おまけストーリー 騎士道少女とサムライガール 第6話
みなさんこんばんは、そしてこんには。
作者の代弁者の紫乃宮綺羅々でぇ~す。久しぶりっ!
おっと、ここ前書きだから本編読みたいひとは、下までスクロールさせてね。
さて、前も言ったと思うけどここの前書きってね~話すことないんだよね。
だから、さっさと本編に行こうと思うんだよね~
代弁者って言っても間宮冬弥があまり話してくれないだよね。
うん、話すことないから本編に言っちゃおう!
それでは本編をお楽しみください。ではッ!
抜刀できない少女と騎士道ガール episode of side-N
●おまけストーリー
『騎士道少女とサムライガール』第六話・共鳴痛覚
◆
「なに……あの連撃?」
霧島は目を疑った。
車いすを自分で漕いでやっとのことふたりが戦っている森林エリアに辿り着いた時に、最初に見たのが『それ』だった。
神夜が空中へと飛ばされその直後、周りの木を足場として利用しての多段攻撃。
姫乃木の神速と言える剣戟は神夜の背中、腹部、両腕、両足、胸、頭部。全天周囲の攻撃。それは槍のような、するどい連続剣戟の嵐。神夜の身体は『くの字』になったり、逆にエビ反りのようなり……身体が空中で回転したり、のけぞりったりもして空中で停滞していた。
神夜の連続剣戟は……まるで空中で神夜を『落とさない』ようひもで吊してるかのように空中で止まっている。
「すごい……空中であんな事できるなんて……」
霧島は目を奪われる。
生まれて初めて見た初めての攻撃。霧島は瞬きできないほど集中して魅入ってしまっていた。
◆
「もうこれで『本当の最後』だよ」
「し……おん……?」
痛みで薄れゆく視界。紫苑が咲夜か小夜かわからないけど振り降ろす時だった。
「ぐ……あ……」
絶大で強烈。激痛以上の激痛がわたしを飲み込みわたしの意識は完全に真っ暗。闇に落ちた。
◆
「ぐっ……はぁはぁ……」
どすん……
姫乃木は空中から着地した、直後、鈍い音が後方から響く。
「あっ……」
姫乃木が振り向くと……そこあったのは傷だからけの神夜。額からは血が流れていた。
「那凪ちゃん……?」
姫乃木は認識した直後。咲夜と小夜をカランと手から離し、寝そべる傷だらけの神夜を呆然と見ていた。
「あ、あ……わたし……また……」
逡巡ののち、姫乃木は『那凪ちゃん!』と泣き出しそうな声で叫び、神夜の元へと駆け寄っていった。
◆
「あ……いっつぅ〜〜〜」
あまりの激痛で気絶すらできなかった……気絶できたなら楽なのに……させてもらえないなんて……やっぱり紫苑は口も悪ければ性格悪い……な……
「那凪ちゃん!」
紫苑の声……なに、そんな泣き出しそうな大声で……あ、そうか……わたしがこんなだからか……
「……大丈夫!」
紫苑に負けないくらい大きな声で叫ぶ。
「な……那凪ちゃん……?」
「だ、大丈夫だから……」
わたしは痛みをこらえて立ち上げる。また、セルシウスを杖代わりにして。ほんとごめんねセルシウス……
「わたし……は、霧島さんのようには……ならないから……大丈夫だから」
「そんな傷だらけで……何言ってるの!?」
寄り添って支える紫苑の声はとても大きい……まったく耳がキーンってなるわ。
「あんたが傷だらけにしたんでしょうが……」
「ごめん! だから動かないで!」
だから……キーンってなるっての……
「霧島さん! そこにいる!? ごめん血が目に入ってよく見えないけどいる?」
わたしはいるであろう霧島さんへと呼びかけた。
「いるよ」
答える霧島さん。なら……
「よかった……じゃあ、試合終了宣言してくれる。紫苑の勝ちで……わたしはもうこれ以上は無理……」
「わかった」
「待って! 私は勝ってないよ!」
「あんたこそ何言ってんの? そんなにピンピンしてるくせに」
「あっ……」
そんだけ、大きな声で叫べれば大丈夫だよね……
「霧島さん……お願い」
「では……勝負あり! 勝者『姫乃木紫苑』!」
これで……いい。わたしは負けたんだ……こんなにボロボロで負けたんだ……二年前の紫苑に負けたんだ。
「那凪ちゃん……」
「まったく……最後の最後で一瞬だけど『二年前の紫苑に戻る』なんて……怒りは手っとり早く強くなれる強化剤……なるほどね……言い得て妙……言葉通りだよ……」
「傷に障るからしゃべらないで!」
「紫苑……訊いて」
瞼が重い……でも……これだけは言っておかないと……言わないといけないんだ……
「な、なに?」
「あんたは最強の座でふんぞり返ってなさい。必ずわたしがあんたを倒してみせるから……」
「な、那凪ちゃん……」
「それ、私も参戦するから。姫乃木さん。首根っこを洗って待ってて」
「霧島さん……」
横やりをいれた霧島さん。そうだよね……霧島さんもわたしと同じだよね……
もう……限界かな……意識が奥に引っ込む……
「な……ちゃん! なな……ゃん!」
紫苑の声が遠く……なって……
わたしの意識は……耐えられない眠りに落ちてしまった。
◆
「う……ん……」
目覚めるとそこは白い天井わたしの『知らない天井』だった。
「な、那凪ちゃん!」
「あれ……し、おん?」
白い部屋。印象はそれだった。 そしてとなりには紫苑がわたしの顔を覗き込んでいる。
「あ……よかった!」
「あいたた! 痛いって! 紫苑痛い!」
思いっきりガバっと抱きついてきた紫苑。それと同時にわたしの全身に痛みが走った。
「あ、ごめん! 大丈夫」
「うん。あ、いたた……もう、強く抱きしめすぎだって……痛った〜」
「那凪ちゃんが起きて本当に……あ、私! 看護師さん呼んでくる!」
紫苑は勢いよく扉を開けて、廊下へと出て行ってしまった。
「姫乃木さんはせっかちだな。ナースコールを使えばいいのに。でもいっか」
ひとりごとなのかわたしに言ったのかわからないけど、霧島さんはつぶやきわたしに顔を向ける。
「霧島さん? あのここって」
かすかに匂う薬品の香り。ここはわたしの知らない部屋。
知らない天井に知らない壁。白で統一されたその部屋はわたしのどう見てもわたしの部屋ではなかった。
「ここは病院だよ。神夜さんあの後に気を失ってね。急いで元の空間に戻って救急車を呼んだんだ」
「病院……」
そっか……わたしは病院に運ばれたのか……
「どう気分は?」
「それをいま訊く?」
「うん、それだけ答えられば元気そうだね」
「お陰様で」
「うんうんいいね。この頬のシップは青春って感じだね」
わたしの頬に張られているのであろうシップをツンツンと突っつき霧島さんはそんな事を言ってくる。
「ちょっ、からかうのはやめてって」
そんなツンツンしてくる霧島さんの払いのける。
「あはは、ごめんごめん。で、どこか痛い所は?」
「全身」
「まあそうでしょうね。でも動けないほどじゃないでしょ?」
「まあね。動こうと思えば動けるし」
「……」
「……」
会話が止まる。霧島さんは何かを言いたげそうだけど口を開かない。タイミングでも計ってるの?
「わたし何時間くらい寝てた?」
「四時間くらいかな?」
重い空気を振り払うようにわたしは真横の窓を見る。外は真っ暗だった。こんなイヤな空気を取り除きたくて霧島さんに話しかけた。
「そっか」
結構長い時間……気絶してたんだ。
「……」
「……」
そしてまた、会話が止まる。
「……神夜さんはやっぱり友達思いだね」
そして開いた口から出た言葉がこれだった。
「なに突然?」
「聞いたよ。姫乃木さんに『弱く』なったって言ったんでしょ?」
「言ったよ」
霧島さんはひとつ息を吐いた。
「……私が見てる限りじゃ姫乃木さんは弱くなってないよ。刀の威力はわからないけど動き、攻撃速度、回避能力、歩法術にこれらに関しては『二年前と変わって』ない。むしろ歩法術は磨きがかかってると言っていい。それに二刀流。あれは攻撃頻度と手数が上がってるからやっかいだと思った。だから決して『弱くない』」
「……紫苑が手を抜いているかもよ」
まったく……ホントに霧島さんは……怖いほどひとを見る目がある……指導者に向いてるんじゃないかって思うよ。
「それはないよ。見てる限りでは姫乃木さんは手を抜いてないし、一切合切の容赦もしてない。もちろん手加減もない」
「ふぅ〜ん」
軽い生返事でわたしは霧島さんに返す。
「でもそれは神夜さんも同じ。手抜きも容赦も。手加減もない」
「……」
わたしは霧島さんの言葉に答えなかった。
「それでも神夜さんは姫乃木さんに『弱くなった』って言った。それはなぜ?」
「さぁ」
窓の外の景色を見ながら言う。
「そう……それはね、変わったのは神夜さん。キミだよ」
「……」
まったく、霧島さんは、ホントに……
「姫乃木さんが弱くなったんじゃない。神夜さんが『強くなった』んじゃない? 違う?」
「ノーコメント」
外は真っ暗。まぁ夜だしね。時間はわからないけど。
「神夜さんが姫乃木さんに『弱くなった』なんて言わなければ神夜さんはきっと勝ってた。自分が弱くなったと言って姫乃木さんを焚きつけた。それは姫乃木さんを思っての事でしょ? そう言えば姫乃木さんはきっと鍛錬するって思ってのことでしょ?」
「ノーコメントだって」
「ホント、友達想いだね」
外はなんか寒そうだな。ここは暖かい……
「……姫乃木さんは抜刀状態での鍛錬を二年間していない。そして神夜さんはこの二年、みっちりと鍛錬を積んできた」
「……」
あ、そうだ。この前のヘンテコなコスプレをした男のひとにもう一度会って話がしたいなぁ……『わたしは弱い?』って聞きたい。
「それが私が出した答え」
「霧島さん」
「なに?」
「わたしってさ……強い?」
わたしは窓の外を見て、霧島さんと一切目線を会わさずに話し出す。
あのヘンテコな格好をした男のひとはいない。だから、霧島さんに、
「さぁ。私は神夜さんと戦ったことないから比較できないよ」
「そう……じゃあ霧島さんが動けるようになったらさ……わたしと一戦やらない?」
告げる。これは宣戦布告という名の告白。
「……ダメ。今は姫乃木さんの事で頭がいっぱい。姫乃木さんの事しか考えられないよ。ほかのことなんて考えていられないんだ」
「そっか。ふられちゃったな」
「うん。ふったよ」
霧島さんの返答は愛の告白のようだった。
「紫苑は愛されてるな」
「違うよ。これは愛なんかじゃない。執念かな? 姫乃木さんに勝ちたいって言う邪な感情」
「その感情は純粋。霧島さんの思いは邪なんかじゃないよ」
「ありがとう」
「……」
「……」
そして、会話が止まる。わたしは窓の外を引き続き見ている。暗い窓に移る霧島さんはまっすぐわたしを見据えて何かに思いふけっているようだった。
「ねぇ、神夜さ、」
「那凪ちゃん! 看護師さん連れてきたよ!」
出ていったときと同じくらいの勢いで扉を開けて入って戻ってきた紫苑『大丈夫!』口走りながら駆け寄ってきた
「話は終わりだよ。霧島さん」
「わかった」
そう言うと霧島さんはひとつ頷いたのだった。
◆
「じゃあ、私はこれで帰るね」
病院のロビーであり出入り口。霧島さんがわたしと紫苑に帰ることを告げた。
そんなわたしも入院することなく家に帰れることになった。
霧島さんはこれ以上いると帰宅時間に間に合わないとのことでここでお別れ。
「またね」
「じゃあ……その、またね」
紫苑は霧島さんに目を合わずに声をかける。
「うん。じゃあね神夜さん。それと姫乃木さん。ひとついい?」
「は、はい! ……どうぞ!」
未だに緊張して霧島さんと面と向かって話せない紫苑。
「私の復帰戦。相手をよろしくね」
「えっ……あ、うん……私でよければ」
「姫乃木さん以外考えられないから、よければなんて言葉は不要。いらないよ」
「う、うん」
「よろしい。じゃあねふたりとも。今日はとてもいい戦いをだったよ。あ、今度は個人的にこっちに来るから一緒に遊ぼうね」
こーして霧島さんはお兄さんと一緒に帰っていったのだった。
「那凪ちゃん……」
「なによ」
紫苑の事はとても沈んでいてとても元気がない声。
「今日はごめんね……その、色々とヒドい事言って……それとその、痛めつけちゃって……」
「そんな事? 気にしないでいいよ」
「でも……私、そのチビとか……童顔とか言っちゃって……ごめん」
紫苑は深々とわたしの頭を下げる。もう、頭が膝につくくらいに身体を折り曲げて謝る。
「いいって、頭を上げて」
「でも」
「いいから、上げて!」
キツめに紫苑に言葉を投げる。
「那凪ちゃん……」
「気にしないでって言ってるでしょ。だから終わり」
恐る恐る紫苑はゆっくりと頭をあげた。
「でも……」
「それ以上言わないの」
「あぅ……」
紫苑の上唇を人差し指で押さえ言葉を封じる。
「これで終わり。いいよね?」
「……」
上唇から下唇へと指をなで下ろす。
紫苑は顔を紅潮させながら頷いた。
……なんでそんなに恥ずかしそうにしてるんだろう?
「じゃあ……那凪ちゃん。わたしを那凪ちゃんと同じくらいに痛めつけて」
「……なんで?」
「那凪ちゃんと同じ痛みになって感じて……わたしは償いたい」
「気負いすぎだよ。あれは紫苑の復帰戦。あれくらい傷ついて当たり前だよ」
「でも!」
「はぁ……あのね。同じ痛みならもうしてるでしょ?」
「えっ?」
「ほら、ここ」
わたしは自分のおでこを人差し指でチョンチョンと指さす。
「痛かったでしょ? 頭突きしたんだから。わたしだってすごく痛かったんだからね。紫苑も痛かったでしょ? だからこれでおあいこ」
「あっ……」
紫苑も自分のおでこをさする。
「だからこれでいいの。ほら中に戻るよ」
「うん……ありがとう」
「でも、取り返しのつかないくらいビチョビチョにしてよって言葉。あれにはびっくりしたけどね」
「……!!」
紫苑は思い出したのかさらに顔を紅潮させて、『忘れて! お願いだから忘れて』とわたしの肩をゆするのだった。
こーして、わたしと紫苑は並んで待合室へと戻っていったのだった。
◆
「紫苑のお母さん遅いね?」
「那凪ちゃんのお母さんもね」
わたしと紫苑は待合室で迎えてきてくれるお母さんを待っている。
「……どうしよう……このまま会計で名前呼ばれたら……
」
それと同時に治療費も病院に払わないといけない。結構いろいろな検査をしたって紫苑から聞いてるから……治療費は高くつくかも……ううっ……
わたしの心配をよそに紫苑は『理由を話せばわかってくれるよ』と答えてくれる……けどねぇ……
「神夜さぁ〜ん、神夜那凪さぁ〜ん。会計までお越しください」
「おふぅ……」
心配ごとが現実になってしまったよ! マズいよ! これはやばい!
「ううっ……ど、どうしよう……」
財布を開ける。手持ちのお金は三千五百円のみ。
「さ、三千円で足りるかなぁ……」
「えっと……たぶん足りないと思うよ……」
「だよねぇ……」
「とりあえず、会計に行こうよ。私も一緒に行くから」
「うん、ごめん紫苑」
「いいよ。ほら行こう」
こうして、わたしと紫苑は一緒に会計へと向かった。
◆
「あれ? 誰もいない?」
会計カウンターに着くとカウンターには誰もいなく、奥では数人の看護師さんが集まって何かを話していた。
「あれ? さっき那凪ちゃんの名前呼ばれてたよね?」
「うん……そうだけど。なにやってんのよ? カウンターを無人にするなんて?」
未だにわたしたちに気づかすに何かを話している看護師さんたち。
「あの、すいませ〜ん!」
奥の看護師さんたちに聞こえるように大きな声で呼びかける。
「あ、も、申し訳ございません」
その内のひとりが気づき、急ぎカウンターへとやってくる。
「えっと……もしかして神夜さんですか?」
「はい……そうですけど……」
「あ、あの失礼ですけど……神夜さんのお父さまとお母さまの名前を伺ってもよろしいでしょうか?」
「えっ、お父さんとお母さんの名前ですか?」
「はい。そうです」
「はぁ……じゃあお父さんは神夜」
◆
「ねぇ、那凪ちゃん。なんで私たちはこんな高級そうな応接室に通されるんだろう?」
「し、知らないわよ!」
「なんで、院長さんが来るんだろう?」
「し、知らないって!?」
なぜかわからないけど、お父さんとお母さんの名前を告げるとこの応接室に通された。そして院長がここに来ると看護師長さんが言っていた。
理由はまったくわからない。わからないけど……お父さんとお母さんが一枚噛んでいるのはわかる。
「ううっ……キ、キンチョ〜するぅ……」
棚には高そうな壷や陶器。壁にはなんて書いてあるかかわらない掛け軸や時代劇でしか見たことのない水墨画。床には高そうな絵柄の絨毯が敷かれている。
そしてわたしたちが座っているソファはとてもふかふかでいままで座ったことのない座り心地。それはとても高いと、すぐにわかるほどに身体がフィットする。
目の前にあるテーブルも高そう。大理石っていうのかな? そんな石で出来ていそうでピカピカだった。
「おおっ……お、お茶もすごくおいしい……なにこれ? なにこの深みと甘み? 芳醇! えっ? なんなのこの喉ごし……すごいおいしい……美味!」
紫苑は出されたお茶で高級感を感じ取っているようだ。わたしはお茶なんて飲み比べても全部同じと答える自信がある。違いなんてわからないと言う自信があるよ!
「すまいね。遅れてしまったよ」
ドアを開け入ってきたのは六十代くらいのおじいさん。とてもやさしそうな面もちでいて白衣を着てるけど紳士的な雰囲気を醸し出しているのが印象的。このひとが院長さんなのかな?
「えっと……院長さんなんですか?」
「ええ、この『九条綜合病院』の院長をしている九条海真と申します」
丁寧に頭をさげて自己紹介をする院長さん。
「あ、ど、どうも姫乃木紫苑です」
「あ、わたしは神夜那凪です」
「おおっ! 君か! なるほど、高校生の時のお母さんにそっくりだな。瓜ふたつだ。そうかそうか。あの時の元気なお嬢ちゃんに娘か。時間が流れるのは速いものだ」
院長さんは懐かしむようにわたしに握手を求めてきた。なので差し出された手をわたしは握り返した。
「えっと、お母さんと知り合いなんですか?」
「ああ、知り合いも何も君のお母さんと特にお父さんには昔、命を含めたあらゆる意味で助けられたんだ。聞いていないのかな?」
「そ、そうなんですか? 初耳です……」
命を含めたあらゆる意味? なんだろう……?
「そうか。まぁ『アレ』はふたりとも思い出したくもないかな……ふむ、ならこれで終わりにしよう」
院長さんはなにかひとりでなっとくしたように頷き、『ところで、お父さんとお母さんは元気かい?』と訪ねる。
「はい、元気そのものです。特にお母さんは」
「そうかそうか。それはよかった」
プルルル! プルルル!
その時、高級そうな机の上に載せられた電話がなった。
「失礼するね」
そう断りを入れて、院長さんは机に向かい、受話器を取る。チラッと見えた受話器は見慣れた無機質のものだった。なんか……見慣れたものを見るとホッとするなぁ……
「ふたりのお母さんが来たようだ。じきにここにくるからこのまま待ってなさい」
「あ、はい」
「そうなんですか」
わたしと紫苑がそれぞれ院長さんにそう言葉を返した。
◆
「やっぱり那凪ちゃんはお母さん似だね」
「どういう意味よ」
紫苑はわたしのお母さんと紫苑のお母さんが病院の待合室で話しているところを飲み物を飲みながら見ていて、そんなこと言ってきた。
あのあと応接室を出て待合室まで戻って治療費の会計を待っているところだ。どうやら院長さんのはからいで少し治療費を安くしてくれるとのことで再計算してるらしい。
「背が低いところと童顔。だって見てよ。わたしとお母さんとの身長差。遠目から見たら母親と娘って言ってもわからないよ。それに那凪ちゃんのお母さんすごく若々しいし。那凪ちゃんと姉妹って言ってもわからないと思うよ」
「……それってさ……わたしはもう成長しないって言ってるの?」
「う〜ん……そうかも」
「……おふぅ、ショックなんだけど……」
確かにわたしとお母さんは似てるよ。幼児体型だし……童顔だし……髪型は違うけど……身長だってお母さんのほうが少し高いし……
「はぁ……」
「どうしたの? ため息なんてついちゃって?」
確かにわたしとお母さんはそっくりだ。再認識したよ。あ、もしかしたらわたしのこの制服……お母さん着れるかも……ううっ……見たくないなぁ……
「神夜さぁ〜ん、神夜那凪さぁ〜ん。姫乃木さぁ〜ん。姫乃木紫苑さぁ〜ん。会計までお越しください」
呼び出しコールが院内に響く
「あ、呼んでるよ。戻ろう」
「そうね」
こうしてわたしと紫苑はお母さんの元へと戻っていった。
◆
「紫苑のお母さん……しきりにお母さんにお礼言ってたけど……なにかあったの」
家に帰ってきてリビングでわたしはお母さんに九条病院での応接室でのやりとりを聞いてみた。
お母さんの返事は『九条さんに紫苑ちゃんの治療費を安くしてもらった』だった。それと九条院長さんと知り合いなの? と聞いても『秘密』と答えるだけだった。
「そっか」
ボノボルを食べるお母さんを見る。こんなに小さい体型なのにお母さんは日本でも数人しかしない『剣聖騎士』の称号を持っている。改めて思うとすごいことだなぁ……
わたしもボノボルを手に取る真ん中から封をあける。
口にボノボルを放るその時、『紫苑ちゃんは強かった?』とお母さんの言葉が刺さる。
「うん、そうだね。強かった」
その答えを聞いて『そっか』とお母さんが返した。
「わたし……お母さんにみたいに強くなれるかな?」
ぼそっと……こぼれた言葉にお母さんは『なれるよ』と頭をなでながら返してくれた。
その頭なでなでは霧島さんのものとは違くて……とても心地よくて……わたしはずっとしてもらいたいと思った。
続く。
こんばんは、間宮冬弥です。
まずは、小説を最後まで読んで頂きましてありがとうございます。
次回ですが相変わらずまだ出来上がってません。
すみませんがしばらくお待ちください。
それでは、短いですがこれで失礼します。




