かつてのボク達へ
「あーあー、マジで100億くらい俺にくんねぇかなぁー」
「おい、お前みたいなのに金なんて渡したらロクな事にならんぞ」
気がつけば、時間が経つのは早かった。
⋯⋯一週間。
正直、それからというもの。
全くアプリなんぞ確認をすることはなかった。
心のどこかか、なんというか。
触れちゃいけないような気がして。
「なぁ遼太郎」
「ん?」
「なんでお前って、エロゲーばっかやってんだ?」
「お前なぁ、今ここワックだろーが」
「え?いいじゃん。
別に減らないだろ?
地にまで落ちた好感度なんだから」
「はぁ⋯⋯」
「落ちた好感度はそれ以上落ちる事はない。
さぁ答えたまえ──遼太郎よ」
俺達モブの一週間とは早いものよ。
陽キャの戯れから懸命に、健気!に⋯⋯離れて離れまくって隠れてスマホを弄りながら一日を終えるのを待つ。
勘違いするなよ?
新人陰キャラ諸君。
変に話しかけられるのもゴメンだぞ?
⋯⋯え、なんでかって?
仮にそこで求められたコメントをして面白い存在になったとて、次が面白いとは限らないからである。
俺も思春期という名の性欲とそれ以外の快楽物質摂取のドパガキであるが、陽キャのドパガキ度はそれ以上だ。
奴らは常に、
"面白い"という刺激を求めているのだ。
故に陰キャであろうと"面白ければ"よいのだ。
だが諸君。
そんな会話能力があったのならば、浮くわけがなかろう?
「まぁ好きなアニメの原作がエロゲーだったからだよ」
「なんだよ、普通じゃねーか」
「最初から変なんて言った覚えはねぇえよ!
まぁたださ、普通の人が聞いたらエロゲー?ってなるから敬遠されてんの」
「抜い⋯⋯」
「ノーコメントだ。
お前のエロガキ度と一緒にするな」
「てことはしてんだな?」
「⋯⋯ぶん殴られたいのか」
まぁ俺達の会話なんていつもこうだ。
一言で言えば、俺という名のドパガキトークにこの真面目な遼太郎くんが返してくれるという立派なドッチボールである。
⋯⋯な?
立派な会話だな?
「そんで大雅」
「んぅ?」
「なんだその返事、キモいからやめろ」
「うわ、友達に酷くない!?」
「一方通行の恋愛は好きかな?」
あらやだ。
遼太郎ったら一方的に俺のことを愛してくれているのね!?
「おい、違うぞ、多分逆だ」
「え?脳内ハックしたんかワレ」
「お前がわかりやすい顔するからだ。
てかいいのか?」
「ん?」
「塾だよ、塾。
いつも最寄り駅のワック行くだろ?」
「なぁ遼太郎ー」
駄目だ、最近の俺は病んでるな。
机に顔を埋め、弱音しか吐かない。
「なんだ、なんだ?
まだ高校1年の春だぞ?」
「正確には夏な」
「今からそんなんで、来年の冬頃には枯れて転生してそうだな」
「あぁー行きたくねー」
本音である。
できる事なら、今すぐサボって帰ってFPSがやりたい。
⋯⋯でも。
「行かなきゃだよなー」
「まぁ気持ちは分かるさ。
俺も今から予定表にある夏期講習の量がエグい」
正直、俺と遼太郎が仲良くなった理由は環境の共通点が多かったのがキッカケだ。
「はぁ、まじで病みそう」
「でも、成人してから地獄を見るよりはマシだろ?」
「まぁーなぁーぁぁ⋯⋯そんな事分かってんだよーなーあー100億くれええええ」
「駄目だ、大雅がバグった」
「なぁ?
帰りに宝くじでも買ったら当たるかな?」
顔を上げる。
しかし微かな希望は、目の前の親友によって最高にスタイリッシュな形で打ち砕かれる、
「夏のやつでも一等1000万分の一、当たると思うか?」
「なぁ、ポテト買っていい?」
「冗談言って。
ほら、遅れる前に行くぞ」
*
いつからだったかな。
俺が"こんな"風になったのは。
「はーい、じゃあ始めるぞー」
まぁ。
俺は元々、"神童"なんて呼ばれてた。
あぁー変な気を起こすな。
俺だって自分で言っててキモいのは承知だ。
イイ感じに話せて、イイ感じに馴染めて、イイ感じにこなす。
まぁ小学生までは割と。
けどあるあるだって知ったのは結構あとだが、中学。
それも、まぁ大体二年くらいだな。
⋯⋯違和感がある。
前のような上手く行く感覚が減ったんだ。
最初はただの気のせいだと思ってたさ。
──ただ、違った。
頼られる事が減って、面白い事を言えるボキャブラリーが周りより多少多かっただけで、ゲームで言えば、元々のステータスがみんな成長期になったら追いついてくるって言えばいいのかな?
いわゆる早熟型だったんだよ。
俺はさ。
だから謎に焦ったり、訳わからんこと言って浮いたりして、段々⋯⋯そう。
本当に徐々に遅行性の毒が如く。
俺の元々あった世界は、閉ざされた。
あれだけ褒められて来た運動も、中学では活躍出来ず。
あれだけ人に教えられた勉強も、中学で俺よりも凄い奴がいる。
元々それなりのステータスがバランス良く高かっただけで、第二次性徴が訪れ、居場所が極端になくなったように感じたのを気付いたあの日から⋯⋯俺は段々とクラスの中で姿をひっそりと消した。
「じゃあ今日はこれで終わるぞー。
一年だからと油断しているんだったら叩き直すからなぁー」
だがまぁ。
──それ"だけ"ならまだ良かったのかもしれない。
「ただいまー」
玄関で靴を脱いでいると、母親がやって来る。
「お帰り大雅」
「うん、ただいま」
自分の顔は今どうなんだろうか。
「今日はちゃんと学校に行ったんでしょうね?」
「⋯⋯行ったよ。
塾も勿論」
「分かっているの?
今貴方は高校生なの。
もう子供じゃなくなるのよ?」
「うん、分かってるよ」
出来るだけ刺激しないように微笑んでは横を通り抜けて俺は、手を洗う。
「ガラガラ⋯⋯」
「この間も先生から色々聞かれてるし、はぁ⋯⋯小学生の時はあれだけ優秀だったのに、中学で何があったのかしら?
私の育て方が悪かったのかしら⋯⋯」
こっちがうがいをしていても問答無用でブツブツ念仏のように唱える母親の横を通り抜け、俺はそのままリビングで着替えて水を飲む。
「それに比べて、大輝は」
声に嬉しさが加わる。
⋯⋯あぁー始まった。
「母さん、あんまりそういうのやめてよ」
そうそう。
俺の弟は完璧なんだよ。
中学三年で、高校受験は今から安定。
容姿も程良くてモテる。
会話能力も俺と違って変わらず伸びてる。
⋯⋯俺とは大違いだ。
こうやって俺を気遣ってやめさせるのも、天性のものなんだろう。
「大輝は頑張ってるのよー!」
隣に座って、うざったく撫でているのを俺は遠くから眺めるだけ。
「大雅、分かってるわよね?
大学はちゃんとした所に行くって」
「母さん!」
「なによ、私が悪いって言うの?」
「兄ちゃんも人間なんだよ!?
帰ってきてずっとそんなに怒ってどうするのさ!?
兄ちゃんにもなんかあったんだろ?
仕方ないことを怒んないでよ」
「だからこそ⋯⋯!」
「ごめん、母さん」
あー。死にて。
「俺が悪かったよ」
「だったら⋯⋯!」
本当、二次元だけでいいっつーの。
──女は。
「どこに行くの?
話は終わってないわよ?」
「兄ちゃんにこれ以上言うなよ母さん!」
「今大雅も大輝も大事な時期なんだから」
弟がこうだ。
俺も精一杯"笑う"しかない。
「⋯⋯勉強。
必要だから」
もう、俺には何処にも居場所がない。
「なら仕方ないわねっ!
あとで夜食持っていくから!」
あー。
多分、俺の顔見てもねぇんだろうなぁ。
部屋に入って、俺は静かに扉を閉める。
「⋯⋯⋯⋯」
暗闇の部屋。
ただそこに、俺という一人の人間が突っ立っている。
「はは」
黙れよクソババア。
俺が何したんだっつーの。
毎日毎日⋯⋯帰れば進路がどうだの。
隣の知らん奴を引き合いにだして、ママ友なのか知らんが色んなケースを出してきては結局俺を一生下げる。
てめぇの子供じゃねぇのかよ。
こっちはコレクションじゃねぇーんだよ、カスが!!
「っ⋯⋯アアア!!!!」
机の上にある大量のパンフレットだのなんだのを全部、向こうへ気付けば押し飛ばしていた。
「ハァ⋯⋯ハァ⋯⋯」
もう、限界だ。
もう四年になろうとしている。
こんな生活が。
弟といつも比べられて、バイトも出来なければ自由すら減る。
こんな苦痛を与えられて将来、誰かの奴隷として働いて知らん女と付き合って貢がなきゃ生きてられないこんなクソみてぇな人生になんの価値があんだよ。
「くそっ、クソッ!!」
重く響く、自分の手を叩く音。
鈍い音が部屋に響く。
「ねぇ、」
「クソッ、クソがッ!!!」
「ねぇ"終わった"よ?」
⋯⋯⋯⋯は?
見上げると、そこには、得体のしれない○ンクの叫び声みたいな容姿をした化物が俺を至近距離で見つめていた。
「うわァァァァァァァアアア!!!!!!」




