第12話 俺は、ホースマンなんかにはなりたくはない。
「僕は、君が好きだ。好きだよ。だから、僕と付き合ってよ」
テクノカットのメガネをかけたやせ細ったガリガリの男が、部屋のベットの端に座って独り言を喋っていた。
「どうして、僕のことを好きになってくれないんだい。僕は君のことが大好きなんだ」
男は、噛み締めるように言った。
「なぁ、わかるだろ?僕の気持ちが。人を好きになったことがあるならわかるはずだ」
男は、貧乏揺すりをしはじめた。男の部屋は簡素だった。フレームの強度が弱そうなシングルベットと14インチのアナログテレビしか置いていない。築何十年という風貌を呈しているアパートの一室であり2階の角部屋だった。となりには、東南アジアのベトナムあたりから来たであろう出稼ぎ労働者が住んでいた。正直言って、ご近所付き合いはほとんどないアパートであり他人には無関心な人間が多くいる場所であった。
「なぁ、なぁ、んなぁぁぁ、んなぁぁぁ!!」
男は、次第に声が大きくなり発狂していった。ベットの端から勢いよく立ち上がり、枕を地面に投げつけた。そして、なぜか腕立て伏せをし始めた。腕立て伏せをしている最中にも大声で発狂していた。この男の行動は何日かに一回起こっている。正直言って、まともな感情ではない。既に愛を超えていた。
「殺してやる……、僕と付き合えないなら、殺してやる……。他の男に取られるくらいなら……」
「おーい」
誰かに呼ばれた気がした。
「たーけーるー」
どうやら、俺の唯一の友達のサトシのようだ。
「おお。どうした。お前、帰り道こっちじゃないだろう」
帰り道は、サトシも俺も一緒なのだが、俺は今日は違う道で帰っていたのだ。
「ああ、俺ちょっと用事があってね。まぁ大したことじゃないから言わないけどさ」
「ふーん、まぁ聞く気はないけどね」
「そういうタケルはなんでこっちなのさ。こんな坂道なんか上っちゃってさ」
そう、俺は坂道を登っていた。高校の目の前に小高い丘があってその場所に用があったのだ。
「まぁ、ミートューということにしておいてくれ」
「タケル……英語似合わないな。発音もイマイチな気がするぞ」
「ほっとけ」
丘を目指して坂道を上っていると、高速道路の上を通過する陸橋付近に差し掛かっていた。そして、俺は見覚えのあるメガネがそこに落ちている事に気がついた。
「これって……」
俺はそのメガネを手に取った。
「ん?どうした? 」
見覚えのあるメガネだった。色は黒色だったのだが、形に見覚えがあった。前までは赤色だったのだが、最近になって赤色よりも黒いが良いような気がして変えたような人物が俺の周りにいたような気がしたのだ。
俺は、しばらく考えているとある一人の人物が浮かび上がった。そう、森本ユキである。
「ごめん、ちょっと俺このメガネに心当たりがあるから、ごめん今日はこの辺にしておくは」
「いや、別に一緒の場所にいくわけではないから謝る必要は無いよ。全然、かまわないって」
俺は、サトシと別れてから森本ユキに電話をかけてみた。しかし、いくらかけても電源が切れていると言われてしまった。電源を切るなんて携帯電話を持っている意味がまるでないじゃないかと心の中で思っていた。
仕方なく、俺は秋山タイチに連絡する事にした。
「もしもし」
「あ、すいません。なんか、森本先輩のメガネらしきものを発見したんで今すぐ届けたいと思って電話したみても出ないんですよ。だから、家の住所とか知らないですかね?」
しかし、しばらく返事が来なかった。30秒くらいの間が空いてから秋谷タイチは喋り始めた。
「そのメガネはどこで見つけた……?」
どこ?それはなにか関係があるのだろうか。
「えっと……高校の目の前の小高い丘に向かう途中にある陸橋の近くかな」
またしてもすぐに返事はこなかったが、なにやらパソコンのキーボードを打つような音が聞こえてきた。
「やられた」
「え? 」
「森本ユキがさらわれた」
私は、目が覚めると暗闇の中にいた。目が慣れても周りの景色はほとんど変わらなかった。ここはどこだろう。私はずっと考えていた。目が覚めてから1時間くらいして突然その景色に明かりが突いた。私は、一瞬ウッとなり目を手で覆った。
「目が覚めたか」
私の目の前に見知らぬ男の人が立っていた。
「はい……」
一応返事をしてみた。
「君をさらったのは私だ。メガネをどうやら落としてしまったみたいだが、目は見えるか」
「あれはダテメガネなので平気です」
「そうか」
しばしの沈黙が二人の間に流れた。
「あの……」
私は口を開いた。
「どうして、私はさらわれたのでしょうか」
男はゆっくりと返事を返した。
「端的に言おう。君を、君を殺すために誘拐したんだ」
テクノカットのガリガリメガネは、包丁を隠し持って、タケルたちの通う高校の前にいた。
「ふしゅー、ふしゅー」
奇妙な呼吸を繰り返していた。どうやら、誰かが来るのを待っているらしかった。30分くらいすると、学校の校門から黒くて髪の毛の長い女子生徒が一人現れた。後ろから見るととても美人に見えるのだが、正面から見ると少しギャップのある顔をしていた。
「みーつけた」
男は、満面の笑みを浮かべながら、隠し持っていた包丁に手をかけた。
俺は、走っていた。秋山からその後、急いで学校の部室にくるようにと言われた。詳しくはそこで事の経緯を説明してくれるらしい。
走りに走り、すぐさま学校についた。そして、すぐに部室へと向かった。
「遅かったじゃないか」
「いや、かなり全力だったんですけど」
まだ夏前とはいえ、既に相当気温は上がっている。走ればもちろん、汗で全身びしょ濡れだった。よく見ると、秋谷タイチも相当の汗をかいていた。
「それで、どうして森本先輩がさらわれることになるんだろうか」
俺は、息を切らしながら質問をした。
「理由は、僕にもよくわからない。ただ、万が一に備えて実は彼女のローファーには発信器が付いているんだ。いや、正確にいうとローファー以外にもついているんだ。例えば……下着とか」
俺は、思わず息を飲んだ。
「下着って……」
俺は、胸のラインを強調するようなジェスチャーを取ってみた。
「想像に任せる」
意外とそっけない返事が帰ってきた。
「本題に戻すが、彼女が今いる位置は既に特定してある。しかし、たぶん犯人は近くにいるはずだ。そして、武器等をもっている可能性はもちろん高い。そこで、部室から何点か君用の武器を持っていく。一度しか言わないから使い方をマスターしてくれ」
俺は、いや無理だと言いたかったが、返事をする前に武器を持ってきて説明をし始めた。
「まず、これは両腕から両手までを覆う篭手だ。しかし、この篭手は刃物とかに強い加工をしているから相手の刃物とかも余裕でガードできる代物だ。打撃をしても裸の拳よりも当然強い。まさに、攻守ともに優れた武器と言えるわけだ」
俺は、へぇと一言いってやった。
「もちろん、僕が作ったんだけどね」
「そして、この篭手には秘密がある。最大の魅力だ。消臭機能がついている。だから外したとしてもに、良いにおいの両手が帰ってくるわけだ」
なんと。たしかに剣道で使用する篭手から作ったと思われる姿をしているからその点は重要なのかもしれない。ってそんなわけあるかい。
「あとは、さっき帰る前に説明したやつと……」
「誰か助けて!! 」
説明している最中に悲鳴が聞こえてきた。どうやら、校門の方らしかった。
「気になるからちょっと俺見てきますわ」
そういって俺は、部室をでた。どうせ誰かの喧嘩だろうと思っていた。
校門の前につくと、刃物を持ったテクノカットの正直、生理的に受け付けないタイプの男がいた。そして、腰を抜かして、地面から起き上がれない女子生徒が一人いた。そして、そのテクノカットの周りに数名の先生が血を流して倒れていた。
俺は、急いで部室に戻って秋山タイチに報告した。
「なんか、ヤバいことになってる! 」
状況を説明すると、彼は俺にこういった。
「仕方ない。今はここをなんとかするしかない。君はさっきの武器を使って、その生理的に受け付けない変態を撃退するしかない。ただ、顔がバレては君の今後にも影響するだろう。部室にはこんなものしかないが、ないよりはましだ。これを来てかれに対抗するしかない」
そういって彼は、茶色い全身タイツとゴム製の立体的な馬面のお面を俺に渡してきた。
「さぁ、初陣だ!ホースマン!悪を懲らしめるぞ! 」
秋谷タイチの目は明らかに笑っていた。ホースマンってなんだよ。センスないだろう。勘弁してくれ。馬男かよ。今回限りの格好であってほしいものだ。




