表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
55/72

51 夜雀(よすずめ)

 

 冊子を開く。

 ある晩の、帰り道だった。



 ばあちゃんの家へ向かう途中、ふいに気づいた。

 チッチッチ、と雀の鳴き声がする。

 夜なのに。


 振り返っても、もちろん何もいない。人通りもない夜道。

 チッチッチッ、と雀のさえずりが重なって聴こえる。一羽ではない。複数だ。

 早足で振り切ろうとするが、運悪く、目の前で踏切の遮断機が下りてしまった。走ればよかった。


 チッチッチ。


 遠く、近くで雀が鳴く。


 がたたん、がたたん、と列車が通過する。踏切が開き、線路を渡る。チッチッチ、と雀の声がついてくる。

 振り返っても、姿は見えない。

 雀の声だけが、ついてくる。

 ついてくる。


 チッチッチッ。


 前も後ろも、道が夜闇に沈んでいる。電柱の小さな明かりが、おぼろげに町名のプレートを照らす。

 雀の姿はどこにもない。


 チッチッチッ。


 鳴き声だけが、闇から滲んでくる。

 月もなく、風もない夜。雀の鳴き声だけが、響く。


「……田村だったら、びびるかな」

 ついてくる雀の鳴き声は不気味だったが、不思議と怖くはない。向こうに害意がないのか、もしくは俺が怪異に慣れ過ぎたのか。


 とはいっても、気持ちの良いものではない。

 このまま、ばあちゃんの家までついて来られても困る。でも、榊先輩のように、解決する方法はわからない。


「うーん」

 弓も矢もないし、有り難い呪文やら何やらを唱えることも出来ない。身ひとつで、どう対処するか。


「――あ」

 ふと、思い付いた。

 簡単な厄除け。道具も呪文も何もいらない。


 両の手の平を合わせる。少しだけ右手を下げて、僅かに膨らみを作る。この隙間がコツなのだと、いつぞや榊先輩が言っていた。

 柏手を二回、打つ。

 

 チヂヂッ。


 無数の羽ばたく音が過ぎれば、しんと静寂が戻った。

「おぉ」

 さすがは当代書記係直伝、効果はてきめんだった。目の前に広がる闇の中に、何の気配もない。

 それでも、ばあちゃんの家まで全力で走った。




「あぁ、捕まらなくて良かったな。鳥目になるぞ」

「鳥目?」

 翌日の朝練で、榊先輩に訊ねれば、あっさりと返事が返ってきた。


「夜盲症のことさ。目の網膜にある桿状体の働きが弱まって、光を感知する力が減衰する。暗さに順応しにくくなる」

 うっかり捕まえなくて本当に良かった。


「昔はあの辺りに夜雀(よすずめ)の大群が出たんだ。そのせいで道が通れなかったり、しっかり触れられて鳥目になったりした。ちゃんと地名にもなっているぞ」

 はた、と気がつく。


連雀町(れんじゃくちょう)ですか」

「そう」

「てっきり、レンジャクって鳥が関係しているかと思っていました」

「残念。地名の由来は歴史が重なってこんがらがる場合もあるが、今回は何の捻りもなく素直な名付けだ」

 連なる雀の町。字面もそのままだ。


「ストレートに夜雀町とかじゃないんですね」

「昼はひとの領分だからな」


 さらっと言われた。そうなのか、と納得しそうになる。

 だが、微かに何かが引っ掛かった。榊先輩の返答は、俺の質問から微妙にズレている。


 ――ひとの領分に何故、夜雀の名前を付けてはいけないのか。


「地名や歴史に関しては古谷(ふるや)の方が詳しい。気になるのなら、ヤツを訪ねてみろ」

 にやりと榊先輩は嗤った。


夜雀(よすずめ)



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ