第24話 「永遠の愛」
俺とソラは筑泉と別れ、SS級鉄華が占領する北区の最奥を目指して歩いていた。
「とうとう、俺とお前だけになってしまったな」
「はい」
ソラの返事はあっさりしていたが、表情の方は口元をやんわりと緩め、朗らかである。彼女の瞳は薄い青色で染まっており、つかの間の安全を保証していた。
こうやってソラと二人で歩くのは、あのデートの時以来のことである。だがもちろん、今回はデートとはいかない。風が砂埃を運ぶ、無味乾燥な街を二人で歩いているだけ――いや、正しくは一人と一台であり、実質独りぼっちというわけだ。
まるで、世界に独り取り残されたかのような、全ての人類に置いてけぼりを食らったかのような気分だ。
地球を捨てて宇宙船に乗った人類の中で、俺だけロボットと取り残されたかのような。
――ヒトゴロシには、ちょうど良い風景だ。
分からない。
どこに向かって歩けばいいのか、分からない。
倒すべき鉄華もその場所も分かっているはずであり、俺は今、そこに向かって歩いているはずなのに、足を動かしている気がまるでしない。強化レッグを装着した足が、俺の足の主導権を奪ってしまったのか、俺の意志とは無関係に足が勝手に動いてしまっている。その道が正しい道なのか答えを出せずにいる俺の足を、人類の手に負えない最凶の存在のもとへと導いている。
まるで、死神の笛の音に地獄の穴へと誘われているかのように。
――分かっている。
いつまでも戦場に帰り続けることはできないということは。
鈴の願いが、鉄華への復讐でも殲滅でもなかったことは。
どの道、俺に全ての鉄華を殲滅されることはできない。仇の相手全てを滅ぼすよりも早く、鉄の何かに殺されるか、鉄還りをしてしまい、敵の仲間になってしまうことは目に見えている。
けれども、戦場にしか自分の居場所がない。
死んだ鈴に対して何もしてあげられないなんて、そんな自分を許すことは絶対にできない。
戦場に居場所を求めるほどに、自分が人間ではなくなっていく気がする。
鉄の華を焼き殺す度に、鉄の人間を焼き殺す度に、身体が錆びついて、身も心も軋んでいく。このまま《人枯》であり続けると、いずれ俺は動かなくなってしまう。
そしてその時は、すぐそこまで迫って来ている。限界は、近い。
――でも、どうすればいいのか、分からない。
本当は、仲間殺しなんてしたくない。
人を枯らして、何も感じないわけがない。
今も昔も、これからも、ずっとそうだ。
マッドソルジャーにも《人枯》にも、本当は成り切れていない。
誰一人として、殺したいと思って殺した人などいない。
誰も彼も、皆――――生きてほしかった。
赤城陸、伊勢崎希美、室戸真、田原五郎、俺が初めて戦場を共にした同志たち、その後の戦場で部隊を共にし、鉄華殲滅を目指した同志たち、鉄魔となった街の人々、今の今まで共に戦った、仲間たち――松川三木広も、佐伯葛も、能代湊も、長岡志奈乃も――一人残らず、全員に……生きてほしかった。
生きて……一緒に生きて…………俺に、教えてほしかった。
ロボットですら知っている、生きる意味というものを。
――でも、誰も彼も、皆……俺を置き去りにしていった。
分からない。
どうしたらいいのか、分からない。
あの日から――大切な人がいなくなった、あの日から……俺は、何のために生きればいいのか…………いくら考えても、答えがでない。
誰か、教えて欲しい。
誰か、助けてほしい。
俺は……どうすればいい?
どうすれば、許される?
どうすれば、救われる?
どうすれば、生きたいと思える?
大切な人のいない世界で、俺にいったい、何ができる?
死んだ人は、もう二度と喜べないのに。
死んだ人は、もう二度と笑えないのに。
死んでしまった人に、生きている人ができることなんて、何もないのに。
大切な人を救えなかった俺が、笑って生きるわけにはいかない。
大切な人がすることの叶わなかったことを、俺がするわけにはいかない。
俺は、幸せになるわけにはいかない。
俺は、哀しみをさらけ出して、涙を晒して、救いを求めるわけにはいかない。
――でも、本当は、許されたい。
本当は、救われたい。
本当は、生きたいと思えるようになりたい。
本当は、死んでいった大切な人たちのために、できることがあるのだと、信じたい。
――でも、どうしても、答えが見つからない。
どうしても、どうすればいいのか、分からない。
――俺には……分からない…………。
「真我里さん、どうかしましたか?」
ハッとして――声のした方向へと首を向けると、いつの間にかすぐ傍に、ソラの姿があった。
「大丈夫ですか? お身体が優れないのですか?」
俺の顔を覗き込むように、じっと上目遣いで俺を見つめている。俺の様子を思いのままに窺う、少女のような瞳だ。
「いや……何でもない」
立ち止まった俺は、思わず顔を逸らしてしまう。
誰かに話したところで、ましてやロボットに話したところで、答えなど出やしない。理解不能な話に、ロボットの回路をショートさせるだけだ。
――コイツは、鉄魔となった土浦寧々を撃ち抜いた時、何を思った?
土浦寧々が鉄華の攻撃を受けて鉄魔となっていることは、想定された事態であった。だが、まさかよりにもよって、土浦寧々と共に働き、共に暮らしてきた、誰よりも縁の深いソラが、鉄魔となった彼女と対峙することになろうとは――運命は、ロボットにも容赦がない。
あの時、ソラがかつてのマスターの額を撃ち抜いた時、ソラは青い瞳――つまりは兵器ロボットではなく、マスターを知る花屋の人型AIロボットであった。
あの時のソラは、かつてのマスターを、大切な存在であったはずの人を、殺したと感じたのだろうか。
それとも長岡の考え方のように、魂を解放してあげたと感じたのだろうか。
――あるいは、機械のように、何も感じなかったのか。
たとえそれが、土浦寧々の知る瞳の姿で、撃ち抜いたのだとしても――。
「――ソラ」
「はい、何でしょう?」
ソラが身体ごと俺の方へと向けて、俺と正対する。
「……いや、別に――」
何を思い、大切な人の変わり果てた姿を撃ち抜いたのか――訊ねようとも思ったが、やめた。
訊ねたところで、何になるというのだ。
別に、何も変わりやしないのに――。
「……あ、そうだ。クイズの答え、分かったぞ」
何となく気まずくなったので、俺は話を逸らした。クイズとは、ソラが俺と観覧車に乗った時に出題してきた、マスターから聞いたとかいうやつだ。
「ソラの上には何があるか――答えは、『種』だろ?『ソラ』とは『ドレミファソラシド』の『ソ』と『ラ』、つまり音階の『ソ』と『ラ』ことだ。『ソ』と『ラ』の音の上には『シ』と『ド』がある。『シ』と『ド』、『シド』、『シード』。英語で『SEED』を意味するのは『種』。正解は『種』だ」
俺はソラの目を見て答える。花屋であった土浦寧々が出題したクイズということは、その辺りが答えとして妥当だろう。この答えは、土浦寧々とソラのかつての住居にあった「Flower & Seed」の看板を見て、ふと閃いた。
もっとも、『ドレミファソラシド』はイタリア語の音名であり、対応する英語の音名は『CDEFGABC』であるのだが、まあそこは、素人の考えたクイズなので文句は言うまい。F・フォースの正式名称にも、一つだけ言語の異なるFが混ざっているわけであるのだから。
「おめでとうございます。真我里さん、正解です」
「そうか」
クイズの答えに正解したところで、別にめでたくも何ともないが。
と――ソラが上空を見上げながら、口を開いた。
「空の上には、たくさんの人たちの種があります。肉体を失い、種となった人たちが、地上にいる真我里さんたち、今を生きる人たちを見守っているのです」
……どうやらソラは、クイズの醍醐味が分かっていないようである。土浦寧々の渾身のアイデアは、ポンコツロボットには伝わっていなかったようだ。
肉体を失った人、つまりは死んだ人が種になるという、ロボットらしからぬ発想も気にはなるが、それをソラがクイズの答えの味噌だと捉えているのならば、納得できるところではある。
「じゃあ……死んだ俺の姉も、ずっと空の上で見守っているんだな」
だからこそ、戦場でしか鈴に会えない。
星明かりを遮るものがない、戦場でしか――。
鈴に出会うためには、戦場に居続けて鉄華を殺さなければならない。
鈴を殺した鉄華に、復讐し続けなければならない。
戦場に帰るしか、会う方法がない。
だが、会えたところで……鈴は泣いている。
その姿を想像するだけで、どうしようもなく胸が苦しくなる。
どうすれば、空の上にいる鈴が、もう傍にいない大切な人が笑ってくれるのか……俺には……分からない――……。
「いいえ」
と、ソラの右手が――俺の胸に、触れる。
「咲いていますよ。真我里さんの胸の中で」
ドクン、と――強く鼓動が弾けた。
「マスターが言っていました。花は枯れて、また咲くのだと。 花が枯れてまた咲くのは、また咲いてほしいと願う誰かがいてくれるからなのだと。花は枯れて種となり、そして花を想う誰かのもとで、再び花を咲かせるのです」
ソラの右手は、俺に軽く触れただけなのに――胸が熱い。
――まさか……
「……訊いてもいいか?」
「はい、何でしょう?」
「……お前のマスターの、好きな食べ物はなんだ?」
「はい。マスターの好きな食べ物は、オムライスでした」
「……マスターの好きなスイーツは?」
「はい、マスターの好きなスイーツは、チーズケーキでした」
「……マスターの趣味は?」
「はい、マスターはアパレルショップでクラシックスタイルの服を選ぶことと、雑貨屋さんを巡ることが趣味でした」
「――そうか……」
――そういうこと、だったんだな……。
「なあ……ソラ」
「はい、何でしょう?」
ソラが淀みのない青の瞳を俺に向ける。俺は意を決し、口を開いた。
「お前のマスター、土浦寧々は……いま、どうしている?」
俺がソラに向けて放った言葉は――目の前のロボットを動揺させることなく、微笑ませた。
「はい。私のマスター、土浦寧々は、三年前に亡くなりました。ですが私は、マスターが私の中で花を咲かせて、いまも私の傍にいてくれていると、そう信じています」
俺の目の前にいるロボットは、両手を機械の胸に合わせて答えた。笑顔のまま、顎を下げ、瞳を閉じて――祈るように。
大切な誰かを想う、一人の女の子のように――。
ロボットは目的を持って作られる。
ロボットは役割を持って生まれてくる。
ロボットは生まれる意味を、生きる理由を、あらかじめ持って生まれてくる。
はじめ俺は、このソラというロボットが、鉄華を殲滅するためだけに作られ、生まれてきた兵器ロボットなのだと思っていた。
だが、それが違うと知り、今度はソラというロボットが、花屋のロボットとして、花を売る人型AIロボットとして作られ、そして兵器ロボットに作り変えられたのだと、そう考えた。
だが、それも違った。
俺は、とんでもない誤解をしていた。
ソラは、花屋のロボットとして作られたのではない。
この、ソラという人型AIロボットは――土浦寧々のために作られ、そして生まれてきたのだ。
ずっと、疑問であった。どうしてソラが、俺とのデートを望んだのか。どうして兵器ロボットが、戦闘とは真逆のそんなことを望んだのか。
はじめ俺は、それが軍の命令であり、俺が今後も使える兵士であるかどうかを見極めるためなのだと思っていた。
だが長岡の話から、それは間違いであり、デートは軍からではなくソラ自身が希望したことだと分かった。それからその謎は、今の今まで解のない答えのままであった。
だが、それも今、判明した。
ソラが俺にデートを申し込んだのは――ソラのマスターである土浦寧々が、生前に異性とのデートを望んでいたからだ。
男性と待ち合わせをし、恋人たちに人気のオムライス店に行ったのも、互いのオムライスを一口分交換して、食べ合うような真似をしたのも、アパレルショップに行き、男性が勧める服を試着して感想を求めたのも、カフェでチーズケーキを注文して、他愛のない話をしたのも、雑貨屋に行き、男性と商品を見て回るのも、遊園地に行き、観覧車へ一緒に乗るのも、ジェットコースターを一緒に乗りたがったのも、キスを要求したのも――全ては、生前に土浦寧々が望んだことであったのだ。
土浦寧々が亡くなった後も、自分の中に土浦寧々がいる。
大切なマスターが、自分の傍にいてくれている。
だから、土浦寧々のために作られた自分は、土浦寧々の望むことをしよう。
土浦寧々のために生まれてきた自分は、土浦寧々が笑顔になることをしよう――きっと、そう思ったに違いない。
ソラにとって土浦寧々は、鉄魔となり現在自動発電装甲車に乗せられている、鈍色の亡骸などではなく、心の中で今もなお生き続けている大切な存在であり、ロボットであるソラが、作られた意味を見失い、フリーズしてしまわないように、今もなお命の炎を灯し、笑顔へと導く標でもあるのだ。
――俺自身は、どうだろう?
俺は――ロボットは違って、自分の生まれてきた理由なんて、分からない。
ただ――俺が今まで生きてこられたのは……鈴のおかげだった。
だから……鈴に恩返しする、鈴のために、生きる――それが俺の、姉が生きていた頃の、一番の望みだった。
その点では、このロボットも、俺と同じだった。
ソラも俺と同じで、大切な人のために、生まれ、生きる――そんな存在であった。
だが――ソラは、俺とは違った。
本来ならば、ソラのマスターである土浦寧々が死んでしまった時点で、ソラの役目は終わりであった。
ソラというロボットが稼働し続ける意味を、生き続ける意義を、失ったはずであった。
だが――ソラはマスターの死後も、生まれてきた理由を、生きる意味を、見失わなかった。
花は枯れて、また咲く――花は枯れて種となり、そして花を想う誰かのもとで、再び花を咲かせる――そんなマスターの言葉を信じ、マスターが生前に望んだこと、生前に成し遂げることのできなかったことを自身が代わりに行うことで、自らの役目を果たしていたのだ。
そうすることで、土浦寧々が喜んでくれる、土浦寧々が笑ってくれる――そう信じて。
たとえ、不条理に兵器に作り変えられ、新たな生きる意味を与えられても、マスターのことだけは、その動力炉に抱き続けて。
瞳が青く輝いているうちは、唯一無二の大切な人のために、できることをする。愛するマスターのために、生まれ、生きる――そんなかつて約束を、決して忘れずに。
マスターが死に、すぐさま兵器に作り変えられ、およそ三年もの間、眠り続けたソラ。彼女が目覚めて、まず実行したのは、兵器ロボットとしての役割ではなく、マスターのために生まれてきたロボットとして、マスターの望みを叶えることだったのであろう。そして、マスターの望みに見合う人物が、たまたま俺であったというわけだ。
ソラとデートをした時、俺はソラのことをよく笑うロボットだなと思った。俺はそれがこのロボットの仕様であり、プログラムされているから笑うのだと考えた。
だが本当は、ソラが大切な人を失った今もなお、笑っていられるのは――ソラの中で、大切な人が咲いているからであり、ソラの大切な人が、ソラが笑顔でいることを望んでいる――自分が笑えれば、マスターも笑顔になるのだと、そう信じているからなのかもしれない。
ソラの額に咲くキキョウの花は、単なるエナジーアイとしての飾りでなく、生まれた日に授かった花言葉のように、「永遠の愛」を確かに貫いていたのだ。
俺は――鈴が死んでから……全てが終わったのだと、もう、鈴に恩返しすることも、鈴のために生きることもできず、生きる理由も、生きるも望みも全て失ったのだと……そう思い、諦めた。
ただただ、鈴が死に至る一因を作った鉄華を憎み、戦場を自分の居場所にすることで、生きることから逃げるしかなかった。
鈴を失った哀しみを、憎しみで上書きするしかなかった。
――でも、本当は……そうではなかったのではないか?
俺にできること、俺がすべきだったこと――。
それは――憎むことではなく、鈴の願いを叶えることだったのではないのか?
ソラというロボットが、マスターの願いを叶えるために、俺とのデートを望んだように。
死んだ人は、もう二度と喜ばない。
死んだ人は、もう二度と笑わない。
死んでしまった人に、生きている人ができることなんて、何もない――そう思っていた。
だが、それは違う。
死んでしまった人が生前に成し遂げられなかったことを、叶えられなかった願いを、実行することこそが、残された人が為すべきことだったのではないか。
先に逝ってしまった大切な人の想いを汲み取り、いつまでも、その人のことを忘れないでいることこそが。
――鈴の願い……。
『ごめんね……ジェットコースター、一緒に……乗ってあげられなくて』
『私も……ジェットコースター……乗りたかったな……』
――あの言葉は……俺に対する言葉だったのかもしれない。
俺が道に迷わないように。俺が鈴の分まで、前を向いて生きていけるように。
俺は――生きてもいいのだろうか?
俺はただ、哀しみを乗り越えようとせずに、前を向こうとせずに、自ら進んで孤独な道を進むだけであった。
鈴を救えなかった俺が、笑って生きるわけにはいかない。鈴がすることの叶わなかったことを、俺がするわけにはいかない。俺は、幸せになるわけにはいかない――そんな答えを標として、自ら闇道へと踏み入れるだけであった。
俺は――幸せを望んでもいいのだろうか?
俺みたいな、鈍色の血で手を汚したマッドソルジャーでも、敵の手に堕ちた仲間を枯らすヒトゴロシでも……人並みの幸せを、人並みの救いを望んでいいのだろうか?
――花は枯れて、また咲くからいいのよ。
初めて聞く、言葉ではなかった。
花は枯れて、また咲く――あれは俺がまだ幼い頃、花が枯れずに、ずっと咲いていればいいのにと、鈴に嘆いた時の答えだ。
「真我里さん、どうかしましたか?」
ソラの声が傍で聞こえる。そっと目を向けると、彼女の若葉色の髪に付けられた、白い花の髪飾りが目に入った。俺がプレゼントした花だ。
戦士には似つかわしくないが、淀みのない青にはとても似合っている。
俺のセンスは間違っていなかった。
「……すまない、やはり、体調があまり優れないようだ。……だから、少しの間だけ……お前の身体を、俺に貸してくれ」
俺は、ソラの肩に顔を埋める。彼女に顔を見られないようにするために。
「ソラ……訊いてもいいか?」
「はい、何でしょう?」
「お前は……泣いたことがあるか?」
「申し訳ございません。私は涙を流すことができません」
「……そうか。ならば、一緒だな。俺も……姉が死んでから、涙を流す機能を失ったんだ」
「そうなのですね。でしたら、真我里さんが再び涙を流せるように、祈らせて頂きます」
「……ああ、すまない。次に泣く時は……お前の分まで、泣いてやるからな」
「はい、ありがとうございます」
彼女の腕が俺の体に回るのを肌で感じる。人間と変わらず、柔らかい陽だまりだ。
人間よりも純粋で、人間よりも清らかな心を持った、ソラ。こんな心の優しいロボットを爆弾付きの兵器に変えてしまうなど、人間は身勝手で、どうしようもなく愚かである。
土浦康孝が娘のために作ったロボット。そこには、娘を想う確かな愛情があったはずだ。そのことは、青い瞳のソラを見れば一目瞭然だ。
――なのに、どうして……。
戦争は終わらない。
哀しみの連鎖は止められない。
これから兵器として作られるロボットが、数多く生まれてくることになる。
ロボットと兵器が同類項として結ばれる時代が、しばらく続くことになるはずだ。
だが、それでも……それでもせめて、優しさから生まれてくるロボットには、憎しみを押し付けないでほしい。
優しさを、憎しみで上書きしないでほしい。
――いつまでも、花の似合う女の子でいてくれ……。
俺は声を押し殺して、ソラの肩口を湿らせた。
そのことが、ほんの少しでも、彼女に届くようにと、彼女のものになるようにと――俺はソラの背中に腕を回し、抱きしめた。




