50 ひかりふる
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如月の晦日に足りない頃だった。
きらきらと、光が降っている。
凛とした空気は緩み、薄雲の隙間から朝陽がさす。まだらの小さな緑に覆われた矢道に、野花はまだない。
弓道場の縁に立ち、大きく伸びをする。微かに梅の香。たどたどしい鶯の鳴き声が聴こえた。
きらきらと、光が降っている。
二十八メートル先。垜に掛けた的がよく見える。透明な大気は静かだ。
きらきらと、銀の光が降っている。
「ん?」
砂埃が舞っているのかと思ったら、違った。
天からまっすぐ、筆で書いたような銀色の筋。垜小屋の向こう。
〈紫苑の森〉の中へ、きらきらと、銀色の光がさしていた。
手庇で眺めれば、銀光は柱のように〈紫苑の森〉の中にある。
ちらちらと、光は揺れる。
「……いくべきか、いかぬべきか。それが問題だ」
呟いてみても、何の解決にはならない。
ちらちらと、光は揺れる。
光からは、嫌な感じはしない。触らぬナニに祟りなし。だから放っておく――にも、垜小屋の向こう側なので、的前に立てば、おのずと視界に入る。
気になる。
「……いくか」
雪駄を履いて、弓道場の壁伝いにぐるりと回る。矢取り道を歩いて、垜小屋の裏へ行けば、野草たちが繁茂していた。
きらきらと、光は〈紫苑の森〉に降っている。
銀の筋。帯のような、筆跡のような、まっすぐな光。
柏手をひとつ打つ。大気が震える。一陣の風。野草たちが葉を翻す。
柔らかい緑が、一面に広がっていた。
寺社の柱を思わせる巨木の下で、オオイヌノフグリ、ホトケノザ、ノビル、ヤエムグラなどなどが生い茂っている。
木々の枝葉が空を隠す。取り残された古の領域、〈紫苑の森〉。銀の光は、木立の向こうに降っている。
近づいてみる。
梛の大木の反対側に、きらきらと光が降る。
光が辿り着く先には、一輪の白い花が咲いていた。小さく丸い、釣鐘状。
鈴蘭だ。
光は、ここに咲いたのだと思った。
『ひかりふる』




