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傭兵から商売を始めたら、いつの間にか領主になっていた件  作者: 篠ノ目
第四巻 商人から領主へ ――選ばされた支配

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第224章 理性を刈り取る騎兵戦

ウェインは即座にその意図を理解した。

一瞬の逡巡もなく命令を飛ばし、騎兵たちは一斉に加速して距離を取り始める。

後方の敵騎兵は慎重だった。

およそ二百メートルほど追撃したところで足を止め、馬首を返して再び歩兵陣列の近くへと戻っていく。

それを見た瞬間、フィルードとウェインは同時に動いた。

再び騎兵を率いて引き返し、敵にまとわりつく。

――守りに戻れば嫌がらせ。

――追ってくれば逃げる。

その単純なやり取りを、双方は何度も繰り返した。

だが、その単純さこそが、相手の神経を削っていく。

六度、七度と同じ行動を繰り返すうちに、敵騎兵の将領の顔には明らかな焦りが浮かび始めた。

そしてついに、四百――五百メートルという距離まで、深追いしてきた。

その瞬間、フィルードの背筋に、冷たい歓喜が走った。

(……来たな)

「侯爵閣下、相手が完全に熱くなっています」

声は落ち着いていたが、内心では戦況がはっきりと見えていた。

「そろそろ、目を覚まさせてやりましょう。どちらが格上か――分からせる時です」

ウェインもまた、抑えきれぬ高揚を浮かべていた。

「ははは……この時を待っていた。理性を捨てた騎兵ほど、扱いやすい敵はいない」

彼は魔力を込め、戦場に響き渡る大音声で叫んだ。

「騎兵軍団、二列に分かれろ!

前方で旋回、反転!

この敵軍を粉砕せよ!

タロン王国め、図に乗りおって……今こそ雪辱の時だ! 殺れ!」

号令一下。

訓練を積み重ねた騎兵たちは、まるで一つの生き物のように動いた。

前方で陣形を「丫(Y)」字に展開し、両翼から鋭く旋回を始める。

その光景を見た敵将は、ようやく致命的なミスに気づいた。

振り返ると、自軍の歩兵陣列は、すでに遥か後方にある。

(しまった……)

一瞬の油断。

停止命令を出すべきだった。

だが、もはや遅い。

彼は歯を食いしばり、最も近い敵騎兵を指して怒鳴りつけた。

「野郎共、もう後戻りはできん!

突撃だ! まず右側の敵を叩き潰せ!

我々が持ちこたえれば、歩兵が追いつく!」

四千を超える騎兵が、雪崩か津波のような勢いで突撃を開始した。

その進路は――皮肉にも、フィルードとウェインのいる側だった。

(……なぜ、いつも俺のところに来る)

内心で毒づきながらも、フィルードはすぐに思考を切り替えた。

不平を言っている暇はない。

ウェインは即座に状況を把握し、短く、だが明確に命じた。

「全騎兵、散開! 散兵線を展開して迎え撃て!」

次の瞬間、両軍の騎兵が猛烈な速度で激突した。

鈍い衝突音。

金属が砕ける音。

兵士の悲鳴と、軍馬の絶叫が入り混じる。

フィルードは上位魔法長槍を構え、最大級の魔力を注ぎ込んだ。

同時に、大黒にも魔力を叩き込み、爆発的な加速を引き出す。

一人と一頭は、旋風のドリルのように敵陣へ突き刺さった。

意図的に――超凡者の気配が薄い方向を選んで。

その選択は正しかった。

彼らが通過した後には、倒れ伏す馬と死体が幾重にも積み重なっていた。

後陣を抜けた時、フィルードの全身は返り血に染まり、大黒もまた、黒から赤へと色を変えていた。

騎兵戦でもっとも凄惨なのは、第一列だ。

この衝突で、双方の先頭はほぼ壊滅した。

以降は速度が落ち、馬上で突き刺し合う消耗戦へと移行する。

味方は半数の兵力で受け止めたため、数では劣り、被害も大きかった。

フィルードの推測では、味方は数百名が突撃の途中で失われた。

一方、敵の損害は百名程度。

――だが、それは想定内だ。

その時、もう一方の翼から旋回していた騎兵隊が、全速で突撃してきた。

速度は、圧倒的だった。

停滞した敵騎兵に対し、速度差は致命傷となる。

轟音と共に、敵の一翼は鎌で刈られる麦のように次々と倒されていった。

フィルードの視界には、味方の長槍に敵騎兵の死体を突き刺したまま進む兵士たちの姿が、何十人も映った。

戦場は一気に混戦へと移行した。

フィルードは機を見て軟弓に持ち替え、遊撃しながら確実に敵を仕留めていく。

時間の経過とともに、敵の数的不利は明確になった。

疲労が蓄積し、次々と落馬する。

そこへ、ついに敵歩兵が包囲に動いた。

「全員、離脱せよ! 右前方へ撤退!」

ウェインの号令に従い、味方騎兵は秩序を保ったまま戦場を離脱する。

敵騎兵には、もはや追撃する力は残っていなかった。

距離を取ったところで、ウェインは高らかに笑った。

「痛快だ……! タロン王国を、ついに打ち負かしたぞ!」

親兵が駆け寄る。

「侯爵閣下、大勝利です!

敵騎兵は二千騎も残っていません!

こちらの損害は千名足らず!」

ウェインは満足げに頷き、短い休息の後、再び嫌がらせを再開した。

敵騎兵は、もはや歩兵の陰に隠れ、顔を出そうともしなかった。

やがて、味方の歩兵が追いつく。

敵将が慌てて陣を立て直そうとするのを見て、エドモン国王は冷ややかな笑みを浮かべた。

だが、即時投入はしない。

精鋭兵も疲弊している。

彼は迷わず、農奴兵を前進させる命を下した。

残酷だが、効率的な判断だった。

最前線で、粗末な皮鎧の農奴たちが追い立てられるように突撃する。

敵軍も容赦はしない。

百メートル圏内。

一斉射撃。

空を覆う矢の雨が降り注ぎ、農奴兵の陣列は瞬く間に混乱へと陥っていった。

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