初対面
「大雅ー?何ー?」
外から母さんの声が聞こえる。
まずい、どうにかしないと。
「なっ、なんでもないよ!!」
「でも凄い声がしたから⋯⋯」
ガチャ、と。
扉が開く。
「なにこんなに部屋暗くして」
そう言って母さんは部屋を明るくする。
「い、いや⋯⋯」
「本当に大雅最近どうしたの?
何かあるのなら、ママ聞くわよ?」
なんで今そんなこと言うんだよ。
──いつもはそんな事言わなかったくせに。
恐怖とイライラが混じり合って、今にも頭の中が爆発しそうだ。
「ほ、本当に大丈夫」
俺の顔を見て大丈夫そうには見えなかったのだろうが。
「まぁ。
思春期だから色々あるか」
何やら変な勘違い?
心配そうな顔は終始していたが、何かあったら言うのよと言って部屋の扉は閉じた。
⋯⋯だが。
「ハァ⋯⋯ハァ⋯⋯ハァ⋯⋯」
こっちの気持ちというかなんというか。
ああやべぇ。
なんにも頭が働かない。
──だって。
「ねぇ!」
──だって。
母さんには部屋がこんな明るいのに、化物が一切見えていないんだから。
「えっへん!」
明るいのに、全体全てにノイズに暗い赤を入れたような異形だ。
アニメなんかで出てくるような⋯⋯そんな感じか?
ヤバイ、頭が大混乱してて俺が正常なのかそれとも俺が異常者なのか区別できん!
「ボクの事見えてるよね?」
どうする?ちゃんと答えるべきか?
アニメならなんてことない感じなのに⋯⋯でも、こんな奴リアルで見たら怖すぎて息できない!
「もう!
ぶぶー⋯⋯だよ!」
バッテンのエフェクトが目の前に現れては、異形が笑ってるような形をしている。
まるでスライムのような感じだ。
「見え、てます」
「あーっ!
やっぱり見えてる!
嘘付いたらいけないんだー!」
あの幼児の声の主は、やっぱりコレだったのか。
「ところでここは、お部屋?」
「そ、そうです」
「なんでそんなにビビってるの?」
「そ、それは⋯⋯」
「あっ!
ボクのセクシーな容姿を見て発情しちゃってるんじゃない?」
人生で最も笑えない作り笑いを披露する羽目になるとは。
「うわ、酷い!」
ていうかオスなのかメスなのかマジでわからん。
「おなごなの?」
「いや?
生物学上に当てはめたらオスだよ」
「じゃあなんでそんな事言うん?」
「いいツッコミだね!
これはボクなりの愛を深める為さ!」
⋯⋯閑古鳥でも泣きそうな間だ。
陰キャの俺も辛くなりそうだ。
「ボク、辛いよ!!
一生懸命"タイガ"の為に色々準備してたのに!」
シクシク、なんて言って泣き真似すらするのだが。
──待てよ。
「な、なんで俺の本名知ってるんだ?」
本名なんて一度も⋯⋯!
「え?
ボク、スマホからいつもタイガを見てたよ?」
「は?スマホから?
ま、待て待て待て!!」
「声が大きいよ、タイガ。
ママさん、また来ちゃうから」
⋯⋯あっ。
「化物に諭される人間。
俺も遂に価値が地下深くの花崗岩にでもなりそうだな」
「ふふん、安心たまえよタイガ」
「え?」
「ボク、タイガの為に、色々プランを考えてきたんだ!」
パンパカパーンと、謎のSE付きで流されるのだが。
「あ、ちなみにこの会話は誰も聞こえないよ?
傍から聞いたら、タイガが変にリアルな会話をしているイタイ人になるだけだから」
「──バカ!
それを早く言わなきゃならんだろ!」
「あ~いじめはんたーい!」
ブブーと何回もSEが連打される。
知らねぇ!
「掴めねぇ!ちくしょ!」
「うわーん、タイガがボクをいじめようとしてくるー!
助けてー!」
「全く助けなんて必要なさそうな棒読みだなァ!」
そして10分。
そのやり取りは続いた。
「ハァ、ハァ⋯⋯」
「た、タイガ、大型犬?」
クソッ!
この化物、マジで早え。
「運動量足りてないんじゃないの?
それとも繁殖用の雌がいないから暴走してるんじゃ⋯⋯?」
「てめぇ小難しく彼女がいないことを憐れんだな?
⋯⋯ておい、泣くな!!」
「ボク、タイガが神様になるっていうのに、繁殖用の雌一匹も見繕ってあげられないなんて⋯⋯悲しいよ!
タイガはハーレムがいいんだもんね?
遼太郎が言ってたよ」
「りょ、遼太郎の事まで」
「大丈夫!
ボクが産まれたからにはもう安心さ!」
SE混じり、パンパカパーンと。
「これから一緒に街作りをしていけば、タイガは毎日楽しくなるよ!絶対!」
「出た出た。
そのノリで俺、共感タイプ押したんだった」
今考えれば完全に手の上で転がされてただけだったんじゃねぇのか!?
マジで間違えたかもぉ!!
「あっ、酷い!
⋯⋯そんなに頭が良くないタイガの為にボク色々な提案用紙にメモメモしたのに!」
「お前が、俺の為に?
⋯⋯何企んでやがる」
冷静になれ。
冴木大雅。
こいつは化物。
でもなぜか俺の為に考えてきてると豪語する。
何か裏があるに違いない。
「なんのつもりだ?」
「なんでよ!
もうちょっと信用してよ!」
ブブーと何度もボタンを押されてしまう始末。
「いいや信用ないね!
そもそもお前みたいな化物が現れるのも絶対におかしいし、なんかやべぇ事しようとしてるだろ?」
「酷い⋯⋯!
ボク10パターンも用意してきたのに」
それはちょっと可哀想か?
いやいや!
あかんあかん!
「クソッ、とりあえず街作りはやらんといかんって話か?」
「おっ、やっと前のめりだ!」
「ったく、なんでこのアプリ⋯⋯というか、一応確認だが」
「ん?何でも聞いて?」
「本当に俺だけなのか?」
俺だけの理由が一切分からないのがマジで知りたい。
「一人だけだよ。
でもそれ以上は言えないんだよねー。
一応選定基準はあるんだけど」
「ほーん?
んで、後」
「ん?」
「お前はなんなんだ?」
大きく指を指して訊ねる。
「ん?ボク?」
「そうだ」
んー、と名推理のように考え。
「ボクは悪魔だよ?」
「悪魔?」
意外だ。
「意外って思った?」
「バレてやがる。
てめぇ心の声を聞いてるな!?」
「違うっ!違うってば!」
やっと捕まえた!
これで変な真似させてやらねぇ!
「悪魔?
強いのか?」
「つ、強い⋯⋯!
ボクは⋯⋯大悪魔だからねっ!」
「じゃあ大悪魔様がなんで人間なんかに従ってる?」
「ぼ、ボクにも事情はあるんだよっ!」
「ほう?
話せ話せ!」
「ムリだねっ!
話したらボクが殺される!」
即答じゃねぇか。
「へー、街作りをさせる大悪魔様が、人間なんかのために働くって?」
「ぼ、ボクは無理やりじゃなくてちゃんと参加したいって言ったから!」
「⋯⋯ほう?」
それまた面白いな。
「わかったでしょ!
ちゃんとボクだってルールに沿ってるの!」
まぁ許してやるか。
「はいはい、分かったわかった」
「マジで死ぬかと思った⋯⋯」
そう言って化物代わって大悪魔様が宙に浮かぶ。
「ふーん」
まぁいいや。
「とりあえず今日は、寝る!」
「それは見ればわかるよ」
「詳しい話は⋯⋯明日!
もう寝る!」
「え?
でもまだお風呂入ってないよ?
それに勉強は?」
⋯⋯この悪魔。
ちゃんと見てるじゃねぇか。




