この大悪魔⋯⋯普通に有能じゃねぇか!
「タイガー」
「んー、あと五分」
「もうこのやり取り10回目だよー」
「あー?」
俺は、"誰"と会話してるんだ?
「って、てめぇか!」
「おおっ、起き上がった」
クソッ、慣れちまった。
たった数十分話しただけなのに。
「そんな見ないでよ」
異形だ。
明らかに異形だ。
赤ノイズが砂嵐みたいにザーってなってる。
そんな見た目なのに。
「なんで慣れてるんだよ、俺も」
あんな怖かったのに。
こんだけでビビらなくなる俺も終わってる。
「遅刻しちゃうよー?」
「え?」
時計は、結構いい時間を指している。
「それを早く言わんかい!」
「⋯⋯いや言ったでしょ!?」
大悪魔様にアラーム係。
俺って結構運良い?
*
「タイガ暇ー」
ただいま俺は授業中。
こいつは、もはや隠す気もないのか宙でずっとふわふわ浮きながら俺の気を引こうと遊びまくっている。
集中ならん!
こいつはスマホから出すべきじゃなかった!
「冴木、今のところ答えてみろ」
「あ、2です」
「分かってるならもう少ししっかり聞け」
「すみません」
ノートを見ながら授業を受けていても、コイツのせいで全く集中ならん。
「えーい、バーカバーカ!」
遠くで俺を指差して煽ってきやがる。
クソがっ!
でも。
「ちょっとスッキリしてる自分が悔しい」
「え?なんだって?大雅」
「あ、いやごめん。
口に出てたか?」
「あ?ガッツリな。
マジでどうした?
なんかあったか?」
⋯⋯ありました。
なんて言えるわけもなく。
「ほーん、まぁいいけど」
アイツには何度も釘に差されてる。
他のやつには見えないし、アプリも見えないって。
けど喋ることはできるから、もし喋ったら分かってるよね?と。
まぁちゃんと大悪魔様らしい力は持ってるんだろうなって事は分かったけど。
「ん?タイガ?」
俺の視線に気づいたアイツは、俺を見てニヤニヤしている。
異形なのに、俺はもうあいつが笑ってるのかそうでないのかがよく分かる。
俺って異形耐性とか付いてる?もしかして。
てかおい、アイツ⋯⋯!
志水の背中の透けてるところを指差してやがる!
くそだ。
俺の好きなおなごがバレてやがる!!
今からこれじゃ、この先ずっと煽られるに違いない!
──って、へー。
⋯⋯黒ね。ふーん。
*
「なぁ大雅、お前どうした?」
「何が?」
いつもの通り、俺達はワックにいる。
まぁ高校生の日常なんて、学校行って、帰りに遊んで、塾かバイトっつーつまんねぇ退屈とした日常だろ?
「いや何って、お前ずっと志水の背中ガン見してたろ?」
「バレてーら」
「お前10分以上凝視してたら誰でも気づくだろ」
⋯⋯やば、冷静にキモいな俺。
「マジで気をつけろよ?
最近、志水狙ってるのが寺島達だからさ」
「あーね」
寺島っていうのは、いわゆる陽キャたちのグループ。
寺島はそのリーダー格ね。
「志水元々俺達側だったってのは分かるけど、最近男出来たのか結構ガラッと変わったのか、まぁそこはなんとも言えねぇけど、今目をつけられるとマジでめんどいことになるからな?」
「あー、俺は彼女一人できないのか」
「てか俺達ヲタクに三次元彼女を求めるな」
「本当遼太郎ってすげぇな」
コイツはゲーム以外本当に人に興味ないって感じで、一本だ。
俺とは正反対。
隙俺自語なんていう四字熟語を自分で作るくらいには出会い厨だし。
てかFPSそれでやるようになったし。
「まぁなんかあったら言えよ?
俺達これでも同盟組んでんだから」
「助かるわ」
そうして、俺達の"普通"の一日は塾に行って終わる。
──普通の、な?
「ただいまー」
「たい⋯⋯ご飯は?」
「ちょっと後でいい?」
「勉強?
なら後で持っていくわね」
「⋯⋯うん」
階段を上がってガチャンと閉じて。
俺は真っ暗な中、立ち尽くす。
「タイガ、やっと帰ってきたね!
⋯⋯あれ、タイガ?」
なんか、どれが俺なんだろう?
椅子を引いて、俺は椅子にもたれながら暗い天井を見上げる。
遼太郎と居る俺。
学校にいる俺。
家でこうしてる⋯⋯俺。
「タイガー?」
「なぁ、お前ってどれくらい生きてるんだ?」
「え?
ボクはまだ産まれたばかりだよ?」
「まー、そういう事にしておくか」
「何それ!?」
「大悪魔って一年でなれねぇだろうよ。
⋯⋯て、そんな事はいいんだよ。
んでさ、お前はどう思う?」
「何が?」
「俺を見てただろ?」
「んー、まぁね」
「お前にとってはただの人間か?」
「どういう意図で聞いてるかわからないけど、タイガは楽しくなさそうだったね」
「楽しくなさそう、か」
「まぁタイガらしくはないね」
「で?
お前って本当は何歳なんだ?」
「ボク?
まぁそこまで言われたらそうだね、少なくとも数えられない」
「だと思ったよ」
椅子を回しながら暗闇の中をくるくるする。
「お前って誰かを気にするとかってした事⋯⋯なさそうだな」
「⋯⋯ボクはないね!」
「だよなぁ」
「だって、弱い奴はいつまでも弱いから弱い奴なんだよ」
「ほう?」
ちょっと面白い話だな。
「俺を見てただろ?」
「うん」
「弱いやつだよな?」
「そうだね。
典型的なボクが予習してきた異世界アニメの主人公だったよ」
予習⋯⋯って。
「俺ら人間ってさ、弱かったら誰かの目から避けて生きなきゃいけねぇんだわ。
でも強くなれねぇ。
悪魔は違うのか?」
「ボクたちは産まれたときから強いからね。
産まれた時で弱いんだったら、ずっと弱い。
序列戦ってのはあったけど、ボクは負けた事ないから、よく分からない」
「ふーん」
悪魔にも熾烈な競争がありそうだな。
「なになに?人生相談?」
「しようと思ったけど、お前には分かってもらえなさそうで萎えてる最中だよ」
まぁそれでも、内心本音を喋れる相手がいるってのは、癪だかありがてぇのかも。
正直もう限界だったから。
「ボクは分からないけど、」
そう言ってコイツは俺の目の前まで降りてくる。
「でも、強くなれるのに強くなろうとしない人間は恥ずべきだと思うけどね」
「なんだと?」
「だって、今──」
コイツは嬉しそうに言う。
「強くなれる証明が出来るんだよ?
タイガのスマホの中に」
っ、そうだ。
ブレザーからスマホを取り出す。
「てかどういう意味だ?」
ただの街作りアプリじゃねぇのか?
強くなれるって?
「タイガが街作りをやってくれたら、追々その意味は分かってくると思うよ?」
「なんで先に教えない?」
「だって、人間って聞くだけじゃ動かないからね。
ある時は聞く前にやめて、錯乱して、恐怖して、歓喜する。
ボクから見たら凄く面白い生き物だ」
その言葉にコイツが人外って事を思い出させてくる。
鳥肌が一瞬たった。
「ほら、開いてみて」
言われた通り、俺は改めてしっかりアプリを見る。
「チュートリアル?」
「大丈夫。
ボクが全部設定しておくから」
そう言って本当に大量のスキップSEと選択が行われる。
──マジで早い。
高速どころの騒ぎじゃない。
「お、おい!」
「んー?」
「プランは?プラン!」
「あー、でもタイガ、説明したところでわかるの?」
⋯⋯うっ。
悪魔の方が頭が良いと勝てん。
「まぁざっくり言うと」
下のメニューには施設、建築、魔物、拠点などの様々な項目がある。
「最初はこの森⋯⋯エルティア森林って言う」
「おぉ」
「この場所を拠点として、ボクたちの歴史が始まる」
「なんかかっけぇな」
「そしたらこの魔物をタッチしてみて」
「これか?」
押すと、まだ開放されていないのか、ゴブリンの選択しかない。
「まずはゴブリンを置こう!
設置場所を決めれる」
おー、いい、イイ!
「これでいいのか?」
「んー、そう!
やるじゃんタイガ」
そうして人間の悪魔の拳合わせが容易く行われる。
「ゴブリン達は繁殖するためにこの森で狩りや縄張りを作るでしょ?」
「うん」
「それを黙ってみる」
「え?
リアルタイム制度!?」
「倍速も出来るけど、あんまりオススメしないんだよ」
「なんで?」
「序盤で解放できる事が結構多い。
例えば放置しておくとたまにゴブリンが武器を作れるようになったりとかでまおまおポイント、タイガの頭で言うとスキルポイントとかを手に入れやすいんだ」
「え?
お前ちゃんと頭良いのな?」
共感っていうから大した事ないと思ってたのに。
「あ、馬鹿にした!?」
ピュピュンとSEが鳴る。
「悪い悪い、それで?」
「ポイントはいくつか種類があるんだけど、」
そう言ってコイツは触れてないのに勝手に項目を出してくる。
「現在で言うと、主にまおまおポイントが筆頭だね。
そして施設ポイント、他にもポイントはあるんだけど、まだ開放するのはしばらくかな?」
「まぁ、なるほどな。
結構ガチで時間掛けなきゃならんのな」
「だからボクだよ!」
「あ、それでその回収とかしてくれんのがお前⋯⋯」
いや、てかさ。
「悪い、お前とかてめぇしか言ってなかったけど、名前は?」
「え?どうしたの?急に?
気持ち悪いよ?」
っぐぐ!!
「うっせぇよ!
名前は?」
「ないよ、タイガが決めてよ」
「はぁ?」
「人間は名前をなんでも決めるのが好きでしょ?」
「まぁ⋯⋯でも悪魔の名前とかは駄目なのか?」
「それは駄目。
だって真名だから」
「それってなんか強いの?」
「存在名だからね。
⋯⋯魂が縛られる」
そう置いて。
「ボクはでも、タイガに決めてほしいよ」
「んー、」
そう言われるとなんか照れるなぁ。
「ポチ」
「殺す」
「タマ」
「ブチのめす!」
その後も何度もやり取りをした結果。
「んー、じゃあレイ」
「レイ?なんで?」
「お前って大悪魔なんだろ?
でも、話した感じ、悪いやつに見えねぇじゃん」
「⋯⋯⋯⋯」
「俺ん所にいる間くらい、光でもいいんじゃね?って」
「ふーん」
少しバツが悪そうな顔をして、俺の机に腰掛ける。
「人間にそう言われたの、ボク初めてだな」
小さい大悪魔くん。
夜のなんてことない一瞬だったが、何処か互いに向き合う目は、穏やかだった。
「まぁその顔で今まで散々やって来たんだろうけど」
「ふふっ、タイガはそうじゃなきゃ」
「レイ、これは?」
「あー、これはね」
それから俺は勉強そっちのけで、アプリに勤しんだ。
主にレイから話を聞いただけなんだけど。




