徹底されていた。

(この連中は“資産”だ。

 だが同時に、“秘密”でもある)

硫黄の結晶をすべて削り落とし、秤にかける。

結果は、わずか六ポンド強。

フィルードは眉をひそめた。

(……手間の割に、少ないな)

とはいえ、これは初期実験段階に過ぎない。

工程を改良すれば、産量は確実に上がる。

短期間での増産は難しいが――入手経路を確立できたこと自体が最大の成果だった。

これで、炸薬包や小規模な爆裂兵器の製作は可能になる。

フィルードは硫黄を農奴たちに引き渡し、

同じ手法で精錬を続けるよう命じた後、大鳥に掴ませて峡谷領へ戻った。

領地へ戻るなり、彼は倉庫から硝石の袋を一つ担ぎ出した。

この期間、土法による精製で、すでに一万ポンド以上の硝石を備蓄している。

とはいえ、それは効率の悪い煮沸精錬によるものだ。

(前世の工業規模には、ほど遠い)

加えて、公共便所に溜まった硝土の多くは、まだ手つかずだ。

すべて精錬すれば、さらに相当量が得られるだろう。

本格的な拡大を狙うなら――

工程革新か、硝石鉱の発見が必要だ。

現状では、後者のほうが現実的だとフィルードは判断していた。

(大規模な火器運用は……まだ先だな)

彼は硝石・硫黄・木炭を並べ、調合を始めた。

比率は1:2:3。

前世で学んだ、ほぼ反射的に出てくる数字だ。

ただし、細かな最適比率は感覚頼みになる。

その後の数日間、フィルードは峡谷奥の密林で実験を繰り返した。

爆音が何度も響き渡り、領民たちは騒然とした。

腹心たちが様子を見に来たが、すべて追い返した。

やがて、人々も音に慣れ始める。

執念の試行錯誤の末、

フィルードは最適解に辿り着いた。

硝石:六割五分

硫黄:一割五分

木炭:二割

均一に混ぜれば、威力は侮れない。

この実験で硫黄はすべて使い切ったが、

再び峡谷へ赴き、今度は三十ポンド以上を確保した。

戻ってから、すべてを火薬へ加工する。

フィルードは前世の知識を思い出し、

卵白を加えて粒状火薬へと昇華させた。

成形し、天日で乾燥。

最終的に――百ポンド。

彼はようやく手を止めた。

続いて、特殊な陶罐を製作する。

二重構造で、内層に火薬、外層に大量の鉄釘。

(……破片効果は十分だ)

その頃、ローセイからの報せが届いた。

ミノタウロスとの交渉は決裂寸前。

相手は傲慢で、ジャッカルマンを骨の髄から蔑視している。

理由は明白だった。

彼らの配下には、大量のジャッカルマン眷属がいる。

ミノタウロス獣皇は命令口調で言い放ったという。


――南からボア・マンを攻めろ。

――勝てば封地を与える。

――拒めば、滅ぼした後でお前も始末する。


フィルードは眉間に皺を寄せた。

(……なるほどな)

しばらく考え、彼は理解した。

ジャッカルマンが対等になれば、

配下の眷属たちが異心を抱く。

それは、ミノタウロスの支配基盤そのものを揺るがす。

(豚頭族を切り崩すのと同じだ。

 老本を掘り返されるのを、何より恐れている)

納得したフィルードは、即座にライドンを呼んだ。

ローセイへ伝えよ。

ボア・マン王庭と交渉せよ。


条件は変えない。

牛(全量)

ジャッカルマン(全員)

羊は三分の一

領土は多少譲ってもいい。

数値は誇張しろ。

具体数ではなく、総量に対する割合で要求せよ。

牛とジャッカルマンは絶対に譲歩不可。

羊のみ調整可。


承諾されれば、和平を結べ。

ライドンは重くうなずき、

魔獣に乗って耀獣城へと飛び立った。

その夜、ローセイはドクガ老者を招き、条件を伝えた。

老者は口を開けたまま、しばらく固まった。

「……無理だ。

 ボア・マンは牛肉を何より好む。

 成牛をすべて要求するなど、命を奪うに等しい」

ローセイは首を横に振った。

「好みで生きていけるほど、状況は甘くない。

 生き延びるために、何を捨てるかだ」

そして、静かに告げた。

「拒めば、ミノタウロスと組む。

 その場合でも、俺の目的は果たせる」

ドクガ老者は沈黙し、

やがて力なくうなずいた。

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