二、佐々木 佑真
「うおおおおお!! セリアちゃん十万人突破!」
長かった……。
個人勢のVtuberで登録者が十万人を超えるのは生半可なことではない。
初期から見続けている身としては本当に嬉しい限りだ。
まるで、自分事だ。
十万人を突破したのはセリアちゃんだ。
でも、まるで自分事のように嬉しい。
不思議な感じだ。
画面の向こうでセリアちゃんも「やったああ!」と喜んでいる。
同じ時間を生きる実感がある。
「皆のおかげだよー!」
「そ、そうかな。セリアちゃんが頑張ったからだよ」
お互いに謙遜する。
いや、そうか。
セリアちゃんも頑張って、僕も頑張った。
Xで彼女の投稿を全てリポストして、いいねして、生誕祭などにはハッシュタグがトレンドに乗るよう皆で頑張った。
だから、自分事に思えるのだろう。
セリアちゃんと僕らとで頑張ったのだ。
この頑張りは、ちゃんと自分の物だ。
「ありがとー! 十万人突破した記念に、準備してきたものがあるの!」
「えっ、僕に!? さ、サプライズだ……」
流石セリアちゃん。サービス精神旺盛だ。
「初の、オリジナル曲です!」
「な、なんだってー!」
配信終わりの二十二時に投稿するそうだ。
今までCoverはあってもオリジナル曲は無かった。
やはり個人勢はCoverが多い。
オリジナル曲を持っているかは個人勢のなかでも大きなステータスとなる。
これから、どんどん成長していくんだろうな。
配信終了の文字が出てからしばらく、音の無くなった部屋で未来を想像した。
はっとした時にはすでに二十二時まであと一分もなかった。
プレミア公開特有のカウントダウンを開く。
——あと三十九秒。
そうだ、Xで配信の感想を呟かないと。
——あと十七秒。
あ、セリアちゃんがオリ曲へのURLをポストしてる。リポストといいねをして、と。
——あと十秒。
ああ、トレンドも一応確認しておこう。
——あと三秒、二秒、一秒。
ヘッドホンから音が流れてくる。
知らないメロディー、知らない歌詞、けれど知っている歌声。
これが、セリアちゃんの曲。
セリアちゃんだけの曲。
なんて、心地がいいんだろう。
ここには、他人がいない。
僕と、セリアちゃんだけだ。
満ちている。
僕の心は満ちている。
満月と同じように。
ああ、やっぱり好きだなぁ。
この気持ちを伝えたい。
思いの丈をぶつけたい。
「好きだ」、と言いたい。
『セリアちゃん可愛い!』『子々孫々語り継ぎたい』『ここで新曲かぁ、まあ確かに悪くない考えかもね』『結婚して』
しかし「好きだ」、なんてありふれた言葉だ。
僕の気持ちを伝えたいのに、誰かが既にその言葉を使っている。
この気持ちは僕の物なのに、僕だけの物なのに、誰かの発した言葉でしか愛を伝えられない。
この気持ちは自分事だ。
他の誰の物でもない。
「好きだ」、「好きだ」が、その言葉では伝えられない。
僕だけの言葉で、彼女に愛を伝えたい。伝えなくてはならない。
そうすればきっと、揺るぎない真実の愛をセリアちゃんは与えてくれる。




