閑話:名前の呼び方
<朔、結桜、望の場合>
「結桜ちゃんって他の人もあだ名で呼ぶの?」
「そだよー。十六夜先輩はいよっち先輩、小餅先輩はもっちー先輩って呼んでるんよ」
「へ~。あれ、でもさくちゃんは朔のままだよね?」
「あ~それはにゃ~、朔にさっきゅん♡とかさっちゃんとか言うとね」
「…………」
「ほら、こういう顔をされるからやめたんよ。因みにこれは朔が本当に嫌な時の顔」
「そうなんだ~」
長年一緒にいるからか、結桜はあたしの微妙な顔の変化も分かってくれる。極端に言えば目だけで分かってくれる。結桜に『目は口程に物を言うは、朔のためにある言葉だにゃ~』と言われたくらいだ。
「のんたん、試しに朔のことあだ名で呼んでみてくれん?」
「え゛?」
「ええ~、だってさくちゃん本気で嫌な顔してたよ?ホントに嫌がることはしたくないな~」
「のぞみぃ………」
「ほんっと、一回だけ!先っちょだけでいいから!」
「その言い方やめろ」
「ええー?」
「むー、そうだ!のんたん、ちょっとこっちきて」
「……?」
結桜が何やら望に耳打ちしている。なんか変なこと教えてなきゃいいけど。
あ、結桜がこっち見てニヤニヤしてる。絶対なんかされるやつだこれ。
「結桜ちゃん、それ大丈夫?」
「のんたんならダイジョブダイジョブ!」
「じゃあ……えっと、さくちゃんちょっとこっちきて」
「なに?」
さっきから結桜がニヤニヤしてるのが非常に気になるが、望に呼ばれたので素直に傍による。すると望がわたしの肩に手を置いて、耳元に顔を近づけてきた。
あの望さんや、ちょっと近すぎなんじゃなかろうか?
「さっちゃん」
「ぅへぇ!?」
「ぶっあっはははははっははぁっははは!!」
耳に吐息がかかるくらいの距離で囁かれる。羞恥やら何やらで体温が急上昇する。きっと顔も真っ赤になっていることだろう。
望をちょっと睨もうと顔を見ると、口元は隠しているが頬っぺたや耳が赤くなっている。うん、これは怒れない。怒るなら未だ酸欠気味で爆笑している結桜だ。
「結桜!お前のぞみに何教えた!?」
「ぶぇっげほっげほっうぇ、はー!笑った笑った!うちはただ、朔の近くであだ名言ってみればーって言っただけなんよー」
「ご、ごめんねさくちゃん。そんなに驚くとは思ってなくて……あだ名で呼ばれるの嫌、だった?」
「あ、いや、これは驚いたけど、あだ名自体は、その、なんて言うか」
正直今の感情をなんて言ったらいいか分からない。ただ一つ言えるのは。
「嫌、ではなかった、かな」
「ほらにゃ~。のんたんなら大丈夫っていったっしょ」
「結桜ッ!でも公共の場ではもうやらないでください」
「う、うん、わかった」
う~穴があったら入りたい、むしろ埋まりたい。
<彩夜璃、彩夜香、こっくりさんの場合>
「そういえば、こっくりさんって全員名前二文字で呼びますよね」
「そうだね。いよ、さや、のぞって三文字の人は短縮する」
<ながいなまえ おぼえられない>
「三文字ってそんなに長くないじゃないですか。むしろこっくりさんの方が長いかと」
「さや、こっくりさん元々普通の動物霊だから。野良ネコとかもポチとかタマとか、その感覚。言葉も最初かなりつたなかった」
「そうだったんですか?」
<うん ことばは いよに おそわった>
ああ、だから彩夜璃っぽい言葉遣いなんだ。ということは、私が敬語を教えればこっくりさんも敬語を喋れるようになる?
「こっくりさん、今度私とお勉強しましょうか?敬語とか丁寧な言葉遣いも必要でしょう」
「さや、こっくりさんにはまだ早い」
「そうでしょうか?」
<ぼくには まだ むずかしいかも でも おしえてくれたら がんばる>
勉強熱心で大変宜しい。彩夜璃はまだ納得いっていないようで、少しムッとしていますが。
「まあ、敬語はおいおいと言うことで。まずは三文字の名前とカタカナと漢字のお勉強しましょうか」
「いいね」
<おねがい>
カタカナや漢字を覚えれば、会話もさらに流暢になって楽しくなるだろう。実況中のコメントも読みやすくなるので、私としてもいいことづくめだ。
「ついでに彩夜璃も勉強しますか?」
「それは遠慮する」
「遠慮はいらないですよ」
<いよ いっしょに べんきょう>
「二人でくるのはずるい」
「今度のテスト、10位以内に入ったらご褒美あげます」
「やる」
いきなり彩夜璃がキリッとして即答した。現金だなぁ。
私も復習になるから今度勉強会でもしましょうか。あ、梧桐さんたちを誘ってもいいかもしれませんね。




